『作りかけの玩具?、?、?』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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作りかけの玩具 ?



「説明しよう、『デザイナーズ・チャイルド』のことを。」
デザイナーズ・チャイルド。いやな感じだった。もっとも、その言葉を日本語に訳せばその理由はすぐにわかるが、何よりその響きが気に入らない。
「まあ、ずっと立ってると疲れてしまうだろう?さあ、そこに座って。」
水野博士は親切そうにそう言ったが、その言葉にぬくもりは感じられなかった。俺は用意された丸いすに座ろうとしなかったが、博士はちらりと見ただけで何も言わなかった。
「さてと・・じゃあ話そう。まず、この研究所だ。こんな豪邸の地下にあって、しかも普通とは少し違う感じがするだろ?」
俺は博士の言葉に、改めて研究所を見渡した。複雑そうな機械が冷たい光を放っていた。
「まあ、もっとも普通じゃないんだがね・・。われわれは28年前に結成された組織でね。あるものをつくり出す研究を続けていた。もっとも、かなり難しい実験だ、法律でも禁じられている。だが、我々はやめなかった。動物実験は成功し、ついに人間の段階にまで達した。」
「・・いったい、何だって言うんだ?」
俺の声は、ほぼ喘いでいるのに近かった。その先の言葉は予想できた、でも聴きたくない。そして、一番恐れている言葉が、頭の中でぐるぐる回っている。
「わからないかい?・・我々が作ろうとしたのは、人間から取った遺伝子を機会で操作して機会から生み出される人間。つまり・・人造人間さ。」
背中に悪寒が走った。黒光りしている機会が、周りの白衣を着た人間たちの目が、そして、目の前にいる博士の視線が怖かった。「怖い」なんて感情を持つのは久しぶりだった。
「そして我々は成功した・・研究を始めて10年して、ようやく成功した。」
博士の顔は満足そうに輝いていた。そして彼は、ささやくようにこういった。


「We  made  a  human.」 


顔から血の気が引くのがわかった。そして、とっさに逃げ出すことを考えた。こいつらは異常だ。狂ってる。人間を機会で作り出すなんて、普通じゃない。頭ではそう思っていても、体が固まって動かない。
「我々は遺伝子操作して生まれた赤子のことを『デザイナーズ・チャイルド』と呼んだ。男の赤子でね、普通の人間で言う未熟児の体系だった。そのことでもわかるが、彼はまだ未完成な姿で生まれてきた。もちろん、見た目には問題はないし、普通の生活もできるだろう。しかし、一つ問題があったんだ。それは、そのこには成長の限界があったということだ。その子は、最高でも18歳の体にまでしか育つことができない。」
博士は顔に深く刻まれたしわをゆがませて、不快そうに言った。きっと、とてつもなくプライドが高い人なのだろう。
「だが、そのことへの対処法を我々は見つけられなかった。そこで我々は、彼が18年間成長するまで待つことにした。その子を『玩具』として、この館に預け、我々はこの地下に研究所を構え、彼の成長を静かに見守った。」
博士は俺の目をまっすぐ見て、静かに言った。
「それが君なんだよ、純君。」
頭の中が真っ白になった。きっと言うと思った、でもいってほしくなかったその言葉。俺は人造人間、機械化から生まれた人間、いや、人間デスラナイ存在・・・。
俺は膝から下の力が抜けて、研究所の床にひざをついた。そんな俺の近くに博士は近づいてきた。
「・・ショックなことはわかる。だが、これは真実だ。それに・・。」
何人かの研究員が俺を支えて立ち上がらせ、丸いすに座らせた。俺はまだ頭の中でいろいろなことがぐるぐる回っていて、体は震えていた。
「・・言い訳をするようだが、君は『デザイナーズ・チャイルド』であることを」
「その言葉を口に出すな!!」
俺は金切り声を上げた。あの言葉を聞くだけで、気が狂ってしまいそうだった。博士が俺の肩に手を置こうとしたが、俺は悲鳴を上げてのけぞった。博士は小さくため息をついた。
「君は、デ・・『あれ』であることを誇りに思っていいんだよ。」
俺はまた叫ぶところだった。神経がはちきれそうで、自分の体とは思えなかった。
「いいかい、人間とは、汚い生き物だ。いや、人間だけじゃない、地球から生まれてきた生き物は、そして、地球さえも、すべてが汚らわしい。だが君はこの地球上でたった一人、汚れなき純粋な生き物だ。君の『純』という名は、そういう意味をこめて、我々がつけた名前だよ。」
デザイナーズ・チャイルド、未完成、汚い生き物、汚れなき生き物、
「純」という名、その名をつけ、俺を作った人間たち・・。
「うわああああぁあ!!!!!!!!」
俺は絶叫した。せずにいられなかった。頭を抱えて、叫び続けた。
「純君!!」
中村が俺の肩を抱きかかえようとしたが、俺は暴れてそのことを許さなかった。いくつもの手が俺を抑えようと伸びてくる。その光景がなぜかあまりにも怖くて、俺は必死で逃げようともがいた。俺は作られた人間、人間ですらない存在・・いやだ・・いやだ・・いやだ・・・。
















次の瞬間俺が見たのは、真っ暗な場所だった。目を開けようとすると、なぜか小指が動いた。手を動かそうとすると、わずかにびくんと震えただけだった。
「純君・・落ち着いたかい・・?私だ、水野だ・・。」
上から博士の声が降ってきた。なぜか頭の中で響いて聞こえる。
「君があまりにも取り乱していたので、悪いけど、麻酔を打たせてもらった。そして・・君を完成させておいた。また成長がはじまるよ。」
俺は何とか目を開けようとしたが、どうやっても小指しか動かない。
「君の体の中を少しいじったからね、しばらくは慣れないだろう・・今はゆっくり休みなさい・・。」
腕のあたりから、妙な感覚が襲ってきた。また麻酔だろう。意識が途切れる寸前に、頬を暖かいものが流れるのがわかった。なぜか一瞬だけ、涼の姿が映った。








作りかけの玩具 ?



目が覚めたとき、俺はこぎれいな部屋のベットに寝かされていた。どうやら、もう朝のようだった。
起き上がろうとすると、頭痛とめまいがした。少しふらつく足で立ち上がろうとしていると、ドアが開き、中村が顔をのぞかせた。中村は微笑んでいた。
「あらおはよう純君、目が覚めたのね。」
「・・・ここは・・?」
「お屋敷の中の一室よ。ちょっと待ってて、食事を運ばせるわ。」
「食事?・・おいちょっと待てよ。」
俺の言葉に、中村は怪訝そうに振り返り、なあに、といった。
「食事だと?そんなモンまともに食ったことねえよ。大体、そんなことしたら主人がなんていうと思ってるんだ?」
「主人の許可は取ってあるわ。」
中村はそれだけ言うと、部屋から出て行った。






「あ、純兄!!おかえり〜!!」
いつもの「玩具」たちがいる部屋のドアをあけると、隆太をはじめとする幼い者たちが駆け寄って来た。俺は不覚にも涙ぐみそうになった。
「兄ちゃん、どこ行ってたんだよ?」
「ああ、ちょっと体調悪くてな。それより・・喜べよ。明日から、俺たちにちゃんとした食事がもらえるようになったぞ!!」
俺の言葉に、みんな飛び上がって喜んだ。
水野は、これからも時々研究所に来て様子を見せてほしいと頼んできた。俺が断ると、ここにいる玩具たちの命はここの主人がにぎってるよね、と卑屈そうに言った。俺はしぶしぶ認めたが、そのかわり、あいつらにもちゃんとした食事と治療を頼んだのだった。
みんなが跳ね回って喜んでいる中に、涼の姿は見当たらなかった。きっと地下牢だ。






夜運ばれてきた豪華な料理に、みんな驚いた。ここの家のものが食べているのと同じような、横文字の料理ばかりだった。みんな初めてに近い満腹を感じて、幸せそうに眠ってしまった。
俺は配管を伝ってそっと地下牢へ向かった。案の定、涼はそこにいた。涼は俺の姿を見ると、ほんの少し、微笑みに近い表情をした。
「・・おかえり。」
「ああ。」
俺は配管から這い出て、涼の隣に座った。懐かしい涼のすがたを見て気が緩み、足の力が抜けてすとんとへたり込んでしまった。涼の怪訝そうな表情にあいまいに笑い返して、涼の隣まではっていった。
「・・あの人、何のようだったの?」
「あん?・・ああ、ちょっとな。」
俺は涼の目を見ないで話した。涼の灰色の瞳に自分を映したくなかった。『デザイナーズ・チャイルド』という、醜い自分を見たくなかった。
「特別な用じゃなかったんだけだな。」
「・・嘘。」
涼はきっぱりとそういった。俺は否定しなかった。胸の中に赤いぶよぶよしたものが詰まっていて、それがぐっと熱くなり、俺の口から言葉が滑り出た。
「俺、人間じゃないんだ。」
涼はぱっと顔を上げ、俺を見た。涼の表情はありありと想像できる。目を見開いて、口を少し開いた、驚いた顔。見たくなかった。
どうして俺だけがこんな風に生まれてきたのだろう。俺は自分が『玩具』として生まれてきたこともかなり恨めしかったが、今はそれどころの気持ちじゃなかった。今でも頭がはちきれそうで、胸が始終痛んで、息が詰まった。こんなにも辛いなら、いっそ生まれてこなければよかったのに。
「・・いいんじゃない、それでも。」
静かな声が聞こえた。俺は膝に顔をうずめたまま、そのやわらかい言葉を聞いた。目頭がじんわりと熱くなり、涙がこぼれてきたので、俺はあわててその涙をこぶしでぬぐって、がんばって笑顔を作った。
「は、はは、だよな・・。」
「・・泣いてもいいんじゃない?」
「え・・・。」
涼は俺の目を見て、静かに繰り返した。

「泣いても、いいんじゃない?」

静かに、時間だけが流れた。ただ、お互いに目をみて、黙っていた。
やがて、涼はそっと手を伸ばし、俺を抱き寄せた。俺の頭を優しく抱き、なでてくれた。まるで「母親」のように。機械から生まれた俺にとって、こういう感覚は、そういえば初めてだった。俺は涼に体を預けながら、泣いた。涼はただやさしく俺を包んでくれた。
彼女がいれば、たとえ人間じゃなくても、生きていけるかもしれない。そう思った。
10分ほどそうしていたが、ようやく涙が止まってくれたようなので、そっと涼から離れた。俺はどんな顔をして涼を見ればいいのか一瞬と惑ったが、涼はただやわらかく微笑んでいた。
「・・わりぃ。」
「いいよ、別に。あたしが自分でやったことだし。」
涼はぐっと伸びをして、遠くのほうを見た。
「・・純がいったこと、あんまり深く聞かないことにする。」
「・・そうしてほしい。後・・みんなには内緒な。」
「うん。」
涼は髪を自分の指に巻きつけていたが、それをふっとやめて、呟いた。
「・・・っちゃったな。」
「え?」
「・・あたしも、自分の懺悔を聞いてほしくなっちゃったな・・って。」
涼は少し赤くなってい他。俺が言えよ、というと、涼は深く息を吸い、遠くを見据えて話しはじめた。





作りかけの玩具 ?



「あたしさ・・親に売られたって言ったでしょ?」
「ああ・・。」
俺は涼がはじめて話す「家庭事情」の話に耳を傾けた。
「・・たぶん、あたしの父はあたしを売るつもりなんかなかったんだと思う。・・最初は。」
涼の声は普段より低く、でもよく通る声だった。ほとんどささやくぐらいにしか声を出していないのに、なぜか俺には耳元で話されているようによく聞こえた。
「最初はって・・じゃあ、何で?」
俺の質問に、涼の目が泳いだのがわかった。戸惑ってる。口に出すのもつらいぐらい、嫌な事。涼は深く息を吸い込み、額に手を当てた。目を閉じて、ゆっくりと話し始める。
「・・あたし、母親を見殺しにした。」
ゆっくりとした言葉。俺は顔を上げて涼を見た。涼は何も言わずに、まだ目を閉じたままだった。
「・・あたしの両親は、優しい人だった。あたしのことをかわいがってくれてた。すごく幸せだったよ・・。でも・・。」
涼は一度言葉を切った。顔が苦しそうにゆがむ。
「・・父が出かけててあたしと母と二人で家にいたとき・・強盗が入って・・あいつが・・その男が、母さんをピ、ピストルで・・母さん・・倒れて・・部屋が・・真っ赤・・。」
涼の声は震えていた。だんだん文節がおかしくなり、2語をつなぐこともほとんどできていなかった。だが、大体は理解できた。涼は空いているほうの手で、自分のシャツをぐっとにぎっていた。
「でも・・母さんはまだ・・生きてた・・。意識があって・・見てた・・あたしのこと・・じっと・・黙って・・見てた・・。」
涼は目を見開き小刻みに震えだした。両手で頭を抱え、うめいている。俺は涼に触れようとしたが、涼はそれを拒んだ。目をかっと見開き、冷や汗を流しながらも、涼はまだ話し続けた。
「た、助けを呼べば・・助かったかもしれない・・あたしは・・ただ見てた・・母さんが・・死んでいくのを・・ただ・・ただ・・父さんが帰ってくるまで・・ずっと・・。父さんは・・あ、あたしを恐れた・・泣いたりせずに・・ただ・・母親が死ぬのを見、見てたあたしを・・。手放した・・売った・・自分から・・引き離す・・。」
「やめろ。」
俺は涼を無理やり抱き寄せた。直に触れると、涼が震えているのが伝わってくる。涼はまだうめいていたが、しばらくすると落ち着いてきたようだった。
「・・大丈夫か?」
俺の言葉に、涼は黙ってうなずき、俺から離れた。額の汗をぬぐい、髪をかきあげる。だが、あんなに追い詰められても、涼はまったく・・泣かなかった。
黙って涼を見ている俺を見て、涼は心を読んだように悲しそうに微笑んだ。
「あたしが泣かないこと、気にしてるの?」
俺は頷かなかった。だが、涼はわかっていたらしい。壁にもたれかかり、うつろな目で俺を見ながら言った。
「母さんが死んだあの日から・・泣けなくなっちゃった。どこかの神経が麻痺しちゃったのよ・・もう、タンクの中に一滴も涙が残ってない。あたしの『心』が届かないから、干乾びちゃったのよ・・。」
どくん、と脈が打つのが聞こえた。そして、涼は、悲しみを外へ追いやる術を知らないのだ、ということに気づき、鼓動が激しくなる。泣くということは、悲しみを和らげる、ということだと俺は思う。涙を出すことで、心を慰める。だが、涼にはそれができない。深い悲しみの中から抜け出せないまま、7年間生きてきたのだ。誰より深い悲しみを抱いた心を、潤すものを知らないまま。
「・・泣けないってことは、心が冷たい、ってことなんだよ、きっと・・。」
涼の声が、また少し震えていた。
「・・涼は・・涙を蓄えられなかったんだな・・。」
俺の言葉に、涼はきょとんとした顔で俺を見た。俺は少し微笑み、涼の肩を抱いた。涼は抵抗せずに、俺の肩に頭をもたせ掛けてくる。涼の静かな吐息が聞こえてくる。
「涙を蓄えるには・・たくさん笑わないといけないと思う。涼は、それができなかったんだ。一番傷が深いときに周りから捨てられて・・心が固まっちまったんだよ・・。」
「・・じゃあたし、きっともう一生泣けないよ・・。」
「そんなことないさ。・・俺たちがいる。俺たちはみんな・・涼のこと好きだよ。・・涼には、笑っててほしい。」
涼がぱっと顔を上げた。俺は涼の目をじっと見た。涼はしばらく驚いた顔のままだったが、やがてふっと一瞬笑った。その瞬間、涼の目からぱらりと涙がこぼれおちた。涼は肩を震わせ、静かに泣き始めた。俺はうつむいてしまった涼の顔を無理やりこちらに向かせた。涼はぬれた瞳で、俺をじっと見た。俺は涼の唇に自分の唇を重ねた。涼の体温を直に感じる。


どくん。


涼の鼓動が聞こえる。規則正しく、脈打っている涼の体。そして、作られた俺の体。


どくん。


生きたい。その想いが、俺たちを包み込む。この厳しい現実に負けずに、生き抜きたい。そんな想いの中で、俺たちは愛し合った。
2004-03-22 17:31:16公開 / 作者:渚
■この作品の著作権は渚さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
9話を編集しました。今回は二人、甘々ですね;いつもながら、また次回急展開すると思います。
この作品に対する感想 - 昇順
気になるところで終わっていたので、続きがまた読めて嬉しいです!涼が純のすべてを受け止めてあげたとき、彼女の優しさが伝わりました!やはり自分が一般の人とはちがうモノだと知ると、私でも絶望しますね。。続きを楽しみにしています!
2004-03-12 13:42:29【★★★★☆】葉瀬 潤
葉瀬さん、コメントありがとうございます!9話アップしました。
2004-03-22 17:16:56【☆☆☆☆☆】渚
1話から全部読ませていただきました。新しいひとつの世界に入り込んだ感じでよかったです。面白いと思います。生きていくのに喜びを感じられない環境でも必死に生きようとしている『玩具』たちの生き方がすごく生々しく感じられました。これからどうなるのか楽しみです。続きも楽しみにしています。
2004-03-23 11:20:18【★★★★☆】白雪苺
涼の重い過去。それを受け止めるのはかなり難しいことです。。口付けを交わす二人の姿が思い浮かぶと、なんか切ないですね。
2004-03-24 11:13:09【★★★★☆】葉瀬 潤
今からハラハラしますね。純たちが無事屋敷から逃げ出せるのか、どんなラストが待っているのか。続きを心待ちにしております。。
2004-04-03 10:42:27【★★★★☆】葉瀬 潤
更新待っていました!新しい展開ですね。逃げ切れるのでしょうか?涼も変化も今後関係してくるんのかなぁ・・・・続きも楽しみにしてますね!
2004-04-04 07:22:52【★★★★☆】白雪苺
今見たらかなり誤字ばっかりで・・・Uu  涼の変化も今後関係してくるのかなぁ・・・です。すみません!!(汗
2004-04-04 19:27:08【☆☆☆☆☆】白雪苺
えっと、すごく描写が切なくて、いいお話でした。次の更新を楽しみにしています!
2004-04-10 22:11:35【★★★★☆】瑠流
計:24点
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