『GOOD!GOD!BAD! 第1話〜第6話』作者:無夢 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角10209.5文字
容量20419 bytes
原稿用紙約25.52枚
   第1話 桐山照子と松井啓祐

 何かおかしいわ。そう感じたのは、住宅地に入ってからだった。今日も仕事が終わり、いつものように帰っていた私は、
何か違和感を感じていた。
「駅にはあんなに人がいたのに、どうして誰もいないのかしら・・・」
 私の周りには誰もいない。駅には溢れるほどの人間がいたのに、バスに乗り、家の近くで降りると、私は恐ろしいほどの静寂に襲われた。腕時計を見ると、針は九時を指している。
 最初は何も感じなかった。でも、段々と心臓の鼓動が速くなり、自然と歩く速さも上がっていった。・・・恐い。
一瞬、この言葉が私の胸をよぎった。
「もう、何なのよ。ちょっと静かなだけじゃない!」
 気持ちを紛らわすため、わざと大声で独り言を言ってみる。
「そうだ、啓祐に電話しよ」
 誰かと喋っていないと気が狂いそうだ。私は腕から下げていたハンドバッグから白い携帯電話を取り出した。
ストラップの鈴が音を立てて揺れる。少し震える指でメモリから恋人の啓祐の携帯に電話をかけた。
『プルルル』
 右耳にコール音が聞こえてくる。と、同時に左耳に携帯の着信音が届いた。
「啓祐・・・?」
 アイドルグループの歌。そうだ、この音は啓祐の携帯だ。音は私の前方から聞こえてくる。その音は段々近くなり、
緑に光るランプも見えてきた。
「啓祐!」
 私は大声を出して光へと走った。あぁ、啓祐だ。私は満面の笑みで啓祐の胸に抱きついた。
「照子・・・」
 啓祐の低い声が私の顔に響く。
「啓祐、どうしたの? 今日、会いに来るって言ってたっけ?」
 本当はそんなことどうでも良かったけど、嬉しさのあまり私は啓祐にそう聞いた。でも、啓祐は何も答えない。
「どうしたの?」
 私は安心しきった顔で啓祐の顔を見上げた。 『ズンッ!』
 私の体中に鈍い音が響いたかと思うと、電流が走る様に痛みが全身を駆け回った。・・・何?何があったの? 
私はゆっくりと啓祐から体を離した。
「けっ、啓祐・・・?」
 私の右脇腹におかしなものがある。右の脇腹に目を向けると、銀色に輝く刃が突き立てられていた。
啓祐は私にゆっくりと近づき、刃を強引に抜いた。
「あぁっ!!」
 あまりの激痛に声が漏れる。啓祐はそんな私の口を塞ぎ、今度は左胸めがけて刃を振り下ろした。一回だけでなく、何度も何度も。刺さる度に『ぐちゃぐちゃ』と、嫌な音が辺りに響き渡る。
私の体から流れ出た血液は道路を真っ赤に染めた。

 俺は何てことをしてしまったのだろう。血まみれになって倒れている照子の体を見て、思った。俺の服にも顔にも、
照子の血液が付いている。そして、手にはナイフ。荒くなっている呼吸を整え、震える手を止めた。
心臓の鼓動は驚くほど速い。
「て、照子・・・」
 俺は自分の手で殺してしまった、最愛の人の名前を呼んだ。もちろん、返事はない。・・・もう、ダメだ。
俺はそう思った。そして、今度は自分の首をめがけてナイフを振り下ろした。


   第2話 高木舞

「舞!」
 一人での登校中、親友の沙織が背後から私を呼んだ。振り返ると、私に向かって走ってきている。
私は立ち止まって追いつくのを待った。
「おはよ!」
 元気に沙織が言う。
「おはよ」
 私も笑顔でそれに答える。そうしてから、私と沙織は歩き出した。
「ね、数学の宿題やった?」
 沙織が私に聞いた。
「やったよ。まさか、沙織やってないの?」
「うん。だから見せてね! 今度アイスおごるから!」
 私は笑って「はいはい」と、答えた。
「あれ? どうしたんだろ?」
「どうしたの?」
「ほら、あそこ。人が集まってる」
 沙織が指差す先には、たくさんの人が集まっている。そのせいで、道は通れそうもない。
「やだ、あそこ通らないと、バス停まで遠回りしなきゃいけないじゃない。沙織、戻りましょ」
 私は沙織の腕を掴んだ。でも、沙織はそんな私を無視する様に
「ねぇ、行ってみようよ」
と、走り出した。
「あっ! 沙織!」
 走り出す沙織の後ろ姿を私は追いかけた。沙織はスーツ姿の男の後ろで飛んでいる。その人ごみの中に、
私の弟の良太がいた。
「良太、何であんたこんなところにいるのよ」
「姉ちゃんこそ」
「私は、沙織がここに来たから来たのよ」
「ねぇ、何があったの?」
 私と良太のやり取りに沙織が入ってきた。どうやら何も見えなかったらしい。
「さぁ、俺も知らない」
「沙織、行こ。早く行かないと遅れるよ」
 私はまだ見たがる沙織を無理矢理引っ張っていった。

「もうちょっと見せてくれればよかったのに〜」
 沙織が私の隣の席に座って拗ねたように言った。
「何言ってるのよ。もうちょっとで遅れるところだったじゃない。それに、数学の宿題だって写さなきゃいけないんでしょ?」
「あぁ! そうだった! 舞、見せて!」
 沙織は焦って机の横にさげてある鞄から、筆箱とノートを取り出した。でも、もう遅い。教室の扉が開いて、
髭の濃い担任が入ってきた。
「ほら、早く席につけよ〜」
 そう言うと、今まで立っていた人達が慌ただしく席に座った。担任は今日の連絡事項をいくつか言った後、
教室から出ていこうとした。その時だ。一人の男子生徒が手を挙げてこう言った。
「先生、この近くで人が殺されたって本当ですか?」
「え?」
 何人かの生徒が口々に喋り出す。
「あっ、俺それ知ってる! ナイフで何回も刺されたんだろ?」
「何それ? 犯人は?」
「ほらほら! 静かにしろ!」
 担任が手を叩いて言う。
「え〜、確かにそんな事件があった。だが、心配するな。犯人は一緒に死んでいたそうだ」
「何ですかそれ?」
 沙織が席から立ちあがって言った。
「自殺をしていたらしい。・・・・・・もういいだろ。この話は終わりだ」
 そう言って担任は教室から出ていった。
「あの人ごみは、それだったのね」
 私は沙織に話し掛けた。
「人が殺されてたなんて、恐いね〜」
 沙織は笑って言った。
「ねぇ、それよりさ、[GOD]って知ってる?」
「[GOD]? 何それ? 神様?」
「そうそう、この近くに教会が出来てね、そこでお願いすれば、どんな願い事も叶うんだって!」
「ふ〜ん・・・。それで?」
「だからね、今日学校終わったら一緒に行こ!今日は水泳部もないでしょ?」
「ないけど、私そういうの信じてないよ」
「それがね、本当に叶うらしいのよ!」
「・・・いいよ。じゃあ行こ」
「やったぁ! じゃあ、今日の放課後ね!」
 そう言って沙織は、数学の宿題を写し始めた。


   第3話 高木舞

 私と沙織の二人は、授業が終わってからすぐ、教会へ向かった。と言っても、私は沙織に手を引っ張られていただけ。
大きな通りを外れ、小さな路地道をぐにゃぐにゃと曲がりながら行くと、その教会はあった。私がイメージしていたものより
少し小さい。そしてこの教会にはいくつもおかしな所があった。屋根には白い十字架、ステンドグラス。どう見たって
キリスト教なのに、大きな扉を開けて中に入ると、仏像がたくさんならんでいるのだ。
「何これ? どうして仏像が?」
 私は眉をしかめて言った。
「やだ、ちょっと気味が悪いね・・・」
 そう言って、沙織は肩を震わせる。
 確かに気味が悪い。中は私達の息遣いが聞こえるほど静か。いくつも並んでいる仏像の先には、白い布をかけられた
大きな何か。形から判断して、多分人型の像。そしてその横には・・・。
「そこのお嬢さま方」
 白い布がかけられたもの横に立っている、黒い修道衣を来た男が私達に言った。私達の体がびくりと動く。
「こちらへどうぞ」
 男はゆっくりと手招きをした。沙織は私の手を握り、私の顔を見た。私は一度だけ頷き、男に向かって歩き出した。
私達が近くに来ると、にやりと不気味に笑った。唇の間から見える歯の矯正が、その不気味さを強調させる。
「あの・・・ここは何教なんですか・・・? 十字架があるし、仏像も・・・」
 沙織が恐る恐る聞くと、男はまた、にやりと笑って答えた。
「ここは宗教など関係ありません。ここにいる[GOD]は、この地球上にいる全ての生物の神であります。
ですから、宗教などありません。皆さんがここでお祈りすれば、どんな願いも叶うでしょう」
「どんな願いも?」
 私は少し男を睨みつけた。
「えぇ。その方が本当に望むのならば、どんな願いも叶います」
「どうやればいいんですか?」
 話を聞いて少し気持ちが高ぶったのか、沙織が鼻息を荒くして言った。
「この御神体の前で手を合わせ、こう言うのです。『我らが[GOD]よ 私の願いを叶えて下さい』とね。
そしてその後、あなた方の願い事をおっしゃって下さい」
 男が御神体と言って示したものは、白い布を被った何か。
「ね、やってみない?」
 沙織はすっかり笑顔になり、白い布の前に立った。私も渋々、沙織の横に立つ。
「我らが[GOD]よ。私の願いを叶えてください。えっと、同じクラスの大西武雄君に告白されますように!」
 沙織は大声で言った。
「・・・沙織、まだあの汗臭い男のこと好きだったの?」
 私が呆れる様に言うと、沙織は私の顔を見て、
「いいじゃない! マッチョで色黒で、私のタイプにぴったりなの!」
と、また大声で。
「それより舞も早くしなよ!」
「・・・分かったわよ。我らが[GOD]よ。私の願いを叶えてください。水泳の全国大会に行けますように」
「何だ、舞も信じてるじゃない」
「信じたわけじゃないわよ。ただ、ものは試しって言うじゃない」
「も〜、冷めてるのね」
 沙織は拗ねたように頬を膨らませた。
「もういいじゃない。早く帰ろ」
 そう言って私は沙織の手を掴んだ。
「あなた方二人の願いは、きっと七日以内に叶うでしょう」
 歩き出そうとする私達に男は言った。でも、私はちらりと男を見ただけで、その言葉はほとんど無視していた。
そして私達が扉の前に立ったとき、扉がひとりでに開いた。少し驚いたけど、すぐに扉が開いた理由が分かった。
「翔子ちゃん」
 私は扉を開けた女の子の名前を呼んだ。
「あっ、舞お姉ちゃん!」
 翔子ちゃんはにっこり笑って言った。
「誰?」
 沙織が私に聞く。
「この子は阪崎翔子ちゃん。私の家の近所に住んでる子」
「ふ〜ん、何年生?」
「小学校一年生だよ!」
 翔子ちゃんは変わらぬ笑顔で言った。そんな翔子ちゃんに私は聞く。
「どうしたの? 一人?」
「うん、ママには内緒で来たの。・・・あのね、ママがワンちゃんを飼ってくれるようにお願いしに来たの」
「そうなの。一人で大丈夫?」
 翔子ちゃんの顔を見てると、私も笑顔になる。
「うん! 大丈夫!」
「・・・・・・じゃあ、お姉ちゃん達帰るね」
 私がそう言うと、翔子ちゃんは元気よく頷いて、走り出した。その後ろ姿を少しの間見つめてから、
私達は教会を後にした。


   第4話 田村沙織

 これは夢?こんなことが本当にあっていいのかしら?と、私は思った。まさかずっと好きだった人に告白されるなんて。
そう、大西武雄君だ。舞は汗臭いなんて言うけど、そんなことは絶対ない。普段も格好いいけど、
部活の野球をしている時はもっと格好いい。頭はちょっと悪いかな、何て思ったりするけど、そんなことは気にならない。
とにかく、私の好きな人が今、私の目の前で、私のことを好きだと言ってくれた。
 舞と一緒に帰ろうとした時、私の机に手紙が入っていた。それは大西君からの手紙で、
『話があるから来てほしい』と、書いてあった。私は舞に教室で待ってくれるよう頼んで、飛ぶようにここに来た。
「そんな、恥ずかしい・・・」
と、私は頬を赤らめて言った。でも、心の中では大きくガッツポーズ。
「返事はどうなんだ?」
 大西君はぶっきらぼうに言う。こういうところもまた好きなのだ。
「あの・・・私もずっと好きでした!」
 つい大きな声を出してしまった。大西君は少し驚いたような顔している。
「そうか・・・。それなら、いいんだが」
 そう言って大西君は私に背を向けて走り去った。
「あら? どうしたの?」
 一気に感動が冷めてしまった。私の中では、すぐに抱きしめて欲しかったのに。まぁ贅沢は言うまい。
告白の醍醐味とも言える体育館の裏で、告白されるだけで十分だ。私は弾むような気持ちで教室へ戻った。
「舞!」
 私は興奮しながら、自分の席に座っている舞に駆け寄った。舞の他には誰もいないから大声を出しても平気だろう。
「あのね、私、大西君に告白されちゃった!」
 舞は私の言葉を聞いて、少し呆然とした後「は?」と、聞き返した。
「だから、さっき私の机に手紙が入ってたじゃない!その手紙の主が大西君で、告白するために私を呼び出したのよ!」
「・・・・・・で? 沙織は何て答えたの?」
「私も好きですって。そしたら、すぐに走って帰っちゃった」
 舞はそれを聞くと、一言「そう」と答えて、立ちあがった。私はちょっと期待を裏切られた気分になった。
もうちょっと喜んでくれるかな、なんて思ってたから。ま、顔が笑ってるだけよしとしよう・・・。
「早く帰ろ。今日、お母さんがいないから、良太にご飯作ってあげなきゃいけないの」
 そう言って教室の出口へ向かう舞を、私は走って追いかけた。

 帰り道。空が段々暗くなってきていた。
「ねぇ、舞」
 私はずっと言おうとしていたことを、言うと決心して口を開いた。
「さっき大西君に告白されたのって、やっぱり[GOD]のおかげなのかな?」
「え?」
「ほら、だって[GOD]にお願いしたのは三日前のことでしょ?あそこにいた男の人が七日以内で叶うって・・・」
「でも私はまだ、水泳で全国大会行けるなんて決まってないよ」
 私の言葉を遮るように舞は言った。
「それは、舞のお願いの方がスケール大きいからじゃない? もうちょっと時間がかかるのよ、きっと」
「そんなものなの?」
 舞は疑うような目で私を見る。私はすこし戸惑ったように頷いた。その時だ。
「舞お姉ちゃん!」
 どこかで聞いたことのある声が前方でした。それと一緒に犬の鳴き声も。
「あら、翔子ちゃん。どうしたのその犬?」
 大きなゴールデンレトリバーが、息を荒くして翔子ちゃんの隣を歩いていた。首輪から赤い紐が伸びていて、
それを翔子ちゃんの母親らしき人が持っている。
「うちの親戚の人が旅行に行くから預かってくれって頼まれたんです」
 母親らしき人はそう言った。
「でね、ママが、ちゃんとこの子のお世話をしたら、ワンちゃん飼ってくれるって約束してくれたの!」
 翔子ちゃんは嬉しそうな顔で言った。
「え?」私と舞は声が重なった。
「じゃあ、私達はこれで失礼します」
 翔子ちゃんの母親はにっこりと微笑んで歩き出した。
「バイバイ!」翔子ちゃんが手を振ったので、私達も手を振って答える。
 二人の姿が見えなくなってから、私は舞に
「願い、叶ったみたいね・・・」
と言った。舞は小さく「うん」と言っただけで、それ以上は何も言わなかった。


   第5話 高木良太と高木舞

「すごい数の人ね」
 にぎやかな観客席を見上げて、姉ちゃんが言った。
「水泳の全国大会がこんなにすごいものだなんて、思ってなかった」
 姉ちゃんは観客席から目を逸らし、俺に笑いかけた。そう、今日は水泳の全国大会である。長方形のプールで水が
揺れている。そして観客席には大勢の人。競技が始まるのを、退屈そうに待っているのが見える。
「舞」
 俺の背後で男の声がした。俺が振り返ると、男はこちらに向かって走ってきているのが見えた。・・・あいつか。
俺は少し嫌な顔をした。
「達也」
 姉ちゃんは笑顔で男に駆け寄る。そして、二人は楽しそうに会話を始めた。
 男の名前は中里達也。俺の姉ちゃん、高木舞の彼氏である。でも、俺は嫌いだ。顔が良くて、性格もいい。
運動も出来るし、頭も・・・・・・と、完璧な男なのだ。悪い人ではない、そう分かっているのに、好きになれない。
「やぁ、良太君」
 中里が俺に向かって手を挙げる。俺はそれを無視するように二人から目を逸らした。
「ご機嫌斜めかな?」
 後ろから中里の声が聞こえた。そのときだ。
『まもなく競技が始まります』と、アナウンスが響いた。
「あっ、もう行かなきゃ」
「おう、頑張ってこいよ」
 二人のやり取りが聞こえ、俺は姉ちゃんの方を向いた。すると姉ちゃんは俺に笑いかけて、
「頑張ってくるから」
と言った。それに対して俺は黙って頷く。姉ちゃんが走り去ると、中里が俺に近づいてきた。
「良太君、舞が優勝するといいね」
 その言葉を俺は無視した。
 姉ちゃんがスカート台に立つのが見える。一斉に構えたかと思うと、ピストルの音がなり、全員がプールに飛び込んだ。
俺は一歩前に出て、姉ちゃんの泳ぎを見た。・・・様子がおかしい。泳ぎ方が何か変なのだ。
そう思った俺だけじゃないようだ。中里が俺に言う。
「良太君、舞の泳ぎ、何か変じゃないか?」
と、その時だ。プールの真ん中辺りで、姉ちゃんの姿が水面から消えた。観客がざわざわと騒ぎだす。
俺達が驚いていると、水面に指先が見えた。
「溺れてる!?・・・助けなきゃ!」
 中里がものすごい速さで走りだし、プールに飛びこんだ。周りの選手も競技どころではなくなったようで、
何人かが姉ちゃんの所へ向かっていた。でもそれより先に中里が姉ちゃんの元へ行った。少しの間潜ったかと思うと、
中里が姉ちゃんを抱いて、水中から顔を出す。係員のような人達が二人に近づいた。

 私が目を開けると、白い天井が目に写った。すると、私の顔を達也と良太が覗きこんできた。
「舞!」
「姉ちゃん・・・」
 二人が心配そうな声を出したのを聞いて、私は少し笑ってしまった。男が二人揃って同じような声を出したのが
少しおかしかったのだ。
「もう大丈夫です」
 部屋の入口近くに立っている医者が言った。
「良かった・・・」
 達也が私の横で崩れ落ちた。
「どうしたんだよ。姉ちゃんが溺れるなんて・・・」
 私は良太の質問に答えるのに、少し抵抗があった。
「・・・・・・掴まれたの」
「え?」 二人が声を揃えて聞き返した。
「だから、プールの真ん中辺りで誰かに引きずり込まれそうになったの」
 そう。泳いでいる途中に足を掴まれ、水の中に引きずり込まれたのだ。
・・・何が[GOD]よ。確かに、私の願いは叶った。でも、そのせいで死にかけたじゃない。と、私は思った。
 その時だ。病室の隅に置いてある鞄から携帯電話の着信音が聞こえた。
「あっ、電源切ってなかったんだ・・・。良太、取ってくれない?」
 良太は黙って頷くと、鞄に近づき、携帯電話を取り出して、私に渡した。
「沙織からだわ・・・」
 画面に沙織と表示されていた。携帯電話を開き、通話ボタンを押す。
「もしもし」
『ま、舞っ!!!』
 いきなり沙織の叫び声が聞こえた。
「沙織?どうしたの?」
『た、助けて!!』
「えっ?何言ってるの? 沙織?」
 荒い呼吸の後ろで、がたがたと何かが倒れる音が聞こえる。
『お願い! 助けて!!!」
「何があったの!」
 私が大声で叫ぶと、達也と良太は少し驚いた様に、体を動かした。二人とも心配そうな顔で私を見ている。
『やめて! お願い! 殺さないで!』
 沙織がそう叫んだ後すぐ、『きゃーーーっ!!!!』
と、声が聞こえた。すると、もう電話からは何も聞こえなくなってしまった。
「沙織!?沙織!?どうしたの!?」
 私がいくら呼びかけても、電話からは何も聞こえなかった。


   第6話 田村沙織

 今日は朝の目覚めが最高だった。何故なら・・・今日は大西君とデートなのだ。私は弾むような気持ちで家を出た。
そういえば今日は舞が水泳の全国大会に行っている。私が大西君に告白された二日後、舞の出場が決まった。
さすがに舞も驚きを隠せなかったようだ。そんな舞を見ながら、私は[GOD]の力が本物だと確信していた。
「今度またお願いしに行こうかな」
 私はそんなことを言いながら、大西君が待っているはずの場所へ急いだ。

「ごめんなさい! 待った?」
 集合場所である学校の校門の前で待っていた大西君に言った。どうして校門の前なのかしら?
と、そんなことを疑問に思いながらも、ちょっと可愛く謝って見せた。そんな私を見て大西君は、黙って頷いただけ。
もうちょっと何か言ってくれればいいのにな、と私は思った。
「行くぞ」
 大西君が無愛想に指差した先は、校舎・・・?
「ど、どうしたの? 今日は映画見に行くんじゃ・・・」
 あまりにも突然すぎた大西君の行動は、私を動揺させた。でも、大西君は私を無視するように校舎へと歩き出した。
「あっ! ちょっと待って!」
 私はどうすることも出来ずに、大西君の後を追いかけるしかなかった。
「どうして学校の中に入るの?・・・っていうか、どうして入れるの?」
 そうだ。今日は休日なのに、どこにも鍵がかかってなかった。でも、大西君は私の言葉を無視して奥に入っていく。
「もう! なんなのよ!」
 私の気持ちが段々苛立ってくる。せっかく今日はおしゃれにして来たのに・・・ぶち壊しだわ・・・。
「帰ろうかな・・・」
 私はぼそりと呟いた。すると大西君は私達の教室の前で立ち止まって、私を見た。
「入ろう」
 そう言って大西君は扉を開いて入っていった。
「どうして? そんなところ、毎日来てるじゃない・・・」
と、私は文句を言いながら渋々中に入った。すると大西君は私の腕を掴み、私を床に叩きつけた。
「きゃあ!!」
 私は床で膝と掌を強打してしまった。私が痛がっている間に大西君は教室の鍵を閉めて、ポケットに手を入れる。
そしてゆっくりと取り出したものは・・・・・・ナイフ?
「な、何よそれ・・・。何をするつもりなの!?」
 私は痛む足を我慢して、立ちあがった。
「死ね」
 大西君・・・いや、もう大西で十分だ。大西の口から驚くほど冷たい声でこの言葉が聞こえた。そして、私に向けて
ナイフを振り上げた。私は大西から走って逃げる。そして、誰かの椅子を大西に向けて投げつけた。でも、大西は
何の苦もなく椅子を叩き落とし、私に向かって猛スピードで向かってきた。私は急いで大西と反対方向に走る。
そして、バッグから携帯電話を取りだし、舞に電話をかけた。
「お願い・・・! 出てよ・・・!」
 祈るような気持ちでコール音を聞きながら、私は大西から必死で逃げていた。大西は机をなぎ倒し、私に向かってくる。
『もしもし』
 電話から舞の声が聞こえる。やった。
「まっ、舞!!!」 私は電話に向かって叫んだ。
『沙織? どうしたの?』
「た、助けて!!」 必死に舞に助けを求める。
『えっ?何言ってるの? 沙織?』
 私は迫る大西から逃げながらこう叫んだ。
「お願い! 助けて!!!」
『何があったの!』
 舞はやっと私が異常な状況にいることに気付いたようだ。でも、もう遅い。私は机に足を引っ掛け、床に倒れこんだ。
大西がにやりと笑って私に駆け寄る。
「やめて! お願い! 殺さないで!」
 私は舞ではなく、大西に向けて叫んだ。・・・・・・また私の言葉は無視された。銀色のナイフが私の胸に刺さる。
「きゃーーーっ!!!!」
 私は恐怖と痛みで叫び声をあげた。でも、ナイフは容赦なく私の体に突き刺さる。
めりめりと音を立てて、柄の部分までめり込んだ。私の口からは何も声は出ず、ただ息が漏れるだけ。
大西は私の胸に刺さったナイフを上下に動かす。ナイフの刃が、私の肉に当る度、
気が狂いそうなほどの痛みが
私を襲う。段々とまぶたが重くなり、私は遂に目を閉じてしまった。・・・私はもう二度と目覚めることのない
眠りについた。そして、今朝の様に最高の目覚めを・・・私はすることが出来なくなった。
2004-03-07 15:55:25公開 / 作者:無夢
■この作品の著作権は無夢さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも無夢です。もうそろそろ、物語の中盤です。[GOD]のことも少しずつ
明らかになってきます。皆さんが読みやすい小説を書きたいので、よろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、何故一話の青年は殺害をしたのか。気になります。そして2話のGOD。タイトルにもなっている言葉なだけに、物語のキーポイントになりそうですね。少しセリフのところで誰がしゃべっているのかわからなくなるところがありました。次回もがんばってください
2004-02-29 18:34:37【★★★★☆】風
何か意味深ですね。続きが気になります。 私はとても読みやすかったと思います。
2004-02-29 18:52:54【★★★★☆】藍
風さん、藍さん、感想ありがとうございます。読みやすいと言う言葉は、私にとって最高の誉め言葉です(^‐^
2004-03-05 18:29:09【☆☆☆☆☆】無夢
計:8点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。