- 『Ein trauriges Erlebnis』 作者:PAL-BLAC[k] / 未分類 未分類
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原稿用紙約10.4枚
「サンタがいると思う人は手、挙げて」
「は〜いっ!」
一瞬の静寂―。そして教室内に笑いの渦。
中3の時の国語の時間、クリスマスも近くなり、先生が発した質問。
手を挙げたのは私、宮越 由希、ただ一人。そのまま、私は、わけが分からずに硬直してしまった・・・。
「サンタさんっていないの・・・?」
呆然と呟いたその言葉は、先生まで笑わせてしまうことになった。
ショックだった。
―15年後―
「ママ〜起きてよ〜」
穏やかな昼下がり、娘に揺すぶられて目が覚めた。そうか、コタツで転寝してしてしまったんだ・・・。
それにしても・・・なんか懐かしい夢を見たなぁ〜。中1の時の夢なんか見たのは初めてだよ。
そう思いつつ、娘に目をやった。相変わらず元気がいい。
「?どしたの?」
薫―娘―は、不思議そうに首をかしげて聞いてきた。私の視線に気づいたんだろう。
「どうもしないわよ、薫ちゃん」
そう言って、頭を撫でてあげた。こうすると、すぐにフニャッとした表情でご機嫌になるのだ。
「エヘヘ・・・」
ほら、この通り。・・・おっと、忘れるところだった。
「ところで、なにかあったの?」
薫は、キョトンとした顔をしたが、なんで私を起こしたのかを思い出したようだ。
「ねぇママ、サンタさんっているの?」
「そうねぇ・・・」
私は、夢の後日談を思い出した。
―15年前、12月24日―
前日の、2学期最後の授業で思いっきり大恥をかいてしまった私は、ちょっと意固地になっていた。
「おはよっ、サンタはどうした?」
・・・朝からイヤミな挨拶をしてきたのは、同じクラスの御代澤 司だ。隣の家に住んでいる奴で、
幼稚園の頃からの幼馴染だ。最近は、よくつっかかってくるようになった。
「・・・なによ・・・」
思わずムッとして睨みつけてやったら、笑いながら、男子のグループの中に入っていってしまった。
今日は、終業式の前日。大掃除が終われば帰れるのだ。掃除の班分けで、私は、司と池田 郁―同じクラスの
司の友達―と一緒に、グラウンドの倉庫を整頓する事になってしまった。きっと、司が皮肉を言ってくるんだろうなー・・・。
「いけだぁー!倉庫の鍵、知らないか?」
倉庫前に池田君と2人で行くと、先に来ていた司が、池田君に向かって叫んだ。鍵が掛かっているんなら自分で取りに行けばいいのに・・・。
「え?開いてないの?じゃぁ職員室に行ってくるね」
人の良い池田君はそう言って、校舎の方に戻って行った。
「自分で取りに行けばいいじゃない」
朝のやり取りで少し―いや、かなり―不機嫌だった私は、そうあてこすりした。
「だって億劫じゃん。別に由希が取りに行っても良かったんだぜ」
平然と返された。なんか癪に障る。
「それとも、サンタが鍵を取りに行ってくれるのかなー?」
ニヤニヤしながらそう言ってきた。無視無視。
「普通いねーよなー、中学生になってもサンタを信じてるやつって」
無視していると、さらに言ってくる。
「で、今年は何をお願いしたんだ?ちゃんと持ってきてくれるといーなー」
そこまで言われてカチンときた。
「バカッ!」
そう言って、倉庫前に落ちていたボールを取り、投げつけてやる。
バシッ!
小気味いい乾いた音がして、ボールは司の顔面を直撃した。
「・・・ってーっ!あにすんだよ?!」
鼻の頭を押さえて、涙目になりながら抗議する。それを思いっきり睨みつけてやる。
「お待たせ〜。鍵、持ってきたよ」
そこへ、池田君が戻ってきた。
その後、私達は黙々と作業をし、私は、司を無視して池田君とだけ話した。
その日は、最後まで司とは目も合わさないで帰った。
―翌日―
朝、寒くて目が覚めた。窓がきちんと閉まっていなかったらしい。
起きると、枕元に小さな、リボンのかけられた箱が置かれていた。
なんだろうと思い開けてみると、中には髪どめのブローチが入っていた。
「なんで・・・?」
うちの学校は、他に比べて校則が緩やかだ。だから最近は髪を伸ばしているので、髪を束ねるのにかわいいブローチが欲しかったのだが・・・。階下に行って、親に聞いてみよう。
親に聞いても知らないようだった。父親なんて慌てちゃって部屋までブローチを見に来た位だった。
そんなことをしているうちに、そろそろ登校する時間になった。せっかくだから、謎のプレゼントをつけてみようかな。
支度をしながらそう思い、つけていく事にした。
玄関を出たところで、珍しく早起きをしたらしい司と出会った。家の樫の木の枝が折れたらしく、玄関の脇に引きずっている。そのとき、司の方も私に気づいたようだ。もちろん、口なんかきいてやる気はない。
でも、今日は司の方から話かけてきた。
「おはよ、由希」
話かけてきたけど無視、無視。
「・・・えと・・・昨日はゴメンな」
驚いて司を見た。いつも、自分から誤ってきた事なんか無いくせに。
私の驚いた表情を起こっていると勘違いしたのか、司は両手を合わせて頭を下げた。
「ほんとにゴメンっ!許してくれよ!!」
おもわずおかしくなってしまった。コイツが真面目に誤っているところなんか見た事がないんだもの。
「いいよ、もう怒ってないから」
笑いながらそう言うと、ホッとした顔で、司も照れ笑いした。
「よかったー。あ、プレゼントをしてる」
と言って、司は頭のブローチを見た。
「ん、これ?朝起きたら、枕元にあったの。・・・あれ?なんで司がこれがプレゼントだって知ってるの?」
「え?あっ・・・あわわわ・・・」
途端にうろたえだす。なんか怪しい。
問い詰めると、司はしぶしぶ白状した。
昨日、倉庫の片付けの後、私と司の様子が変だ、ということで池田君に詰問されたらしい。
それで、さすがに悪かったと反省した司は、なにか謝るきっかけを作りたいと考え、クリスマスだからプレゼントを思いついたそうだ。
すぐに電車で2駅先の街まで行き、店先を物色した。小物を扱っている店先で、私が髪をとめるのにどんなものが良いかを話していたのを思い出して、ブローチを買ったそうだ。でも、直接渡すのは恥ずかしいので、どうしようか悩んで
いて、とんでもない事を思いついたのだ。
私の家と司の家は隣同士で、部屋も2階の向かい合いにある。その傍に大きな樫の木があって、その樫の木をつたえば、お互いの部屋を行き来できる。夏休み中、私の宿題を写すために、よく木を使って部屋まできていたのを思い出した。
昨晩、私の部屋の電気が消えてから2時間後、樫の木をつたって司は私の家まで来て、窓から入ってプレゼントを置いていったのだ。
「もし鍵が掛かっていたらどうする気だったの?」
「だって、由希はいつも鍵、かけてねーじゃん」
いつも鍵を掛けるのを忘れているのを、夏休み中に気づいたのだろう。だから、鍵が掛かっているときの事などは考えていなかったのだ。のんきな奴。
無事にプレゼントを置く事には成功したけれど、自分の部屋に戻る途中、夜露で湿った枝で足を滑らせ、危うく落ちそうになったが、枝が折れるだけで怪我はなかったそうだ。
「だから、枝が折れていたのね」
「うるさいな」
そんなことを言いながら、私達は学校に向かった。
「ママ、サンタさんっているのってばぁ」
薫の焦れた声で我に返った。つい昔の事を思い出してしまった。まだ寝惚けてるのかな。
その後、無事に高校進学を果たし、司と私は、市内の同じ高校に通った。そして5年前、私達はついにゴールインしたのだった。
「サンタさんはいるの?」
私は、微笑みながら答えてあげた。
「もちろんいるわよ。薫ちゃんにも来てくれるといいわね」
少なくとも、私には本物のサンタクロースがいる。薫にもそのうちできるかもしれない―。
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■作者からのメッセージ
大学の西洋文学の講座のアンケート:「サンタは存在するか?」から思いつきました。
ま、ほんわか系です。