- 『葬儀屋(ゴミの町) 3/完結』 作者:クク / 未分類 未分類
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 原稿用紙約5.55枚
 それからたっぷり三時間かかってアップルティーとホットサンドウィッチは運ばれてきた。アップルティーは前回とは違い、くすんだグラスの中に入ったアイスティーになっていたが、その香りは前回と変わらない。マーくんに取られる前にとアリスは運ばれてきたと同時にホットサンドウィッチを一つ手に取った。
 
 「ありがとうございます…」
 「いや……」
 
 アリスの礼に短く答えたマスターはその場を動かない。湯気を立てるサンドウィッチを目の前にマーくんはカタリと少しだけ音を立てる。アリスもその居心地の悪さに身じろぎした。
 
 「あの………」
 「葬儀屋さんですかね?」
 「!!………知ってたんですか?」
 
 葬儀屋という言葉にアリスの瞳が微かに揺らぐ。マーくんはまたカタリと音を立てた。
 
 「聞いたことがあります…アルビノで黒い服を纏った子供が葬儀屋をしていると。機械の羽で世界を回り町を訪れ、その町で[いらない物]を一つ見つけ[金の炎]で焼き尽くす。[金の炎]で焼かれた[いらない物]は跡形もなくなる。不思議な子供がいると。」
 「その通りです…何故それを?」
 「先代[アリス]も先々代[アリス]もこの町を訪れ同じ[いらない物]を焼き払いました。あなたの本名は?」
 「…ランドです。でも旅が終わるまでは…葬儀屋でいる間は[アリス]でいさせてください。」
 「…そうですか……」
 
 アリスは手に持っていたホットサンドウィッチをそっと皿に戻した。
 
 「それで…この町の[いらない物]とは?」
 「もうあなたはわかっているはずだ…そうでしょう??……ただ今回は前回と違うことを頼みたい。」
 
 
 
 アリスは深夜零時五分前に空にいた。手にいつもの鞄はなく、マーくんだけを抱えている。背中には機械製の羽を背負っていた。
 
 「さぁ…そろそろ時間だね……」
 
 アリスはそっと自分の帽子についている真っ赤な花飾りに手を伸ばし、その裏から小瓶を取り出す。その瓶の中には煌々と燃える金色の炎があった。
 
 「……アリス、三分前だ……」
 「うん……じゃあ始めようか……」
 
 つぶやきながら瓶のコルクを抜き、アリスは瓶を逆さにし自分の手の平に金色の炎を乗せる。アリスの手の上で炎はまた輝きを増した。
 
 「金の炎…いらない物が見つかったよ……さあ……あの噴水を焼き尽くせ」
 
 金の炎はアリスの手の平から生き物のように飛び降り、噴水をその炎で飲み尽くした。
 
 
 「あの町はね、一週間掃除をせずにゴミをためこんで、七日後の午前零時に一気にそのゴミを噴水から出る水で外に出してたんだ。その時に大量の水を出すために六日目には噴水の水は止まって町の人は地下に避難する……それで清潔さを保つ。僕達があの町に着いたのはゴミを流し終わったすぐ後だったんだ。」
 「あぁ……なるほど。だからあの町の周りはゴミだらけだったのね。納得した。」
 
 アリスとビットは粗大ゴミの山の上に座っていた。ビットは遙か彼方に見える丘の上の町を見つめる。対するアリスはナイフで薄い木を削っていた。
 
 「そういうこと…」
 「相当な横着者か、掃除嫌いねそのシステム考えた人。おかげで周りはいい迷惑だわ。」
 「本当にね。実際そのゴミでその周りの町は10個以上潰された。」
 「ウソ!?」
 「本当………」
 
 アリスはナイフを握る手を休まずに淡々と語る。
 
 「ゴミでわからないけど、実際この下には町があった。」
 「そう……じゃあ、そのお爺さんが噴水を焼いて欲しいって言ったのは……?」
 「お爺さんは元々その町の人じゃない。ゴミに潰された最初の町の人。」
 「あぁ…なるほどね……なんで誰も止めなかったのかしら?」
 「掃除なんてめんどくさい…それが一番楽な方法なら……それにあの町はああ見えても軍事力はある。」
 「その町の人は誰も咎めないし誰も逆らえない…か。自分勝手!!」
 「そんなものだよ……」
 
 アリスはナイフを動かす手を休め、削っていた木を口にくわえた。黒い鞄を開け、中から小さめのケースを取りだしその中から黒く細長い物をいくつか取りだし組み立てる。
 
 「オーボエ……吹くの?」
 「うん……」
 
 くわえていた木を先端にはめ込み、アリスは静かに楽器を吹いた。静かで悲しい音色がゴミの草原に響く。
 
 「鎮魂歌……か……あの町もう駄目ね………」
 
 町の上空には大量のカラスが群れをなしているのが見えた。風が吹き、鞄の上に乗せられたマーくんがカタカタと音を立てた。
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■作者からのメッセージ
 前回と随分間を開け、完結です。
 アリスとマーくんの不思議な感じに、ビットの普通な明るさがスパイスになればと思います。