- 『「隣の殺人者・序章」』 作者:うさぎ あゆみ / 未分類 未分類
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「あっ、ああ・・・!!」
た、助けてくれ!
「違うっ!!!!オレが殺ったんじゃないんだーーーーーーーっ!!」
オレは、目の前の警官に叫んだ。「違うっ!オレじゃないんだよ!!!」
すぐさま、他の警官たちがオレを取り押さえる。
その警官は一瞬オレの目を見たが、再び自分の目の前にある、肉の塊へと視線を移した。
ここは、6号室。「あの男」の部屋だ。
オレは気がついたら、この部屋に寝かされていた。そして・・・目の前には・・・、
男か女かも分からないような、腐乱死体が転がっていたのだ。
密室で、しかもアリバイのは自分だけ。
オレはあっさり逮捕された。
そう・・・すべてはアイツに仕組まれていたことなのに。
成木という、あの狂気殺人者によって―――。
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―――それから、数ヵ月後。
警察が殺害現場の住人、成木を追っている間、オレは警察のどっかの施設に入れられていた。
まるで牢獄のような、その施設は窮屈でたまらない。 早く成木が捕まるのを祈るばかりだ。
「くそ!警察め、何やってんだよ!」
なんで、何もしていないオレが、こんな犯罪者扱いされるんだ!
日に日に、オレのストレスは溜まっていった。
そんなある日・・・・、オレになんと面会者が現れたのだ。
「斎藤 秋星くんだね。はじめまして。私は 矢代という者です」
家族かと思って期待したのに、実際は全く知らない男だった。
どうやら白衣を着ているこの男は、何かの専門家らしい。
「実は、君に良い知らせを持ってきたんだよ」
そう言うと、矢代という初老の男はニッコリと笑った。
「良いしらせ?」
「ええ。実は、昨日・・・事件の真犯人、成木の居場所を突き止めたんです」
「えぇっ!?」
オレは驚いて、イスを蹴飛ばして立ち上がった。
「本当ですか!?」
「ええ、本当ですよ。もはや、逮捕まで時間の問題でしょう」
矢代は、静かに言った。
「そうなんですか。良かった」
「今まで、こんな所に閉じ込めてしまい、本当に申し訳なかった」
彼は、オレに向かって頭を下げた。
「いや・・・。もう忘れる、ってわけにはいかないけど・・・、とにかくオレの容疑が晴れればいいですよ」
オレは、ほっと胸をなでおろした。これで、やっと普通の生活に戻れるんだ・・・。
「そうですか。ありがとうございます」
矢代は、それを聞くとゆっくり微笑んだ。そして、
「しかし、成木を逮捕するのも・・・どうやら、一筋縄ではいかない可能性も出て来ましてね」
緩めていた口元を元に戻して言った。
「え?どうしてですか?」
「彼のような、冷酷で、しかも今までに例のない容疑者は初めてなんですよ」
今までの穏やかだった矢代の顔に、影がさす。
成木の残忍さは、オレが一番知っている。
だから、警察が焦る理由も、なんとなくわかった。
「我々も、全力で成木の逮捕に努めますが・・・」
矢代が、持っていたペンのキャップを抜いた。―――そして、一呼吸おいてから、
「そこで、君の協力がいるのですよ。斎藤 秋星くん」
オレの目を見据えながら、彼は言った。
「え、オレの?なんでですか?」
理解できなくて、オレは聞き返す。
「ええ、そうです。今までの事件のいきさつを、もう一度だけ明白に記録したいんです」
矢代はふところから、テープレコーダーを出した。
「そんなに、緊張しなくても結構ですよ。成木が、君の隣の部屋に越してきた時からのいきさつを、もう一度だけ話してください」
その時、彼の瞳の奥が、キラリと光ったような気がした。
正直言って、オレはあの事件をあまり思い出したくはない。
しかし―――、
「・・・・・分かりました。できる限り協力します」
短い沈黙の後、オレは答えた。
そうだ、オレの人生を崩した成木を、絶対に逮捕させてやるのだ。
・・・・オレはただ、殺人者の隣人ってだけなんだから。
「話し始めていいですか?」
オレは、決意したように拳を握り、椅子に座りなおした。
「どうぞ。協力に感謝します」
静かに矢代が答えた。
穏やかな、目の前の男・・・・、四角い部屋。
「カチッ」
真っ白で、殺風景な面会部屋にテープレコーダーの音が響いた。
「あの事件の始まりは――――――――――――、」
《続く》
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2003/08/29(Fri)20:44:06 公開 / うさぎ あゆみ
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■作者からのメッセージ
現代独特の狂気を小説にしてみようかな〜、と。
苦手な方、ごめんなさい!できれば、コメントをくれるとありがたいです。