- 『少年魔剣士 序章』 作者:ゆっこ / 未分類 未分類
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 序章
 
 一人一人の行動。これらの全てが偶然と奇跡の巡り合わせと言うのなら、
 彼がこの地を訪れ、そして彼女とであったのもまた運命といえるだろう。
 今、歴史は繰り返される・・・。
 長き時を経て、また大いなる戦いが始まろうとしている。そして・・この事実を知っているのも・・ほんの数人だろう。
 
 南オーグ大陸・シゴウ砂漠。
 この星の南方にある大きな大陸。そして一番暑く、世界最大規模の砂漠地帯だ。昼と夜の寒暖の差は激しく、60℃にも及ぶという。
 昼は灼熱地獄、夜は氷点下だ。しかも、辺りが暗くなると、昼間は姿を隠していた砂漠地帯の住人たちが動き出す。砂漠の暑さに耐えるべく、砂塵の中に姿を隠し、限りなく温度が下がった時間帯のみに姿を現す。闇に紛れ、人間たちを餌食にするアーダーマシン。それは砂漠に住む人間たちの脅威に他ならなかった。よって人々は、暑い昼間だけしか迂闊に外にも出られないのだ。
 しかし、そんな危険な夜の砂漠地帯を薄着で歩き回る男が一人いた。
 艶のある乳白色の髪。背はさほど高くない、16〜7の少年だ。しかも驚くべき事に、彼は武器を何も所持していなかった。服装とて、旅人のようには見えるものの、鎧の役目など到底果たせない。
 そんな無防備な状態で、砂漠の住民たちがもっとも恐れる時間帯を堂々と歩いている。
 もうじき・・奴らが彼を見つけるだろう。
 闇に身を隠し、獲物を襲う・・。
 “ピン”
 彼は頭に引っかかる独特の感覚を逃さなかった。
 ザザ、ザザザザザザッ
 “来る”
 「ゴガァ。」
 彼の足元の砂がボコっと盛り上がり、押し上げた。しかし彼はそれを素早く察知し予め避けていた。
 そして、その眼前に立ちふさがる巨体。それは紛れもない砂漠の脅威、砂龍だった。
 「でっけ。」
 上を見上げながらボソッと言った。
 全長50メートルのこの砂漠最大級のモンスター。奴のよく動く尾につかまれば最後。地中に連れ込まれ、あっという間に窒息死だ。
 「俺・・寒いから早く町に行きたいんだけどなぁ。」
 けして通してはくれそうにない巨体の前に彼は余裕たっぷりに言ってみせた。
 「どうせお前ごときに俺は倒せないし。」
 武器らしい武器を何一つ持たず、かといって肉弾戦に自身のあるようには見えない。それに何よりまだ20に満たない少年だ。それで一体どうやって砂龍などという厄介なモンスターと戦おうというのだろうか。
 砂龍はだんだん間合いを詰めている。しかし彼はそこから一歩も動かない。
 砂龍は彼に狙いを定めた。そして、その巨体から引き出した最大級のスピードを用いて、彼に突っ込んだ。
 「ったく。大人しく砂に潜ってりゃ死ぬことも無かったのによ。」
 彼はその言葉を言い終えるか終えないかの時、
 既にその姿は消えていた。
 砂龍は、自分の標的が消えたことで戸惑い、辺りを見回す。
 「どこ見てんだよターコ。」
 砂龍には到底理解できなかったであろう。ほんの一瞬の出来事だったのだから。
 次の瞬間、彼は先ほどまでは持っていなかった輝く剣を右手に、砂龍にその太刀を浴びせた。そして砂龍は頭から真っ二つになり、地面に倒れたのであった。
 「俺にケンカ売ろうなんて千年早い。」
 彼は右手にあった剣を放した。すると、剣はパッと消えたのだ。跡形もなく・・・。
 その瞬間、
 「そなたは・・魔剣士なのか?」
 背後からのいきなりの呼びかけに、彼はバッと後ろを振り向いた。暗闇でよくは見えないがそこには一人の女性が立っていた。プラチナブロンドの髪が神々しく輝いている。
 「あ・・・・。」
 彼は自分の目を押さえた。
 何故か・・涙が流れたのだ。
 「どうか・・したのか?」
 女性が聞き返す。しかし少年は答えることが出来なかった。
 自分以外の者の感情が表にでた、というのを想像してくれればいい。
 最近妙にそれが多くなってきた気がする。彼もうすうすは気づいていた。
 「ところでそなたは・・そんな薄着でどうした?ここは危険地帯だぞ。」
 そのことを言われたとき、彼はバッと顔を上げた。
 「あんたこそ・・ここで何をしてるんだ。」
 当たり前の疑問だ。女一人で夜な夜な歩きに来る場所ではない。
 「何者だ・・?」
 窺うような視線を送る彼に対し、女性は至って普通に答えた。
 「私は私だ。何者でもない。そなたがそなた自身あるようにな。」
 そして女性はそのまま闇に消えてしまった。もうなにも見えない。彼女は本当にどこかに行ってしまったらしい。
 不思議な人だった。自分が長年かけてもらいたかった言葉をさらりと言ってのけたのだ。
 愛さなくてもいい。ただ・・自分が生きていると認めて欲しかった。人間だと・・自分はここにいていいのだと・・言って欲しかった。
 ―愛さなくてもいいから・・。
 ただ・・・俺の存在を認めて・・・―
 彼はその闇の中で、涙を流し続けたのだった。孤独と悲しみを秘めた瞳から、その汚れなき涙を・・・。それは夜の星に導かれるように、空の彼方に流れて散った。
 
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■作者からのメッセージ
 続きは全て、私のHPに載せてあります。もしも、読んでみたいと思ってくれる方がいましたら、是非起こしくださいませ♪