『殺人犯と警察官<前半〜後半>』作者:シア / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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殺人犯と警察官<前半>
「………くっ」
ずっと恨んでいた。この一年間ずっと殺人計画をたてていた。
警察官にも見つかるハズもない計画。完全な殺人計画を。
そしてその計画の重要部分を今果たした……。
「くそっ……、何だよ、何だよ……」
ナイフで刺した返り血が手にこびりついている。
真っ赤な血が……。
ここは奴のマンションの部屋。床にも大量な血が飛び散っている。
何処を見ても、赤、赤、赤。
きっと、心の中も真っ赤に染まっているだろう……。
(何だ……一年間考えて来たこの計画を今果たした。
 いいんだ、俺は俺にとって最良な事をしたんだろう……?
 なのに、なのに、この罪悪感みたいなモノは何なんだ……?)
奴の死体を見つめ、今ここに立っている。
窓の外に太陽がのぼっている……。

(……こう考えてる暇はない。早く次の計画にうつらなければ。)
心にもやもやする罪悪感みたいなモノを抱えながら、奴に刺した凶器となるナイフを抜く。凶器を隠すためだ。指紋……か何かで調べられるとヤバイ。そして、用意してきたカバンの中の服に着替える。この部屋から出て返り血を浴びた服を来ては必ず怪しまれるからだ。警察に見つかると……。 
返り血を浴びた服、ナイフをカバンにしまう。
玄関。除き穴を確認する。そして、奴にここの部屋に呼ばれた時、密かに
設置した盗聴器を置いた。除き穴ではわからない遠くの人の声、人の動く音
を知るため、この部屋から出たという事を知らせないために。
慎重に、慎重にこの部屋を出た。今着ている服は黒いスーツだ。セールスマンだと思えば誰も怪しまないだろう。エレベーターに乗り、すぐさま下に降りた……。そして、怪しまれないように仕事の昼休みと思われるよう、マンションの近くの弁当屋で弁当とコーヒーを買った。俺は気が沈んでいたのだろう、心がもやもやする。下を向き俺は俺の行動を確認した。近くの公園のベンチに居座った。凶器が入ったカバンを丁寧に置く。
「………フゥー」
コーヒーをゴクッと一気に飲み干した。……イライラする。下の地面をじっと見つめる。何なんだ、一体。この気持ちは一体何なんだ?くそぅ……。
あいつが、あいつがいけねぇんだ、俺を会社の役立たず者にして、俺の給料も……。俺の妻も、俺の何もかもを持っていきやがった……!
「どうされました?」
上から声がする。上を見上げると警察官が一人。
(警察……!?何故この公園に……?パトロール……か?もしかすると、もうバレたのか!?)
「何かお仕事の方でも……?」
警察の方をじっと怪しみ見つめる。仕事……?
「あ、あぁあ!すみません、僕が関わる事じゃないですよね。」
焦って頭を下げる警察官。この俺の姿を見て、事業の失敗とでも察したんだろう。この俺の顔の表情を見て……。
「あ、横いいですか……?」
応答も聞かず、ベンチの隣を座る警察官。おどおどしている。見た所、
弁当、コーヒーを持っている。あぁ、そうか。この警察官昼休み……か。
俺とは違う、清清しい昼休み。 この警察官は俺と仕事か何かの話しをしたいらしい。警察の仕事についてどんどん話し掛けてくる。
「あぁ、そうなんですか。」
そんな声ぐらいしかかける事ができない。
俺にとってどうでもいいからだ。俺はそんな警察官な事など心に何の影響も
及ばなかった。殺し……の事しか心に浮かばなかったからだ。でもそんな殺しの事をこの警察官に悟られるとヤバイ。ただ単に「あぁ」「はい」と
うなずくぐらいはしておいた。そんな会話と言えないような会話が15分ぐらいたったころ……警察官は爆弾発言を発した。
「実は……僕人を殺した事があるんですよ……」
「あぁ……って人を殺した?」
俺はそんな警察官の言葉に耳をかたむけ聞くのだった……。

殺人犯と警察官<後半>
「えぇ。そうです。人を殺した事があるんです……」
警察官は暗い表情をうかべ、話しを続ける。
「僕の姉を自殺においやったヤツを殺しました……。」
拳を握りしめる警察官。目がキリッとなっていて怒りをあらわにしている。
「は……はぁ……。 何故お姉さんは自殺へと……?」
「……姉はヤツを本気で愛してました。結婚の事も、赤ちゃんの事まで考え
 ていたそうです。でも……ヤツは他の複数の女とも交際していて
 ……。姉は相当ショックらしくって……」
この警察官は俺と似ていて、この警察官は姉をとられたんだろうな……。
(にしても、警察官とあろうものが会ったばかりの他人に話す事なのか…  
 …?警察官じゃなくても普通に殺した事を言うヤツいないだろ……?)
「何故私なんかに……?」
「えっ、いや、その……。これは今日の事で……。親には言えないし、
 親戚にも言う事もできないし……ヤツを殺した時に心がもやもやしてまし
 て……。そ、そこに貴方がいたんです」
心のもやもや……か。罪悪感というものだろうか……。俺も似ているものを感じている。これをぶつけるには他人の方が楽なのかもしれない。
でも、他人に言ってこの後どうなる……?警察に連絡するかもしれないのに。
「……赤の他人ですよ?俺はこれから貴方の事を警察に言うかもしれません
 よ?いいんですか、こんな事言って……?」
「どうせいずれ見つかりますよ。今日の夜あたりには……。
 それに、貴方が警察に言ったとしても証拠がなくでたらめになる。
 そんなでたらめに付き合う警察官なんているでしょうかね……。
 ……僕は警察官なんです、一応そこら辺はわかってますよ。」
苦笑する警察官。人を殺しておきながら余裕だな。
「へぇ……」
「にしても、すっきりしました!貴方のおかげですよ」
ベンチを立ち、人を殺した覚えのない顔をし、両目をつぶりあくびをする。
こんな気持ちになるぐらいなら俺もいっそ話してしまおうか。
一応、でたらめと扱われるとはいえ、俺はこの警察官の弱味を握っている。
「あぁ、グチグチとすみません、私の事ばっかり話しちゃって……」
警察官を見上げる。言うか、言わないか……。
言ったら少しは心が晴れるだろう……。このもやもやは一生続く。
人の命を奪ったのだから。このもやもやをはらす時はもうないのかもしれない。この警察官とも会うか会わないかわからない。
「あ、あの……」
「はい?」
片目を開け、こちらを向く。
「お、俺も、今日人をこ、殺した……」
これで、俺の心のもやもやが消えるのなら……かまわない。
「………」
な、何ですと!?と言いそうな警察官。だが警察官も同じ事をしたのだから
な、何ですと!?とは言えない。俺の心のもやもやが薄れていく。
真実を口にした後は気分がいい。だからといって安心はできないのだが……。警察官の顔をゆっくりと見る。

警察官は同じ事をした人間が嬉しいのか何故か笑顔をしている。
警察官の口が開く。

「やっと……正体を見せましたね。殺人犯」

口で言うのと同時に手錠をかける警察官。
「なっ……なっ!」
「そりゃあ人を殺した時はそりゃあ罪悪感するだろうな……。
 それを人にぶつけないわけにはいかない……。」
警察官は今までの会話を録音していたのか盗聴器を目に見せストップボタンみたいなものを押す。作動が止まった。
「お、俺が人を殺したという証拠は何処にある!凶器は!死体は!」
俺は焦る。いきなり手錠をかけられて殺人犯と確信されたのだから。
自分も同じ事をしたクセに……。
「証拠……?そんなもの最初からありますよ。」
手でカバンの中を開けようとする。
「これはナぁーんだ?死体はお前を逮捕していずれわかる事だろう。」
返り血でまみれた服。凶器として使ったナイフ。
証拠はこれで全部。駄目だ、完全に見つかってしまった。
「……くっ。」
周りをいそいで見渡す。誰もいない。常連客とも言える子供達もいない。それもそのハズだ。今は昼。学校等に行ってるハズだ。その事を確認し、
大声をはりあげる。
「お、お前はどうなんだ!お前も人を殺した事があるんだろう!?
 俺はお前の弱味を握ってる!!」
「………嘘に決まっているだろう?殺しなんてな……。
 第一、赤の他人にそういう事いうなんてありえないだろう??」
大笑いをする警察官。俺の言った言葉そのものをはきだす警察官。
「第一、凶器は?死体は?証拠は何処にあるんだァ?」
「……。」
俺はもうモノを言う事でさえできない立場となったようだ。
「俺はこれでも心をあやつる警察官でね。よくFBIなんてニュースででる
 だろう?凶悪犯罪人に自首するよう心を変えさせるような心理カウンセ
 ラーさ!」
「じゃあ殺したというお前の言った事は全て嘘か……!」
弱味を完全に失った。警察官の持っている盗聴器も上司に聴かせるだろうが
この警察官は嘘だと言える。証拠がない。ましてや心理カウンセラーがどうのこうのといえばもう終わる。
「勿論、嘘に決まっているだろう?もうすぐパトカーを呼ぶ。
 もう言い残す事はないか?」
フフン、と笑い、犯人を確保した自信顔が見える。
「……何故ベンチに座った時から俺が人を殺した事がわかった?」
「一つは顔だ。顔を見ればすぐにわかるだろう?」
顔……?そんなものみたって事業の失敗とでもなるだろう?
「そんな顔だとかでわかってたまるかよ!」
「弁当屋の人が警察に電話をかけてくれてな。
 様子がおかしい人がいたんですが大丈夫なんでしょうか、とな。
 顔の表情でわかるんだろうよ。
 人を殺した後なんか人ってモンはモロいもんだ。
 人を殺した事を隠しきった顔のつもりでいただろうが、それは無理だろう
 な」
「顔……」
俺は鏡で顔を確認したわけでもない。そりゃあ自分の顔がどういう顔をしているかどうかなんてわからない。心のもやもやが表に出たのか……?
「二つ目は血痕。カバンをよく見てみろ?」
カバンを持ち上げると、血がポタポタとたれていた。
「顔だけじゃこちとらわからないからな。
 マンションからはわからないが、弁当屋をすぐ行くと、血痕が
 ポツポツとついていてな……。これで確信した」
カバンにしみこんだと思われる血を見る。
この血痕が俺がいた公園とも悟ったのだろう。そして、
俺は気持ちが沈んでいた事だ、血がついていた事はわからなかった。
「でたらめじゃないようだな。凶器もあるという事だし、それに
 お前の殺したという発言からもうお前は殺人犯だ。」
盗聴器を嫌らしく見せる。
「じゃぁ、パトカーを呼ぶぞ。」
電話をかける警察官……。

今俺は牢獄の中にいる。
そして、こんな事を考えた。警察官のあの言葉を思い浮かべ。

人は心を読む事ができないかわりに、
人の心をあらわす顔の表情を読む事ができる。
これはどんな時でも同じだ。


そして殺しという生命を奪ってしまった時、
必ず人は後悔する。罪悪感とともに。顔はその心と共に心の中をあらわしている。

人を殺しちゃいけない。どんな時でも、どんな事があっても……。
必ず後悔する……俺のように。


2004-03-13 19:15:34公開 / 作者:シア
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■作者からのメッセージ
こんにちは、シアと申します。
もしよろしければ
御感想やアドバイスよろしくお願いします*^^*
*前半に少し文章を入れてます
この作品に対する感想 - 昇順
読み手としてスムーズに読めるので好感が持てました。何より此れが前半なら後半はどうなるのだろう?という期待を持たせる部位で終わらせるのが良いですね。題名のダイレクトさも功を奏してると思います。続き頑張って下さい!
2004-03-12 14:07:02【★★★★☆】境 裕次郎
自分としては好きなタイプの小説です。倒叙ミステリになるのかな?後半に期待しております!
2004-03-12 16:10:26【★★★★☆】小都翔人
ちょっと警察官やっている事がすごいですね!
2004-03-14 01:02:03【★★★★☆】ニラ
展開としては面白かったです。種明かしもキッチリとこなしていて、作品として楽しめました。ですが、後半が説明臭くなりがちで少し読みづらかったです……。次回作、期待してます。頑張って下さい!
2004-03-14 09:51:06【★★★★☆】境 裕次郎
いや、警官がこんな爆弾発言しちゃっていいのかと正直前半を読んで驚きましたが、後半を読むと、警察官にまんまと騙された犯人がちょっと悲しいですね。。かなりハラハラしてしまいました〜
2004-03-15 20:41:00【★★★★☆】葉瀬 潤
計:20点
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