- 『家―1―』 作者:来夢 / 未分類 未分類
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 原稿用紙約5.1枚
 
 『この家にはね、意思があるんだよ』
 
 
 
 
 
 この家の庭にはかなり高齢の八重桜をメインにたくさんの木が植えられている。
 詳しい種類までは分からなくても、それらがいかにも重々しくお世辞にも明るいものとはいえないのは一目瞭然だった。
 屋根や木、庭には何故か20匹を超えるカラス達が降り立っていた。
 そしてただでさえ背丈の高い木に囲まれているのに、この家は平屋で昼間でもほとんど日光が届かない。
 築50年だと聞いたことがあるが、本当かどうかは分からない。
 なにせ持ち主だったおじいちゃんはもうこの世にいない。
 それでも歩けばきしむという廊下だけでこの家が余程古いということは分かった。
 利点は夏でもクーラーが必要ないくらい涼しいということくらいだ。
 
 洗面所の鏡の前に立つと、廊下がきしむ音が聞こえた。
 「どちら様ですか」
 もちろん返事はない。
 私はこの家に一人で暮らしているのだから当然だ。
 ネズミにしては大きすぎる足音、それは多分俗に言う『幽霊』というヤツだと思う。
 私は特に気にもせず、学校に行く準備を続ける。
 ドライヤーは宙を舞い、くしは鏡に突撃して床に落ちた。
 「家 壊さないでよね」
 見えもしない相手に話しかけるのはなんとも空しかった。
 
 
 
 
 
 「波長が合うんだろうねぇ」
 一週間前の席替えでゲットした教室の特等席、窓側の一番後ろの席に私が座っていると、その前の席に友達の清香が座ってきた。
 清香の家は神社で、そういう『幽霊』のことには普通の人よりは詳しかった。
 「波長か」
 「恐くない?一人でそんな古い家に…」
 恐い? そんな風に思ったことはなかった。
 「でもガラスを割ったりはしないから特に困らないし」
 「軽いいたずらって感じ?」
 「そうそう。なんか子供のいたずらって感じ」
 「きっとその家に気に入られちゃったのね」
 清香は柔らかく微笑んで、冗談めかして言った。
 「それは光栄だわ」
 私も笑って返した。
 そしてふと、目を窓の向こうにむけた。
 
 気に入っているのは私のほうだ。
 
 あの家を壊すという両親を説得し、さらに猛反対する親をなんとか言いくるめてやっと半月前からあの家に住むことができるようになった。
 そんな面倒くさいことをしてでもあの家を守りたかったのは、生前一度だけおじいちゃんから聞いた、あの言葉が気になっていたからだ。
 
 
 
 『この家にはね、意思があるんだよ』
 
 
 意思がある家。
 あの家なら、意思の一つや二つあってもおかしくはないだろう。
 玄関に並べた靴は勝手に廊下を歩き、椅子は一つの脚を軸に回転する。
 でもそれだけではないような気がする。
 
 おじいちゃんが言っていたのはそういうことではなくてもっと・・・。
 
 
 チャイムが鳴り、教室に先生が入ってきた。
 
 授業が始まっても、私はなかなか集中できなかった。
 今日もあの家に帰る。
 きっと朝開けたカーテンは閉まり、傘は天井に逆さに吊られたりしているのだろう。
 想像するとおかしくて、顔がにやけてしまい、思わず手で口元を覆った。
 ちょっとしたアミューズメントパークよりもずっとおもしろい。
 
 
 
 
 あと六時間で放課後になる。
 
 
 
 早く家に帰りたい。
 
 はやる気持ちを抑えながら、意識を授業に戻していった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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2003/11/29(Sat)01:29:51 公開 / 来夢
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