- 『白いカラスの冬 @』 作者:えころ / 未分類 未分類
- 
	全角2241.5文字
 容量4483 bytes
 原稿用紙約7.65枚
 
 「寒い・・・またあそこに行くか・・・」
 ぴゅうぴゅう風が吹く11月には、堂々と民家の玄関に家を建てるツバメ達
 は、どこか南に行ってしまった。しかしスズメ、ドバト、そしてカラスなどは一年中そこにいる。スズメはこのころになると飽食に明け暮れる。
 最近じゃ賢い若リーダーができて、かかしなぞにはぴくりともしない。
 人間とかかしの区別がちゃんとできているようだ。
 ドバトは昔から頭がいい。水を飲むときのマナーや、鳩独特の地図を作っているからすごい。
 しかし私はスズメではない。だからといってドバトでもない。カラスだ。
 それも黒いカラスではなく、全身真っ白いカラスなのだ。
 私はまだ羽が生えてまもないころ、ミュータント、つまり突然変異に襲われた。
 私みたいな全身白いカラスはめったにいない。だからみんなチヤホヤしちゃうからどうも落ち着かないのだ。
 
 
 
 
 
 「ふぅ、やっぱここに来ると暖かいわ。」
 私が行ったのは使い捨てカイロが手つかずのまま捨てられてあった場所だ。
 それも大量に。ここは私でしか知らない。使い方はもちろん知っているぞ。
 「あったかー」
 完全リラックス状態。余ったカイロは他のカラスやスズメなどにもおすそわけ。スズメの場合は私がカイロを振ってやらなきゃだめだけど。
 カイロにぽかぽかしていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
 5時の鐘がもうなった。
 それを合図にして、今年のカラスのリーダー、翔が鋭く鳴いた。
 「帰るぞ!」
 ちょっともったいないけどカイロを捨てて、私は黒いカラスに混じって大空を飛んだ。
 「帰るぞみんなー」
 「みんないるよねー」
 みんなで呼びかけあい、私たちは山へ帰る。街に巣をかけると、必ず人間が
 駆除をしてしまうことを、皆知っている。だから少々遠くとも、人里はなれた山々へ帰っていく。山は人間も寄り付かないし、とんびなどが襲ってきても、みんなで力を合わせて戦えば、とんびなんて目じゃないさ。
 街に巣をかけるより安全だ。
 
 ただひとつを除けばだが・・・
 
 
 
 ホーゥ・・・ホーゥ・・・
 真夜中にふくろうが鳴いている。カラスみんなはぐっすりと眠っていた。
 だが、リーダーの翔が目を覚ました。それに・・・私も目を覚ます。
 カラスは夜になると目が見えなくなる。それを狙い、ふくろうが襲う。
 ふくろうにもし襲われたカラスは食べられてしまう。厳しいところだ。
 「俺の仲間を食べようとするのは・・・ふくろう・・・だな?」
 目が見えなくても翔は全神経をはりつめて、ふくろうの気配を感じ取る。
 しかしふくろうに羽音という字はない。何も聞こえない。
 真っ暗闇に「ぐっ!」という声が響く。
 「翔!」
 私は思わず叫んでしまった。ふくろうだって夜になると目が見えなくなる。
 しかし耳はいいのだ。どんな小さな音でもきこえない音はない。ふくろうの気配が迫って来る。
 ばしっ!!
 私は力いっぱいにふくろうの顔面を翼で打った。「ギャッ」という悲鳴が聞こえた。
 ガツン!!
 とどめに太いくちばしでどこかわかんないけどふくろうの体を突っついた。
 「ギャア!」
 ふくろうの声だ。
 それからまもなくふくろうが去っていく気配を感じた。
 
 
 「翔!」
 少し陽が昇ってきて、翔と私をくっきりと照らした。赤黒い血が、まるで雨水のように垂れている。
 「しっかりして翔!傷は浅いぞ・・・」私は嘘をついた。
 翔は私を見てきょとんとした。
 「シルニス・・・ふくろうを追い払ったのかい?」
 シルニスは私の名前だ。他のカラス達も起き始めた。
 翔は仲間のカラス達にこう言った。
 「俺はシルニスを新リーダーにする。真夜中にふくろうと戦い、お前達を守った・・・今後は・・・シルニスを・・・・リーダー・・・として・・・」
 「翔!まだあなたは生きていられるわよ。」
 私は叫んだ。そのとき、ストーンというカラスが手を叩いた。
 「僕、人間がいつも犬や猫を治しているところ知ってるよ!あそこならきっと翔を治してくれる!」
 「皆、翔をそこに連れて行くんだ!人間どもが起きないうちに!」
 私が鋭く叫んだ。いつのまにか私が、新リーダーになっっていく。
 
 仲間は飛べない翔を一番力持ちなゼオに頼んだ。みんな街まですごい速さで飛んでいく。ストーンが道案内していく。
 「あそこだ!」
 薄いレモン色に染められた小さな建物が、ぽつりと置物のようにある。
 そこには、「えここん動物クリニック」と書いてある。
 ドアが開き、一人の看護婦が出てきた。カラスと看護婦が激突しそうだった。
 「きゃあ!」
 看護婦は驚いて叫んだ。
 「聞きました!翔を助けてください!」
 「看護婦さん、翔を治してよう・・・」
 看護婦は一瞬びっくりしたものの、すぐに翔を運んでいるゼオと私、ストーンを中にいれた。
 「先生ー!急患が来たようですよー!」
 ここの先生はトイレの途中らしく、大急ぎで診療台に上がった。
 「先生ー、手洗ったでしょうね・・・」
 「なにー・・・このカラスを手当てしてほしいだとー?まあいいけどさ・・・」
 先生は看護婦を無視して翔の傷の具合を確かめた。
 「安心しなカラスども。こいつは大丈夫。あんたらの顔を見てると治療代を払わせる気もないぜ。」
 「先生ーカラスはお金なんか持っていませんよ。」
 「それよりカヨちゃん、包帯持ってきな・・・」
 
 「チリョウダイとかオカネっていったいなんだい?」
 「知らないよ。まあいいんじゃない?」
 
 こうして、えここん動物病院にはいやというほどカラスが群がって翔を見守っていた。
 
 つづく
- 
2003/11/11(Tue)21:13:35 公開 / えころ
 ■この作品の著作権はえころさんにあります。無断転載は禁止です。
 
- 
■作者からのメッセージ
 本で白いカラスがいるって書いてあったんで書いてみました。つまり思い付きです。
 初めてで超未熟ですがよろしくお願いします。