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『欠片となって降る記憶』 作者:LOH / 未分類 未分類
全角1317.5文字
容量2635 bytes
原稿用紙約4.7枚
先ほどの真剣な表情はとけて、私に向ける顔はまさに想像通りだ。
「シラン、よくここがわかったね。声を掛けてくれればよかったのに」
「ヴァイオリンの音を辿ってきたの。上手ね」
私はライに誘われて、デザインの凝った白いベンチに座りながら言った。
「あぁ、幼少の頃からやっていたからね」
「さっきの曲はなに?」
「あれは別になにも。俺が思うままに弾いたものだよ」
音は弾く者の気持ちを表すと昔聞いたことがあるが、あれがライの今の心境なのだろうか。
あの悲しい曲調の原因は私だけではないだろうが、少なからずはいっているだろう。
「もっとライのヴァイオリンを聞いてみたいな。リクエストいい?」
「なんなりと」
腰を上げて、ヴァイオリンを弾く姿勢になる。
その姿に私は笑みを零しながら、口を開いた。
「さっきは少し哀しげだったから、今度は元気がでる曲、なんて……」
「かしこまりました、お姫様」
あなただって王子様じゃないとつっこみたがる口を抑え、私は目を閉じた。
曲に集中したいからだ。
目を開けていたら、ヴァイオリンを操るライについ魅入ってしまう。
ライの深呼吸する様子がわかた。
今はきっと、笑顔のライとは別人のような真剣な表情になっているのだろう。
……出だしの音が響いた。
高い音でアップテンポな曲だ。
まるで小鳥が元気よく歌っているような……子犬が跳ねているような。
そんな曲の雰囲気に、私までのってきてしまう。
歌いたい……私も歌いたい…。
「ァ……」
軽く咳払いして、喉を整える。
「ラ――……」
試しにのばしてみるが、悪くはない。
深く息を吸い込んで、小さな声で鼻歌のように歌ってみた。
適当にのばしてみたり、途切れさせてみたり、歌詞をつけてみたり……。
初めてのはずなのに、この慣れた感覚はなんなのだろう。
胸が弾んできた。
ライはこっちを見ているだろうか。
なにか急に気恥ずかしくなってきたが、止められない。
だんだん声のボリュームを上げていき、気持ちよく声を出せるほどにまでなった。
ライの音は私に出しやすい音域で、楽しめる余裕がある。
―――突然、脳裏に映像が過ぎった。
私は無意識に身体を反応させて、危うく声が止まりそうになった。
今のはなに…?
また一つ、カラフルな映像が浮かんだ。
「え……?」
妙な現象にひとまず声を止めてみるが、目の前は真っ暗だ。
再び歌いだすと、さっきよりもはっきりとしたものが映った。
ライと私の図だ。
画面の移り変わりは序序に速さを増してきた。
音声は何もなく、画面だけ。
一場面一場面が今にカシャッと音をたてて変わるような、昔の映画みたいだ。
あまりに早く映像が過ぎていくから、ゆっくりとは見ていられない。
それでもなぜか、はっきりと頭に残っている。
悲鳴を上げたくなるほど場面のうつりかわりが早くなると、私は別世界にいた。
白い世界。
しかし、無の世界ではない。
私が見渡す限りには、多くの写真が浮かんでいるのだ。
それらをじっくり見る事もできないのに、次々と私の頭は認識していく。
写真の隙間では、光るものが降り積もって、また別の写真ができた。
……記憶の欠片だ。
一目見ただけで全てを自分の中に取り入れて、私は目を閉じた暗闇に戻ってきた。
2003/11/10(Mon)16:51:05 公開 / LOH
■この作品の著作権はLOHさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はぅ。やっと記憶を取り戻しました。
なんちゅう微妙な取り戻し方でしょう。実際は私が記憶喪失になったわけではないので、
ほとんど想像なのですが…。
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