- 『夢人 第九章』 作者:棗 / 未分類 未分類
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 「結論:A」
 
 ずっと前から知っていたのに
 何で気付けないんだろう。
 ずっと前から分かってたのに。
 どうして。
 
 
 シェルは、暫く呆然としていました。
 酷く青ざめた顔で、ずっと道路に座り込んだまま、動きません。
 風も吹かない、この裏路地で、彼の中の歯車が、狂っているのでしょうか。
 月の仄かな明かりと、闇の中で、彼の中に渦巻くものがあるのでしょうか。
 
 
 どうして、今までずっと分かっていた事が言えなかったんだろう?
 どうして、今までずっと知っていた事を、伝えなかったんだろう?
 勝手に自分だけで重荷を背負って。そう、遠い昔から、俺はずっとこの重荷を降ろせずに生きてきたんだ。
 何故?何で、そんなに回りくどい事をする?
 もうひとりの自分が、俺に、冷たくこう言い放った。
 
 「オクビョウモノ」と。ただ一言。
 
 例の“声”は、相も変わらず耳の奥でこだまする。俺を苦しめる“声”がする。
 殺セ
 災イヲモタラス者ヲ
 
 
 彼が、大声を上げて蹲りました。
 途端に風が吹き、街路樹がふわり、と揺れました。木々の間から漏れてくる月の明かりが、眩しくなります。
 隣にいるカルルを見てみると、彼は思いつめたような顔で、その光景を呆然と見ていました。
 私も、殆ど同じ状態。彼の事を見守ってやる事も、彼の事を嘆く事もできず、ただ何も出来ずに、その様子を見つめているだけ。
 
 手を、伸ばす。苦しい、助けてくれ、と体の芯は悲鳴を上げているのに、上手く言葉に出来ない。どこかから向けられる冷たい目が、俺を縛っているような感覚すらした。
 何でこんなに、つらい?何でこんなに、情けない?
 もう一人の自分に問ってみても、あいつはただ、冷たく笑い、俺の事を嘲っているだけ。
 「オクビョウモノ」
 薄れていく意識の中で、唐突に自分の中でずっと廻っていた疑問の答を導き出した。もう一人の自分は、答えを俺にずっと伝えていたんだ。
 そう、答えは簡単。ただ一つだった。
 「自分が弱いから」
 
 
 彼は、苦しげに呻いた後、彼はぐっすり眠り込んでしまいました。
 とても弱弱しい、疲れきったような笑みを浮かべて。
 
 
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2003/11/23(Sun)22:15:56 公開 / 棗
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■作者からのメッセージ
 何故か最近、とても短い話ばかり書いているような…。
 …頑張りますので、よろしくお願いします;