- 『種が育つ時』 作者:香也 / 未分類 未分類
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 『…生きて…そして、私達の分も…貴方は生きて…。』
 『うん。』
 『ただ…人形のようにじゃなくて…笑……って…。』
 『分かった…分かったから…。』
 『そ…れでこそ…私の大好きな弟…カリ…ア…。』
 
 
 ―笑って生きる。―
 
 
 「姉さ…。」
 「煩い。」
 目の前にあるのは姉さんの優しい顔ではなく、切れ目の二十位の男だった。
 まだ朝日は昇りきってない様で部屋は薄暗いが、彼の顔が不機嫌そうに歪んでいるが見えた。
 「シキガ…さん…あれ、姉さんは?」
 『ゴンっ』と音がして、まだ活動していない頭に拳骨が振り下ろされた。
 「〜っ!!」
 「目が覚めたかシスコン馬鹿。」
 「誰が、シスコンだよ………暴力上司。」
 目に涙をイッパイためて、俺はシキガを睨んだ。…外見のわりに力が強いこの人の手加減の無い拳骨はかなり痛いモノだ。
 我がシュベル国一の美男子と有名だが、国中の女達に教えてやりたい…コイツはただの暴力上司だということを…。
 「十八にもなって情けない。」
 明らかに馬鹿にしたように肩を竦める。
 確かに俺が悪いとは分かっている。しかも訳があって一人暮らしが出来ない俺を引き取って部屋まで貸してくれたいい奴なのだが、このすぐ手を出したり、嫌味な性格は何とかならないのだろうか。
 「スイマセンね〜どうせ、俺は身体も中身もガキですよ〜だ。」
 「…寝れないなら静かにしてろ…私はもう一度休ましてもらう。」
 そう言うと、シキガはドアを閉めて出て行った。
 俺は、机の上のランプに火を付けた…どうせ寝られないなら本でも読もうと思ったからだ。
 内容は魔王決戦の物語だった。今から十年も前まで、魔王は確かに存在した。勇者と呼ばれる人間が魔王を倒したのも本当の話。
 俺は少し顔を上げて窓を見た…ランプの光に揺られて幼い七,八歳程度の子供がコッチを見ている。俺がため息をつくと、子供もため息をついた。
 これが、今の俺…カリア・セ・ディーサスだ。
 たまたま居た俺に植えつけられた魔王の『種』の成長を食い止める為、有名な魔術師がやってくれった封印…その代償として、俺は成長を差し出すことになった。
 ソレを知っているのはシキガら、一部の人間だけだった。
 「姉さん…俺…笑って生きられるかな?」
 朝日が差し込んで俺は朝日に言った。明るく光るそれが、何となく姉のような気がしたからだ。
 軍人の朝の行動は早い…俺が支度が終わる頃にはシキガは外に出てるし、身体のサイズのおかげで俺はシキガについて行くのに走らなければ追いつかない。
 シキガの身の回りの世話をするのが、俺の役目でいつも傍に居なくてはならないのだからおいてかれないように走る。
 職場での名物になっている。他の人にも俺みたいな職業の奴がいるが、大抵は十四 五の少年で、俺とは足の長さが違う。俺みたいな子供を連れているのは珍しい。
 「遅い。」
 「アンタが早いんだ。」
 そんな会話はいつもの事だが、シキガがソレを改善する気はないみたいだった。
 「今日は町に出る…他の用事は早く済ませろ。」
 「はいはい。」
 俺は届けの書類の束を抱えて通路を歩く。星について議論する博士達や夜更かしのせいでウツラウツラしている兵士達や、同じ職の少年達に会う…それが日常茶飯事。
 歩いてると数人は挨拶してくれるし、暖かい人が多い。
 「こんにちは。カリア君。」
 「こんにちはです。」
 「今日も届けに来たの…偉いね。」
 「いえ…そんな対した事では…。」
 ココに居れば幸せになれる気がした。腹立つ世話焼きの男と優しくて暖かい人々。
 戻ると、シキガは馬を用意していた。
 「で…どこ行くの?」
 「王宮に隣国の姫が訪問する…その護衛だ。」
 「なるほどな…色男の方が喜ぶだろうな…。」
 勿論、剣の腕も買われてだろうが、女ならゴツイ・汗臭い・不細工の戦士より、麗しい騎士に迎えてもらえるほうがいいだろう。
 「惚れられるなよ。」
 「馬鹿なこと言ってる暇があるなら上司に対する言葉遣いと態度を学んだらどうだ。」
 「あはははは。」
 「笑って誤魔化すな…。」
 ソレだけは嫌だ…機械人間みたいに言われた事をただやるだけの人形になるみたいで苦手だし…礼儀なんてものは一度慣れた相手に使うのはメンドクサイ。
 「…ココからは歩け。」
 「分かった。」
 俺は馬から飛び降りた。続いてシキガもおりた。
 暫く歩くと町が見えて、門が見えたそこには武装した兵士がいる。
 「あそこの国の人は平和な国なのかい?」
 コッテコテに武装して歩き回っている。兵士達に呆れてしまう。
 忙しなく動いている。
 「どうかされたのですか?」
 シキガは丁寧に声をかけた。
 「誰だ貴様!!」
 あんまりの口調にシキガは顔を引きつらしたが、笑顔に戻って綺麗な笑顔でお辞儀をした。
 「シュベル国大佐のシキガ・デ・ディーサス…此方は養子の…。」
 「カリアと言います…セフィーナ国の姫、シュリア様のお迎えに上がりました。」
 相手は毒気が向かれたらしく咳払いをするとボソリと呟いた。
 「シュリア様が…何処かに行かれたまま帰ってこないのです。」
 俺達は顔を見合わせた…ヤバイ…かも知れない。
 「もしかして、そのままの格好で町を歩いておられたとか・・・。」
 「いえ、ココまでは普段着ですが…騎士の方にはやはり、このカッコだと…姫様が…。」
 そんなカッコでは、『自分達は偉い人です』と宣言してるようなモノだ。誰かにさらわれたのだろう。
 相手が王国の姫とその護衛じゃなければ間違いなく、シキガの毒舌の餌食になってただろう。
 盗賊達の手口としては素人臭いし、後先を考えられない若者の仕業にしては賢すぎる。
 俺はシキガに小さな声で囁いた。
 「…大丈夫なのか?」
 「心配?」
 「魔王が復活されては困るだけだ。」
 「話はついてる…俺が奴を利用して奴が俺を利用する…利害は一致してるからな。」
 いつ裏切られるか…いつ裏切るか…一生裏切らないか…それだけだ。
 だから…もし俺がその力に快感を覚えたなら俺は奴の餌食になってしまうだろう。
 今はまだ……大丈夫だ。
 「俺、やっぱり町を捜します…シキガさんは盗賊の旧アジトを捜すから…。」
 「コッチです。」
 俺は町に行かず、森に入った。魔王の能力は本当に使える捜し者はすぐ見付かった。
 袋からシキガの服を出して着る…封印が解けた=元の姿に戻ったことになる。どこかで、魔王の笑った声が聞こえた気がした。
 
 『種』が育って芽を出した。
 
 「随分と、卑怯な真似をしてくれるじゃんか…お姫様?」
 居場所は町の一角の倉庫の中だった。
 俺は頭巾をかぶって倉庫の中に入った。何かの薬の臭いがする。思わず顔を顰めたくなるほどの臭いは奥まで続き、ソレがお香の炊いた物だと分かった。
 勿論、ただのお香ではない…一種の麻薬だろう。
 「だぁれ?」
 「…名無しの権兵衛。」
 「はぁ?」
 「お姫様がこんな事していい訳?」
 「な、何の事ですの…私は捕まって…。」
 「捕まってる人間が縛られてもなくて、香を炊きながら優雅にワインを飲むとは、随分と親切な人攫いだなぁ?」
 ワザとらしく首を傾げて見せた。
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2003/11/09(Sun)22:37:22 公開 / 香也
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■作者からのメッセージ
 続いて…いきます。
 シスコンのカリアさんと暴力上司のシキガさんをどうぞ宜しくです。