- 『誓い〜Oath〜』 作者:紅の道化師 / 未分類 未分類
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原稿用紙約21.3枚
「ゼフィルス様、新しい依頼が来ています。」
1人の女性(というにはまだ若い。年齢は17〜19歳程度)が
ソファーに語りかける。すると、面倒くさそうに男が起き
上がってくる。肩ほどまである黒い髪とそれに隠れた紅い双眸は、
未だ眠たげに女性を見据える。あくびをしながら、
「…内容は?」
ぶっきらぼうに聞き、用意されたコーヒーに手を伸ばす。
「久しぶりに“ 処理”の方の仕事ですね。ターゲットは暴走した
軍事用戦闘兵器【GIS】。‥‥最新鋭機のようですね。」
「へぇ、久しぶりに楽しめそうだな。」
男の口元に僅かに笑みが浮かぶ。
「現在確認されているのは8体。近接戦闘用が3、遠距離支援型が5。
いずれも実体兵器を装備。」
「…ちなみに依頼者は?」
「クローゼ様です。」
「クローゼ?珍しいね。あいつが手こずるなんて。…なんか特殊な
型なのか?装備とか。」
「一機に最新装備が搭載されているとか…。撹乱兵器のようですね。」
「な〜る、“ 同じ兵器同士”では手こずるか。」
「いかが致しますか?」
「了解。引き受けた。報酬はいつもの口座に入れておくように連絡を。
お前はこのまま待機だ。夕飯の準備でもしててくれ。」
「かしこまりました。」
「…さてと、そんじゃぼちぼち行きますか。場所は?」
「フィルトス自治区です。」
愛用のコートと“仕事道具”に伸ばした手がぴたりと止まる。
「あぁ?おもいっきり市街地じゃねえか。良いのか?」
「住民の避難は完了済み。ターゲットも今は沈黙を守っている
ようです。許可もでています。」
「まあ、あいつの依頼だから問題ないか。そんじゃ行って来るわ。」
「ハイ、行ってらっしゃいませ、ゼフィルス様。」
人類が宇宙に進出するようになり412年。宇宙での作業を
目的とされた作業用ロボットは、飛躍的な発展を遂げていた。
当初は打ち込まれたデータを元に単純作業しを行う機械が、
ここ数十年の間に自己理解、自己進化を行えるほどの性能を誇り、
近年では“意志を持った機械”と呼ばれる、【G】が開発された。
【G】は人語も理解でき、近年では人と同じくらいの会話が出来る
程の進化を遂げていた。まさに機械文明における革命である。
しかし、通常それらが一般に出回ることはなかった。
【G】は、通常ヒューマノイド(人)型であり、運動能力、
思考能力は通常の人間よりも遙かに優れている。それ故に、
一端暴走するとそれは最強の殺人兵器へと姿を変える。意志を
持つとはいえ所詮は機械なのだ。当然欠陥も存在する。
人類とは不完全な存在
不完全なモノから完全なモノは生まれ得ない
“絶対的な存在”などありはしないのだ
ただの1つも…
「…来たか。」
灰色の瞳がゼフィルスを見つめる。
「よお、お久しぶり♪」
愛用のバイクから降りながら軽口を叩く。
「珍しく手こずってるらしいな。」
「ええ、まあ…。だから貴方を呼んだわけですから。」
「そりゃそうだな。んで、ターゲットは?」
「このビルの内部です。幸い改装中だったため一般人はいませんでした。」
「…えらい頭の悪い奴等だな。軍事用だろ?人質でも捕れる場所に
隠れりゃ良いのに、わざわざ誰もいないビルに隠れてんのか?」
「…まあ、暴走機種ですし。我々の誘導もありましたしね。」
「…ふ〜ん。」
いろいろと疑問は残ったが、とりあえずさっさと依頼に
取りかかることにした。装備に手を伸ばす。
「んじゃ、行きますかね。」
「よろしくお願いします。」
愛用の拳銃を片手に、ゼフィルスはビルの内部へと入っていった。
「本当に、頼みましたよ…」
「ホントにいんのか?」
6階に到達。かれこれ30分ほど経過している。しかしなにも
出てこない。いる気配さえ見えないことに、彼は苛立ちを覚えて
いた。このビルの階数は屋上を含め10階。半分を越えている。
「…まさかドッキリとか言うんじゃねえだろうな?」
そんなことを考えていたその時。
【―――キュィィン―――】
確認するより先に手が動く。確認するまでもない。経験から
わかっている。【G】稼働時のモーター音だ。位置は背後。
距離は5〜6m。数は1機。
「・・・・」
紅く、冷たい瞳は目標を見定め、振り向きざまに銃口を構える。
特殊な弾丸が装填された拳銃が火を噴く。
【―――ガキィィィン―――】
恐らく装甲の何処かに当たったのだろう。装甲は貫いただろうが、
機能停止には至らないはずだ。動きを鈍らせる程度か…。
一気に目標に向かう。目標物がなにかを構えた。…大型の刃だ。
しかし、その刃が振るわれる前に片はついた。
「…まず2つ。」
感情の籠もらない声で、たった今スクラップと化したモノの横を
通過する。その手にはいつの間にか二丁の銃が握られていた。
彼の背後には、刃を構えた機体と、遠距離から彼を狙っていた機体が
静かにその機能を停止していた。どちらもその頭部に風穴を開けて…。
「この…!」
思った以上の防衛網に手こずっていた。遠距離型2,近接型1。
遠距離型の絶妙な援護により、なかなか近距離型に手を出せない。
遠距離型も先程のライフル装備とは違い、ハンドガン装備だ。
機動性も高く、連射が利く。狙いを付ける暇がない。
「…強行突破と行くか。」
目線の横に見えた階段に目を付ける。ここは8階。ならばこの上に
撹乱兵器を搭載した機体がいるはずだ。これらの暴走も、その一機の
暴走によるものではないかと依頼当初から踏んでいたのである。
「そうと決まったら…」
二丁の銃を乱射する。…目眩ましだ。一気に階段へと向かう。
目の前に大きな影が立ちふさがる。最後の近接戦闘型。
しかし、ゼフィルスの顔に焦りの色はない。
「1対1なら負けねえぜ?」
鬱憤を晴らすかのように銃弾を撃ち込む。穴だらけとなった
それは機能を停止し倒れた。その刹那、背後からから先程まで
やり合っていた機体が切り込んでくる。間一髪その斬撃をかわし、
階段を駆け上がり非常シャッターを降ろす。シャッタ−の向こう側
に機体が消えた。これで暫くは時間を稼げるはずだ。
ゼフィルスは9階へと足を踏み入れた…。
「なるほど、お前が撹乱兵器装備型か。」
ゼフィルスは最終目標と対峙していた。遠距離支援型撹乱兵器装備。
『君は自分がなにをしているのかわかっているのか?』
「…暴走機体のくせに話せるのか?」
通常、暴走した機体が人語を理解することはない。極希に
存在することもあるが、会話自体が成り立つということはまずない。
『暴走機体?…私が?』
「そうだ。そして俺はお前の処分を依頼された“ 始末人 ”だ。」
『馬鹿な!私は暴走などしていない!なにかの間違いだ!』
「知らねえよ。俺は依頼を果たすだけだ。」
そう言って、銃口を向ける。
『ならば私も自らの身を守るまでだ!』
傍らに待機していた遠距離支援型が起動する。
『ウオォォォォォォ!!!』
“ 彼 ”の咆哮がビル内に響いた…。
『ギ…ギィ…』
「チェック、メイトだ。」
無感情に銃口を向ける。引き金を絞る。
『マ…テ‥』
「なんだ?最後に命乞いか?」
『君は、誰ニ…依頼‥サレた?』
「…クローゼだ。軍事用指揮官型統括機体“クローゼ ”。奴の依頼だが?」
『クローゼ…。フ…フフ、やはりナ…』
「…どういう意味だ。」
『奴ハ…。奴コソが暴走機体ダ。そして奴ニ唯一対抗出来るのガ、
私だっタ…。ソシテそれが奴の目的…』
「なんだと?それはどういうことだ。」
『奴の狙いハ…』
【―――ダァァァァン―――】
『ギィ…』
「な!?」
「ポンコツが…」
ゼフィルスの背後に人影があった。それは彼の良く知る人物…。
「クローゼ…!」
「いやあ、お見事でしたよ、ゼフィルス。流石です。」
「…これはどういうことだ」
「はて?質問の意味がわかりかねますねぇ?」
「お前が暴走機体だと?じゃあコイツはなんなんだ!」
「ああ、そのポンコツから聞いてしまいましたか。それでは貴方にも
死んでいただかなければいけませんね。残念ですよ、ゼフィルス。」
「…なんだと?」
「私はこれから街の連中を消去しなければなりませんのでね。」
彼が視線を送った先には先程8階にいた機体が待機していた。
「…それじゃあ、やはりお前が…」
「いえいえ、暴走ではありませんよ。…これは必然なのです。
強いモノが生き残る。それは歴史上から見ても当然のことでしょう?」
「…ふざけるな。そんなのはお前の勝手な理屈だ。」
「私は軍事兵器を統括する機体です。だが軍の人間共は私1人が
それらを統括することに危険性を抱き始めた。そして分隊制にして
私の権限を減らそうと考えたんですよ。その結果試験的に作られた
のが貴方が先程やり合った…」
「さっきの機体か…」
「ええ。正確には分隊統括型試作機体“ヴァルセイド”」
「それじゃあ錯乱兵器装備っていうのは…」
「嘘ですよ。奴には私と同じ統括用の装備がなされていただけです。
この私さえもコントロール出来るほど高性能な…ね。」
「お前をコントロールする?」
「軍はいざ私が暴走したときのために手を打ったんですよ。
ヴァルセイドには起爆装置が搭載されていますが私にはない。
故に他からコントロールして機能を停止させる他なかったんです。」
「その役目も負ったのがヴァルセイドであり、だからお前には奴が
邪魔だった…。そして奴の暴走にみせかけてこのビルに誘導し、
自分が接近してはコントロールされる恐れがあったため俺を呼び
つけて始末させたってところか?」
「その通りですよ。…さて、長話はこの辺で終わりにしましょうか?」
クローゼが手を挙げる。すると、背後に待機していた遠距離型
2体と、近距離型1体が装備を構える。ゼフィルスはクローゼを
その紅い双眸で睨み付ける。クローゼが攻撃の指示を送ろうとした。
その時…。
【―――キィィィン―――】
甲高い金属音と共に、3機が崩れ落ちる。それらの機体からは
頭部が綺麗に切断されていた。そこに1つの影があった。
「貴様!何者だ!!」
クローゼに焦りの色が見える。完全に予定外だった。
「ゼフィルス様に手出しはさせません。」
それは刀を持った1人の女性だった。
「…メルティナ、夕食作って待ってろと言っただろう?」
呆れたようにゼフィルスが言う。
「あまりにも帰りが遅いのでお迎えに上がりました。」
こちらも当然のように返す。
「それは悪かったな。電話の一本でも入れれば良かったか?」
「今度からはそうして下さい。」
「了解だ。」
「な…なんなんだ貴様は!!私の邪魔をするのか!?」
「私は…」
メルティナが刀を構える。
「ゼフィルス様のメイドです。」
「ふざけるなぁぁぁぁ!!!」
クローゼが銃を乱射する。だがそれらは1つとして当たらない。
『馬…鹿な…』
「ゼフィルス様に仇を成すモノは誰であろうと許しません。」
クローゼの体には深々と刀が突き立てられていた。
『貴様は…一体…?』
崩れ墜ちるクローゼを一別する。…感情の籠もらない瞳で。
「…自立二足歩行人型試作機体。識別コード004“メルティナ”」
刀を抜き払い、言い放つ。
『…貴様が、例のロストナンバーか?“失われし完全なる機体 ”』
「これで終わりです。」
クローゼが最後に見たのは、妖しくも美しい蒼い軌跡だった…。
「美味しいトコ全部持ってくんだもんなぁ…」
「申し訳ありません、ゼフィルス様。」
「ま、助かったから良いけどさ。…ありがとな、メルティナ。」
「いえ、…私は貴方を失うわけにはいきませんから。」
あの日、貴方が私を見つけてくれなかったら今の私は
ありませんでした。研究所から逃げ出し、機能が停止しかけていた
私を救ってくれた貴方は、私が初めて自ら忠誠を誓った人だったのです。
「あ?なんか言ったか?」
「いいえ、なんでもありません。」
「あ〜腹減った〜。夕飯なに?」
「秘密です。帰ってからのお楽しみです♪」
貴方は私にとってなによりも大切な人
決して失いたくない
この世で絶対的に信じられる
なによりも大切な
私のご主人様
これからもよろしくお願いしますね?
ゼフィルス様
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2003/11/24(Mon)16:36:52 公開 / 紅の道化師
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■作者からのメッセージ
ここまで呼んで下さった方、お疲れさまでした!
感想を頂ければ嬉しいです。では。(@□☆)