- 『種が育つ時〜U〜』 作者:香也 / 未分類 未分類
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 ワザとらしく首を傾げて見せた。
 「くっ…。」
 「姫が誘拐されて、何かあればわが国の評判はがた落ちだろうな…ソレが狙いだろう?」
 「そう…よ…ココでシュリア姫が殺されたら評判ではなく戦争を仕掛けるネタになるでしょ…折角、自分にお別れの挨拶してたのに…。」
 ちょっと待て…まさか死ぬ気か?
 ソレは困る…物凄く困る…。
 「出来れば…そのまま、俺に助けられて欲しいな。」
 「ソレは出来ない相談だね…助かっても城に帰れば待ってるのは死だけ…クソ親父の手にかかって死ぬより自殺の方がマシなんでね。」
 シュリアは剣を抜いた。ソレをコッチに向けて笑って言った。
 話し方まで変わっている。
 「どうせ、この倉庫は焼いてしまうんだし…犯人は逃げ後れて焼け死ってのはどう…どうせ黒焦げになるんだし、斬られても分からないだろ?」
 冗談じゃない…まだ死ぬ気はない。遣り残した事も沢山あるし…つーか俺が死んだら魔王はどうなる?
 かと言って彼女が死んだら戦争になるかも知れない。
 シュリアは剣を構えたまま一気に踏み込んだ。
 「うわっ。」
 かろうじて避ける……本当に女か?
 …素早い…実力だけならシキガにも劣らないだろう。それだけ強い…ただ、実戦不足なのか、技に捻りがなく、剣筋が読みやすい。
 「マジかよ…おい…。」
 とは言え、状況は俺の方が不利だ。
 避けながら俺は頭をフル回転さした。段々、壁に追い詰められていくし、武器は護身用の小刀が一つだった。
 遂に壁際に追い詰められた。
 「とどめっ!!」
 俺は護身用の小刀でその一撃を止めた。そのまま、片方の手で彼女の鳩尾に拳を叩きつけた。
 少し躊躇われたが、これしか方法が見付からなかった。
 「ったく…顔に似合わず、無茶苦茶な姫様だな…。」
 俺は剣を取り上げて呟いた。…こんな事しなくても利用価値だってあるのに…なにか訳ありらしいな…。
 おしとやかさに欠けてはいるが…美少女だ…肌は白いし、背が高くて手首なんて物凄く細い。
 「…っ…。」
 「あ…。」
 無意識に手加減し過ぎたらしい…。
 「…女の時の俺を殴るなんてお前が初めてだ…しかも鳩尾…。」
 …俺……女の時……?
 ちょっと待て…姫…だよな…ドレスも着てる。
 「俺は男だ。」
 戸惑っている俺をシュリアは見透かしたのか、意地悪そうにニヤリと笑って言った。
 「妾の子なのに、幼い頃から多方面に才能がある俺を親父がヤバイと思ったんだろうな…女として育てられたんだ。…で、大きくなってから問題が出来た。俺って美少女だろ?」
 「自分で言うな。」
 「多方面から、プロポーズが来た訳だ…元々、良くは思われてなかったからな…その上大きな国からの婚約の願い出のおかげでこの国で死んで来いってよ。」
 確かに、美少女だと思う…。もしかしたら、以外に淋しかったのかも知れない。
 「アンタ殺して、倉庫焼いて俺は逃げる気だったのに…。」
 ははっ…やっぱり、顔面殴ってやった方が良かったな。
 「シュリア…はこれからどうする?」
 「仕方ない…お前に助けられてやるよ。」
 「それも困るんだがな…俺って子供だし。」
 ソロソロ戻らないと、シキガ達が来るし…素直に気絶してくれていたらいいものを…。
 ココから離れて、自殺されては困る…。
 「仕方が無い…心臓止めるなよ。」
 俺はシュリアの目の前で子供に戻った。
 「…………はぁ?」
 「これが、今の姿。」
 驚いているシュリアを鼻で笑ってやる。
 そこでタイミング良くシキガと護衛兵達が駆けつけた…彼らは何も知らされていないようで、目に涙を溜めてシュリア姫の安全を確認している。
 男だと知らないらしい…シュリアが微笑んで答えると頬を赤く染める。
 「っけ…猫かぶり。」
 俺は誰にも聞こえないように呟いた。
 
 シュリアは結局、表向きは兵と国に帰る道中に行方不明になり、記憶を亡くしたままこの国に保護される事になった。裏での手回しで彼女は貴族や王族世界から消え、今は…シキガの家に居候している。剣の腕を見込まれ、騎士になったのはいいが、王族暮らしのため、生活知識が無い為シキガが引き取った。
 名前もシュリを改め、俺は一気に二人分の身の回りの世話をする事になった。
 「遅い。」
 「あ〜お前らとは足のコンパスが違うんでねっ!!」
 
 俺らは…何も知らない。別に…知らなくても困らないと思っていた。
 魔王の脅威すら…それすら忘れてしまいそうな平和な日々が戻ってきたと思っていた。
 本当の脅威の存在に、気づきすらしなかった。
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2003/11/24(Mon)22:34:43 公開 / 香也
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■作者からのメッセージ
 お姫様編終わりです…正しい女の子が分からないと判断した香也が男にしました。
 台詞としては「こんな美少女になびかないってどうよ?」と言わして見たかったです。
 読んでいただけるとありがたいです。