- 『葬儀屋(ゴミの町) 1』 作者:クク / 未分類 未分類
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原稿用紙約7.15枚
ゴミの草原中を一人、人が歩いている。生ゴミは異臭を放ち、粗大ゴミは重なり合い山になっていた。人は周りのを五月蠅く飛び回る虫を手で払いながら、その粗大ゴミの山の上を身軽に飛び移り進んでゆく。小高い丘の上に町を見つけ、人はため息を漏らした。
「……やっと見つけたわ!!」
その小さな喫茶店の客は一人だけだった。水のアーチを作り出す噴水を中央に抱える広場の回りは店に囲まれている。花屋、本屋、パン屋…様々な店が軒を連ねる中にその喫茶店はあった。
こぢんまりとしたその喫茶店は趣があるというよりはむしろ古びていて、町の人々はあまり寄りつかないようだった。その喫茶店の丁度向かいに近頃新しい喫茶店が出来たから…というのもあるのかもしれない。
古い喫茶店の窓側、一番噴水に近い位置にその客は座っていた。もうかなりガタがきていると思われる椅子に座っている。その目の前の何度か折れたのであろう足でかろうじて立っている机の上には林檎の香りを運ぶ紅茶が二つと、こんがり焼けたホットサンドウィッチが乗っている。喫茶店のマスターだと思われる老人はカウンターで新聞を読んでいた。
客はティーカップに静かに口をつける。
「うん……おいしい……」
外見の割に…と、その所々欠けたティーカップを手に客は呟いた。机が傾かないよう慎重にカップを置きながら客は目の端でマスターを捕らえる。マスターはこちらの様子を気にしないかのように、コーヒー片手に新聞を読みふけっていた。むしろ客には無関心だと言うかのように見向きもしないで。
「マーくん、大丈夫そうだ……食べていいよ。」
客がマスターを見たままポツリと呟く。すると、その客の前の椅子がガタリと音を立てた。
「心配しなくても、此処にいるのは僕とこの店のマスターくらいだし。」
「心配せんでも食べるさ……」
声と供に、椅子から手が伸び机のホットサンドウィッチをつかみ取る。
「流石……」
客はギーっと音を立てる机から慌てて手をどかしながら呟いた。頬杖は諦め、残ったサンドウィッチに手を伸ばす。しかし、そのサンドウィッチも再び伸びてきた向かいの手にかすめ取られ、ため息を一つもらした。
ふと窓の外に視線を逸らし
「あ……」
小さく声を上げたかと思うと素早く立ち上がった。壁際に置かれた鞄を手に取り
「マーくん行くよ」
その向かいの[物]を無造作に掴み、喫茶店を足早に出た。マスターはその後ろ姿を横目で一瞥し、また新聞に視線を戻した。サンドウィッチが音を立てずに床に落ちた。
「アリスッ!!!!!」
喫茶店から出てきたその小さな影を見つけた少女の声が広場に響いた。噴水のアーチが虹を作る。アリスと呼ばれたその影はゆっくり少女に歩み寄った。
「ビット…たどり着いたみたいだね…よかった……」
「よかったじゃないわ!!!よくもそんなぬけぬけと…相棒置いて先に行っちゃって…その上地図も持ってくなんて信じらんない!!あなたが地図持ってっちゃったから私がどんなに苦労してこの町探したか解ってるの!!?」
「でも、たどり着いたならよかった……」
アリスは悪びれる様子もなく飄々と言い放った。動じないルビー色の瞳でビットと呼ばれた少女を見つめる。
「じゃあ行こうか…探さないと……いらない物」
「ちょっと……謝るくらいしたら?」
「え……ゴメンナサイ?」
「誠意がこもってないわよ!!!…って、ちょっと待ちなさい!!!」
先に歩くアリスをビットは小走りで追いかけ、やがて並んでゆっくり歩く。
アリスはビットの腰ほどの背しかない子供だった。12歳ほどのまだ小さな体には真っ黒な洋服を纏い、頭には漆黒の帽子。その身丈には不釣り合いなほどに大きな鞄も真っ黒だった。黒以外の物といえば、帽子に付いている赤い花。そして、服装とは正反対に肌は白く、髪の毛はウェーブのかかった長い銀髪だった。瞳の色は赤く、宝石のよう。手に無造作に掴まれた派手な操り人形はどこかミスマッチだった。
対するビットは156歳ほどの少女だった。あちこちに跳ねてはいるが日光に輝く金髪は美しく、まだ幼さを残した蒼い瞳は利発そうに見える。赤いワンピースと白い帽子がよく似合っていて、腰には白いポシェットを付けていた。
「良い町じゃない!!!噴水を真ん中に町のあちこちに水が流れてるなんて素敵!!!」
ビットは自分の横に細く流れる水を見てうれしそうに微笑む。
「あの噴水は地下水を汲み上げてるらしいよ……」
「いつでも綺麗な水が流れ続けるってわけね。本当に良い町!!!」
「でも……おかしいんだよね………」
「何が??」
「うん……それが……」
「もしもし、あなた方が旅のお客様ですか?」
後方からアリスの声を遮った声に二人は同時に振り向いた。そこには妙齢の女性が立っている。
「何日ほどこの町に滞在を?」
「さぁ…捜し物が見つかるまで……」
アリスが女性の質問に淡々と答える。
「そうですか…では、これから一週間滞在してみてはどうですか?行事を一通り見ることができますよ。」
女性はにっこり微笑み、それだけ言って去っていった。
「…あれ、この町の町長だね……さっきポスターがあった。」
「へぇ〜…女性が町長をね……で、アリス、どうするの?」
「一週間滞在しよう。どうせ他の町に用事があるわけでもないし。」
「決まりね。この町に一週間か…なんか嬉しいわ!!!久しぶりだもの、こんな綺麗な町!!」
ビットが空を仰ぎ、また嬉しそうに微笑んだ。
その日二人は噴水の広場に面したところに宿を見つけ、休んだ。どこに泊まるか迷うほどどの宿も美しく、良心的な値段だった。美しく親切な良い町のように思えた。
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■作者からのメッセージ
もうあと3話ほど続くと思います。
まだ題名とさっぱり結びついていないのはそのためかと。
この小説での[葬儀屋]はただ人の葬儀をするだけではないのです。