- 『冒険したい!(第一話)』 作者:インフィ / 未分類 未分類
-
全角2215.5文字
容量4431 bytes
原稿用紙約6.5枚
目を閉じる・・・聞こえる。風の声が。木も土も、太陽の光までもが自分と繋がった。
何だかとても嬉しくなってリックは笑う。目の前の、自分より何十倍も大きいソレに向かって語りかけてみよう。
心を無にし、相手と話したいと念じる。すると体を何か心地よいものが包んでいき、自分の心と体の何か重いものを消して、ただ周りに吹く風と一緒になったような気がした。
それはとても気持ちよくてリックはこれから話す相手のことを考えるとドキドキした。
巨大な神木に宿る精霊がリックに話し掛ける。
(人間が何故私を呼ぶのです?)
精霊の問いかけにリックは答えた。
「あなたに認めてもらうこと。それが俺の最初の冒険だから。」
精霊は、リックの記憶を探り始めた。
マリスウェルは自然の山々に囲まれた小さな村だ。ふもとの街までは結構距離があるので、交通の発達してないこの村から街に行くことは困難である。
それでも、人々が協力し、助け合って暮らしているので特に豊かな暮らしを望まない限り穏やかで、なに不自由ない村なのだ。
そんなマリスウェルには最近、昼になると村の中央の広場に自分の冒険談を延々と語る、松葉杖の男が現れた。初めは村中がその男の冒険談に耳を傾け、真剣に聞いていたが、
日が経つにつれて大人達は広場に来なくなり、さらに日が経つと今まで興味津々に聞いていた子供達まで来なくなった。
その原因は男の話があまりにも壮大で、誰もが嘘だと思ったからである。そしてこの日も男は話していた。
「・・・そしてこの時俺は仲間達と共に、海に住む大きな・・・う〜んそうだなあ。50Mはあるかな。そのぐらいの竜と戦ったんだ。それで・・・」
そこまで話して男は辺りを見回した。歩きながらチラチラとこちらを見る村人こそいるが、立ち止まって男の話を聞くような者はいなかった。ただそこにはいつもの顔があった。
「おじさん。どうして話やめちゃうの?」
それは10歳にも満たない男の子だった。いつも最初から最後まで男の話を聞いているその子は、男にとってやや気になる存在であった。
「坊主。何故いつも最後まで聞いてくれるんだ?」
我ながら不思議に思った男は男の子にそう話し掛ける。すると男の子はにかっと笑って、
「だって、おじさんの話おもしろいんだ。」
と答えた。それを聞くと男は少し困ったような顔をして
「嘘だと思うかい?」と聞いた。
すると今度は男の子が困ったような顔で
「う〜ん。どっちでもいいんだ。でも僕は信じるけど。」
男にとってそれは意外な答えだった。でもすぐに自分の待っていた答えだと気付き、なぜか可笑しくなって腹を抱えて笑い出した。
男の子は不思議そうに見ていたが、どうしても言わなきゃいけないことがあったので、急いで喋りかけた。
「おじさん、僕は坊主じゃないよ。リックっていう名前があるんだから。」と。
それを聞くと、男の方もふと、自分にもどーしても言わなきゃいけないことがあるのに気付いて笑いを止めた。
「俺はおじさんじゃない!ファムっていう名前があるんだからな!歳だってまだ30前だ。」
そう言うと、ファムは今度は怒っている自分が可笑しくなって笑った。それを見て今度はリックも笑い出した。
「リック。ついてきな。」
村のはずれに大きな森がある。その森は中央にある大きな神木に見守られて、そこに住む動物や植物達が豊かな自然の中、のびのびと暮らしている。
その森の中央を流れる川の側で二人は足を止め座り込んだ。
「リック。俺はこういう自然が残されているこの村は素晴らしいと思う。」
リックは辺りを見回す。生まれた頃からこの森と共に育ち、兄や仲間達とめいっぱい遊んでいるこの森は何一つ変わらない。
「だけど世界にはもっともっとすごい自然や驚きの場所がいくつもある。どうしてこの村の人はそのことに気付かないのかな。」
そういうとファムは黙って寝転んだ。はるか頭上にある太陽の日差しを木々の葉が遮っていた。リックはただ川の流れをおもしろそうに見つめているだけだ。
「リックは俺の話す冒険の中で何が一番気にいってるんだ?」
やっと興味のある話をされて、リックは少し大きな声で喋った。早口だった。
「えっと〜。海の竜の話でしょ!それと巨人の国の話。妖精の村の話とそれから・・・」
ファムは少し笑顔になった。しかしすぐに申し訳なさそうな顔で
「悪いが全部嘘なんだ。」と言った。それでもリックの表情は変わらない。
「ただ、俺が仲間達と冒険してたのは本当だ。気のいい奴等だったな・・・。そして、リックだけに言うが、俺は旅の途中で一瞬だけ『空に浮かぶ島』を見た。」
リックの目が見開いた。そして興奮気味の顔ですぐに聞いた。
「すっげー。空に島があるの?どんな形?誰が住んでるの?」あまりの勢いにファムは押され気味だったがすぐに返した。
「落ち着けって一瞬見ただけなんだからそこまでわかんねーよ。だが、俺の足が治ったら本格的に探そうと思ってる。」
その時リックは一瞬痛々しいほど包帯の巻かれたファムの右足を見たが、自分の小さい体の頭のてっぺんから足のつまさきまで『空に浮かぶ島』のことでいっぱいだったので、
「ファム!僕も連れてってくれよな!」と言った。
その時、ファムは後方から近づいてくる何かの気配を感じ取った。それは穏やかな気配ではなく、自分達に殺気を放っていた。
「リック。静かにしろ。何か・・・来る!」
ソレは突然二人に襲いかかってきた
-
-
■作者からのメッセージ
ただただ冒険したいっていう気持が生んだ大冒険。難しいことなんかひとつもなくて、ただやりたいようにやるだけ。そんな物語です。簡単な文で、読むのに頭を使わないと思いますので、僕の様に頭を使うのが苦手なかたでも是非読んでみてくださいm(__)m