- 『ココロノキヲク。』 作者:らぃむ。 / 未分類 未分類
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全角1735文字
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原稿用紙約4.85枚
『ココロノキヲク』
昔、オトウサンがオカアサンを殺した。4歳だったアタシは、何も出来ずに隣の部屋から覗いていた。怒り狂うオトウサンを抑えようとしていたオカアサンの白くて細い腕が、真っ赤に染まった。オトウサンが持っていた、鈍い色を放つ包丁が、オカアサンの腕を切りつけた。ザク、ザクと、オカアサンが切られていく。切られていくごとに、オカアサンの身体から、赤い液体が流れた。アタシはただ、何も出来ないまま、その光景を眺めていた。6畳の居間が、赤く染まっていく。オカアサンを切りつづけた包丁が、オトウサンの手からすべり落ちた。カタン、と音を立てて落ちた包丁は、アタシのいる部屋に入ってきた―――ちょうど襖が5cm位開いていたのだ。アタシは襖から見えない位置に立っていたのだが―――そして、ソレを手に取った。包丁の柄の部分は木の木目が見えないほど赤く、刃先も赤い色一色だった。刃先にこびりついた、赤黒い粒を、舌先にとって、口に含んだ。クチュリと唾液に絡んで、奥歯でしっかり噛んで、飲み込んだ。オトウサンが部屋に入ったのが、アタシがその粒を口に含んだ瞬間だった。襖が勢い良く開いて、顔の半分以上が赤く染まったオトウサンが、すごく、怖い顔をして入ってきた。
とっさに口を拭いて、包丁をさっと後ろに隠した。アタシが着ていたピンクのお気に入りだったスカートは、所々赤くなっていた――そのことは後で気づいたのだが――オトウサンは、赤く染まった手をアタシの肩に乗せて、オカアサンが死んだ事を言った。そんなことは、アタシも分かっていた。最初の2 3撃で、オカアサンが事切れていたのは。
オトウサンは、アタシに向かって無理矢理笑顔を作っていた。そして、必死にアタシを連れて逃げることを伝えようと話している――そんなオトウサンの口からお酒のニオイがしたのだが。
オトウサンの顔を、ゆっくり見上げた。
今までオカアサンに育てられたアタシは、オトウサンをちゃんと見たことが無かった。見たとしても、酔ってる顔、起こってる顔のどちらかだった。こんなに、必死だとしても、笑顔を私に見せるオトウサンを、不思議に思った。
―――でも、遅かった。
アタシは、オカアサンを死なせたオトウサンが、憎かった。だから、オカアサンと同じように、した。すでに赤く染まった刃先を、更に赤くする為に。オトウサンが、オカアサンにしたように。その刃先を、オトウサンのお肉に刺しこんだ。4歳だったから、あまり上手く刺せなかったけど。何度も、刃先をオトウサンに向けた。何度も刺した。オトウサンは、あまり逃げようとはしなかった―――いや、できなかったのだ、アタシが足から切りつけたから―――そして、首を切りつけた。サクッと切った感覚は、今も覚えている。2 3回首を切ると、少しうめいて、事切れた。
―――これが、初めてアタシがヒトを殺した瞬間だった。
その後、オカアサンの傍にいき、冷たくなってしまった手をゆっくり包んで、握った。死んでしまったオカアサンが握り返してくれることは、もう、ない。
そう気づいてしまった時、アタシは、泣いた。声をあげて、喚き散らした。
そのうち、警察がきて、アタシを保護した。オカアサンを殺したのはオトウサンだが、オトウサンを殺した犯人は、アタシではなく、別の人物だと警察は判断した。おかげでアタシは普通に生活しているのだが。そしてその後すぐに、アタシは施設に送られた。両親ともに親はいなく、誰もアタシを引き取ってくれるヒトがいなかったから。
それから2年後、アタシは養子としてある家族の一員になった。その家族は、表向きはとっても仲の良い家族だが、家の中は荒んでいた。そして、また、惨劇がアタシを襲った。それはあの忌々しい事件から、12年後のこと。
また、アタシの目の前で血が流れた。新しいオトウサンとオカアサンが、お互いを刺し合った。それを、義妹の目の前で。あの時のアタシと同じ、4歳の、義妹。
アタシはそこから、逃げた。義妹と、争い、刺し合っている新しいオトウサンとオカアサンを残して。アタシは荷物をまとめて、一応警察と施設に連絡をして。
薄情なアタシは、両親が死んだ義妹を連れて、遠く、知らない地に逃げて――
*END*
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2003/10/30(Thu)20:17:43 公開 / らぃむ。
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■作者からのメッセージ
ただ、グロテスクな文章を作りたかったダケです。4歳とはありえない設定でした。