- 『薔薇憂梗、桔梗』 作者:asako / 未分類 未分類
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飛羅離、飛羅離。
散羅離、散羅離。
薔薇の花びらが、散る。
それも、たくさんの薔薇が一斉に。
時は平安。
異常な程の薔薇の花びらの山を手で救い上げ、1人の姫君はこうつぶやいた。
「まるで、桔梗(ききょう)みたい・・・。桔梗を、思い出しまする。・・・・・・あ ぁ、桔梗」
懐かしむ姫君のそばへ、男童(おのこ)の声音が囁く。
「憂梗(ういきょう)、聞こえておられるぞ」
声の主は、陰陽道特業商の小童(こわっぱ)。陰陽師こと、安部晴明だ。
「憂梗、今日も桔梗のことを思っていらっしゃられるか。」
「え、えぇ。――――――・・・桔梗、故(ゆえ)に懐かしき妹」
「今日(こんにち)は、薔薇の花びらがよく積もっておられる。・・・天照 大神(あまてらすのおおかみ)は何をお考えか・・・」
「あら、良いではないですの。花びらがこんなに積もって・・・まるで、天 国の神になった気分ですわ」
「憂梗は、誠(まこと)に空想がお好きでいらっしゃる。・・・桔梗は、憂 梗殿と違って現実的で何事にも忠誠でおられた・・・。」
「それは、あなたも同じではないですの。・・・晴明殿でしても、悪霊とや らの目に見えぬ者に向かってぶつくさおっしゃってらっしゃいますが。空 気と話しているようで可笑しい(おかしい)ですわ」
「何をおっしゃる!!是故(これゆえ)に、御人(おひと)の命をば奪う、 悪(あ)しき霊を成仏させる大変貴重な任命であろうというのに」
「空想の世界に浸り故わたくしには、その様なものはわかりませぬ」
憂梗は、クスリ、と笑う。でもそれは、小さな扇子により隠された。
「ああ、憂梗。せめてその空想で悪霊を想像してほしかったが本心だ」
「そのような硬いお言葉、桔梗みたいですわ・・・」
桔梗・・・その言葉は、2人の過去に存在する。
その人物は、歪むことなく、2人の心に居る。
故に、桔梗は2人のものとなった。
★
「犀悶(さいもん)・・・犀悶?犀悶!!」
「只今、憂梗様」
「遅いぞよ!!しかと、応答には率直に答えるものぞ」
「はい・・・申し訳ございませぬ」
「まあ良い。今回のことは忘れておくぞよ」
「は・・・っ、あ、有り難う御座います、憂梗様」
「恩に着るのぞよ。・・・時に、草薙秦君(くさなぎしんくん)のはなし は、どうなっておる」
「は、はい・・・それが、草薙秦君は、憂梗様を桔梗様とお間違えになられ ております故、・・・」
「結婚相手を違えるなど、草薙秦君もたいそうご立派な人よの」
「いや、憂梗様をかばってお亡くなりになられた桔梗様の死の劇(げ き・・・ショックっていう意味)でどちらか分らなくなっております故」
「のう、犀悶。草薙秦君は、桔梗を好いておるのであろ」
「はぁ・・・そうでございます」
「ならば、どちみちの(どっちみち)断りをしてはならぬか」
「なっっ、なりませぬ!!憂梗様!父上様との御約束で在ります故、そのよ うな反することにつきは(ついては)、どのようなことも云えませぬ」
「そなたにはわからぬか・・・人を好く、ということが」
「憂梗様・・・」
「わたくしには、好いておる御方がいらっしゃる。――――――晴明殿ぞ」
「・・・・・・」
犀悶は、何も言えなかった。
☆
「憂梗、秋ですなぁ。」
「秋ですねぇ、晴明殿」
「丁度、桔梗がお亡くなりになられて早2年が経ちましたなぁ・・・」
憂梗は、何か心に靄(もや)がかかるのを感じた。
「そうですね・・・――――――晴明殿」
「?何」
「晴明殿は、桔梗が居なくなって寂しいか」
「?何をおっしゃ・・・」
「晴明殿は、わたくしよりも桔梗のほうがよろしいか!!」
憂梗は、涙を流さずにはいられなかった。
「空想好きで鈍感なわたくしよりも、現実的で忠実で賢き妹のほうがお好き か!!!・・・・・・っ・・・」
「憂梗・・・」
「わたくしは晴明殿が好きなのです・・・晴明殿は、でも桔梗のほうがお好 きなのでしょう??」
「憂梗。確かにわたくしはどちらかといえば桔梗を必要とした。だがそれ は、悪霊の除霊の手伝いにすぎぬ!!わたくしは、空想好きで御優しい印 象をもつ憂梗殿が好きだ・・・!!桔梗殿が生きておらしたころから、小 さいころからずっと!!一緒に遊び、一緒に過ごした。わたくしが一番わ かっているのは、憂梗殿しかいない!!
・・・・・・これが、わたくしの思いだ。」
嬉しい・・・
「でしたら、『殿』をつけてわたくしの名を呼ばないでくださいな。もう、 一番わかり合える仲なのです」
「でしたら、わたくしも、どうか晴明殿とよぶのはおよしください。」
「・・・・・・晴明。」
「・・・憂梗・・・!」
こうして、2人はつながれた。
きっかけは、薔薇の花びらと、
桔梗だった。
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2003/10/18(Sat)20:31:24 公開 / asako
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