- 『山奥の店』 作者:白たんぽぽ / 未分類 未分類
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カラン カラン
心地よい鈴の音とともに一人の男が小さな店に入ってきた。
男は二十歳前半といった感じだ。
「や、おっちゃん。アキ達もう来てるかい」
「いいや、まだ来てないよ」
景気のいい会話をかわしながら男はカウンターの前の席に腰を据えた。
真ん中より2,3程右の席だ。
「これでもう四回目になるんだなあ、もう四年目か・・・」
男は少し思い出にふっけて窓の外に目を向けた。
ここは山の奥らしく、外に見える光は少ない。
断続的に通っていく車の光が妙にまぶしい。
「コーヒーでも、飲むかい」
「ん、お願い」
トポ トポ トポ
コーヒーが注がれていく音が静まりかえっているこの店に温かさを注ぎ込んでいく。
外とは別の空間のように静かな店。壁に掛かっている黒猫の時計の音が、
カチカチカチ、ととぎれることなく響いている。
きっとこんな様子がこの不思議な空間を作り上げている一つの要因だと思われる。
カラン カラン
本日二回目の鈴の音が鳴った。今回は二人の男女のようだ。
「よ、トシユキ。早いなぁ」
「こんにちは、トシユキ。あちゃ〜、もう10時5分かぁ。そこでアキと
会ったからぴったしだと思ってたんだけど」
「たった5分オーバーだからドンマイ、てところじゃない、ユキ」
「なんかいつも遅れてるな〜」
ユキはここでへへ、と小さく笑った。
「さあ、やっとみんなそろったし、そろそろ第四回目の同窓会を始めるとしよ〜」
「おぉ〜!!」
二人だけの小さなかけ声、おっちゃんは優しい笑みを浮かべてそれを見つめていた。
この同窓会が始まると、さっきついだコーヒーのように、客のいないこの店に
暖かな空気を作り上げていった。
同窓会は明け方まで続き、日が昇ると同時に光が消えた。
そして、そこからは誰も出てくるものはいなかった。
日が完全に昇りきるとそこにはもう店はない、
ただ店があった場所には小さなお墓が一つ、ぽつーんと立っていた。
それは昔そこにあった店の主人の墓らしい。
大地震の直撃をもろにくらい店とともに亡くなった、とのことだった。
それはちょうど8月5日だった。
そして同窓会があった日も8月5日だった。
蛇足を言うと同窓会のメンバーも8月5日に亡くなった人達だ。
夏の一時の秘密、それについて知るものは誰もいない。
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2003/08/17(Sun)15:45:36 公開 / 白たんぽぽ
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■作者からのメッセージ
はじめまして、白たんぽぽと申します。
この『山奥の店』の話を最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます!!
まだ小説を書き初めて間もないので、拙い部分がたっくさんあったと思います。
そこは見逃してやってください(ぺこ
できれば感想を書いてもらえると、とってもうれしいです。