- 『最終話』 作者:吐人 / 未分類 未分類
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原稿用紙約9.55枚
学校に来ていなかった人たちはユウヤンと仲が良かった人たちだった。
どうやら、昨日、病院にまで行ったらしい。その後の事はいわなくても明白だろう。
あれから僕は淡々と(職務)をこなしていた。友からも話し掛けられたが、適当にやり過ごした。何を言ったかは覚えていない。たぶん気の利いたことをいったのだろう。相手は笑っていた、と思う。だが、作り笑いだったのだろう。
ユウヤンはうちのクラスじゃ静かな方だったが、誰かしら人が間違った時の鋭い突っ込みとメデューサもびっくりの視線攻撃が評判で何気にクラスのお気に入りともいうべきダークヒロインだった。
そのヒロインが欠けたとなると、いや、誰が欠けてもクラスの空気に塩っ気が多くなり、くそまずい味となるのだ。
そのくそまずい空気から開放されたのは比較的楽な今日の(職務)を全て終えた、1時半だった。
電車に乗りながら、ひさしともいくつか話をしたが、全く覚えていない。どうせ、大した事のない会話に違いない。
そんなどうでもいい奴は今の思考から外してしまったようだ。
そう、何気に平静を装っている僕だが、頭の中は Chaos of Chaos 混沌という混沌が渦巻いていた。
昨日、今日のシャッターシーンがグルグルとエンドレス・リープを繰り返しているのだ。いや、正確には自分の記憶に間違いがないか、何度も何度も巻き返しているのであった。
何故って?自分が、自分の存在があの場にあり得たのだろうか、という疑念心から?それもある。
それに付随して、僕の現実と、この世界の現実のどちらが正しいのだろうか。10中9割9分が必ずこう答えるだろう。
「こちら側だよ。」と。
僕だけが実感したリアルなんて人から夢と変わりがない。そう、空想だ。イッツファンタジー、夢物語だ。
それゆえに僕の存在が、不確定要素の一因となっている。そう、僕が僕であるためにそれが危うくなってきているの…………もう、何をいっているのかが分からない。何を考えていいのかが分からない。何をすればいいのかが分からない。
そう、全て「時間」のせいだ。「時計」をしていたから、こんなに悩む事になるんだ。「時」さえ、壊れていたのなら、そう「時」さえなければ、少なくともここで悩む必要がなくなったというのに。
そう、時間という問題さえなければ……。
昨日、あの町で彼女と話していた時間が5時半、昨日、彼女が東梨病院で亡くなったのが、5時位だ。家族に友達に看取られて。
あの町から東梨病院までどんな手をつかって急いでも最低1時間半はかかる。
謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、謎、これは謎でしかない。それを知る一歩たるために、昨日の件が起きた現場にいくためにと、あの駅に向かっているのだった。
苦痛と静寂とが入り混じった混沌を静めながらも。
降り立って、まず思った事は「あれ?」という違和感が圧倒的に全身を駆け巡り、何のためにここに来た事すら忘れさせられた。この感じは、違和感、いや騙された時の感じに近い。
そして、昨日来たという感じが全くしなかった。霧が晴れていたからではない。人がいたから?それもある。だが、一番の要因は僕がこの町の事を全く見たことがないからだ。
そう、もちろんの事だが、一通り散策はしてみたが、その町並みは全体的に昭和特有の建築物でひしめいていた。路地通りも全く違う。人にも聞いてみたが、武家屋敷、寺は勿論、古家すら存在しないという話だった。
しかし、こんな山奥なのにあばら家とか割とあるものの、近代的な建物も割と多い。おかしいなと思い、そのことも聞いてみると、この辺りは大戦中にこの辺の村全て焼かれてしまったのだと。だから、この地区は半世紀前に再生したばかりなので、ある程度近代的建物が立ち並んでも不思議じゃないそうだ。
これを聞いて唖然とした。自分の存在がどうだこうだとかいう問題以前の話になってくる。俺は、大丈夫なのか。まだ、大丈夫なのだろうかと。そう思わざるを得ない。成り行き上、余程、欲求不満だったのか、そこまでシンデレラ恋愛を願望していたのだろうか。恋愛を渇望すると、世界感を変えるというのは本当だったのか。まさか、自分がなるとは思わなかった。やばいな。現実と仮想の区別がつかなくなるとは、危険すぎる。どうにか、どうにかできるのか?
駅に戻り、上りの電車が来るのを待ちながら、そう考えていた。
切り替えは早かったのだが、待っている間にここの駅長さんと話をしてしまった、それがまずかった。知らなかったほうが幸せでもある事があるのだ。
軽く挨拶をし、軽く仕事内容を聞き、お互いほどけたところに核をつく。
「あのぅ、昔この駅より奥の駅なんてものはあったのですか?」
「ああ、あったよ。だいぶ昔ねぇ。あの辺は昔、立派な村でねぇ。今でいうなら間違いなく国の重要文化都市に選ばれてたんじゃないの。武家屋敷やお寺も数多くあったんだしね。それでいて不思議な感じをさせるところでさぁ。一年中霧が絶えなかったらしくてねぇ。」でもさ、うちと同じく戦火でやられちまったのさとに皮肉混じりに語った。
ぞわり、と背筋が寒くなり、声が少し震えるのを自覚しながらも慎重に質問を続ける。
「い、まはその村の場所、は、どうなってます?」
「あんた、知らんのかねえ。いまどきの若いもんはねぇ、全く。そりゃ、あるわけないだろ。あったらここが終点になるわけがないよぉ。」と豪気な笑いで笑いながら答えた。
「それからねぇ。その村はいまじゃダムになってるんだよ。戦後すぐにね。で、その時建てるときに活躍したのがこの駅に…………」
そのあとも結構長々とこの町の武勇伝を聞かされたのだが、必要な事が聞けたのであとは適当に合わせ深く礼を言ってその場から立ち去った。
『冷たい唇……』『存在し得ない場所』『禁忌』『霧が沸く……』『死体みたい……』『……5時半……』『死亡確認時刻5時……』『駅の食い違い』『ダムの底』『戦火で焼けた村』『すでになき村』『すでに亡き人』『冷たい唇……』『存在し得ない場所』『禁忌』『霧が沸く……』『死体みたい……』『……5時半……』『死亡確認時刻5時……』『駅の食い違い』『ダムの底』『戦火で焼けた村』『すでになき村』『すでに亡き人』『冷たい唇……』『存在し得ない場所』『禁忌』『霧が沸く……』『死体みたい……』『……5時半……』『死亡確認時刻5時……』『駅の食い違い』『ダムの底』『戦火で焼けた村』『すでになき村』『すでに亡き人』――――
全てがつながった――あれは『存在し得ない存在』
だが、この答えは、こ、れは、科学の部類では不可能な領域だぞ。
自分の存在が危ないどころの騒ぎではない。科学の存在そのものが危険だ。いや、無霊信者にいたっては彼ら自身の世界そのものが崩れ去ってしまう。
今までのどんな問題なんて比じゃない、比べられっこない。これに比べたらカス、いやカスにも及ばぬ塵カスだ。
なんで、僕があんな目にあったのだろう。なぜ、だろう。なぜ、僕だけが。
だけど、僕の頭には混沌という混沌の姿はすでに消えて、胸中はさっぱりとしていた。
そして、僕はクリアにこう考える。
昨日の事は全て本当だったんだ。何もかも。いや、信じる人によるだろう。そんなものは。夢かもしれない。だけど、僕はリアルだと信じている。
そして、彼女に助けられたと思っている。何となくだがこう考えるのだ。「あの町」に行き来するには意識があってはたどり着けないと思うのだ。
もし、彼女に遭遇しなければこの僕も生ける死人となり、「あの町」に閉じ込められていただろう。いや、そうに違いない。
だから、「あの町」で誰も姿を見せずに人の気配がしたのは気のせいではなく、「あの町」に残る幽霊だったに違いない。そして、彼女が言った言葉は嘘ではなかったわけだ。
『「そう、そうでもないよ。ここは。」』
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2003/10/12(Sun)06:50:30 公開 / 吐人
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■作者からのメッセージ
これでおしまいでっす。
ま、めちゃくちゃへたくそでこれを最後まで読んでくれた奇特な方かんしゃでっせ。
ま、結局テーマは最後までよくわからんままでしたり。
ここしばらくお会いする事はかなりの可能性でありませんが、ま、縁がありましたらってね。