- 『空の旅人』 作者:クク / 未分類 未分類
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原稿用紙約7.15枚
私の町に旅人が来た。
閉鎖的な私の町には珍しいお客様。
それよりも、もっともっと珍しい白い人。
何から何まで白くて、気が付いたら目で追ってたんだっけ…
私の大事な大事な………初恋の人。
すごく大切な思い出だから
消えないように、無くならないように。
スカイリット・サイエルが今ここに記します。
= 空の旅人 =
出会いは町中。
すれ違ったとき、ふっといい香りがして思わず振り向いた。
花のような甘くて優しい香り。
振り向いてもっともっと驚いた。
真っ白いローブに身を包んだ人。
栗色の髪の毛が太陽の光に照らされてキラキラ光ってとっても綺麗で。
後ろ姿で顔までは分からなかったけど、ローブからのぞく手はとても白くて。
すごく綺麗だと思った。
だから、私は気付いたらその人を目で追ってた。
その人はゆっくりゆっくり通りを歩いて。
でも、ふと立ち止まって上を見る。
何もない空を見て、立ち止まる。
その姿は綺麗だったけど、あんまりにも儚げで……
消えちゃいそうに思えたから、思わず走り寄って手を掴んだ。
「!!」
びっくりしたように私を見つめるアメジスト色の瞳と目があった。
想像してたよりずっとずっと綺麗な顔、綺麗な瞳。
少しドキドキする。
「あの………」
「あっ、ごめんなさい…」
姿と同じくらい綺麗な声に、あわてて掴んでいた手を離す。
ちょっと紅くなってる相手の手。
「…旅人さんですか?」
ありったけの勇気を振り絞って質問してみる。
こんなに白い肌の人、旅人以外にあり得ないんだけど。
そしたら、その人は花みたいに微笑んだ。
「はい、僕は各地を旅してる僧侶です。」
あぁ……僧侶なんだ……
妙に納得してみる。
だって、なんだか人間離れした雰囲気があるから。
「ここの空はとっても綺麗ですね。」
そう言ってその人は空を見上げて…
私は空よりもその人の方が気になって。
うれしそうに空を見るその人を見て相づちを打った。
「はい、今日は快晴ですね、綺麗な青空です。」
「僕はすこしふわふわの雲が浮いてた方が好きなんだけど…」
「あっ…あの………」
「でも、こんな空も好き。この町の人みたいですね。」
私を見てまた微笑む。
やっぱりすごく綺麗な微笑み。
男の人とも女の人とも取れないような、中性的な。
「すごく透き通っていて純粋で…この町はそんな感じがします。」
「あ……ありがとうございます!!」
すごく嬉しい、こんな人に褒められたから。
お世辞であってもすごくすごく嬉しい。
でも…でもそんな民族じゃない。
「でも…褒めすぎです、私達はもっと汚れた民族です。」
そう、だってこんなに肌が黒い。
肌だけじゃない。
髪の毛も瞳も全部真っ黒で……
私達を悪魔だと言う人もいる。
思わず自分の手を見てしまう。
その人とは全然違う、真っ黒な手。
「でも、僕はその容姿も素敵だと思いますよ。
すごく健康的で、自然な美しさのある民族だと思います。
もっと自信が持てればもっと綺麗になれますよ。」
「でも……」
「自信を持って。あなただってとっても綺麗です。」
そう言って微笑まれて。
顔が一気に熱くなった。
きっとその人の瞳には、真っ赤になった私が映ってる。
「あっ…あのっ……あっ…」
「どうかしましたか?」
「何日……くらい………滞在………」
あぁ、どんどん小さくなる私の声。
わからないけど無意味にドキドキして。
恥ずかしいわけじゃないのに、俯いちゃって。
そんな私の質問にも、その人は答えてくれる。
「まだ決めてないんですけど…」
「じゃあ宿は?」
「着いたばかりなのでまだ…」
「それじゃあよければ私の家に!!!
この町は旅人がほとんど来ないので、宿がないんです。
だから、私の家に泊まっていってください!!」
私にしてみたらすごい勇気。
声がうわずってるけど、一気に言葉が出てきて。
その人は少し困った顔を見せた。
「でも、迷惑じゃないですか?」
「そんなことないです!!ありったけ歓迎します!!」
「いや、歓迎は悪いです…いつもの通りに……」
「はい、じゃあそうします。」
「本当に良いんですか?」
「はいっ、いいんです!!お願いします!!」
私は勢いあまって頭を下げる。
下げた後で少し後悔したのだけど……
でもしょうがない。
頭を上げると、その人の笑顔があった。
「じゃあよろしくお願いして良いですか?」
「はい!!」
「なるべく迷惑かけないようにしますね。」
「はい!!!」
こんな綺麗な人が家に来る。
少しの間、ほんのちょっとの間でも。
そう思ったらすごく幸せで、おもわず空を見上げた。
改めて見る空は、とても澄んでいて…
とてもとても綺麗だった。
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■作者からのメッセージ
初めての恋愛小説のような気がしますが…
黒人の少女と、白人の僧侶の小さな物語。