- 『虚王のタリト  十章』 作者:piyo / 未分類 未分類
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 来て欲しいのはお前じゃない。
 
 
 来て欲しいのはあの人だけ。
 
 
 
 *
 
 
 酷い腐臭。
 辺りに広がっていく、血。
 その出口に佇む人物は、その光景にかなりショックを受けているようで、其処から一歩も動かない。
 
 「――――孤王様・・」
 
 ぴちゃ、
 
 ぴちゃ。
 
 血を踏んで死臭の染み付いた孤王に近づく。
 ぴくり、と燐榛を握る手が動く。
 
 「こんなに綺麗なお顔を汚してしまって・・・ほら、綺麗にしなしゃなれ」
 
 びりりと服が破ける。
 王服の裾を戎羅は破き、白い布片で孤王の顔を拭う。が、血糊は一行に落ちる気配がない。
 
 「・・あ」
 
 
 虚王の王服だ。
 決して、お前のモノではない。
 それを、どうして我が物顔で汚したりするのだ。
 ――――何故!
 
 
 
 「何してんのよ!」
 
 
 戎羅の手を勢い良く弾き、燐榛の先を血の中へ尻餅ついた戎羅の喉下に突きつける。
 ぴちゃ、と燐榛を伝って赤い滴が戎羅の――虚王の――純白の王服に滴る。
 戎羅の酷く困惑した表情に動じる事無く、鬼の如き形相で睨み据える。
 
 「・・・孤王様・・?」
 
 つん、と腐臭に鼻が痛い。
 
 「それはお前の服ではないだろう・・?それは元々は虚王のものだ!!どうして我が物顔で破いたりする!!」
 
 戎羅の喉から細い一筋が流れる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 数瞬が、何時間にも感じられた。
 
 
 
 「・・戎羅」
 
 
 ようやく発した一言は、重く冷たい。
 
 「誰だって・・一人になりたいときは・・ありましゃね・・軽率でしゃ、失礼しましに」
 
 俯いて、剣先を素手で軽く払うと、戎羅は血糊を踏んで裏路地から走り出た。
 純白に紅が彩り、靡く。
 気が付いた時には、戎羅の右腕からも、多量の血が流れ出ていた。
 頬にも、左腕にも、横腹にも、右足からも―――――
 
 
 
 意識が上手く保てない。
 リヴァイアサンに支配されたように自分が何処まで居るのか、理解らない。
 
 
 
 
 
 
 
 その場に、何時まで佇んでいたのだろう?
 
 
 
 
 
 
 裏路地に射しこむ月の光が、やっと孤王の意識を目覚めさせた。
 ぴちゃ、と燐榛の先から滴る血が、足元の血だまりに波紋を及ぼしている。
 
 
 (――――私は)
 
 
 燐榛を払って、自分の服で剣を拭う。
 鞘に収め、裏路地から出ようとした、その時。
 
 
 
 
 「・・孤王」
 
 
 
 
 誰も居なくなった表通りから、虚王が現われた。
 
 
 
 とても、信じられないような表情(かお)をして。
 
 
 
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2003/08/31(Sun)14:57:43 公開 / piyo
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■作者からのメッセージ
 今回戎羅が危うかったわけで・・あまりはっきりしなかったのですが、無意識に孤王は戎羅を切り刻んじゃいました。軽めですが。それについてはまた別の章でやるとおもいます☆
 今回初めて読んで下さった方も、毎回毎回読んで下さっている方も(コメントなどありがとうございます☆)ありがとうございます!ご意見、ご感想などなどお待ちしております☆