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『大罪〜記憶〜』 作者:天光 / 未分類 未分類
全角1749文字
容量3498 bytes
原稿用紙約5.9枚
それは悪夢。けれど事実・・・。


暗闇に白い切れ込みが入った。それが開いた自分の目に入ってきた光だと気付くには、それ程時間を費やさなかった。
・・・ここはどこだ?
ふとそんな疑問が浮かぶ。
・・・俺は・・・どうしたんだ?
はっきりと開いた視界に写ったのは、蒼。どこまでも続く、果てしない空。視界の隅には草も有る。彼は何故だか痛む体をゆっくり起こした。
「ん・・・」
自分の横で小さく身じろぎする気配。反射的にそちらを振り返る。
「んにゃふ・・・・・・」
そこには、小柄な少女が気持ちよさそうに寝ていた。少し癖の有る赤毛。それが地面の濃い緑に良く栄える。
「もぉうぅ・・・食べらんないぃ・・・」
「何、古典的な寝言言ってンだ」
その様子を苦笑して眺めながら、彼は自分の中の全ての記憶をあらいざらい調べた。
自分の名前が神埼 紅と言うのも覚えている。今までどんな生活をして来たのかも覚えているし、昨日の夕食のメニューも、横の少女―――親鸞 巫女菜の事も覚えている。忘れている事など何も無い筈だ。
だが。
自分の中で何かが欠けた感覚がある。それが何かも、何故そうなのかも分からないが、何かが足りない。
「んうぅ・・・ふぁれ?」
巫女菜がむっくと起き上がる。しばし目の前の風景を眺めていたが、いきなりびくりと震えたかと思うと、勢い良く紅の方を振り返った。巫女菜の琥珀色の目に自分が映る。
「紅っ!紅、こうぅ、大丈夫っ!?ねぇっ、大丈夫っっ!?」
いきなり紅の身体をベタベタ触り始めたかと思うと、すぐにその手は止まり、巫女菜はホッと溜息をついた。
「よかった。紅、大丈夫だぁ」
見かけに合わず子供っぽい声で巫女菜はそう言った。紅はふと、自分の疑問を巫女菜にぶつけてみた。
「みこな・・・えっと、ここは?どうして俺達ここにいるんだ?」
「紅・・・覚えてないの?」
「? 何を?」
「な、何でもない何でもない。はは」
あからさまに何かありそうな表情で言う巫女菜。紅は彼女に詰め寄った。
「答えろ。何があったんだ?どうして俺達はここにいる?ついさっきまで―――」
マンションに居たはずだろ?と言いそうになって、紅は口を噤んだ。
「紅―――?」
違う。違うと思う。マンションに居たはずなのに、違う場所にいた気がする。
「・・・・・・!」
そこで紅は自分の頭をかかえようとして初めて気が付いた。
深紅。
彼の手は―――血によって、紅く染められていた。
「何が―――あったんだ!?」
巫女菜はおろおろと目線を彷徨わせた。けれど、何かを決心したかの様に紅の耳に口を寄せた。
「あのね――――――・・・・・・」



その後。2人は自分の自宅へと帰った。そして―――
「くそ・・・・・・っっ」
紅はベッドに突っ伏し、その場で低く嗚咽し始めた。
「ちくしょ・・・っ」
今も巫女菜の語った内容と・・・そして、失った「何か」の記憶が思考の中をまわる。それは、あまりにも冗談の様な内容だった。



彼には幼なじみがいた。谷崎 十矢と言う、明るい少年だった。

しかし。

彼は無差別殺人によって死亡した。家族諸共に。紅は親友の死を嘆いた。
そして己の不甲斐なさを嘆いた。

紅はその場に居合わせてしまったのである。たまたま十矢の家に遊びに来ていた時だった。突然中年の男が乱入し、刃物を振り回した。刃の切っ先は十矢の両親の咽喉を欠き切り、最後には十矢の腹部を貫いた。
男は3人を殺して満足したのか、刃物を乱暴に抜き取り、そのまま去っていった。紅は十矢に駆け寄って、必死に十矢の身体を揺すった。刺された場所からは、噴水の様に血が溢れていた。
『十矢・・・十矢ッッ!!』
『紅・・・』
十矢は親友の名を呼ぶと・・・逝ってしまった。


葬式の後、彼は自分を殴った。何故あの時、身代わりになってでも彼を守らなかったのかと。自分の口から血が出るまで殴り続けると、家を飛び出し、我武者羅に走った。その後、あの野原で紅は倒れた。最後に見たのは、巫女菜が駆け寄ってくる所だった。

「くっそ・・・なんで・・・なんで死んじまったんだよ・・・十矢ぁ・・・・・・ッッ!!」

紅は血が出るほどに強く唇を噛んだ。涙は止まらなかった。とめどなく溢れた雫は、彼の頬を塗らした。


十矢は許してくれるだろうか。守りきれなかった自分を―――
2003/11/11(Tue)20:51:37 公開 / 天光
■この作品の著作権は天光さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
何か・・・シリアスですね。でも、どっちかって言うとこの「事件」の辺り書きたかったです。最初は適当に始めましたが、結構長くなりましたv
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