『Present』作者:道化師 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 明日は私の誕生日だ。そして待ちに待った彼とのデート。淡い桃色のワンピースか、白いブラウスか、悩んでいたときだった。携帯の着メロが鳴った。
「もしも〜し。どちらさま?」
 明るい声とは反対に、そこから聞こえてきたのは、女の人の静かな静かな声だった。それは全てを無にするかのような、悲しい響きだった。

「……死んだ?」

 ただ、抱きかかえていた白いブラウスがぱさりと落ちる音だけがした。

 曇りの日だった。私は黒い服を着て多くの人の中にいた。彼の笑顔は写真の中におさめられていた。いつかの光のまま、そこにあった。
 人々のすすり泣く声と、彼を祈る声だけが現実だった。私は泣く事も出来ずにそこにいて、祈る事もせずに彼の姿だけを探していた。
「事故だったそうよ。まだ若いのにねぇ」
 どこかでそんな声が聞こえた。そうか事故だったのか、そう思った。そういえば、彼のお母さんがそんな事を言っていたような気がする。
「雨……ふりそうだなぁ」
 さわさわと草木が揺れる音がした。皆の中に入る気にはなれなかったので、ただ一人木の下で私は遠くを見つめた。
「あの……」
 そんな時だった。小さな声が私の耳に入った。彼女は少し口元をあげて言った。悲しい笑みだった。
「お兄ちゃんの彼女さん、ですよね?」
「――ええ」
 彼は妹がいると言っていたから、彼女がそうなのだろうと思った。
「――これ、兄の机の上にあったんです。だから……」
 彼女は手に小さな包みを持っていた。そしてそれを私に差し出した。
「ありがとう」
 私が静かに呟くと、彼女は会釈をして母親の元へ去っていった。彼女の目は赤かった。

 もう遠い昔のように思う。確か昨日までは現実だったのに。
 あの日来た、また来るはずだったこの海に私は一人、小さな包みを持って座っていた。少し冷えた風が頬を通り過ぎた。
「また一緒に来ような」
 彼は笑っていた。私はふざけて彼に海水を浴びせた。それは思いのほか沢山かかり、彼の自慢の逆立った髪をぺたんこにした。彼は怒ったような、笑ったようなそんな感じで、私の髪をくしゃくしゃと撫でた。笑って、笑って二人で転んだ。海水はそんな二人を嘲笑った。
「ずっと一緒に居たいね」
 私がそう言ったとき、彼はまた私を抱いて……初めてのキスをした。しょっぱい海の味だった。

「嘘つき……」
 波の音はあの日のように響かない。空しくどこかへ消えていくのだ。
 私はがさがさと包みを開けた。キラキラと輝く指輪があった。
“誕生日おめでとう、梓”
 汚い字で、鉛筆で書いてあった彼の字。
「もっと丁寧に書きなさいよ」
 こんなかわいいカードに、こんなかわいいラッピングなんて彼に似合わない。一体どんな顔して買ったのよ。
「馬鹿……」
 そんな台詞、もう言えない。
 砂が黒く濡れる。曇り空が私を見つめる。
「意味無い。こんな指輪」
 君が居るから、プレゼントは特別なのに。君が居なきゃ、輝かない。

 落ちる雫は、あの日のキスみたいにしょっぱかった。

「ショウゴ――…」
2004-03-10 17:36:42公開 / 作者:道化師
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■作者からのメッセージ
感想・御指摘よろしくお願い致します。
もしかして、初の英語タイトル!?(笑
そしてそして祝!!受験終了。
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