『夜明け』作者:永吉 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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2:夜明け



今日は朝まで起きておこう。

考える事がいろいろありすぎてはちきれそうで、沈む。
深く深く。
闇へ、あるいは光へと。

香坂は被っていた毛布を剥いでリビングのソファーに腰掛ける。
部屋は本当に何もないと言えば何もない。色もない。無彩色のイスに無彩色のカーテン、机、台所。


香坂は窓を覗く。
あぁ、今夜は月も出ない。


人間には二種類しかありません。
勝つ人間と負ける人間。
善人と悪人。
愛される人間と愛する人間
そして眠れる人間と眠れない人間。


僕は今後者だ。
眠れない。
ひつじを数えたり、ホットミルクを飲んだり、明日は早起きよって自分に言い聞かせてみたりは、
したのだけれど。


眠れないことに理由なんてないだろう。
一時的な不眠症だろう。


だからこの不眠症を最大限に活用して、今日は溜まっていたことについて考えたいと思う。


テーマは壮大なのがいい。
途中で終ってしまってはいけないから。
愛と恋の違いだとか、
人生だとか、
生と死についてだとか。

あとは自分の仕事。
自分は医者という職業には向いてないのかもしれない。
人を生かすことも、殺すことでさえも出来るこの職業。
この手で殺す。


この世界に約63億ある命だ、ひとつ失ったくらいでどうなる。
それが自分の所為だったと知ったところで、どうなるわけでもあるまい。



全て忘れてしまえ。



香坂はゆっくりと窓を開けた。
今、流れ星がひとつ。
三回願い事を言うなんて無理だろう。「あ」と言う間に星は消えてしまう。
見つけて消えて。

まるで、何かの様な。

神頼み星頼みは好きではない。
香坂は占いや心理テストと言った類も好まなかったから、やっぱり信憑性のないものは嫌っていた。

しかし、もしも願いが叶うのならば、




「娘に会いたい」


なんて。

どうしているのだろうか、あの子は。
元気でやっているだろうか。
少し破天荒で自己中心的なところもあったから、ひょっとしたらグレているかもしれない。
周囲の人間から疎遠されてるかもしれない。
恋人は出来ただろうか。
小さい頃から乱暴な口調だったから、ひょっとしたら今まで一人もそういう人はできていないのかもしれない。
あるいは作らないのかもしれない。

あれから3年。
3年前、香坂は医療ミスを犯した。
彼は有能な医者だったから、病院側は彼を手放すことはしたくなかった。
隠蔽工作と言ってしまえばそれ以外の何ものでもなく。
時はそのまま何事もなく過ぎると思われた。
しかしそれを娘に話すと、翌日彼女は、その姿を消していた。
男でひとつで育てた娘。
誰よりも愛しい娘。
今何をしてる?
今どこに居る?


あぁ、壊れるくらいに抱きしめたい。


目にはいつの間にか涙が溢れていて。
あ、僕涙腺弱いからな、なんて一人で冗談を言って。


孤独に泣き崩れる。










日が少し出るか出ないかの時刻。。
ドアを叩く音。
「明ちゃんご機嫌麗しゅう」
「・・・んー・・・?誰・・・」
目を擦り、男。
それを見てにこりと微笑む女。
その姿を見て男は飛び起きた。
「また俺の部屋勝手に入りやがりましたね」


「や、今日は何故か眠れなくて。一睡もしてなかったり。今は・・・あーもう朝来ちゃうね。丁度いいじゃん」
「まだ5時なんですけど・・。っちゅーかそんな時間帯に来ないでくださいよ、迷惑な」
ギロリと睨むがそれはあまり怖くはなく。寧ろ寝惚け顔が少し可愛かったり。
あーあ、寝グセだらけだよ。
「てめぇ髪乾かして寝てないな。男の風上にもおけない!」
「ヨシカさんこそ男口調直せ。美人台無し」



そう言うと、女は自嘲気味に笑って。
「喋り方は自分への戒めであって、最大の親への抵抗なんだよ。ま、許せ」
「はぁ・・」

その時男は理解できるハズもなく。曖昧な返事をして。


「さっき、流れ星見たか?綺麗だったよん」

「寝てましたってば」



「星には願い事が相場っちゃー相場だろう」
「で?」
「や、あたしのも叶うといいなと思って」
「何お願いしたんですか?」
「あん?内緒に決まってるだろ、当たり前田のクラッカーだろ?」
「古いし」



生きてるうちにもう一度育て親に会えますように。



女の名は香坂ヨシカ。

「あああああ!何だか眠い!!」
「あーよかったですねー。じゃあ互いに睡眠取るとしましょうか。さよーならー」
「まったく鈍感だなぁ。ほら、さっさとベッド貸せ」
「何でですか!嫌ですよ」
「だーいじょうぶ、変な事はしないから」
「それ俺の台詞なんじゃ・・・」




−−−−−−会えなくてもいい、貴方が元気で居ますように。









空が明るくなり始めていた。
2004-02-18 22:14:32公開 / 作者:永吉
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■作者からのメッセージ
100題のふたつめ。

家出娘と男手ひとつで育てた父の親子愛を書いてみました。
偶には一睡もしないでどうでもいいことをつらつらと考えてみるのもいいのかもしれません。
この作品に対する感想 - 昇順
読みやすくてよかったです!なんだかほのぼのしてて、どうでもいいことを考えて夜を明かすのもいいかもしれませんね!
2004-02-19 23:29:19【★★★★☆】葉瀬 潤
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。