- 『右ストレートと階段と』 作者:暁子m / 未分類 未分類
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原稿用紙約4.35枚
気が付いたら、体が重くなっていた。
とても単純な日本語で言うと、ひきこもり。気が付くと、僕は、そう、なっていた。
のだ。
推薦で入った、専門学校。僕が気がつくと体が重くなっていた時期と同じころ、夏休みが始まった。
善意しか見えないクラスメイトに別れを告げ、携帯電話の電源を切った。帰り道、橋の上から見る川の流れ、そこへと携帯電話を投げ込みたくなったが、そんな自分はうそ臭い。
演出じみている。馬鹿らしい。
川よ、さようなら。
と、思っていたら、マンションの便器に落とした。
携帯電話。
「は?」
むしろ、逆ギレ。自分がしたこととは思えない、自覚したくない、という気持ちでそこへ。
水を流したばかりとはいえ、便器の中へ、浸水している携帯電話へ、「は?」と、つぶやいた。
台が斜めを向いていたのか、僕の置き方が悪かったのか。
多分、後者。
初めから、黒かった画面。覗いてみても助かるか否かは見えない。でも、見つめる。
ありえないっすよ。
蓋を下ろした。
手をあらって、とりあえずベッドへ。
体の重みのまま、下へ。重力のまま、下へ。
僕は、りんご。
「・・ありえないっすよ」
頭の中、残るのは携帯電話の最後の姿。
最期、か。
最期。
拾い上げなければいけないことは分かっている。そうしなければ、安心してひきこもれない。重力のまま引かれ、高齢化に歯止めをかけるべく老人ホーム襲撃計画を頭に浮かべては引きつり笑いを浮かべることもできない。
便所を覗いてみる。
蓋を上げる。
うわ、まだあるよ。
突き刺さっているよ、お母さん。
と、心の声を飛ばしてみても、電波は送信できないので、電車で2時間先の自宅へはつながらない。
水から顔をだす部分、そこをつかめばいい。
さいばし?
浮かんだ単語に、すぐにNo!と答える。僕は、No!といえる日本人。
トイレットペーパーを右手の人差し指と親指に巻きつける。左手は7重巻き。
右手を便器へ。携帯電話を掴み上げ、落ちるしずくを左手が受け止める。染みていく感覚が嫌悪感を催し、トラウマになる前に、ごみ箱へ捨てる。
ほんとに捨てちゃったよ、携帯電話。
さようならぁ。
自分にどきどきした。
結果的に、僕は捨てた。携帯電話をごみ箱へ捨てた。
これで、僕は一人か。親の電話も友人のメールも受け取らず、2ヶ月の夏休みを一人で過ごす。
僕は、一人、か。
ごみ箱の前に座る。生ごみ臭に負ける。顔をそむけた先、窓がある。
青い。
白い。
空がある。
「一人ねぇ」
言葉をかみ締めるようにつぶやく。現実を抱くように呟く。
きっと、頭の端からテレホンカードの存在が自己主張をはじめる。
少し、笑えた。
重力に負ける。
5時間後には、勝つだろう。だから、今は、敗北を笑う。
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2003/09/13(Sat)10:09:07 公開 / 暁子m
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■作者からのメッセージ
特に意味のない文章、が好きで、それがらしいかなぁ、と自分の生を思ってみたりする、そんな初カキコ、こんにちは。
携帯電話を捨てたら、おもしろいだろうなぁー、と願望のまま、です。