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『一話』 作者:吐人 / 未分類 未分類
全角1524文字
容量3048 bytes
原稿用紙約4.85枚
 さびしい単線電車にノーマルピーポー+黒服詰襟姿の学生らしきひとがちらほら座り、ガタンゴトンとゆらりゆらりと揺らされていた。
 
 まあ、僕も黒服隊の一員。ちらりと時計を見る。針は1時15分前を指していた。

 九月入っての学校で今日は始業式。すでにクラスの連中との再対面かつ僕の軽い「職務」を終わらせ、一人さびしく家路に足を運んでいる?(体を運んでいるがいいのかな?)最中であるわけでして。



 ついに淋しい夏とお別れを告げ、心温まる読書の秋がやってきたのだが、そんな事はインドに行けば秋、夏の区別に意味はない。

 第一、読書の秋、これは誰が決めたのかというと末法信仰が流行っていたころで偉く古いお人らしい。まあ一つ説に、秋の夜長に恋人待つ間に寒風うたれてススキや満月を呆けて見るより、「式部」を見た方がいいと、誰々が薦めたそうな。まあ、何といいますか、いいましょうか心が潤ったそうな。まあ、由来がそこから来てるとか来てないとか揉めてるのか揉めてないのか何とやらですな。

 その式部とは世界最長最古の純文学と誉れが高い「源氏物語」の著者である。

 ま、源氏と言えば比べられるのは平家、平家物語でありまして。 
 その平家物語に歌われている通り、秋とは平家が滅んだ季節であり、奇しくもあのリンカーンが暗殺されたのも同じ秋である。
 いや、「奇しくも」を使ったがいいが……
 あまり賢い手ではないな……四季しかないんだし。
 ま、秋とは日本二大文学になじみの深い季節というわけでもあったというわけ。
 しかし、俗な事しか出てこないなぁ…………。
 
 こうなったのも僕が通う東梨高校のせいである。何が「校内読書の秋コンクール」だぁ?始まって早々やってられんよ。そう言いながらもしっかり考えている僕であった。

  すでにクラスの連中との再対面かつ僕の「職務」を終わらせ、一人さびしく家路に足を運んでいる最中に読書の秋について思考してたわけでしたり、っと同じ事を言ったような言わなかったような……。ま、いっか。

 チャンチャン、おしまい。そういって意識を標準に戻した。



 「って俺は馬鹿か?」



 思考してたのは馬鹿なこと?いや微妙。思考するのは人の自由、それは判断が分かれるところ。だが、これは会議室満場一致。有効投票100パーセントで馬鹿の烙印が押される。


 「…………。乗り過ごした…………。」

 通常レベルでまた車内を見渡す、と。
 車内にゃ割烹着姿のおばさまと、おば・さまと、お・ば・さ・ま、と……、おば様一人にわし一人じゃねえですか。 
 景色が半端じゃねえ。おれの町すら大都会じゃねえか。
 ああ、いいなあ。うらやましいな。田舎って。
 住んだらいいとこに違いはないだろうが、何分住んでいない人にとっては避暑しとして行く以外はあり得ない場所である。

 時折流れるアナウンスと車内に貼ってある駅場表を照らし合わせると……。

 半端じゃねえ。新記録だ。10駅やっちまった…………。

 まぢで10駅って半端じゃねえ……。
 次、どこだよ。……ってここどこ走ってるんだよぉ。

 ここ田舎だし、単線だし、おまけに一区間長いし、……電車待つんだよね。
 山手線だったらよかったのに。無理な注文だよな……。だってここ山多いし単線だし。
 いや分からないぞ。山手線も「山」が付くしな……。はぁ。

 「馬鹿な時には馬鹿な気休めしかいえない、か…………。」

 仕方ない。あきらめが肝心さ。ま、時間はあるし、本は、本は……と言いながらカバンの中を手探り、手探り、手探って、あったぁ!ま、あったわけでして、さあてと終点まで行きますか。

 そういって意識を下げていった。
 
 

 
2003/10/10(Fri)14:50:52 公開 / 吐人
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