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『死してなお愛すべき存在』 作者:辻原国彦 / 未分類 未分類
全角3733文字
容量7466 bytes
原稿用紙約9.75枚
 父が目の前で死んだのは二週間ほど前のことです。僕の目の前で、信号無視をしたバスに跳ねられ、大きなトラックに巻き込まれて死んでしまいました。トラックの車体の下から、手やら足やらが勢いよく飛び出したのを覚えています。十メートルほどして停まったトラックの下から、ころころと父の首が転がり出てきたのも覚えています。母はその転がり出た父の首に駆け寄り、そっと口付けをしていました。ええ、確かです。その後、涙も見せずに僕のところへ戻ってきた母の口は真っ赤に染まっていましたから。それから、母とは一切口を利きませんでした。母はしゃべろうとせず、ずっと口をつぐんだままでした。

 私があんなことをしたのは、あの人がそうしろと言ったからなんです。ええ、そうです。それはわかっています。でもですよ、確かにあの時、主人は私の目をまっすぐに見て言ったんです。だから私はそうしただけなんです。その後、私は自分の部屋にこもりっきりになりました。ええ、今から思えば些か常識を逸脱していたかもしれません。でも、あの時は何も見えていなかったんです。ええ、お恥ずかしいことですが、あの時は息子のこともまったく目に入りませんでした。ただ、それだけが愛しくて。

 間違いありません。ええ。母はあの日から、二週間はまったく自分の、というか両親の寝室から出てこようとはしませんでした。あの後、父が死んでからは父方の祖父母が様子を見に来てくれていたんですが、母は夫の両親にも顔を合わせず、ずっと部屋にこもりっきりだったんです。正直に言いますと、母と父の両親は決していい関係ではありませんでした。そのせいかとも思いましたが、些か異常な気もしました。母はドアには鍵を掛けてしまい、窓には遮光カーテンを引いてしまいました。ええ、そりゃあ心配ですよ。何度もドアの前に立って呼びかけてみたんですが、一度も返事は返ってきませんでした。

 最初は小さかったんですよ。小さなビンの中で飼えるぐらいだったんです。それが愛しくて、日がな一日それを眺めて時間が過ぎていきました。ええ、息子が私のことを呼んでいるのは聞こえましたが、そのときはそれを見ること以外に無駄な体力を使いたくはなかったんです。そのときは、それだけが私のすべてだったんです。それを眺めたり、時には手にとって優しく愛撫することが、私を悲しみから救ってくれる唯一のものだったんです。ええ、今は申し訳ないと思っていますし、これが終わればちゃんと息子にも謝ろうと思っています。

 それが聞こえてきたのは、母が部屋にこもってから四日ほど経ってからです。その日の朝に、ガラスが割れる音がして、心配になって母に呼びかけてみたんですけど、やっぱり返事はありませんでした。でも、そのときに聞こえたんです。ええ。ぴちゃぴちゃと、まるで犬が水を飲むような音でした。本当に小さな音で、ドアに耳をくっつけなきゃ聞こえませんでしたけど、確かに聞こえました。でも、それが何だったのかはそのときはわかりませんでした。そうでしょう? まさか、あんなものが両親の部屋にいたなんて誰が想像できますか?

 すべてお話しするのでしょうか? いえ、少々恥ずかしいもので。決して人様に聞かせる話ではないのですけど、仕方ありませんね。それは、急に大きくなって、それまで入っていたビンに収まらなくなってしまったんです。ええ。それで、自分で這い出て私の元までやってきて・・・・・・ええ、大丈夫です。それは私の元にやってきて、私を求めたのです。少なくとも、私にはそう感じられました。最初は、私の腕を舐めるだけでした。汗ばんだ私の腕を、ぴちゃぴちゃと舐め始めたんです。右腕が終わると、次は左腕。左腕を舐め終わるころ、今度はまた汗ばみ始めた右腕という調子で、それは休むことなく私を舐め続けました。

 ぴちゃぴちゃと何かを舐める音は、休むことなく、朝も昼も夜も絶えることなく聞こえました。でも、その音も次第に小さくなり、やがて、今度は何かを擦る音に変わっていきました。ええ。その間も、何度も何度も呼びかけてはみましたが、返事が返ってくることはありませんでした。ただ、ズズッ、ズズッという低い音が聞こえてくるばかりで。確か、そのころはもう一週間は経っていたかもしれません。僕も始終聞こえてくるその音に悩まされまして、軽い不眠症に陥ったものですから、そのころの時間の感覚が定かではないんです。

 私の体を舐め続けるそれは、見る見る成長していきました。やがて、私の両腕だけでは物足りなくなったのか、足も舐め始めました。そのころになると、ザラザラとした感触に少し痛みを覚えるようになりまして、両腕は紙やすりで擦られたように真っ赤になっておりました。それでも、それは私の両腕と両足を順番に舐め続けたんです。ええ。その後も成長し続けました。力も強くなり、私を舐める仕草には、少しの暴力性が見え隠れしてきました。でも、私はされるがままでした。なぜか・・・・・・お恥ずかしいのですが、なぜか私はその行為に快楽を感じていたんです。いやらしく舐められる自分に、少なからず淫靡な妄想をかきたてられました。

 ええ。もうそのころになると、一週間以上も部屋にこもりっきりでしたから、両親の寝室のドアの前に立つ回数も増えました。大きな声で、何度も何度も呼びかけるんですが、やはり母からの返事はありませんでした。祖父母にも相談したんですが、夫の死のショックから寝込んでいるだけだとか、そのうち立ち直るだろうからなどと言うばかりで、無理に母を部屋から出す必要はないと言うのです。それでも、僕は何回もドアの前に立ち、母に呼びかけ続けました。

 いえ、そのころになりますと、息子の声は聞こえなくなりました。恥ずかしながら、私は快楽に溺れてしまっていたんです。それは器用に私の衣服を脱がせ、全身を舐めるようになりました。ザラザラとしたそれが、時には力強く、時には優しく私の乳房やお腹、そして・・・・・・陰部を舐めるその快楽に溺れてしまっていたんです。いえ、痛みもありました。それが体中を舐めるようになって、全身が紙やすりで擦られたように赤くなってしまいました。それでも、それが私を舐める快楽のほうが、苦痛より勝っていたんでしょうね。ええ、そうでしょうとも。傍からみれば、なんとも異様な光景です。でも、私にはもうそれしか残されていなかったんです。

 祖父母も当てにならないので、僕は決めたんです。そうです。二日前の朝に決心したんです。落ち込むにしても、少し異常すぎるのでは思いまして、僕は勢いよく両親の寝室のドアを蹴破りました。そして、そこで見たんです。ええ。最初は何かわかりませんでした。ただ、それの下に埋もれていた母にはすぐに気がつきました。全身真っ赤で、こちらを向いた目はうつろでした。でも、その母に覆いかぶさっているのが何なのかはまったくわかりませんでした。

 ええ、覚えています。それは、私が死を覚悟した日の朝でしたから。飲まず食わずで、一心にそれに体を舐めさせていたおかげで、私のほうの体力が尽きかけていたんです。そんなことにも気付かずに快楽に溺れていたんですから、本当に恥ずかしい話です。でも、あの日の朝、息子の顔を見た瞬間、私が生きていく理由がもうひとつあることに気付いたんです。なにも、それだけが私の生きていく唯一の理由ではなかったことに、やっとのことで気付いたんです。

 母は、気を失う前に、僕に向かって小さな声でごめんねと言いました。それだけでうれしかったんです。母は僕のことを忘れたわけじゃなかったって思えたんです。僕は一目散にベッドに駆け寄り、母の体に覆いかぶさるものを剥ぎ取りました。ドスンと大きな音をたてて床にひっくり返ったそれは、しばらくは動きませんでした。僕は母に向き直り、その無残な体を見てしまいました。全身真っ赤に腫れ上がり、所々からは出血していました。僕はそっとシーツを掛け、再びそれに視線を向けました。

 息子の顔を見たとたん、罪悪感と悲しみがわきあがり、涙がこぼれました。ええ。覚えているのはここまでです。次に気付いたときは、このベッドの上でしたから。ええ、今ではすべてわかっているつもりです。でも、あれの存在だけがあやふやで、本当にあれはいたのかどうかははっきりと言えません。もしかすると、全部自分の妄想だったんじゃないかと思えるほどです。だって、こうして話しているとあまりにも現実離れしているじゃありませんか。でも、この体中の傷を見ると、本当にあれはいたんですよね。

 ええ。そのあと、それは一度痙攣を起こしただけで動きませんでした。え? あれが何に見えたかって? あれは、舌でした。僕の身長ほどもある巨大な舌でした。それ以外に例えるものは見つかりません。思うに、あれは父の舌だったのではないでしょうか。あの事故があった日、母は父の首に口付けをしました。そのときに噛み千切ったのではないでしょうか? あ、いえいえ、聞き流してください。あまりにも現実離れしたたとえ話ですよ。でもよかった、母は無事なんですよね? ああ、よかった。

 了
2003/10/18(Sat)22:47:28 公開 / 辻原国彦
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■作者からのメッセージ
今回はナンセンスホラーです。
変な怪物を登場させたかったんですが、書きあがるとこんな感じになってました。
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