- 『ぼくのたいせつな時間(とき)』 作者:ねね / 未分類 未分類
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 原稿用紙約4.85枚
 ぼくは、初めて汽車に乗った。叔父の家へ行くためだ。何故って? ・・・ぼくはついこの間、戦争という恐ろしい「武器」のせいで、家族を失った。だから、叔父に引き取られることになったのだ。
 ----何度も泣きそうになった。けれど、ぼくは父さんとの約束を守る! 絶対に泣かないって約束を・・・
 プワーっと大きな汽笛が鳴った。叔父の待つ駅に降りると早速・・・
 「おぅい、太一! ここじゃ、太一〜!!」
 頭が痛いくらいの大声のするほうを向くと、そこには紺色の粋な着物を着た叔父が立っていた。健康的な笑顔がまぶしい。
 「叔父さん!」
 「おう太一、久しぶりじゃの。」
 
 ぼくたちは叔父さんの家へ向かって、海沿いを歩き始めた。
 「どうじゃ、海は良いじゃろ」
 漁師の叔父さんにとって、海は宝物なのだそうだ。
 「うん、とってもきれいだ。」
 ・・・そうはいいつつも、頭の中では家族のことを考えていた。みんなとこの海を見たかった・・・と思わずにはいられなかった。
 「気に入ったか。そりゃええが。」
 ・・・・・と、そのとき・・・カーンッ
 「いってえ〜!!」
 「なんじゃ東京もん。小石もよけられんのか。」
 けっけっけと笑いながら出てきた少年は・・・誰だ??
 「こら勝!なにしとるが!!」
 叔父さんの怒声が響く。ただでさえ頭痛いってのに・・・。
 「すまんな太一、こいつはせがれの勝じゃ。」
 叔父さんが無理やり勝という少年の頭を下げさせる。
 「・・・」
 今は頭が痛いので、ノーコメントということで・・。
 
 
 それから、勝との闘いの日々が始まった。
 朝起きたら勝がめしを食い尽くしてたり、小石を投げてきたりして、物思いにふける暇もない。ひっきりなしに勝が仕掛けてくるのだ。
 ある日新しい友達にそのことを話すと、意外な答えが返ってきた。
 「勝はやさしい子じゃかんなぁ」
 と、笑顔で言ったのだ。
 
 
 ぼくは叔父さんに勝への伝言を頼まれ、海沿いを走っていた。・・・とそのとき、幸せそうな親子がぼくの横を通り過ぎた。・・・目が・・・離せなかった・・・。
 「っと、そうだ、伝言伝言。」
 再び走り出すと・・
 「おい、太一!!」
 「勝くん?」
 勝くんは、目の前の浅瀬で魚を獲っていた。
 「あ・・・魚。きれいだね!!」
 黄色と黒の縞模様がある魚だった。
 「さっき、またつまらん顔したが。」
 「え・・・?」
 「お前、一人でいるときいつも家族のこと考えてるじゃろ。さっきも他の家族を見て・・・」
 「そ・・・んなことないよ」
 「うそじゃ。つまらん顔しとるが。」
 「・・・・」
 「俺も母ちゃんがいない。」
 !! そういえば、そうだ。ぼくと同じ・・・?
 「けどな、母ちゃんはどっかで見てくれてるはずじゃ。お前の家族だって、そうじゃろ?」
 「・・・・・」
 「そんな顔したら、悲しむ。嘆いたって、帰ってこん。だから、つまらん顔するな。」
 やっと、友達の言葉の意味が分った。(勝はやさしい子やからなぁ)
 勝くんは、ぼくから憂いを忘れさせてくれたんだ。悲しむ暇を、無くしてくれた。
 「勝くん・・・」
 「くんはよせ」
 「うん、勝」
 それっきり、勝は後ろを向いてしまった。でも、彼の耳が真っ赤だったのを、ぼくは見逃さなかった。
 「勝、ねえ、叔父さんがね、お昼食べようって!!」
 
 
 -----言葉には出さないけどね、勝、ありがとう。
 
 FIN
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2003/12/01(Mon)18:44:59 公開 / ねね
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■作者からのメッセージ
 初めまして。未熟ですが、コメントくださるとうれしいし、参考になりますので、よろしくお願いします!