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『永久霊園(前編)』 作者:ティア / 未分類 未分類
全角6844.5文字
容量13689 bytes
原稿用紙約22.15枚
――元気にしてるかな?――

 俺は故郷に帰ろうとしている。
 今はその帰り道…ふかふかのイスに座り、風に吹かれながら移りゆく景色を楽しみながら、故郷へと、田舎道を馬車で移動中だ。

 俺は、故郷を治めている[エフラクト]という国の王城に12才から今まで5年間、家を出て傭兵として仕えてきた。
 本音を言うと…家族と別れたくなかったし、こんな国の傭兵になってなりたくもなかった…
 だけど、俺が傭兵になるしか道はなかった…。

 エフラクトの王は野心が絶えなく、たえず他国と戦争を起こしている。
 毎日のように、だ。
 その成果なのか…他国の領地をいとも簡単に徐々に侵略していった…
 領地が増えたことで、エフラクトは裕福になってきている…
 しかし、それは偽りの裕福。そんな事は傭兵になる前のヒヨッコの俺でもわかりきっていた…。
 裕福になるのは王家とその周辺の有名貴族だけで、俺たち、普通の国民は何ら裕福になんてなっていなかった…
 いや、むしろ逆に生活はどんどん苦しくなっていった。

 王は領地を広げ自らの私腹を肥やすため、また戦争をしでかそうとする…だから、「戦争のために必要だ」とか何とか言って、俺たち貧しい者たちから高い税金を取っていくのだ。
 そして、国はまた戦争を始め、領地と金を得て、また国民から金を搾り取っていく…それの繰り返しだ。

 だから俺は、こんな腐ってる国の傭兵なんかにはなりたくはなかった…
 だが、俺の貧しい村では食べていくのが精一杯だった。
 俺も物心ついた日から鉱山で父さんといっしょに働いた。
 父さん一人の仕事じゃ、母さんや妹、そして俺を食わしていく分の収入は得られなかったからだ。
 それでも何とか食べていけた…そう、母さんが病気になるあの日までは…

 母さんが重い病にかかった日、父さんは村の医者を呼んで、母さんの病の事を聞いた。
 そして医者から「治すには、相当な金がいる。だから、この奥方の事は諦めなさい」と…
 そう言われた…、当時12才になったばかりの俺でも、その事実の深刻さがわかった…聞いたとき、頭が真っ白になったのを覚えてる。
 医者からそう聞かされたとき、父さんは俺の前で初めて、わんわん泣いていた。
 きっと、家族を守れない自分の不甲斐なさと現実の厳しさ…そして母さんの姿を見て、自然に涙が出たんだと思う…。僕から涙が出たのも同じだったから…。

 医者が家を立ち去ろうとするとき、僕は怒鳴るように聞いた。
「その薬の金は、この国の傭兵として仕え稼いだら…何年分だ?」と。
 すぐに医者は返してきた。
「短くても3年分だろう…」僕みたいな子供が傭兵になれるはずない、と思ったのか医者は不敵な笑みを浮かべていた。

 …その次の日、僕は旅だった…。
 [エフラクト国]の傭兵になるために…。
 この国は前にもいったように、他国と絶えず争っている。だから、戦力になる騎士団、傭兵は平民にもかなり高額な給料が得られる…だから薬の金を 手早く稼ぐためには傭兵になるしか道は無かった…。

 …薬はあのあと、すぐに母さんに与えられた。
 その光景を見られただけで、その時は旅立ちの時は肩の荷がグッっと下りた気がした。



 そして今、俺はエフラクト城での5年間の傭兵契約を終え、今、故郷へと向かっているのだ。
 無意識に…しかし誇らしげに俺は、手元にある大量の金貨が入った袋をジャラジャラならしている。


 そして…数時間後…

 俺は…懐かしい…故郷の土を…踏んだ。

 そこには相変わらずボロくさい家並みが並んでいた、が、心の中では、5年間の間、ずっと変わらないこの村になぜか少し安心した。
 しかし、いくら懐かしいとはいえ風景を楽しんでなんていられない、5年ぶりに家族に会えるんだから!
 俺は古びた村の道を走り抜けた。
 心臓は高鳴っている。もしかしたら傭兵時代、強敵と戦った時より、心臓の鼓動が激しいかも知れない。
 なんたって5年ぶりなんだ。家族とだって久しぶりなんだ。
 母さん、父さん、それに妹のリミア…別れたときは10才だったけど、今は15才か…どんな顔になってるんだろう。
 そんな事を考えているうちに、俺は懐かしい自分の家に5年の時をえて帰ってきた。

 緊張する…
 玄関の扉に手はかかっているものの、引き開けれない…
 手に汗も滲んできた。
「ええい、考えてもしょうがない」
 僕は小声で自分にそう言い聞かすと思い切って扉を開けた。

 ガララとドアを横に開き、中へ入った…が、入るときにクモの巣に引っかかった…。
 まぁ、昔っから、玄関にはクモの巣ははっていたし…あまり気にせず玄関から家の廊下へ足を進めた。

 やっぱり相変わらず木でできた床はギシギシいう…が、こんな事も気にしてられない。

 俺は古びた廊下を抜け居間へとたどり着いた。
 一応、居間をくるっと見渡してみたが…誰もいない。
 おかしい…今は昼の12時……家に誰もいないわけが…。
 そう考えついた時、あまり家の中を捜してもいないのに思わず声をあげた。
「おーい、誰かー?誰かいないのかー?」

 すると、廊下からギシギシと足音が聞こえて来た…こちらに向かってくる。
 たぶん、母さんか父さんか妹だということはわかった…が、どうも5年もやってたせいで反射的に俺は、不意の足音に対してサッっと身構えた…

 そして、足音が消えてかわりに居間の入り口に人が現れた。
「…誰?」
 その人物は、俺にそう聞いてきた。
…妹だ!
 すぐにはわからなかったが、その声には聞き覚えがあった。
 背が結構伸びて、顔立ちが前より大人っぽくなってるから一瞬母さんかと思ったが…
 そんな事を考えながらも、とにかく、俺はすぐに答えた。
「俺だよ、リミア!フリートだ!お前の兄貴の…っ!」
「…フ…リート……?」
 妹は一瞬だけとまどいの顔と言葉をあげたが、すぐに思いだしたように驚 き、まっすぐに俺の胸に飛び込んできた。
「おわっ!」
 危うくバランスを崩すところだった…妹は昔から泣くときはいつも誰かの胸に飛び込んで泣く癖があった。だが、相変わらず痩せこけってるとはいえ、5年たって大きくなった彼女が昔のように飛び込んでくるとなると…昔のようにはいかない。
 今、妹は俺の胸の中で泣いている。
 泣きじゃくる妹に昔のように自然と手が頭をなでた。
 そして心のどこかで何かが解き放たれる感じがした。

「お、おいおい、いくら久しぶりだからって、そんな泣くなよっ」
 しかし、そんな気持ちに反して、俺はちょっと照れくさくて、そう言った。
 その言葉でわずかずつだが妹は顔をあげ、絞り出すように言った。
「…ちがう…のっ…違うの…」
 そしてグスッっとして、妹は顔を下げてしまった。
『違う…?』どういう意味だろうか。俺はすぐに妹に聞き返した。
「なあ、違うって…何が違うんだ?」
 うつむきの妹にできるだけ優しく問いかけた。
 しかし、妹はグスッ、グスッと泣くだけで返事をしようとしない…

 まさかこんなに泣かれるとは思わなかった…
 妹の言葉は気になるが、ちょっと気まずくなったので、俺は妹に別の質問をした。
「な、なあ…そういえば母さんはどこにいるんだ? もう元気になったんだろ?」

 妹の泣く声が止った。
 俺がそう聞いた瞬間、妹の表情は見えなくとも、重い雰囲気が伝わってきた。
 …………まさか。まさか…ね。

 妹はもう一度顔を上げた。
 今度はしっかりと…真剣な目でこっちを見ている。
 背後の窓から差し込む太陽の光に反射し、妹の顔がとっても輝いて見えた。
 しかし…妹の一言で、俺には光の輝きは…何一つ見えなくなった…

「…母さんは…死んだわ…」
「!」
 妹はまっすぐこちらを見ていた、俺の目から視線を外そうとしない…真剣だ。
 俺は妹の言葉を聞き、心底から動揺が走った。悲しみが走らなかったのは、信じられなかったからだと思う。
 とにかく、妹に動揺している事を悟られないため、できるだけ表情を変えないで妹に返した。
「…本当か…? い…いつ? どうして?」
 心の動揺を抑えようと必死だったが…言葉に全ての動揺が表れていた。
 妹は今なお、俺の目を見つめている。しかし、そんな妹の目に徐々に涙が再び浮かんできた。
 そして、さっきとは違い、震えた声で話し始めた。
「…お兄ちゃんが、村を出たあと…すぐに医者から薬は母さんに与えられた…。でも…でも、薬なんて…偽物で……わかったときには、母さんは、もう手遅れで……ううっ…」

 衝撃が走った。
 もはや、動揺なんて…隠しきれなかった…。
 俺は…無意識のうちに言葉を漏らす。
「そんな…じゃあ……じゃあ、この金は…この金はいったい誰のために…俺は……俺は…」
 吊していた金袋が俺の手からドサッっと床に落ちた…。
 頭の中は真っ白だった…。
 妹は再び泣きじゃくっていた…。

「俺は…まだ何も……母さんに何もして…そんな……そんな事って…そんな…」
 口にはこれ以上出してはいないが、頭の中では「そんな」を繰り返していた…。



――どれくらいの時間が流れただろう?――

 気がつくと、窓からの太陽の光は床を赤く染めていた。
 俺は壁に寄りかかり座っていた…。もう…涙も出ない。
 …妹は…こんな固い床で眠っている…。泣き疲れたのだろうか…。
 寝顔が太陽の光で赤く染まっている…。

『外を歩こう…』
 そう思った。
 少し気は落ち着いてきたし、寝てしまった妹を起こしてまで何があったかを聞くのは気が引けた。
 外の風にあたったりすれば、少し気が紛れる…そう思った。


 重い足取りで、家を出た。
 まず、夕暮れが目に入った。
 そして、辺りを見回した…が、誰もいない…。
 少し歩き、目についたのは老人二・三人…。
 昔も人は少ない村だったが…今ほど、道中に人がいない事なんて無かったのに…。

 そういう事を不思議に思っているうちに、ある場所についた。
 村の外れの、神社だ。
 背後には生い茂る草木が聳える山々がある。
 神社は昔、子供達の遊び場だった。
 俺もまりつきやら何やら、昔ながらの遊びをした覚えもある。
 そんな神社の思いでを思い出しながら、社の前の石で出来た階段に座り込んだ。
 こう、静かだと…妹の声と、あの時の衝撃が思い出される。
 無意識に手をあわせ、下を向き、さっき妹から聞かされた事を思いだした。
 そうだ…母さんはもういないんだ…。

『神社は変わらない。村も変わらない…後ろの裏山も変わらずに存在している…。そんな中で、村の人だけが変わった…。』
 そんな想いを強く抱いた。また悲しみが襲ってきた。
「…………」

 無言でうつむいているうちに、ふと足音に気がついた。
 顔を上げると、妹のリミアがいた。今度は背景に夕焼けがあり、まぶしく、妹と一瞬ではわからなかった。
 妹は無言のまま俺の隣に座った。
 そして、妹から口を開いた…。
「お兄ちゃん…もう一つだけ…言いたいことがあるの……最後まで聞いてね…。」
 俺は返事もしなければコクリとも頷かなかった。心のどこかが、疲れ切ってるのかも知れない。
 しかし、妹は続け、重い言葉を放つ。
「父さんもね…死んじゃったんだ…」

 今まで言葉を飲み込んでいたが、俺はたった一言「そうか…」と返した。
 母さんの死を告げられたときより悲しみは襲ってこなかった…。いや、もうすでに襲われているのかも知れない。
 自分ではわからないが、恐らく、俺の表情は悲しみにくれていると思う…。
 妹はそんな俺の表情をちらっと見たが、すぐに遠くを見つめ話を続けた。

「父さんね…母さんが死んで、すぐに、いつしかこの神社の裏の山に住み着いていた村に山賊が襲ってきたの……。父さんは「村のために戦うんだ。正義のために戦うんだ」って言って……よせばいいのに、家を飛び出して、山賊と戦いに行ったの…」
 そんな話を俺は黙って聞いていた。
 声を絞り出すようにして俺は、「…それで?」とうつむきながら聞き返した。
「それっきり…家には帰ってこなかった…。バカだよね。私がいるのに。「正義のため」とかカッコつけて、それでやられて……。本当に……バカだよ…」

 妹の声は次第に弱くなって、次第に震え、次第に泣き声がうまれた。
 俺は何も言えなかった…。
 ただ…5年という空白の時間の間にあった事に対し…正面からは受け止められなかった。


 辺りは暗くなってきた。カラスが鳴いている。
 俺と妹はただ座って、沈黙している。

 しかし、沈黙を打ち破るように、俺は一つ、言った。
 それはうまれて初めて吐いた…弱音かもしれない…
「俺さ…何もしてあげられなかったよな…母さんも父さんも…誰一人、幸せにしてやれなかったよな…」
 妹は黙って聞いていた。妹の表情を見て妹も俺と同じ事を考えている気がする…そう思った。
「家は貧乏だったけど、俺は幸せだった…全部母さんと父さんのおかげだ…。でも俺は何も……もう、永遠に会えないなんて……」

 そう弱音を吐いてる時、妹が口を挟んだ。
「…会えない事も…無いよ」
 妹は弱々しくそう言った。
 俺は驚くのと同時にどういう事かわからなく「えっ?」とすぐに返した。
 妹は、あからさまに驚いている俺に、ゆっくりと説明をしてきた。

「永久霊園…そう呼ばれる場所が、この神社の裏。あの山々のさらに向こう側にある深い森のどこかに…あるって噂で聞いた。…そこは、死んでしまった人たちの魂が、永久に残り続ける場所…って言われている…らしいの。」
「じゃあ…そこに行けば母さんや父さんの魂に会えるって…?」
 俺は妹の話は当然ながら信じられなかった。だから、少し馬鹿馬鹿しく思い、そういうような対応をした。
 しかし、妹は真面目に返し、話を続ける。
「うん…会えると思う…でも、永久霊園のある深い森は、迷いの森とも呼ばれるほど深くて…それに……ここからだと、父さんを殺した山賊達の住みつく山を通らないと…」

 そう妹が言いかけたとき、俺はバッっと立ち上がった。
 そして決心から、すぐに妹に言った。
「よし、じゃあ、行こう!」と。
 俺がすぐに、そんな決心がついた一つの理由は…このままじっとしていたくはなかったから…だと思う。
 じっとしていても何もおこらない。しかも、悲しみが襲ってくる。俺は両親が死んだ現実から悲しみの中に逃げ込んでしまいたくは無かった。

「え…でも……」
 妹は困ったような顔をしながら言った。
 それを払いのけるかのように、俺は少し強がって言った。
「大丈夫、俺だって5年間、荒い戦場で生き残ってきたんだ。それに、永久霊園があったとしても、なかったとしても…道中の山賊達を野放しにしておけない。父さんの仇も討ちたい。」

 グッっと手に力が入った。
 しかし、相変わらず妹は困った顔、いや、少し嫌な顔をしている。
 そんな妹を見て、俺は少しいじわるに言った。
「そんなに嫌なら、俺だけで行っても良いんだぞ?」
 すると妹はすぐにハッっとし、妹も立ち上がった。
 首を振って「私も行く!」と、慌ててそう言った。
 相変わらず単純だ…そう思ったが、妹がそういう対応をしたのは当然かも知れない。
 自分でいうのも変だが、妹は5年…すくなくとも4年くらいは一人ぼっちで生活していた…。だから俺と離れたくないんだろう。

 そして俺はちょっとだけ笑みを浮かべて歩き出そうとしたが、妹は、俺の腕を強く握って進ませてくれようとしない。
「待って、武器を持つ山賊相手に素手で戦う気?」

 …あ、確かにその通りだ。
 俺は虚をつかれて少しポカンとした顔になったかもしれない。
 しかし、妹はすぐに思いだしたように俺に強く言ってくる。
「そうだ! お兄ちゃん、傭兵だったから剣くらいあるでしょ?! それを使えば…」

 だが、俺はそれを聞いた途端さらに強い口調で返した。
「駄目だ! あの剣はエフラクト王城にて、城を出る際、将軍から祝福を受けさせて頂いた! だから山賊の汚い血で汚すわけには…っ!」
 自分でも驚くくらい、強く話していた。
 いつのまにか、自分にとって、嫌な傭兵としての気が誇りになっていた。
 そんな事に今気付いた。

 しかし、妹は困った顔をして言い返す。
「でも、じゃあ…」
 そこで、俺はさらに思い当たって、できるだけの笑みで妹に返す。
「大丈夫、母さんの……病気を治すために稼いだ、金がある。あれで村にある武器庫にいけば、少しは質の良い剣2つくらい買えるだろう」
「ふ、二つって……私も戦うの?」
 しどろもどろに妹はそう言った。驚きの表情とさえとれる。
 俺は当然のようにコクリと頷いた。
 妹は少しためらっていたが、少し下を向きながら「わ…わかったわよ…」と、そう言った。

「じゃあ、行こうか」





《後編へ続く》
2003/11/24(Mon)20:05:03 公開 / ティア
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■作者からのメッセージ
初めまして。長めですいません…。
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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