- 『儀式』 作者:クク / 未分類 未分類
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宗教を否定する気は毛頭ない。
口出しする気も。
しかし俺は……
澄んだというよりは、歪んだ青空だった。
仕事依頼を受けてこの国に来た。
雨のほとんど降らない地帯らしく、暑さで空気が歪んでいるように見えた。
北国生まれの俺にとってこの気候は好きではない。
イヤだイヤだ…此処ではイヤなことが起こりそう…
本能が言った。
もちろん俺の仕事で気分がいいことはないのだけれど…
短剣を左手で強く握りしめた。
仕事の前に小さな農村に立ち寄った。
その一角に人混み、その中に泣きはらした女と棺。
葬儀らしかった。
聞くと、その女の夫が事故で死んだらしい。
「これから儀式が始まる…」
村人は言った、見学していくといい…と。
この村の村長の家らしい比較的立派な建物から祭司らしい人物が出てきた。
手には松明を掲げ。
祭司が通る道を人々は開けた。
俺の前を司祭が通る。
この村のものではない、教会の蝋燭の独特な臭いがした。
祭司が棺の隣に立った途端、周りを囲む人々の輪が大きくなった。
祭司は棺と泣く女の横で短い言葉と呟く。
おそらく祈りや経…その類。
最後に一声その祭司が大声を上げると、人々は沸き上がった。
俺にその言葉は聞き取れなかったが、民族に伝わる独特な言葉なのだろう。
そして、火が点いた。
祭司が棺へと投げた松明から赤々と火が上がった。
棺の横にいる女をも火は飲み込んで。
女の民族衣装が炎の中で踊るのが見えた。
女の悲鳴が耳をついた。
後に残ったのは棺の焼け跡と遺骨。
男のものと女の物、遺骨が二つ。
人々が去ってから残ったのは祭司のみだった。
俺は問うた、これは処刑なのかと。
しかし祭司は淡々と語った。
「これは儀式です…今日のは葬儀ですよ。
彼女は遺族、あの棺の中の男の妻です。
男は死に、女は未亡人になりました。
この国では、未亡人の女はその夫と焼き殺されるのが掟です。」
「なぜかって?愚問ですね、神の教えですよ。
私達は神に近付くために日々努力しています。
神になるための方法を示した法典に従って私達は儀式をした…
それだけです。」
そうか……
俺は短く答えて、祭司の胸に小振りのナイフを突き刺した。
苦しむことのないよう急所を外さず。
祭司は死んだ。
俺は依頼に従って殺人屋の仕事を果たした。
この仕事の依頼人は、自分の娘を殺されたと言った。
国と宗教に。
復讐として祭司を一人殺してきて欲しいと。
その意味を俺はこの村で理解していた。
日が落ちかけた青空は紅く、そして紫色に姿を変えた。
宗教を否定する気は毛頭ない。
口出しする気も。
…そう心に言い聞かせて……
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■作者からのメッセージ
はじめまして、ククという者です。
宗教にはいろいろあります。この話の[儀式]も本当であり、私の想像です。