- 『虚王のタリト 七章』 作者:piyo / 未分類 未分類
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そうだね。
あの時に死んでいれば。
私は、未だに苦しまなくて済んだのかも知れない。
*
「私みたいな若輩者が勝手に来ても良かったんですか?」
テーブルの向かい側に座る虚王に、申し訳なさそうに孤王は言った。
淹れられた紅茶を片手に、彼は無邪気に微笑む。
「いやいや。むしろ来てくれて嬉しいよ。ありがとう」
太陽が真上に昇ってから少し経つ。
爽やかな風が吹き、春が近づいてきている頃だというのが理解る。
テーブルの上に在る菓子類を少し遠慮がちに頬張りながら孤王が言う。
「―――そうだ。どうせ来てくれたんだから、紹介しよう。戎羅(かいら)!」
戎羅?
孤王は眉をひそめて返事のした方を見やる。
一目見て、彼女はこの世界の人間じゃない事が理解った。
「お呼びでござあましゃあ?」
彼女の言葉は聞き慣れない言葉だった。
服装はこの世界の王服だが、顔立ち、言葉、髪の色や瞳の色総てこの世界ではない事が理解り、同時に何か違和感が沸き起こった。
「戎羅?何処の世界の方で?」
「流石孤王。彼女は別世界から来た、迷い人なんだ」
にこり、と笑って戎羅は紅茶を淹れ直す。
「わつぃ(私)、戎羅と申しましゃ。虚王様の言われたとおり、わつぃは全く別の世界から迷って此処へ来ましてや」
「何故・・彼女は此処に?」
「俺が拾ってきたんだ。彼女の住んでいた世界の話が興味深くて」
楽しそうに話す虚王の表情は好きだ。
けど―――――
「どんな」
「戎羅の住んでいた世界には『ドラゴン』という理性の無い凶暴で最強の生物が居るんだと!俺はその話を聞くたびに『そっちの世界に行きたい』って思うんだ!」
立ち上がり、叫ぶ虚王に対し微笑ったのは戎羅だけで、説明された当の本人――孤王――は呆然としていた。
そっちの世界に行きたい?
それは、私の知らない世界に生き、私から離れるということ。
私の中で渦巻いているこの気持ちを知らずに。
どうしてそんな気持ちにさせたの?
そんな考えを生み出したのは、誰?
「・・私、帰ります」
楽しげに、愉快そうに話す虚王と戎羅にそういうと孤王はがたっ、と勢い良く椅子から立ち上がりそして庭の出口を目指して闊歩する。
限界だった。
「どして?もっと楽しみましゃあ!」
笑って言う戎羅の表情を見ると、どうしてもムカツク。
少なくともその話題を以って虚王を虜にした彼女。
急に、憎らしく思えた。
「離してって言ってるじゃない!!」
捕まれた裾を強く離す。
鬼の如き形相で睨み付けた先の戎羅の表情(かお)は、悲しみだった。
しかし、そんな表情されても、こみ上げてくる謎の感情は抑えきれない。
そのまま庭を出る。
戎羅と、顔を合わせるべきではなかった。
嫉妬。
その感情に気付いたのは、
虚王に出会った時と同じ場面が、現実に現われた時。
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2003/08/28(Thu)11:41:10 公開 / piyo
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■作者からのメッセージ
恋愛に偏ってきてます。
悲恋?書いてる本人もよくわかってません。(ダメダメ)
とにかくコバルト・ブルー(孤王)は戎羅に嫉妬している・・みたいな。戎羅は意識していないんですけどね〜。
七章を読んで下さってありがとうございました。よろしければ八章もおねがいします☆←これ毎回同じことコメントしてる・・