- 『間違ったあゆみ』 作者:ティア / 未分類 未分類
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原稿用紙約10.4枚
…気付いたら、何もなかった…。
オモチャも、漫画も、時間も、信用も、家族も、恋人も、記憶も…僕自身という存在も。
一番、最初に信用を失った。
学級で一番になりたくて友達に、任せろとか無責任に言って、全部失敗してしまった。
そして、流されるように友達を失った。
なんとか仲直りしたかった。
思いついたのは、何かをあげて仲を取り戻そうという考えだった。
友達にオモチャをあげると、仲が悪かったのに、すぐに仲良くしてくれた。次に漫画をあげた。やっぱり喜んでくれた。
どんどんエスカレートして、今度はお金をあげた。
でもある日、小遣いがなくなって、母さんのサイフからお金をぬいた。それを毎日続けた。
しかし、ついに母さんに見つかってしかられた。
父さんからも説教をうけて弟からは白い目でみられていた。
僕は勇気をもって、もうお金はあげないって友達に言ったが、それを聞いた途端、友達は僕を殴りつけてきた。
どうして? 友達なんだろ? なぁ?
その日から友達は何も口をきいてくれなくなった。
家族も、サイフの事がバレてからロクに口を聞いてくれなくなった。
寂しかった。心の底から、寂しくて、何かで心を満たしたかった。
そこで、タバコと酒に手を付けてみた。が、だめだ、ダメだ。こんなの美味しくもなんともない。マズイマズイ。
麻薬。
それに手をつけた。
気持ちよかった。体が浮いたようにふんわかしていた。
最初は無料だが、次からは有料と怖い兄ちゃんから聞いていた。
だから、お金のない僕は、一度だけと決めていた。だけど、心の中の何かが叫んでいた。
『欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい』
自分自身を止められなかった。気付いたら、家族の貯金通帳から全額おろして、麻薬を買っている自分がいた。
ダメだ。すっちゃダメだ! …僕の体はそれを聞き入れようとしない。
…気付いたら、牢屋の中にいた。
麻薬の事がばれた。なんでばれたんだ? ちゃんと隠してあったはずだ。
しかし、すぐに情報が入ってきた。
そうか、親がチクったのか。奴らが僕を売ったのか。邪魔者の僕を売ったのか。
牢屋を出た。空白の長い時間を過ごしていた。
家には帰らなかった。すぐにマンションに入れてもらった。
もちろん、家賃なんか払うわけないだろ? ある程度家賃がたまったらオサラバしてやるよ。
何? そんな悪いことはするなって? 何言ってるんだ?
世の中悪いことしなきゃ生きていけないんだろ? お偉い政治家なんかしょっちゅう悪いことしてるんだろ?
貴様らがしらないだけなんだよ。目に見える悪事だけ正義ぶって正そうとしやがって。
こんな小さな事を正して何になる? 何にもならないだろう? じゃあ、もう何も言うなよ?
しかし、ダメだ。金なんかなくても、万引きすればどうにかなるが、心がカラッポだ。
麻薬はダメだ。冷たいのは嫌いだ。冷たい牢獄の中はもっと嫌いだ。
じゃあ、どうする? 何が僕…、いや俺の心を満たしてくれる?
…そうだ。
恋人だ。
俺のことを唯一理解してくれる。俺の心を癒してくれる。そんな人が必要なんだ。
その日から、俺は町中にいる女に片っ端から声をかけてった。
なのに誰一人受け入れようとしない。
しかし、頭の良い俺は思うかんだ。そうだ、金持ちぶりゃあいいんだ。
そう思いついた時、銀行を襲った。
覆面をかぶり、ナイフをもった俺が突撃すると、全員猿のように叫んだ。泣け叫ぶ野郎どももいた。
人質をとった。しかし、反抗する奴らがいた。
まぁ、許せ。
そんな感じで人質を一人殺した。
別に何とも思わねえよ? 俺は? 殺人ドラマなんかあるから、俺はマネしたんだ。 だから殺人ドラマを作った奴が悪いんだ。
面白いように上手くいった。牢屋にいただけあって、警官の対応は万全。無能なバカ共め。
その金でファッションを、極めたもので体を包み、ダイヤのネックレスをつけて町中を歩いた。
すぐに女は寄りついてきやがったよ。少し声をかけただけでな。
それから何ヶ月かつき合ったよ。嬉しかったし、心が何かで満ちてった。
だけど、ある日、彼女が俺は指名手配中の銀行強盗だと、知った瞬間、逃げていきやがったよ。しかも通報しやがった。
裏切られた。そうだ、昔もこんな事があった。あの時は友達に裏切られた。
そうか、人は信用できない。今頃気付くなんて俺はバカだなあ。他人なんて信用して何の特になるんだよ。
あーあ、つまんねぇ。そうだ、久々にマンションじゃなくて、我が家に帰ろうかな。
ん? 弟がこの家の主になってんのか? あぁオヤジと母さん死んだのか。別にいいけどな。
家にはいったが、誰もいない。すぐに俺は自分の部屋へいってみた。
相変わらず狭いぜ。汚いし。でも、なにかが心の中でうごめいた。
―――何だ? ここに何を忘れてきたんだ? 大事な何かだ…。いや、しかし、俺は金も知識も手に入れた…それ以上のものなんて――――
なんでだ…考えると頭が痛い…いったい、何を忘れてきたんだ?
その時、違う部屋から赤ちゃんのような泣き声が聞こえた。 すぐに声の元へ走った。
ベットに寝る、赤ん坊がいた。誰の子だ? しかし、すぐに赤ちゃんの近くにある、写真立てに映ったかすかに面影が残る、弟と知らない女を見て、わかった。
あー、弟の子供か。なんだ、あいつ結婚してたのか。なんで俺に教えないんだよ。なんかムカついてきた…。
五月蠅いなぁ泣き声…。ほうら、ベロベロバア、泣きやめよ、ホラ。ホラ…。
泣きやめつってんだ!!!
あーあ…息してねぇや…やっぱ赤ん坊のクビは弱いな…しめるんじゃなかった。
ゴトッっという音が廊下から聞こえた。女が真っ青な顔でこっちを見ている。そうか、コイツが弟の妻だな。
なんだよ? なんだよその目は? 見下した目でみるなよ? まるで俺の母さんと同じじゃないか? 貴様も俺をバカにしてるんだな!
気がついたら、血のついたナイフを片手にもっていた。女は血を流して倒れている。夕日の赤さと血の赤さで何とも綺麗じゃないか。
そうして、弟が帰宅してきた。女とガキの死体を見ると、すぐに奴は目の色かえて叫びやがった。俺の胸ぐらもつかんで何わけのわからない事言ってんだ?
俺は貴様の兄貴だぞ? 偉いんだぞ? 何様のつもりだ?
何で他人が死んで泣いてんだ? 自分がよければ良いだろ?
あーあ、不愉快。
やる気じゃなかったのに…また殺っちまったよ。
まぁ、弟も幸運だろうな。刺す相手が兄貴で、妻と同じナイフで刺し殺されたんだからな。
…………俺は死刑が決まった。
外国まで逃げたんだがなぁ…捕っちまったよ…。甘く見たぜ。無能な警察共。
これが噂のギロチンか。たく、俺のクビなんざ落として面白いのかね? 俺を生かしておいたら、まだまだ良いこと教えてやるのによ…
あれ? なんでだ…? なんで昔の思い出がいまさらになって蘇ってくるんだ…。
おかしい…今まで俺がやってた何とも思わなかった事が…、全部昔母さんの言ってた『悪い事』にあてはまってるぞ…?
成る程。だから俺は、こうして死刑になるのかよ…。
そういや…俺は何でこんな人生を送ってきたんだ? 何かを求めるかわりに何かを失って…今はなにもないぞ?
最初はたくさんあったのに…いつの間にか…。なにもないぞ…。無い…無い…無い…。
そして、俺という一人の人間も…今…。
まぁ…最後に教えてやるよ。俺は世の中に何も良いことをした覚えがないが、最後に『良いこと』をみんなに教えてやるよ。
――――俺みたいにはなるな――――
Fin
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■作者からのメッセージ
意味が伝わりにくかったらごめんなさい…。
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