- 『ファンタジー・サークル VOL.4』 作者:青井 空加羅 / 未分類 未分類
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3章 大魔王の選択
その後、係員の人が来て徹のヘルメットをはずしたが、徹の意識が回復することはないまま、三時間が経過した。
ベイスター社専属の病院に運ばれた徹の病室には何人もの医者や、何かの研究者らしき人達が入れ替わり立ち替わり出入りしていた。
中からは時折もめているような声も聞こえていた。
徹の寝ているベッドの横にはこの三時間まったく目を離さずに徹を心配そうに見つめる美久がいた。
一切は不明であった。
何故、大魔王は徹をさらっていったのか。
何故、徹が昏睡状態に陥ってしまったのか。
大魔王は勝つのは私だ、と言っていた。
美久はずっと疑問に思っていた。
「勝つ、というのは私達をゲーム・オーバーにすることではなかったの?」
それとも別の何かが・・・。」
美久は大魔王の目を思い出した。
大魔王の瞳はあのゲームの中に配置されていたどのキャラとも違っていた。
美久は彼の目に、生きるものの憎悪すら感じていたのである。
そして、徹をさらった時の勝ち誇ったような顔と、係員がポツリとつぶやいた大魔王が現われたなんてありえない、という言葉は美久のある一つの考えをより確かなものにしていた。
美久はこう思った。
大魔王は自分の意思を持っている。
そんな事がありえない事は十分に承知するところであった。
しかし、ゲームの中に意識が入り込む、という事自体今までの彼女にはあり得ない事だった。
例えば大魔王は自分の意思だけでプレイヤーたちを襲い、何かの目的のために徹をさらった。
大魔王が徹の意識だけをもどさせないように隠してしまったのか。
美久はそっと徹の手に触れた。
「・・・温かい・・・。」
徹の体温を感じると美久の目に涙が溢れた。
胸が息苦しいと思うほど詰まるのを感じた。
美久は今までの徹の様々な表情、図書館で声をかけられた時の事を思い出した。
どれもが美久にとって大切な思い出だった。
「・・・まだ、お互いの事ちょっと知っただけなのに。
デートだってこれからいっぱいいっぱい、大学に入ってからもしようと思ってたのに。
・・・目覚まさないなんて事無いよね?」
美久は初めて自分がこんなにも徹のことを愛しく思っていた事に気づいた。
「・・・私、まだ冴木君に好きだっていってないよ・・・。」
その時、バタンっと乱暴にドアが開けられる音がすると、一人の白衣を着た女の人が大きな機械を抱えて入ってきた。
茶色のショート・ヘアに今時の細めの眼鏡をしたこの女性はどこか、ぴりっとした電気の走る様な雰囲気を持っていた。
彼女はどさっとその機械を置くと開口一番にこういった。
「オクト・パースラから連絡が入ったわ。」
その台詞に美久は釘付けになった。
「まっ政子(まさこ)君!ここには部外者もいるんだぞ!」
同じく白衣を着て、さっきから病室でゴチャゴチャやっていた五十代ぐらいの男性が私のほうを見て言った。
政子、とよばれた人は私のほうをチラッと見るとそこにいていいわ、と小さく言うと男性に向けフフンと笑った。
「これは貴方のせいでもあるのよ。
オクトパースラはあなたがいるところでこれを聞いて欲しいみたいだから。」
そういうと政子は機械のボタンを押し、音量を調節し始めた。
『私は、オクト・パースラだ。
私をつくった研究者諸君は私をよくご存知であろう?
そして、私自身に初めから課せられていた運命も・・・。』
病室内に大魔王の声が響き渡る。
『私は私の意志を持たされた時から密かにこの計画を立てていた。
自由意志とは己の未来を己で定めるために与えられるものだ。
しかし、それが与えられたとき、私に未来を定める事は許されない状況だった。
私には「ファンタジー・サークル」にやってくるいずれの者たちにもやがては倒されるという運命が定められていたからだ。
私は自分の運命に絶望した。
しかし、絶望に沈んでいた私は時が経つうちにあることに気が付いたのだ。
なんだかわかるか?
私の知能が上がっているということだ。
私はあるとき、私の思考回路に無理矢理装着されていたリミット・ゲージが外れている事に気づいた。
それを境に私は実に様々な思考をめぐらす事が出来るようになったのだ。
私の選択肢は二つに増えた。
一つはこのままプログラム通りに働き、永遠にエンディングとオープニングを繰り返す事。
二つ目は勇者の卵を根こそぎ絶やし続ける事だ。
そして「冴木徹」を手中に収める事で研究者どもがこの世界を消去できないようにする事も成功した。
・・・人質は誰でも良かったのだが、「冴木徹」が参加している事に気づいた私は心から喜びに打ち震えた。
お前たちならわかるだろう?
「冴木徹」を消されたくなくば、このまま、私を消さずにいることだ。
無論、私を倒そうとする冒険者を送り込む事は大歓迎だがな。
もっとも、人質が増えるだけの事だが。』
政子はボタンを押し、テープを止めた。
「私が貴方に聞いてもらいたがっている、って言った意味、わかってくれた?」
政子は白衣を椅子にかけると男を冷ややかな目で見つめ、じっと腕を組んだ。
「・・・。」
男は眉間にしわを寄せ、考え込んでいるようだった。
「あの・・・何で冴木君は大魔王にとって特別だったんでしょうか?」
美久は政子に聞いた。
「それは・・・。」
「政子君!!」
答えようとした政子を男が大声で止めた。
「隠しててもしょうがない事だわ。それに、ほうっておけば貴方は彼を捨ててゲームを壊してしまうんじゃないかしら?」
「・・・。」
男は政子を睨みつけた後、脱力したようにうつむいた。
「さて、あなたの質問に答えるわね。
この男の名前は「冴木孝史(たかし)」。徹君のお父さんよ。
そして、このゲーム、詳しくはオクト・パースラの人工脳を作ったチームの中に私と彼がいたわけ。もっとも・・・。」
そういうと政子は再び孝史を冷ややかな目で見つめていった。
「冴木君は最後にとんでもない事をしてしまったみたいだけど・・・。
それはわざと?それとも事故かしら?」
孝史は深くうなだれた。
父がベイスター社で働いている・・・。
美久は徹の言葉を思い出していた。
to be continue? or not continue?
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2003/09/27(Sat)01:24:27 公開 / 青井 空加羅
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■作者からのメッセージ
やっとこれがどんなストーリーなのかはっきりしてきたところだと思います。私的には大魔王への思い入れが強いので、今回は書いてて楽しかったです。ただの悪者にはしたくないけど、大魔王だし・・・悩。