- 『過去、現在、未来』 作者:ROKU / 未分類 未分類
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原稿用紙約3.2枚
母なる青い星地球をのぞみ、静かに浮かぶ赤い星『火星』。極冠の氷を溶かし人類の移民計画が始まってから150年。その地球とは程遠い環境の下に建設されたドーム連結型の都市も、今や急速に発展を遂げる技術革新に過去の遺物となっていた。人々は更なる自由な環境を求めて街を移動し、赤い大地を緑に覆っていった。
かつて開発エリアにあった674個ものドームは、今や新都市に隣接するエリアの80足らずが稼動するだけで、それ以外のものは捨て去られ、あるものはスラム化し、あるものは人の住まぬ廃墟と化し、忘れ去られた。そして、それは地球政府の名の下に行われた開発・移民計画ではあったが遠く離れたこの地では、その管理はずさんなものだった。
そんな朽ち果てた旧都市のドームに一人孤独に取り残された女がいた。彼女の名前は‘レイチェル’。彼女は移民計画の初期の頃に連れて来られたレプリカント(人造人間)だった。
火星開発期。人間には不向きな労働や過酷な環境下での仕事を目して造られた彼女は、当初、その知能は言うまでも無く、その人間をも超える寿命と対する従順さで傑作とまで謳われた。
しかし、火星の居住環境が整備されて人々の行動に自由と豊かさが獲得されると彼らはより人間に近く、むしろ寿命の面では人よりも短い利便性に優れたレプリカントを求めるようになった。自分よりも寿命が長く、いつ死ぬか分からぬような旧式は忌み嫌われた。そして、その裏には伸び悩む火星への入植者数も一因となっていた。
人々は、人間らしさに飢えていた・・・。
火星の夜空に浮かぶ地球と月。火星では数年の間の僅かな期間、公転周期の関係でこうした幻想的な夜空が出来上がる。その窓の外に浮かぶ美しい空間を眺めながら、ひとりレイチェルは朽ち果てる時を待っていた。
すでに彼女の主である者の行方は知れない。彼女自身、自分が破棄されたことには気づいていた。しかし、その従順というプログラムから逃れる事はできず、もはや主はおろか、人々さえもいなくなった町から離れることが出来ずにいた。
レイチェルは記憶と記録をたどっていた。何故たどっていたのかは自分にも分からなかった。人々に仕えている間に人に近い感情と行動が芽生えることは分かっていた。それが理由かどうか、彼女の脳裏には地球で生まれて火星に着いたばかりの事が浮かんでいた。
あの頃、希望を抱いて語る主の、その火星の未来像に彼女も不思議な躍動感を覚えたのを思い出していた。あれから長い年月彼女は主に仕え続けた。そして、今ようやく、彼女の終わりは近づいている。それはまさに灯火が消えるがごとく訪れる。その最後まで100年を超えて美しい姿や性能は変わることなく、ただ静かに途絶えてゆく。それがいつなのかも分からぬまま・・・。
繰り返し今夜も彼女は小さく呟く
「もう、想い出せるものも少ない・・・」
おしまい
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■作者からのメッセージ
これは何かで聞いた話ですが、人は今そこで生きてるハズなのに
*あるものは夢を想い、未来に生きてみたり*あるものは失敗に囚われ、過去に生きてみたり
さて、あなたは何時を生きていますか?
by ROKU