- 『Mechanical〜機械仕掛けのヒト〜 5』 作者:五月雨 夏月 / 未分類 未分類
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「…分からない」
ゼロはそう小さく呟いた。
「ジュノ」という存在が「人」でないということ。
そんなの、ぜんぜん、わからない。
…これじゃまるで、漫画やアニメのようじゃないか。
まるで、SF漫画のようじゃないか……。
「何?」
「証拠見せられたって、何がなんだかわかんねーよっ…」
ゼロはそう呟くことしかできなかった。
だって、理解なんかできるわけない…こんなこと。
こうやって目の前で見せられても。
虚像のように不確かな物に見えることは確実。
だって、目の前にいる「人」が機械だなんて。
どこぞの漫画じゃないんだから。
でも、もしかしたら…
そう思い、ゼロはジュノの表情を見つめた。
それはあまりに真摯なものだった…
あんなに真剣になって話してるなら…
ちょっとでも理解しようと思わなきゃ、はじまらないのだろうか?
「ありえないことじゃない」って、思わなきゃいけないのだろうか?
ゼロは真っ直ぐな、射抜くような視線でジュノを見つめた。
…いや、正しくはジュノの目を。
「なんでお前は、俺にそんなこと教えるの?」
「何…?」
「どうして…どうしてお前は、会ったばっかりのただのヒトに、こんなこと教えるのさ?」
「それは…」
理由は、あった。
ただ、それはくだらないと嘲笑われてもしょうがない程の理由。
…こんなの、言ってもしょうがない。
ジュノは、それをはぐらかすように、それを質問で返した。
「じゃぁお前は、何故それを知りたがる?」
「…質問を質問で返すなよ」
そう言われて、ジュノは静かにため息をついた。
「…俺の質問に答えたら、答えてやるよ」
ジュノのその言葉に、ゼロは顔をしかめた。
「ケチ。俺のが質問したの先じゃん…」
「いいから答えろ」
有無を言わさぬ口調に、ゼロは諦めたように両手をあげた。
「ハイハイ、こーさん。わかった、答える」
そして、そっとその手を下ろした。
「俺がこんなん聞くのは………『お前』を知りたくなったから…かな」
「どういう事だ?」
「…つまり…まだ俺は、お前が機械だとかってこと信じれてない。だけど、お前はすごく真剣に話すじゃんか。だから、ちょっとでも信じなきゃいけないのかなって思ったんだよ。だけどお前、最初『俺のことを知りたがるやつは初めてだから』とかいう理由で、俺に色々話してくれただろ?でも、今のお前の真剣さは、それだけの理由には見えなかった……だから、なんでかなぁって思っただけだよ」
「成程な…質問にも答えてくれたことだし、お前の質問に答えようか…」
ジュノの口元には、薄く笑みが浮かんでいた。
「くだらないことだがな…俺は『Mechanical』と呼ばれていたことや、自分が機械であることを重荷と感じていた。だが、こんなこと誰かに話したって、分かってもらえる事じゃない」
現にお前がそうだったろ?とジュノは言い、そこでいったん言葉を切った。
まるで、次に言うことを考えているかのように。
そして、すぐに再び口を開いた。
「誰かに話せば楽になれる…誰かに話せばそれを共有することで、重荷が減る。そう思ってきた…。だが、誰にも話せなかった。言っても冗談にしか受け取ってもらえないことが分かっていたから。だが、偶然にもお前が俺のことを知りたいとか言ってきた…いや、言ってきてくれたから、ようやっと俺は自分のことを話せた…それだけのことだ」
絡まっていた糸が、一本の紐になる。
ゼロの中の思考が、一気に一つにまとまる。
要するに、こいつは話を聞いてほしかったんだ。
「自分」を少しでも理解してもらい、それを共有して欲しいと思っていたから。
つまり、信じてやんなきゃ意味がない。
だったら。
嘘みたいな事でも、信じてやろうじゃないか。
ゼロの中で、「信じない、信じられない」から「信じてやろう」へと、考えが変わっていた。
ジュノのあの真摯な表情を見たから。
信じて欲しいと、語りかけているようなあの表情を見たから。
「成程〜。そんな理由があったんだなぁ。そこまで真剣に言うんだったら、とりあえず信じてやる。ってか、そんなに真剣なんだったら、信じたい」
にやりとそう言って笑ったゼロに、ジュノは驚きの目を向ける。
「何故?」
「信じて欲しそうなカオしてるから」
そう言ってふわりと笑ったゼロを、ジュノは唖然として見つめた。
さっきまであんなに信じられないと言っていた人間が、こうもあっさりと変わるものか。
そう思いつつ目の前の人間を見つめると、相変わらずにやにやと笑っている。
…とりあえず、さっきのこいつの言葉に偽りはないだろう。
なんとなく、ジュノはそう思った。
それと同時に、自分のことを信じてくれる人がいることが、とても嬉しかった。
「ありがとな」
ジュノは微笑み、そう呟いた。
ゼロも笑いを崩さぬまま頷いて、もう一度口を開いた。
「ところでさァ、いつまで指切断しっぱなしなワケ?」
「……治療は施す」
ジュノはそう言い、ポケットからハンカチを取り出した。
そして、それを互い違いに切り裂き、包帯のようにして指に巻きつける。
傷口に包帯が触れる瞬間、ジュノは顔をしかめた。
それを見て、ゼロは思った。
(もしかして、『痛い』のか?機械なのに…?)
ゼロがそう思ったのを表情で感じ取ったのだろうか、ジュノはゼロが知りたいと思ったことにピッタリの言葉を口にした。
「…俺には痛覚など、普通の人間と同じような感覚もある…味覚も嗅覚も。俺の表情で分かってしまったかな…?」
ゼロは一瞬呆気にとられたが、すぐにへらへらとした表情に戻した。
「へぇ、じゃぁほとんど人間じゃないの?俺はお前のこと『人間』と見て接するからね、いろんなこと知っちゃったけど。特別扱いは絶対しないよ」
そう言って、ゼロはジュノにデコピンを食らわした。
「いつっ…何をっ…」
「ん、やっぱ人間だね…痛いんだろ?うん、お前を生んだ奴はよっぽど凄い奴だったんだろな」
それを聞いた瞬間、ジュノの口元が緩んだ。
「あぁ、博士は凄い人間だと思う」
「ん、そか…『博士』ってお前を生んだ奴のことだったんだな…」
ゼロがそう言うと、ジュノはこくんと頷いた。
…口元をほころばせながら。
「話してくれよ、お前を生んだ博士のこと」
ゼロはそう言って、ジュノの瞳をまっすぐ見つめた。
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2003/11/06(Thu)18:46:33 公開 /
五月雨 夏月
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■作者からのメッセージ
あれ、なんだか今回長いなぁ…と思いつつ投稿の五月雨です。
キリのいいところで投稿するようにしてるんですが執筆中、切るところが見つからなかった…(焦
とりあえず、感想下されば幸いですw