- 『虚王のタリト  六章』 作者:piyo / 未分類 未分類
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 「まちやがれこのクソがき!!」
 
 何よ。
 少し食料に困ってて、其れを見捨てるあんた達は自分のことを棚上げする気?
 
 
 ほんっとうに大人って情けない。
 私もああなると思うとゾッとする。
 
 
 「このやろ――――」
 
 
 どさ、と地面に躓いて追ってきた数人の大男たちがこける。
 目の前で何も無い所で躓いた男達にくく、と思わず微笑してしまった。
 
 「なにわらってんだ、このクソがき!!盗んだもん、全部返しやがれ!」
 
 応える気も無かったけれど、それ以前にお腹が減って言葉を口にする体力も無かった。
 地面にゆっくりと盗んだ西瓜をおき、携えていた短剣を手に持ち、返す気が無い事を示すと男達も背中に携えていた曲剣(サーベルみたいな剣で、大きめ)を取り出して構えた。
 
 「上等だ、このクソがき。ぶっ殺して力ずくでも返してもらうぞ!!」
 
 その中でも結構大きめの、店主が曲剣の切っ先をこちらに向けて突進してくる。
 それを短剣の切っ先でなぎ払い、店主のバランスが崩れたところの背中を『返し』で突き刺してやった。脂肪の塊が地面に力なく倒れ、後の男達は絶句している。
 
 
 ―――――それでも、一度言ったらやらなくてはならない。
 
 
 それが人間の意地であり、見栄だ。
 まさか追って殺すはずがこんな小娘に返り討ちにされた、などとはとてもじゃないが言えないだろう。
 言わなくても、もしかしたら小娘が言いふらすかもしれない。
 
 そうなればもう、自分達はこの街から立ち去らなければならない。
 
 「ふざけんなぁぁぁぁっ!!」
 
 もう一人、また一人と大人気ないことよりもプライドを優先して小娘に斬りかかる。が、小娘は横に跳び、振り下ろした一人の男の腹にずぶ、と刃で肉を抉る。と同時に血が噴水のように噴出すが、小娘は其れを避けて呆然としているもう一人の男の下に潜り込みそして、両足首を素早く切断した。
 
 響く断末魔。
 とうとう逃げ出す最後の一人。
 
 しかし、
 
 
 「ぐぎゃああっ!!」
 
 
 ―――――見逃すはずが無かった。
 
 
 
 最後に一人ずつ念入りに留めを刺し、息をするものはその空間の中で小娘一人となった。いや、もう一人いた。偶然居合わせた、もうひとり人間が――――
 
 
 「だれ」
 
 
 血にまみれた短い刃をその男に向けた。
 男は店主達とは違う剣―――『双剣』―――を携え、惨劇の場に似合わない柔らかい笑みを浮かべて小娘に近づく。
 
 「来ないで。敵といわなくとも敵とみなすわ」
 
 
 
 ぴちゃ、
 
 波紋が広がる。
 
 
 「悪かったね。一部始終見てたよ。―――相当な力の持ち主だからね。つい」
 
 
 ぴちゃ。
 
 死体を跨ぎ越し、小娘の剣先を握る。
 
 「名乗りなさい。もしもこの死体らの見方なら殺す」
 
 「そうでなかったら?」
 
 「殺す」
 
 「理不尽だね」
 
 此れが14の娘に見えるのだろうか。
 平気で人を殺す事の出来る、平気で殺すと口に出来る小娘が。
 
 「・・俺は虚王。これでも王を名乗って5年経つが」
 
 ぴくり、と小娘の眉が動く。
 
 「王・・」
 
 王は、嫌いだ。
 力を無理矢理翳し、名誉を得、悦に浸る。
 意味も無く殺し、悦に浸る。
 ただの殺人気。
 自分みたいに、人生に困っているわけでもないのに、殺すなど
 
 
 「殺す!!」
 
 
 叫び、止められた切っ先を力強く押し返し、掌を貫く勢いで全力を込める。
 
 「・・・君は、王になる気は無いか?」
 
 それは小娘にとって信じられない言葉だった。
 
 「なんだと・・私が一番嫌いな王になれ、と・?」
 
 「嫌いかなんて知らないけれど、そう。相当な実力を持っているし、俺についてくるならもう不自由はさせない。どう?王にならないか」
 
 「・・・・」
 
 試す意味でも、それは惜しくない条件だ。
 もしも不自由ならこの男を殺すし、嫌になるなら王名を捨て、また元の生活に戻るのもよし。
 
 ――――不気味な笑みが、心の中で広がった。
 
 「嘘じゃ、ないだろうな」
 
 少し、切っ先に込められた力が緩まる。
 虚王はにこりとやわらかく応える。
 
 「あぁ。本当だ」
 
 「・・・王名は」
 
 剣を下に降ろし、西瓜を拾い上げてにらみつけるように虚王を見上げる。
 虚王は小さなその手をきゅ、と軽く握り、そして呟くような小さな声で応えた。
 
 
 
 「――――孤独の王・・『孤王』・・ってのは?」
 
 
 孤独の王。
 皮肉だな。まったくもってその通りだ。
 まるで今までの人生を込めたような名前だ。
 
 きゅ、とその手を握り返し、血の海から足を出す。
 そして呟いた。
 
 
 
 「―――悪くない」
 
 
 小娘――孤王――は、満足そうに笑みをその表情に浮かべた。
 
 
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2003/08/27(Wed)16:23:59 公開 / piyo
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■作者からのメッセージ
 今回やっと四章、五章、六章と繋がったと思います。もしかしたらこの先恋愛も絡んでくるかもしれません・・で、恋愛が本格的に絡めば(というかもう)主人公は彼女ではなくコバルト・ブルーになるかも・・その辺はこの小説が順調に進んだ時にコメントします。
 
 では読んでくださってありがとうございました。よかったら七章も読んで下さいv