『怪盗が消えた日』作者:蒼矢 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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×エピローグ×(飛ばしても可能)
『謎の少年怪盗、現る。
 警察は犯人が特定できず、梃子摺っている。』
そんな記事が新聞の一面を占めていた。

「全く、こいつのせいで仕事が多くなるし、
 警察の評判もがた落ちだ。」
新聞を読みながらそう嘆いているのは、
神無月隼(かんなづきじゅん)警察官。
熱血漢で、警察官らしい警察官だ。
「ちょっと、お父さん食べてる途中なんだから
 静かに食べようよ。お行儀悪いよ。」
と、隼を宥めるのは、
その娘の神無月茅弦(かんなづきちづる)中二。
しっかりとしている物の、
まだあどけなさの残る少女だ。

まだ、この世の中に『怪盗』と言う物が残っている時の話。
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第一章 『朝。』
何時もの朝。
そして、何時ものように玄関の
インターホンが鳴り響く。
「今行くね!」
そう玄関に向かって叫ぶと、鞄を背負い、
まだ朝食を取っている父親に向かって
「お父さん!きちんと自分の食器は
 片付けてから行ってね!」
そう言うと足早に玄関の方まで行った。

戸を開けると、其処に居たのは、
同級生の香野茉莉(こうのまり)が
暇そうに待っていた。

「茉莉!おはよう。」
すると、茉莉はにっこり笑って
「おはよう。」
と優しく返してきた。

そう言えば二人で通学途中に、こんな話をした。
「あのさ…。茉莉、朝刊読んだ?」
そんなに答えには期待していなかったのだが、
思いがけない答えが返ってきた。
「あぁ、もしかしてあの謎の少年怪盗?」
余りにもあっさりと言うので茅弦は、
「あれ?何で解かったの?」
聞いてみたが、その時にはもう学校に着いていた。

その後、下駄箱で別れると
それからは謎の少年怪盗の話はしなかった。
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第二章 『過去。』
「ただいま―…。」
誰も居ない家。
しかし、つい声に出してしまった。

茅弦には父しか居ない。

母は昔、居たらしい。けど、事件に巻き込まれて、
死んでしまったそうだ。
だから、父は警察官になった。
こんな事が二度と起こらないように、と。                  

まだ小さかったからか茅弦は母を
憶えていない。知っているのは写真でだけだ。
けど、茅弦は悲しくなかった。
大好きな母のはずなのに。
自分を生んでくれた、大切な人のはずなのに。

皆は、茅弦を『可哀想な子』と言った。
けど、そんな事は全然無かった。
茅弦には父が居たから。
どんなに仕事が忙しくても、茅弦のことを
一番に考えてくれる、父が居た。

しかし、写真を見る度に
母はどんな人だったのだろう…。そんな空想を
膨らませて行くのが好きだった。
他の手掛りと言えば、
これは母の声だったかは解からないが
「大好きだよ。」
そんな声が頭の中に残っている位だった。     

そんな事を考えているといきなり電話が鳴り出した。
驚いて出ると父だった。
「茅弦、今日は早く帰れるから
 父さんの分も夕食を作っておいてくれないか?」
朝とは違う明るい声の隼だった。
「うん…。何か合ったの?」
そう不思議そうに聞くと、隼は
「そうそう、実はな…。っと、
 これは極秘情報だからな…。家で教えてやるよ。」
そう言って、電話は切れた。何があったのだろう…。
そんな事を考える暇もなく、茅弦は急いで台所に向かった。
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第三話『予告。』
父と食卓を囲みながら
「何があったの?」
といきなり茅弦は尋ねた。すると、
「そうそう、忘れるところだった。
 実はな…。あの、謎の少年怪盗から予告状が来たんだ。」
そう言って、一枚のコピー用紙を取り出した。
『段々と、寒くなって参りましたが
 皆様、如何お過ごしでしょうか?そこで、
 今回は十一月十三日金曜日、午後九時に絵画「空の涙」
 を盗ませて頂きます。警備も無駄だとは思いますが、一応頑張って下さい。』
と、ワープロ文字で書いてあった。いきなり、
「これが…。予告状?」
と、茅弦が驚いたように言った。しかし、
この予告状の為に厳重な警備をするらしい。

無理だな。そう、茅弦は思った。
別に、警察が無力だと言っているのではない。
この謎の少年怪盗はそんな警戒網なんかすり抜けてしまう。
何故かそんな気がした。

そんな事を感じたまま、シャワーを浴び、
ベッドにどさっと倒れこんだ。
今日は十一月十日、水曜日。事件の三日前だ。
そして、今日と言う日の幕が降りる。

その頃、会議をしている警官の中で
一名、不適な笑みを浮かべている者が居た。
「如何した…?」
仲間が不思議そうに聞くが、
「いや、何も…。」
そう言って、黙り込み、真面目に
会議に取り組んでいた。しかし、
たまに窓辺に目をやっていた。
後少しで、三日月になる月を見る為に…。
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第四章 『当日。』
三日月が出てぼんやりと明るい空。
そして、その明かりに照らされた美術館の屋根。
その上に黒いスーツを身に纏った
一人の少年が佇んでいた。
口元には薄らと笑みを浮べている。
ふっと、思い出した様に腕時計を見る。
「後、一分…。」
そう一人で呟いた。眼下に広がるのは
巡回している忙しそうな警察官だけ。
退屈そうに警察官達を眺めていると、
カチリ、と時計の針が文字盤の十二を指す。
九時になった。

ふっと地に降り立つ。
少年は、その時はもう黒いスーツではなく、
警官の姿だった。
「お疲れ。」
そんな言葉を交わしながら、前へと進んでいく。
誰も居ない展示室。まだ、目の前には絵画がある。
しかし、其処には警察の代表者一人だけが
持っている鍵が無ければ開けられない。
少年はその絶望的な状況の中ふっと、笑う。
ポケットの中を探った。その中から
出てきたのはその鍵だった。
「全く。摩り替えた事に気付かないのだろうか?」
そう呟くと鍵を握り、開ける。
そして、少年はその場を後にした。
一瞬風が吹いたかと思うとそこには
警察官ではなく黒いスーツの少年の姿があった。

「全く…。こんな遅くまで娘に差し入れに行かせる
 父親って何なのかしら…。」
茅弦はぶつぶつと言いながら夜道を歩いていた。
どうやら隼の差し入れに行くらしい。
すると、誰かにぶつかった。
「痛ッ…。すみませんでした。」
どうやら少年の声のようだ。しかし、
顔も見ないうちに走り抜けて行ってしまった。
その後、差し入れに行った時にはもう、絵画は消えていた。

次の日、新聞の紙面のほとんどを
この記事が占めていたのは言うまでもない。 
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第五章 『怪盗の日常。』
「ふぁ…。ねみ―…。」
夕方のホームで、眠そうにしている、
物静かで、冷徹な少年だ。
帰る先々で人が読んでいる新聞を見ては不適な笑みを浮べる。
その記事は『謎の少年怪盗』である。

そう、この少年こそが『謎の少年怪盗』なのだ。
どんな警備もすり抜ける、不思議な怪盗。
一部では、警備員の中に犯人が居るのではないか。
とも言われている。しかし、予告状では
少年のような口調な為、『少年怪盗』と呼ばれている。
「誰も…俺だって気付かないんだろうな。」
そう意味深な言葉を呟くと、改札口を抜けた。
そして、誰も居ない家に帰っていった。
昨日盗んだ絵画、「空の涙」がぼんやりと夕陽に照らされている。
やはり美術館に大切に展示されているのも理解できる。
少年はふっと口元に笑みを浮べると、黒いスカーフをすっと絵画にかけた。
この芸術作品にある意味。
そんな事を考えるのが少年は好きだった。

そう言えば、何時からだったか、怪盗の小説を読むのが大好きだった。
少年は、そんな怪盗に憧れていた。
どんなに不可能に近くてもそれを可能にする…。
そんな人物に憧れていた。

しかし、
それが今の自分であるなんて実感が沸かなかった。
物を盗むのが好きなのではない。
その不可能を可能にすると言う憧れを
果たすために怪盗をしている。
そんな少年の淡い憧れから
不思議な謎の少年怪盗が生まれたのだ。
又、謎に包まれた少年の今日と言う幕が降りる。
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最終章 『盲点。』
「やったぞ!!茅弦。証拠を手に入れたんだ!」
そう騒ぐ隼の情報では…。
絵画のケースの隙間から一本の髪の毛が見つかったらしい。
どうやら少年の毛らしい。
今、急いで少年の特定をしているそうだ。

何故、完璧な筈の怪盗に盲点が合ったのだろうか。
茅弦は不思議に思った。
考えていると思い出したことがあった。
そう言えば、美術館の近くで少年らしき人物に会った事を思い出したのだ。 
まさかと思ったが話さなかった。
自分の心の中に怪盗と言う有り触れた毎日に
風穴をあける人物を残しておきたかったからだ。

それから月日が経ち、今に至る。
まだ君達の中には怪盗と言う人物は残っているだろうか?
そして、
有り触れた生活に風穴を開けてくれる人物は居ないだろうか?
居なかったとしたら、
怪盗が消えた日は何時だっただろうか?
覚えている物はきっと居ない。怪盗は謎に包まれた人物だから。
                         
番外編 『怪盗と画家。』
月明りに満ちた部屋で、
絵の具のチューブを床に広げて
空に浮かぶ月を時折見ながら、
懸命に筆を動かし続ける少女が居た。

すると、窓が微かに揺れた。
風だろう、そう思ったが窓辺の木々はざわめかない。
窓に目をやると独りの少年が窓に寄り掛かっている。
何か合ったのだろうか?
そう思い、窓を軽く叩くと…反応が無い。
試しに、寄り掛かっていないほうの窓をそっと開けると、
微かに幼い寝息が聞こえた。

どうやら寝ているようだ。
「こんなところで寝たら、風邪引いちゃうよ。」
そう言って揺さ振ると、瞼を開いた。
「―…ん〜?おはよーございます…。」
どうやら、ここで寝ていたことを忘れているらしい。
「『おはよーございます。』じゃないでしょう?
 何で彼方がここに居るのですか?しかも、そんなスーツだけの
 薄着で…。風邪引いてしまいますよ。」
確かに、今は真夜中で寒い。
ここで寝たら恐らく風邪を引くだろう。
「ん―…。じゃあ、今日は匿ってくれ…。」
そう言うと、眠り始めた。
都合の良いことに屋根裏部屋が空いていたので
其処まではきちんと歩かせた。
そして、ついた途端、まるで自分の部屋のように寝始めた。
変わった人だな…。
そう思って部屋に戻ろうとすると床に黒い布に包まれた物があった。
それは月明りに照らされて、
暗い部屋の中にぼんやりと浮かんでいた。

そして、朝日が差し込んで来る頃、
静かだが足音が聞こえた。
どうやら、あの真夜中の少年の様だ。
「眼が覚めたのですか?」
そう言って振り向くと、一寸驚いたような顔をして、
「何の絵を描いてるの?」
と、平常に戻ってぼそりと呟いた。すると、少女は
ふっと笑ってこう言った。
「私、画家になるのが夢なの。だから、
 こうやって練習しているんだ。日常的な絵をね。」
見てみると、ジャムの瓶や焼けたパン。
風に揺れるカーテン、窓から覗く青い空…。
本当に身近な日常的な物ばかりだ。
「ふーん…。あのさ、ここの青をもぅ一寸足したら?
 多分、綺麗になると俺は思うよ。」
そう言って、床に散らばった青い絵の具のチューブを掴んだ。
すると、少女は無邪気に笑って言った。
「やっぱりそうかな?じゃあ、足してみるね。」
そう言って、絵の具のチューブを取ってパレットに出した。

そんな事が続いて少年が現れた時刻を時計が指した。
少女は疲れた様で静かに寝息を立てていた。
しかし、少年は何時の間にか消えていた。
黒いカードを残し、
カーテンを夜風に揺らめかせて。
月夜に照らされたキャンパスには出来上がった絵が残っていた。     
そして、あの包まれていた物は―・・・。絵画、『夢の彼方』。          
けど、少女がそれに気付くのはもう少し後の話。                                       完。






2004-04-07 16:35:40公開 / 作者:蒼矢
■この作品の著作権は蒼矢さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
少し直してみました。
これで終わりです。

この作品に対する感想 - 昇順
いいですね。とても読みやすいです。謎も多そうだし、長くても読み応えある内容になる予感がしますね。
2004-02-29 22:06:32【★★★★☆】オレンジ
ちょっと短いような気もしますが、これからが気になる感じです。頑張って続きを書いて下さいね!楽しみにしてますっ!
2004-02-29 23:25:45【★★★★☆】冴渡
題名がいいですね! どういう感じのストーリーになるかはわからないので、続きを楽しみにしています!
2004-03-01 12:57:00【★★★★☆】葉瀬 潤
描写が少ないですね。もう少し情景描写や心情描写、その辺りをいれてほしいと思いました。そして、人物紹介。名前だけ出されても読者は置いていかれるので、その人物についての描写もほしかったです。最後に、章の区切りが短くありませんか?もっと長くてもいいと思います。辛口評価、申し訳ありません。続き楽しみにしてます。では。
2004-03-01 16:17:46【★★★★☆】daiki
読んで下さった方、有難うございました。もっと長くても大丈夫ですか?では、ちょっと変えさせていただきますね。
2004-03-01 17:32:59【☆☆☆☆☆】蒼矢
娘さんも事件にまきこまれちゃうのかなぁ。 続きに期待!
2004-03-02 13:35:42【★★★★☆】てつ
とても面白そうなストーリーですね〜!続きが楽しみです!
2004-03-02 19:50:56【★★★★☆】葉瀬 潤
クールな怪盗がかっこいいですね!茅弦と少年の一瞬だけの出会いを読んで、なんかこれからの展開が楽しみになってきました!
2004-03-04 11:46:05【★★★★☆】葉瀬 潤
怪盗というのがまたいい!!番外編もあるそうなので、そちらの方も楽しみにしたいと思います。
2004-03-12 00:01:21【★★★★☆】フィッシュ
最後の語りかける文がよかったです!番外編もすごく楽しみにしています!
2004-03-12 14:04:30【★★★★☆】葉瀬 潤
ありがとうございました。番外編もお楽しみにお待ち下さい。
2004-03-12 18:11:17【☆☆☆☆☆】蒼矢
ラストを柔らかなムードで包んだところが効果的ですねw番外編楽しみです!
2004-03-14 01:29:34【★★★★☆】夢幻花 彩
爽やかな終わり方ですね!とても面白かったです。番外編が楽しみです!
2004-03-18 14:42:18【★★★★☆】フィッシュ
感想を書いてくださった方、有難うございました。
2004-03-20 12:42:39【☆☆☆☆☆】蒼矢
計:44点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。