- 『チクタク時計の螺旋渦 第一話』 作者:さらさら / 未分類 未分類
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暗いリビングの中、男が、一人掛けソファに身を任せ、オットマンに脚を預けている。ズボンは履いているが、上半身は裸である。胸に痛々しい切り傷が刻まれている。
脇にはスタンドとコーヒーテーブルを置き、洋書を片手にその世界に浸っていた。
正面の窓から光が差し込んできたその時、男の背後から二つの白い肢が男の首に狙いを定めている。
気付かれないようそっと……
そして白い肢を首に絡ませ……
「おはよん、タツヤン。」
白い肢の正体は女だった。その姿は裸身に男物のシャツを羽織っているだけだった。
「あ、ああ、おはよう。」また意識を洋書に向ける。
「またそれ読んでるの。よく飽きないよねぇ。」皮肉は無視するに限る。
「…………。」
「へぇん、いいさいいいさ。ご飯作ってあげないから。」そういってキッチンに向かった。
「まずは着替えてからにしろ。それにこの前のはよせ。」
「この前は喜んでたじゃない。」
「エプロンに地の臭いが移ったんだよ。その体臭が。」
「ひどいわね。その臭いをかいでたのはどこのどなたよ。」
「いらん事は言うな。」苦笑しながら言った。全く事実だから仕方が無い。
コーヒーテーブルにおいてあるグラスを傾けた。
久美と暮らし始めて早三週間が経つ。出会った当時は大変なものだった。それは根暗、陰気、腐臭が立ち込めた女。美という美が闇にうずくまっていった。だが、彼女には何か光るものがあった。
それが見たい、ただそれだけで付き合った女性である。
向こうの都合なんかはどうでもいい。
だが、どっちに転がるかは愉しみでもあり、不安でもある。
さすがに『アレ』みたくはなってもらいたくは無いな。
南青山のマンションを出て、職場の六本木に向かいながら、その事に軽く思案した。
自宅から職場まで直線距離1キロ、実際距離で約1,5キロである。
軽い運動も兼ね、徒歩で通勤している。
井の頭通りに沿い、青山霊園を過ぎ去った頃には仕事のことだけを考えていた。
斎藤は別人と化す。
そう眼鏡をかけて――
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2003/09/16(Tue)16:50:30 公開 / さらさら
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■作者からのメッセージ
いよいよ本編スタート。
見てくれた方に感謝。いなくてもオーナーに感謝。
そしてコメンテーターには多謝。