- 『一つの終わり/荒野』 作者:Be / 未分類 未分類
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原稿用紙約4.65枚
まるで荒れた地のように乱雑に散らかった暗い部屋の片隅で、私はただ震えていた。
また今夜も、一家の主である父とそのつがいの母が喧嘩をしている。
いつからだろうか。私たち家族がすれ違い始めたのは。
初めは、彼らの喧嘩はただの口論だった気がする。だが、それは日に日にエスカレートしていき、父は母に暴力を振るうようになった。私も、最近では時々お腹を蹴られる事がある。
でも、私は何も言えない。言っても聞いてはもらえないだろう。
思えば、確かに幸せな日々は存在した。
みんなで公園に行ったとき。はしゃいで走り回る私を見ながら、彼らは笑っていてくれた。
みんなで夕食を食べたとき。あわてて食べる私を、彼女たちはやさしく見ていてくれた。
あの頃の私たちは、はっきりと「家族」だと言う事ができた。
なのに、今の私たちは当時の面影もなく冷めきっている。
今日の喧嘩はいつもよりは大人しい方だった。父の怒鳴り声が時折聞こえてくるが、母の方は特に、静かに父と話しをしている。
私は、その隣の散らかった部屋で、リビングで語り合う彼らの話を聞いた。
「…これで終わるのね」
「ああ…」
「どうして、こんなことになったのかしら」
「どうにもならなかったんだよ。後悔してもしょうがない」
「うん。わかってる。…終わったわ。後はあなたが印を押すだけ」
「ああ。……押したぞ」
「……終わりね」
「…終わったな」
「明日にでも荷物をまとめて出て行くわ」
「そうか」
「…あの子は?あの子はどうするの?」
「俺が面倒を見るよ。立派に育てる」
「…そう。うん、それがいいと思う」
「…たまにでも会いに来いよ」
「……。私、ちょっとあの子の様子を見てくるわ」
そう言うと、母は私のいる隣の部屋の戸を開けて入ってきた。
「…起きてたの」
驚いたように、彼女が言う。
「あのね、私たち別れることになったの」
覚悟はしていた。でも、実際にその現実を突きつけられると意外にショックなものだ。私は何も言わずにただそれを聞いていた。
「あなたは、お父さんが面倒を見ることになったから」
ああ、どうしてこんなことになってしまったのだろう。でも、私にはどうすることもできない。彼女の荒野のように荒んだ心を癒すこともできない。
私はただ、運命の河にただ流されるだけなのだ。
彼女は最後のお別れをするように、私の体を優しく抱きしめてくれた。
次の日。
母は割と小さな荷物を持って、この家を去った。残りの荷物は後日、業者が取りに来るそうだ。
私は、ここを去るその背中をずっと見送っていた。
悲しい。悲しい。何が悲しいのかって、優しかった彼女のぬくもりを私が忘れてしまうことが悲しいのだ。
でも、涙は出なかった。涙は出なかったけれど、彼女の姿が見えなくなってから私は声を出して鳴いた。
何がいけなかったのだろう。
私たちには、運がなかったのだろうか。
私は、自分の無力さを呪った。
一緒に暮らしたかった。彼女たちの傷を癒したかった。荒んだ荒野のように、ボロボロになった家族の心を。
けれど、私には無理だったんだ。
だって、たかがペットの犬の私が、死んでしまった彼らの娘の代わりになんてなれるわけがないのだから。
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■作者からのメッセージ
どうも、初投稿です。
まあ、オチが微妙というわけで…。
他の人の作品を読むと自分のレベルの低さに凹みますね。
この話は二回読むと納得していただけるかと。
騙された!と言う方は是非、批評批判をお願いします…。
今後の参考にしますので。