『夢の小壜を売る男』作者:小都翔人 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約5.35枚
バスが停車すると、一人の男が降りてきた。

ダークスーツに身をかため、真っ黒な髪をビシっとオールバックに固めた男。

右手には、大きなアタッシュケースを提げている。

顔立ちからして、30代前半くらいであろうか?

男は周囲を見回すと、あるマンションに向かって歩き始めた。

「コツコツコツ・・・」

どうやらこのマンションは、オートロックでは無いらしい。良く見れば、築年数も古いようだ。

男はエレベーターに乗り込むと、迷わず6階のボタンを押した。

やがてエレベーターが6階に到着すると、男はまたも迷わずに、605号室の前に立つ。

軽くネクタイを直し、呼び鈴を鳴らした。

「はぁ〜い!」

中の住人は、まったく警戒せずにドアを開けた。50代前半の主婦といったところだろうか。

「あら?おたくどちらさま?」

怪訝な表情で、女は男に尋ねた。

「大河内さまの奥様ですね?わたくし、実はこういう物でして。」

男は名刺を取り出すと、女に差し出した。

「・・・株式会社ドリームライフ?・・・うちはセールスお断りよ!!」

女は名刺を丸めると、ドアを締めようと身を乗り出した。

「あ!ちょっとお待ちください!実はわたくし、林田さまの奥様からのご紹介で!」

「・・・林田さんの奥さん?」

女はよく知る名前が出たとたん、ドアにかかった力を緩めた。男を頭の先から足元まで、値踏みするように見つめる。

「そうです。林田さまの奥様はご存知ですよね?」

「・・・ええ。ついこの前、ご主人がお亡くなりになった。」

「はい。林田国光さまがお亡くなりになって・・・。奥様の静江さまは莫大な遺産を相続しました。」

「・・・・・で!用件はなにかしら?」

男はアタッシュケースを開けると、中から小さな小壜を取り出した。

「奥様。たいへんぶしつけですが・・・。ご主人さまとは、うまくいっていらっしゃらないようですね?」

「ま!な!なにをいきなり!!し、失礼な!か、帰って!!」

男はなだめるように、腰をかがめながら。

「まぁまぁ。最後まで聞いてください。失礼とは思いましたが、奥様の本音を確認させていただきたくて。
 今日お持ちしたお話しは、決して奥様の損になることはございませんので。」

女は顔を紅潮させたまま。

「いったい何なの!林田さんの奥さんから何を聞いたって言うのよ!!」

「奥様ちょっと落ち着いて。ほんの1分で済ませますから。林田さまの奥様も、わたくしのご助力でお幸せになれたのです。
 実は林田様の奥様も、長年ご主人をこころよく思っておりませんでした。そこでわたくしが、我が社の開発した画期的な
 商品をご紹介したわけです。」

女は全く興味をしめさず、生あくびをしながら聞いていた。

「その商品というのが、こちらです。」

男は例の小壜を取り出すと、女の目の前にかざした。

「はぁ。なにこれ?香水ならいらないわよ!」

男は「ククク・・」と微かに笑うと、説明をはじめた。

「この小壜の中には、ある新しい薬品が入っております。世界でも、我が社だけが開発に成功した、
 特殊な薬品です。無色透明。無味無臭。ほんの一滴、口にするだけで心臓停止。もちろん、現在の科学では全く
 証拠は検出されません。まさに”夢”の薬品で・・・・・。」




−数分後

男がマンションから出てきた。口元に満足げな微笑をうかべながら。

スーツの胸の内ポケットは膨らんでいた・・・。




=数時間後

男はオフィス街にいた。

大きなビジネスビルを目指し、まっすぐに歩いていく。

やがて目的のビジネスビルに着くと、男はロビーに立ったままじっと待った。

午後六時をまわった頃・・・。

エレベーターから降りてきた、一人の恰幅のよい紳士にむかって、男は静かに歩み寄った。

「失礼します。大河内武彦さまですね?」

「・・・・・えーと。失礼ですが、どちら様でしたっけ?」

男は名刺を差し出すと。

「はじめてお目にかかります。わたくし、こういう物ですが。」

「君!飛び込みの営業だったら、ちゃんと受け付けでアポを取ってきてもらわんと!」

男は紳士の言葉を遮ると、耳元で静かに囁いた。

「実はたいへん緊急なお話しなのです!ある人物、大河内さまにごく近いある人物が、陰謀を企てております。
 それは新種の毒物。現在の科学では絶対に検出不可能な毒物で、大河内さまを殺害するという企てです。
 その毒物は、無色透明。無味無臭。たった一滴で心臓停止、という非常に猛毒で・・・。」

「な!な!なにをバカな!!」

男は慌てずにゆっくりとアタッシュケースを開けると、中から小壜を取り出し、こう言った。


「これは新種の薬品です。どんな毒物でも、たちまち解毒するという薬品で・・・・・。」





2004-02-17 14:58:40公開 / 作者:小都翔人
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この作品に対する感想 - 昇順
いいですね。なるほどーって思いました。でも毒盛られたら解毒剤飲む前に死んじゃうような?心臓停止したら動けないですよね
2004-02-17 17:03:32【★★★★☆】風
なんだか不思議なストーリーだったです〜。。
2004-02-17 19:51:43【★★★★☆】葉瀬 潤
こんにちは。では……。私も人のこと言えないのですが、少し無駄な改行が多いかと思われます。内容的には面白い方だと思います。確かに、オチが読めちゃいましたが……。SSのサイズとしても丁度良いほうだとおもいますよ。あとは作法。次回作も頑張って下さい。
2004-02-18 17:39:32【☆☆☆☆☆】星月夜 雪渓
葉瀬様>いつもお読みくださってありがとうございます。励みになります。風様、星月夜様>的確なご指摘ありがとうございます。勉強させていただきます。今作は、アイデア先行で走ってしまったため、もっと細部まで見直すべきだったと反省です(^-^;
2004-02-19 12:34:43【☆☆☆☆☆】小都翔人
計:8点
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