- 『夜の宴・序章・第一章』 作者:卯月弥生 / 未分類 未分類
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『夜の宴』
序章
そこは、暗かった。一筋の光も差し込んでこない。
闇だった。
其処で彼は暮らしていた。
暗闇だった。
彼は眠っていた。
ふかいふかい眠りにツイテイタ。
そっと目を覚ます。
真っ赤なヒトミが、ぎらり と光った。
そして彼は、完全に目覚める。
仲間を求め、闇をさ迷う。
其れは獣か。
其れとも亡者か。
はたまた。
黒き紳士やも知れぬ。
第一章
学校という名の施設は、基本的には教育の場とされているが、
其れは見せ掛けだけで、
子供にとっては、その存在事態が既に教育の妨げになっており、即刻に排除すべきである。
これが私の考えだ。
私はこの考えを小学校の頃から持ち合わせていたが、
誰にも話した事は無い。
話したところで何かがどうなると言った事も無いので気にしてはいない。
ただ。
こうも退屈な授業を延々と聞かされているというのは、
やはり苦痛以外の何物でもないと思う。
* * *
「本日の授業はここまで」
広い教室に教師の中年男性の声が行き渡る。
みなのろのろと席を立ち、言われるがままに礼をし、帰宅する。
その生徒達の中に、とりわけ動きが遅い生徒が居た。
嫌、遅いと言うより動いていないと言った方が正しい。
「おい、月世(つきせ)。寝てるのか?授業は終わったぞ」
教師に声をかけられた生徒・月世は、うつ伏せになったまま
「…寝てません」
くぐもった声を発した。
動く気配は無い。
「……」
しばし沈黙して教師が断りもせず月世のノートを開いた。
…………
びっしりと、これでもかと言うほどに細かく文字が連ねられている。
今回の授業内容そのまま。
「……早く帰れよ」
「…………はぁーい」
だらしなく声を上げるとずるずると引きずる様に体を机から離し、だらだらと帰宅の準備をし、教室から出ていった。
校舎の外は既に暗闇だった。
月世が腕時計を見ると、それは短い針が9を少し過ぎた頃になっていた。
空を見上げれば月が出ている。満月というには少し欠けている。
十三夜月。
輝く月は静かに夜道を照らす。
月世は少し目を細め、視線を前に戻し我が家へと続く道へ歩み始めた。
ざわざわ
風が吹き、気がざわめき、枯れ掛けた木の葉が宙を舞う。
ふわり、と
風に合わせて月世の黒髪が揺れた。
乱れつつある髪に気も止めず、月世は
何かが起こる予感を感じながら
闇へと
消えた。
* * *
F県、烏羽町(からすばちょう)。
この町は別段活気に満ちているわけでもなければ、人の手があまり入っていない山奥なわけでもない。
これと言った建造物や名所も無く、ただひっそりと県の一角をうけもっている。
この町はベッドタウンとして使用されている。
そのためこの町に居て目に付くものと言えば、
立ち並ぶマンション・アパートと、24時間営業の軽食店。
そして異様なまでに大きい学校である。
役所の者達はこれ以上町を大きくするつもりもにぎやかにするつもりも無く、
その心情が描かれている様に烏羽町は適度に人がいて、
適度に静かだ。
先程上げた様に、烏羽町には異様に大きな学校が一つだけある。
一つだけである。
別に学芸都市として多くの人口を取り入れようとしたわけではない。
ただ、単に、
幼稚園、小学校・中学校、高等学校、大学を、
一所にまとめただけなのだ。
本当に、いい加減である。
その学校の名前は
『烏羽町立黒羽学園』
と言う、実に安易な名前だ。
『学園』と付いているが別にブルジョワな学校だと言うわけではない。
なにせ、町立だ。
その学園に月世は通っていた。
両親は共働き。金は有る方だが娘になにかしら願望を抱いているわけでもなく、
両方とも世話をしたくないと考えて学園に通わせた。
名前などは単純きまわり無いが、黒羽学園は
『生徒の尊重・自主性の開発・内容の濃い授業』
をモットーにしている、
結構町外では有名な学園だった。
生徒によって違うが2人一部屋の寮が完備されており、
最大1100人で食べられる大食堂。各教室に冷房・暖房完備。
室内プールや部活動にのみ使用する校舎、
などなど。
他の学校と比べたら夢のような場所である。
が、
町自体にはほかに見所と言った物がひとつも無いので、
今一つ人望、人気に欠けていた。
その学園に転校してくる者が居るとは、
おそらく、
誰一人考えてもいなかったと思う。
* * *
朝から教室は騒がしかった。
もっとも、何時もの事では有るが。
しかし今日教室が騒がしのは別の理由からだった。
『転校生が来るらしい』
もっとも、誰も本人に会ったわけでもなければ先生に聞いたわけでもない。
ちょっと見知らぬ人を、誰かが見かけただけなのだ。
それが人から人へと伝言ゲームの様に伝わっていき、
今はクラス中がこの話題で持ちきりである。
もっとも、月世はその事に無関心ではあったが。
♪〜〜〜〜〜♪
チャイムが鳴るのと同時に、教室中に散らばっていた生徒たちが自分の席につき始めた。
がらららら…
「おい、皆席についてるか?」
このクラスの担任、――中年で眼鏡をかけていて少し小太りの――三山俊夫(みやま としお)はそう言いながら何時もどおりずかずかと教室に入ってきた。
ただひとつ違うのは、
三山の後ろに長身の男子が居るのだ。
今までただぼーっと窓の外を眺めているだけだった月世がその男子を視界の端に捕らえた。
一瞬驚いたような表情を作り、また何時もの何も考えてなさそうな、
何事にも無関心な顔に戻る。
少し目でその男子を追ってみる。
三山が教卓の前で止まると、その男子も三山の斜め後ろぐらいで止まった。
その男子の容姿を見、ほぅ、と女子達が溜息をつく。
確かに容姿は素晴らしい。どこかの雑誌に載っていてもおかしくなさそうだ。
しかし、月世に言わせてみれば
怪しい、信用できない奴、だった。
別に、アイツは変だと、女子達に教えてやるつもりは毛頭無いが。
その男子の容姿は美しいと共に異様であった。
全身黒ずくめ―――誰も着ている所を見たことが無い黒セーター、――に、
にこやかに笑っていると言うよりは、むしろ、
口の端を吊り上げていると言った方があっていそうな笑み。
なにより、あのぎらついている目が月世は気に食わなかった。
「皆もう知っていると思うが、今日転校して来た倉又(くらまた)だ」
自己紹介を、と三山が倉又を促す。
「倉又 勲(くらまた いさむ)です。よろしくおねがいします」
月世と倉又の目が合った。
何の感情の色にも染まっていない月世の顔を見て、
倉又は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐににこりと月世に微笑んだ。
他の女子達が激しく勘違いしきゃっきゃと騒ぐ中、月世は倉又の顔を一瞥し、すぐに視線をそらした。
この瞬間、宴は始まった。
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2003/11/29(Sat)17:57:08 公開 /
卯月弥生
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■作者からのメッセージ
一応連載物です。作品にあまり自身はないので、きちんと完結できるかわかりませんが、がんばります。