『私立森之宮女子大学付属高等学校 ?〜最終話』作者:唯崎 佐波 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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第一話 『あぁ〜春よ!』


春の日差しが差し込み、桜が咲く季節。私立森之宮女子大学付属高等学校では入学式が行われてた。

「それでは、これより第95回入学式を行います」
ここ私立森之宮女子大学付属高等学校は小学校からのエスカレーターだが、高等部からの入学者の
入学式が行われているのだ。
「学校長の祝辞」
教頭らしき人が入学式の進行をしている。壇上にはスーツ姿の若い男。学校長だろう。男が壇上の前に立
つと会場から拍手がもれた。これから長い挨拶がはじまるのだろう。
「暖かい春の日差しの中、桜が満開になり、その中でこの記念すべき95回目の入学式を迎えられた事、
とてもうれしく思います。みなさん、これから始まる高校生活を充実じておくれるようにわたし森之宮正を
初めとする教員全てが願っています。これをもって祝辞とさせていただきます」
会場からまた拍手が沸いた。思ったより短くてホッとした。
式は進み、数々のお偉いさんの祝辞を終えた。
「新入生代表の言葉、森之宮真」
「はい」
パイプ椅子に座っていた女子生徒が席を立ち、壇上に上がった。
「・・・・・俺は男だぁ〜!!!!」

ガバァ!!
「いててっ・・・・。夢か・・・・・」
俺は今日、私立森之宮女子大学付属高等学校に入学する夢を見た。いや・・・・本当に入学するのだが・・・・。
嫌な現実をまさか夢にまで見るとは。俺はその勢いでベットから落ちた。部屋のクローゼットを開けると高校
の制服がかかっている。白のワンピースに左胸に校章。胸には青いリボンだ。これを・・・・今日から3年も着な
ければいけないのだ。最初に言っておくのだが、俺は男だ。森之宮家は代々20歳になるまでは長男は女になり
きらなければいけないのだ。もともと森之宮家は琴を奏でるのが主流だった。しかし今では並んでやっていた
学校業が主流になってしまった。それにも関わらず、琴の主流だった時代の掟がまだ残っているのだ。なにやら
琴を奏でるには女ならではの体のしなやかさとかなんたらかんたらが必要らしい。まぁその掟のせいで俺は
女子高に通わさせられるわけだ。
「あら、おはようございます。真さん」
「・・・・・おはよう。母さん」
「ぷっ」
「あ!こら!そこ笑うな!!」
縁側で胡坐をかきながら新聞を読んでいた俺の父は横目で俺の姿をみて小さく笑った。俺は今、高校の制服を
きているのだ。生まれて16年。振袖は渋々ながら着こなしてきたので今はもう抵抗はない。でもスカートは・・・・。
「よく似合ってるわよ。真さん。こっちに来なさい髪、やってあげますよ」
母は俺を鏡の前に座らせて髪をいじりだした。ロングヘアーは幼いころからだったのでもうなれた。
「なぁ・・・父さん。やっぱ俺、行きなくない・・・・」
鏡に映った自分は自分で言うのもなんだが完璧に女だ。
「俺だって昔はその制服で女子高に通ってたんだよ。文句言うな。お前今まで散々自由にやってきたんだから」
「う゛」
本当は俺は森之宮は小等部から通わなければいけなかったのだ。でも俺はわがままを言って普通の公立小学校・
中学校にも通っていた。
「そうですよ、真さん。無理言って二つの学校に9年も通っていたんだから」
そう。俺は森之宮にも通っていた。病気がちのか弱い女の子を装って。いつも外で走り回っていた。
「文句を言わずにさっさと朝食をとりなさい。学校まで俺の車に乗っけてってやるから」
「わかったよ・・・・。母さんで来た?」
母さんはにこりと笑って肩を叩いた。鏡の前にいる自分は女。髪は女の子っぽく青いリボンで止めてあった。長い
後ろ髪はそのままに頬の横の髪だけを止めていた。
「あ、そうそう。お前、今日の新入生代表の言葉おまえだぞ?わかってるのか?」
「うん。たぶん大丈夫。でもなんで俺なの?」
「ん、ん〜?真?今なんて?」
わざとらしくのどを鳴らす父。俺が髪をやってもやっている間にお手伝いさんが作った朝食を食べている。
「なんで私なのかしら?お父様?」
俺はニッコリと笑って父に尋ね返した。父もニッコリと笑っていた。そこには冷たい空気が流れている。
「代々森之宮家がやっていることだからですよ。真」
「あ〜そう・・・・」
俺はこの「代々森之宮家」という言葉が嫌いだ。俺も席についてやけくそになって朝食をほうばった。
「まぁ、まぁ」
母さんがそんな俺をみて笑っている。父さんは「はぁ〜」とあきれていた。そんな父さんをみてさらに口いっぱいにご飯
を放り込んだ。これから始まる『悪夢』といわれる現実に立ち向かう為のエネルギーを十分に補給しとかなければ。

空は青く、雲ひとつない。桜の花は満開で風に花びらを躍らせている。全てが春。
これから『森之宮女子大学付属高等学校』で真の楽しい高校生活がはじまる!! 


第二章  『新しい出会い!禁断の恋の始まり?!』

「きゃ〜! 真様よ!」
「真様〜! 高等部の制服もお似合いだわ!」
「お久しぶりにお目にかかりましたわ! もうお体は平気なのかしら?」
「相変わらずおきれいねぇ〜!」
(ほら! 真!笑顔で手を振ってやりなさい)
父さんが俺に目で訴えてくる。俺がこの高等学校に来たのは初めてのことだ。小、中等部ではなぜか俺は有名らしい。
まぁ。父さんがこの学校の総合責任者、つまり理事長、校長ともいうのだがそうゆうことなので有名なのだ。森之宮は
超お嬢様学校。そんな大学付属のご令嬢はさぞ有名なのだろう。
「御機嫌よう」
俺は作り笑いを振りまいて手を振った。ただそれだけのことなのに回りは「キャー」っと絶叫している。女にキャーと言われる
のは悪くないが、俺は男友達と馬鹿やって騒いでたほうが断然好きだった。そんな俺を見て父さんは満足げにそして嫌味
っぽく笑っていた。その顔はすっごいムカついた。
「それじゃ、真。お父さんはここから理事長室に向かうからお前は教室に行きなさい」
「わかりましたわ。お父様。それだはまた後でお会いしましょう。御機嫌よう」
あぁ!なんで俺は最高の『いい娘』を演じるとあの時約束してしまったのだろう! 一生の不覚!
そう・・・・あれは11年前・・・・
「なぁ! 父さん! 俺森之宮にはいきたくねぇ〜よ。そこには女子しかいないんだろ? 俺今まで見たいに男の友達と
一緒にいたいんだ!」
5歳の俺は小学校に着ていくという制服をみて青ざめていた。幼稚園で女が着ていて男が来ていないものを着るというのが
すごくいやだったのだ。今でも嫌だが。そのことを言っても父さんは聞き入れてくれないと思ったからそう言ったのを覚えている。
「・・・・・それ本当の理由?」
あの頃の父さんは俺の心を読めていたのだろうか?と思うことが何回もあった。あの時も俺の心の中を完璧に見抜いていた。
のだろうか?
「ちがう・・・・」
「本当は?」
「女の制服がいやだ・・・・」
俺は父さんの機嫌を伺うように顔を見上げた。予想外にも父さんはニッコリと笑ってこういった。
「いいよ」
「え?」
「だからいいよ。普通の学校にも行きたいんでしょ?」
俺はうんうんと頷いた。
「だったら両方通いなさい」
「両方?」
父さんはさらに笑った。今覚えばあの笑顔には絶対裏にがあったのだ。
「そう。両方。でも高等部からは『いい娘』になってお父さんの言う事を絶対に聞くと約束しなさい。もしその約束を破ったら・・・――」
この先の事はよく覚えていない。ただその約束を破るとどうなるのかがすごく恐い。あの父のことだ、何かすごい事を言ったのだろう。
記憶を吹っ飛ばすくらいの。だから俺は父さんを裏切る事は出来なくなってしまった。この春、高校生になった俺は完璧な女を演じ
なければいけない。あの頃はウソだったのだが今は本当に男友達と一緒にいたいと思っている。どっちかというと女はニガテだ。
何かと口うるさいし、怒るとすぐ泣く。こうゆうのが全てだとは思っていないがこのお嬢様学校はだいたいそうなんだうな。
「真様! もうお体は大丈夫ですの?」
「はい。もう大丈夫ですわ。皆様には今まで大変ご迷惑をおかけしました」
ニッコリ笑うとその女子は顔を真っ赤にして「よろしいのですわ」といって俺の前から去っていった。これはちょっと楽しいぞ。
「真様! 高等部からは毎日ご登校なされるというのは本当ですの?」
また違う女子がやってくる。教室までの道のりにいったい何人話しかけてくるのか記録を作ってみようか?!
「えぇ。本当ですわ。これからお友達として仲良くしてください」
これまた「こちらこそ」と真っ赤にして去っていった。そんなこんなで俺は教室に行くまでに10人に達するだろうという数の女と話した。
この記録は俺が生まれて16年の中で一番多い回数だろう。公立にいた時も何人かの仲のいい女子はいたのだが、いくらなんでも
ものの10分で10人はなかった。教室の着いたときにはもう俺は何気にこの学校生活は楽しいと感じられるようになってきた。この
学校にあの親父が通っていたというのは考えるだけで笑えた。教室に入ると「真様!」という声はますます強くなった。
「なんなの!? さっきから! あっちでも真様。こっちでも真様ってうっさいなぁ! いったい誰なの「真」って! こっちは生徒会
の仕事で朝早くて眠いって言うのに! 人の睡眠を妨害して!」
女子の騒ぎが最高潮に達したときに一人の女子が声を荒げた。このお嬢様学校にもそんな人がいたとは・・・・。ちょっとビックリ。
でも在校生高等部だけでもゆうに800人はいるのだろうだから一人くらいはそんな人もいておかしくない。逆にいえばそんな中で
この俺を知っている人のほうが少なくてもいいはずだ。
「ちょっと! 龍ヶ崎さん! なにをおっしゃっているのですか?!」
俺の周りにいた取り巻きの一人が大きな声をだした。確か名前は・・・・・なんだっけ?
「いいのですわ。悪いのはわたくしです。わたくしが森之宮 真でございますわ。なにやらわたくしの事で大切な睡眠を妨害して
しまったらしく、申し訳ありませんでした。龍ヶ崎さん?」
彼女の前にたって俺は頭を深々と下げた。悪いのは俺だ。素直に謝ろう。しかし俺が頭を下げた事にショックを受ける奴もいたらしい。
「へぇ〜・・・・。あなたが噂の『真様』? 森之宮ってことはこの学校の理事長のご令嬢ね?」
いや。本当は『ご子息』だが。内心で笑っていた。思ったことを表情に出さないのは難しい事だったが、俺は必死に自分の感情を
抑えた。
「はい。森之宮正の娘ですわ」
笑ってみた。でもこの人には俺の笑顔は通じないだろうな。
「真様! 龍ヶ崎さんはお相手なさらない方がいいですわ」
さっきの人がこの、龍ヶ崎という人をいかにも軽蔑するような目で見ている。俺、こうゆうのは嫌いだ。
「・・・・・・」
「あぁ! うっさいなぁ! 宮薗サン? おれはこの森之宮 真と話してるの。あんたには関係ないだろ?」
龍ヶ崎も龍ヶ崎で宮薗サン? に対してかなり軽蔑しているようだ。それにこの学校にも『おれ』なんていう人が・・・・。この人には
本当に驚かさせられるな。
「な! おれ?! あんた?! あなたなんて言葉使いを?!」
宮薗サンは顔を真っ赤にして怒っている。
「で? なんであなたはそんなにもご有名のですか? 森之宮 真様?」
明らかに俺に対しての嫌味だ。ムカつく・・・・・。
「・・・・・っ」
「あなた本当にこの森之宮の生徒ですの?! この学校で真様のことをご存じないのはあなただけですわよ?! 恥を知りなさい!」
俺の言葉より先に宮薗サンの声が先に飛んだ。今度は龍ヶ崎サンを宮薗サンが腕を組んで嘲笑っている。自分を知るか知らないかで
こんなにいわれてる俺は結構照れるぞ?
「恥? お前なに言ってるんだよ!? おれにとっては『真様〜』って黄色い声だしてるあんたらのが恥だぜ? なに女同士でキャー
キャーいってんだよ? みっともねぇ!」
今まで座っていた龍ヶ崎が(もうサン付けめんどいからやめた)バン!と机を叩いて立ち上がり、宮薗に近づいていく。宮薗は一歩引き
下がった。このままでは女の殴り合いがまじまりえない。
「おやめなさい! 麗美さん。真様の前で・・・・。龍ヶ崎さんの言うとおりみっともないですわよ」
「霧ノ宮さんっ!でも・・・・!」
今までの勢いとは打って変わってしおらしくなる宮薗。その目線の先には長い黒髪の女が立っていた。俺はこの女に見覚えがある。
「お久しぶりです。真様。お覚えで?」
宮薗のことを完璧シカトしている。
「・・・・優麗さん?」
彼女の顔がパァと明るくなる。
「覚えていただいていたのですね! 真様! わたくしとても嬉しいですわ!」
覚えているも何も、1週間くらい前に家に来たのだ。そのときは私服だったが顔ははっきり覚えている。なにせあんなドレスを着てい
るのだから・・・・・。なにやらこの人はうちの親戚らしい。あの日は振袖着ていっぱいの愛想を振りまいたのでよく覚えている。
「えぇ! 優麗さん。またお会いできて嬉しいですわ」
「こちらこそ! 真様! 振袖もお美しかったですが制服もよくお似合いで!」
複雑な気分だった。
「ありがとう」
苦笑してしまった。クラスの中では「真様の振袖みたいですわ〜!」の声が飛び交っていた。彼女は勝ち誇ったようにニッコリと笑い
部屋を見回した。
「それよりなにかありましたの?」
「あ・・・・はい・・・・。なにやらわたくしがいろいろと問題だったらしく・・・・・」
「はっ! なんかもういいや・・・・。やる気なくした・・・・」
龍ヶ崎は投げやりな言葉を残して教室をあとにした。俺のことを睨んでいたのか、飽きれいていたのか分からないような目で見ていた。
「あの、わたくし体調が優れないので医務室の方に行ってまいりますわ」
俺は龍ヶ崎を追いかけるつもりだった。
「まぁ! それは大変ですわ! わたくしもお供いたします!」
優麗はついてくる気満々だった。俺は彼女についてこられるのは困るので大丈夫と言った。少し不満な顔をしていたが、タイミングよく
体育館に移動するようにという放送が入った。生徒は一斉に体育館に向かった。そのどさくさにまぎれて俺の取り巻きからはなれる
ことが出来た。
「ここにいらっしゃったのですね! 龍ヶ崎さん!」
俺は中学のとき、友達と喧嘩して教室を出たときに向かった場所に行った。今日は天気がいい。きっと気持ちいだろう。
「あんた・・・・なんでここが?」
「それは俺が・・・・」
やべっ!
「俺?」
「わたくしが一番好きな場所にきたらあなたがいらしたのよ!」
俺はおほほほと無理やりごまかした。彼女もあまり気にしていなかったようで流してくれた。なんかこの龍ヶ崎には本性、つまり男
の俺がでてしまいそうになる。気をつけなければ・・・・・。
「あんたいいのか? 新入生代表の言葉だろ?屋上なんかにいていいのか?」
お。以外に俺の心配してくれてる?にしてもいいなぁ〜。俺もそのしゃべり方になりたい・・・・・。このお嬢様の言葉遣いは疲れる。
「大丈夫ですわ。まだ時間はありますし。それより龍ヶ崎さんこそいいのですか? 先ほど生徒会だとおっしゃっていましたが?」
「・・・・瑞貴でいい・・・・・」
「え? その龍ヶ崎さんっていうの歯がゆくて嫌なの! 瑞貴って呼べ!」
瑞貴は顔を赤くしている。かわいいとこあるじゃん。
「はい。瑞貴さん!」
俺も素で笑ってしまった。
「お前も普通に笑えるじゃん。」
瑞貴の意外な言葉に俺は驚いた。
「え?」
「さっきからずっと作った笑いしてただろ? お前は普通に笑うのが一番いいよ」
瑞貴の顔は真剣だった。
「真・・・・・」
「え?」
「真と呼んでください!」
こいつには本当のことをいつかきっと話せるだろう。そんなことを思った瞬間だった。
「気に入ったよ! 真!」
二人で顔を見合わせて笑った。瑞貴の笑顔に俺はドキッとした。これはヤバイ・・・・・・!?

桜の舞う季節、これからあってはならない禁断の恋がスタートするのか?!



第三話  『誰にも止められない?!壮絶!女のバトル!?』

「・・・・・・・以上をもちまして新入生代表の言葉とさせていただきます。みなさんがこの森之宮での楽しい高校生生活が送れるように
心から願っていますわ」
最後の方はアドリブで笑顔を振りまいておいた。壇上の上から満足そうに笑う父さんと俺の取り巻きっぽい人たちの姿が見えた。最後の
笑顔はその人たちに向けてのサービスだ。壇上を降りるときチラッと見えたのが瑞貴の不愉快そうな顔。本当は瑞貴に笑って欲しかった
・・・・・?とりあえず瑞貴のあの笑顔が見たかったのだ。今この場でその笑顔を見たかったらたぶん俺は夢で見た通りのことをして父さん
との覚えてもいない恐い約束を破らなくてはいけないだろう。そんな恐ろしい事今の俺にはとてもじゃないけど出来ないな。
「素晴らしかったですわ! 真様!」
みんなが座っている席に戻ると優麗が小さな声で褒めてくれたが全然うれしくない。しかし本当のことは言えないので「あり
がとうございます」と笑った。瑞貴にはばれてしまったが俺の作り笑いというのは結構ばれないものだ。本音が出せないとい
うのは今まで本音しか言ってなかった俺にとっては結構辛いものだ。そう思えばここに通う全てのお嬢様たちはあのしゃべり方が
本当で本当にああゆう性格なのか?すっげー疑問だな。
夢にも出てきた教頭らしき人が司会を進行していく。父さんよりかなり歳いってるじぃさんだけど意識はしっかりしてるみたいだな
。自分で思ったことに自分で噴出しそうになる俺がすっごく嫌になった。
「続きましては理事長様より本年度生徒会役員の発表を行いたいと思います」
会場から拍手が沸きあがる。この学校の生徒会役員は全投票制。事前に投票箱を設置しておき開票は全て先生達の手により行
われる。この生徒会役員になるには多少のお家柄と絶大な信頼が必要となる。生徒の意思だけによって決められる数少ない事な
のでこれはお家にとってとても名誉な事らしい。しかしその仕事というのは華々しさとは裏目にキツイとこもあるらしく・・・・・。キツイ
ことはたぶん裏でなにかあるのだろう。俺は父さんからそんなこと聞いてないからあんま関係ないだろうな。瑞貴は生徒会に決まっ
てるってことか?ということは事前にその収集がかかってるってことだよな! 
「まず、書記は二年 武蔵野崎 加奈 ・ 風潮院 舞妃 ・ 副会長一年 霧ノ宮 優麗  ・ 龍ヶ崎 瑞貴」
名前を呼ばれた人は立ち上がり壇上にあがって行く。名前を呼ばれるたびに拍手が起きる。副会長の二人の名前が呼ばれたとき
の拍手は書記なんかと比べ物にならないくらいだな。二年の事は分からないが、瑞貴と優麗はそうとうな人気者なんだろうな。瑞貴
のサバサバした性格にお嬢様はカッコイイとでも思うのだろうか? 会長はさらに信頼のある人なんだろうな。俺は中学とかあんま
来てないからなぁ! 俺には関係ねぇや!
「そして会長は・・・・・一年 森之宮 真」
は?!名前が言われた瞬間にけたたましい拍手が体育館内に響き渡る。俺は呆然としていたがすぐに立ち上がり、硬直状態で壇上に上
がった。壇上に上がると父さんと瑞貴のいたずらな微笑みが見えた。父さんの近くに行き耳もとでなんでと聞いた。会場のざわめきでその言
葉は他の人には聞こえてはいないだろう。答えは想像できてそれを口にしたら父さんとハモった。『代々森之宮家だから』父さんはニヤッと笑
ってこう付け足した。『わかってるじゃん』その憎たらしい顔をみたらいつもの俺なら殴りかかる勢いだったがここはグッと堪えた。
「皆様ご静粛に! それでは新しく会長になられた森之宮 真様より、ご挨拶をいただきたいと思います」
は?! こんな事聞いてねぇぞ!そんな目で俺が父さんを見るとシラーっとした目でこっちの方を見ようともしていない。俺は心のそこからムカ
ついた。明らかに俺を試してやがる。いいじゃねぇ〜か!  やってやるよ!!
「皆様、今回生徒会長という名誉あることにご任命いただき本当にありがとうございます。初等部の頃からあまり学校にこれていなかったわた
くしですが、これからは他の生徒会役員の皆様と共によりいっそ発展した森之宮になるよう頑張っていきたいと思っています。また皆様の暖
かいご支援も心からお待ちしております。ふつつか者ですがどうかよろしくお願いします」
会場は拍手喝さいだった。短い文章にも俺は精一杯の感情を込めて深々とお辞儀した。役員も瑞貴以外は拍手を送ってくれた。父さんはまぁ
まぁだなって顔で2、3回拍手してくれた。くっそ〜!! うっぜぇ〜!! 拳をきつく握り締めたが顔は笑顔になってると思う。教頭の指示で
壇上から降りて席に戻るとすぐに退場の指示がかかった。
「お父様。少しお時間よろしいでしょうか?」
「・・・・・あぁ。いいよ、真。なにかな?」
「ここではなんなので少し外を歩きませんか?」
「それではなにか上着をとってきなさい。その格好では体を冷す」
「・・・・わかりましたわ。それでは15分後、校庭の桜の木下でお待ちしています」
「わかった」
みんなが出口に向かう中俺は父さんの元へ向かった。なにやらお偉い様たちと話し込んでいたようだったがその中を割って入った。一瞬間を
置いたが父さんは承諾した。少し会話をしたあと俺はお偉い様達に一礼して上着を取りに教室に向かった。その席を離れるさいに俺のことを
褒める声が聞こえた。そんな言葉ちっともうれしくもなんともない。時間を置いての苛立ちが俺を襲っていた。教室に戻るとたくさんのの人に
囲まれた。
「真様! お疲れ様でございます! ご挨拶素晴らしかったですわ!!」
「ありがとうございます。えっと・・・・お名前伺ってもよろしいですか?」
真っ先に近づいてきたのはこの学校では珍しいショートカットのお嬢様だった。
「もちろんですわ! わたくし綾小路 麗華ですわ」
「わたくしは春日 優美」
「わたくしは司ノ宮 麗優」
「わたくしは――・・・」
俺は一人にしか聞いた覚えはないのに次々と出てくる同じような名前。ここに来て今聞いただけでも「麗」や「優」とか「美」とかが多い。
俺クラスの人の名前全部覚える自信ないな・・・・。苦笑していると助けてくれたのはやっぱり優麗と美麗だった。
「ちょっとお待ちなさい。真様がお困りになられているのがお分かりにならなくって?」
「そうよ! もう少し真様の身になって行動しらどうでして?」
最初に優麗、それに付け加えるよに美麗だった。俺にとってはどっちもどっちなんだけどなぁ・・・・。
「あんたら真のなんのつもり?」
俺の心を読み取ったように話してきたのは瑞貴だった。
「瑞貴さん・・・!」
「な・・・・真?!」
瑞貴が俺の名前を呼び捨てした事が気に障ったようで美麗が硬直している。
「・・・・・どうゆうことかしら? 龍ヶ崎さん?」
「そのままの意味ですわよ? 霧ノ宮サン」
冷たい空気が瑞貴と優麗の間に流れる。周りでは「瑞貴様よ!」とか瑞貴を応援するような声も聞こえる。さすがに生徒会に選ばれた
だけの事はあって瑞貴も人気者らしい。
「あ、あの・・・・?」
俺が中に割って入ろうとしたが・・・・・挫折した。女の喧嘩に入ることは経験上やめることにした。俺が昔女の喧嘩に入ったとき、仲裁者
の俺がひどいことをたくさん言われてきづついた上、当の二人はそのことですっきりしたのかケロッと仲直りしやがった。今回は立場が違う
し、原因は俺なのだがとても「やめて」とは言えなかった。
「あなたこそ真様の何のおつもりなのかしら? 呼び捨てになさるなんて、この学校じゃ考えられなくてよ?」
「そのことなら真が、真でいいって言っていったのよ?」
「そんなの社交辞令に決まってるじゃない! そんなことも分からないのかしら?」
「そんなこと私のとりようでしょう? あなたは社交辞令と思うかもしれないけど私はそうとらなかった、それだけのことじゃなくて?」
「それにわたくしたちは真様が困っているように見えましたから、お助けしたまでよ? それに何の文句がありまして?」
「俺にはそれも真が困っているように見えたんですのよ?」
「まぁ! それのどこがお困りになると?!」
「俺だったらそんなのはお断りだね!」
「あなたと真様を一緒にされては困りますわ!」
「困る? いったい誰がどうして困るというの?」
「・・・・・っ! あなたとお話してもらちが明きませんわ!だいたい―――・・・」
お、恐ろしい・・・・・。瑞貴はわざとお嬢様の言葉遣いをして優麗を挑発している。この喧嘩相手が美麗ならとっくに取っ組み合いになって
いてもおかしくはないのだろうが、優麗も相手の挑発には乗らずに自分でも瑞貴に挑発をかけているというすごい展開だ。俺はどうすれば
いいんだ?!誰か教えてくれぇ〜!!
「はい! そこまで! お嬢様方に喧嘩は似合いませんよ?」
教室がざわついたと思ったら喧嘩に入ってきたのは父さんだった。
「理事長!」
「理事長先生!」
「父・・・・お父様!!」
三人それぞれ違う言葉だったが、同じ人物をさしていた。
「はぁ・・・・真、君が15分後というから待っていたのに30分立っても来ないではないか。心配してきてみたら慌てふためく君と二人のお嬢様
が陰険な空気を漂わせてなにやら言い合っているではないか・・・・。なにが原因かは知らないが、君たち二人はこれから生徒会役員として
お互いに助け合っていってもらわないといけないのだよ?」
「はい・・・・」
優麗はしおらしくなっているのに対して瑞貴はぶすっとしている。
「真。君がしっかりしなくてどうすると言うのだね?」
「はい・・・・。申し訳ありませんでした・・・・」
まさか入学早々父さんにしかられるとわ・・・・・。なんかショックだ・・・・。
「はぁ・・・・。真、話は帰ってからにしよう? いいな?」
俺ははいといった。父さんは瑞貴の耳元でなにか言って瑞貴を連れて教室をでた。教室は少しの間ざわついていたが、担任の登場で静けさを
取り戻した。俺は父さんと瑞貴のことが気になった。
「あの! 先生・・・・。気分が優れないのですが・・・・」
俺がそうゆうと先生は一気に青ざめてすぐに医務室に向かうように言ってくれた。優麗たちが付き添うと言ったのだが大丈夫と断った。
俺は教室をでて医務室には行かずに、屋上に向かった。気分が優れなかったというのは本当のことで入学式のことやさっきのことで
身も心もクタクタだった。外の高い空気を吸えば医務室に行くよりずっといいと考えて駆け足で屋上に向かった。ドアを開けようとしたら
屋上から小さな声が聞こえた。最初はなにかモソモソ言っているだけに聞こえたのだが耳を澄ますとそれが歌声だということにきずいた。
俺はしばらくその声を聞いていた。
「誰?!」
俺の気配にきずいたのか歌声の主は歌うのをやめて大きな声を出した。

この歌声の主とはいったい?!

 
第四話   『驚愕の新事実発覚?!ビックリ大作戦!!』

足音がこっちに近づいてくる。やばい! 医務室にいるはずの俺がこんなとこ(屋上)にいたらなんか誤解されるよな!? どうしよう!?
「あ、あの! すみません! 立ち聞きするつもりは無かったのですが、つい声に聞き入ってしまって! 本当に申し訳ありません!」
・・・・?返事が返ってこない。俺は恐る恐る目を開けて顔をみた。
「なんだ! 真じゃん! びっくりさせんなよな!」
「へ・・・・・?」
そこに立っていたのは瑞貴だった。午後に近くなって少し風が強くなっていた。瑞貴は長い髪を風になびかせながらたっていた。
「み、瑞貴さんだったんですか・・・・?」
俺は唖然としてしまった。あの綺麗な歌声が・・・・。
「あぁ。こっちこないか?」
「よろしいのですか?」
瑞貴はうなずいて笑っている。俺もその可愛い笑顔につられて屋上に足を踏み入れた。俺が入るとちょうど強めの風が吹き、俺の髪
も風に大きくなびいた。俺と瑞貴は桜の木が見れる位置まで歩いて腰を下ろした。
「歌お上手なのですね」
俺はお世辞なしにいった。でも瑞貴は目を閉じて首を振った。
「全然ダメなんだよ・・・。こんな歌じゃ」
そうか? 俺には十分上手いと思うけどな。
「プロを目指しているのですか?」
「一様ね。でもたぶん無理だな」
瑞貴は明るく笑い飛ばしているが目はとても切ない。
「・・・・・・」
俺はなんて言ってあげればいいのかわからなくなってしまい黙り込んでしまった。
「やめやめ! こんな話しても詰まんなくなるだけだし!」
わざと場を明るくしようとする瑞貴。
「もう一度、歌っていただけませんか?」
瑞貴は一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑って歌ってくれた。その声は高音なのに力強く、心から暖かいもので包み込んでくれるような
声だった。俺は黙ってその歌を聞き入った。瑞貴が歌っている歌は俺が聞いたことが無い歌だった。
「この歌は瑞貴さんが作曲を?」
こんなときにも自分を偽らなければいけないのはやっぱいりつらい。瑞貴は俺の問いにうなずいた。
「これはな・・・・俺がこの学校に来なきゃいけないって親父に言われたときに思いついた歌なんだ。俺・・・・この学校に来るのがすっごく
いやだった・・・・。今までの友達とか、全部なくして・・・・この俺にはちょっとキツかったんだよ」
瑞貴の表情はなびいている髪とかぶって見えない。俺はさっきまで瑞貴は強い人だと思っていた。でも今の瑞貴にはそんな強さは見ら
れない。この歌には本当に瑞貴の弱い心が映し出されているのかもしれない。
『本当に楽しかったあの頃のまま時が止まってしまえばよかったのに。私の居場所はどこに行ってしまったのだろう? 私の居場所は
どこ? こんな所じゃないはずだよ。あぁ、翼がほしい。どこにでも自由な空に飛んでいけるような翼が。純白じゃなくてもいい、未完成
でもいい、翼さえくれればあとは自分の力で飛んでいけるから―――・・・・・』
「俺の夢はさ、俺の歌をたくさんの人に聞いてもらう事なんだ! 真は夢とかあるの?」
俺の夢・・・・・俺の夢は絶対に叶えることは出来ない。俺は森之宮を継がなければいけないから。
「瑞貴さんならきっとその夢、叶えることができます! 頑張ってください!」
「あ、あぁ・・・・?」
「それでは、わたくしは教室に戻りますわ。御機嫌よう」
この場にいるのがつらくなった。夢を持ってそれに向かっている瑞貴と一緒にいるのが。だからこの場を離れた。早く、早く本当の自分を
出さなければいられなくなった。屋上をでた俺は教室には戻らないで使われていない音楽室に駆け込んで鍵を閉めた。息を落ち着かせて
から俺はピアノの前に座った。ピアノを開いてテンポの速い曲を勢い良く弾いた。それから、どのくらいピアノに向かっていたのわからない。
指が動かなくなるまで弾き続けたいと思った。
「ずいぶんと乱暴に弾いているな。お前の心そのままだな」
俺はピアノを弾くのをやめた。指を止めてはじめて自分が長い間ピアノを弾いていることに気づいた。額からは滴れるほどの汗を掻いていた。
「父さん・・・・。どうして? 鍵は・・・・」
父さんは手に音楽室の鍵を握っていた。
「あぁ・・・・」
「なにかあったんだろ? お前がなかなか帰ってこないって母さんから電話があってな。ここじゃないかと思ったら案の定、鍵がかかった
音楽室からすごい勢いでピアノのおとが聞こえたからな」
「ごめん。もう帰るよ」
俺はピアノの蓋を閉めて帰り支度を始めていた。
「話ってなんだ? ここで聞くよ」
父さんの意外な言葉に俺は黙った。
「お前、龍ヶ崎 瑞貴って子知ってるか?」
父さんの口から出た瑞貴の名前。父さんと瑞貴はなんか特別な関係でもあるのか? 優麗と瑞貴が喧嘩してたときだって父さんは瑞貴
だけ呼び出した。そのあと瑞貴は帰ってこなくて、屋上であの歌を歌っていた。俺はうなずいて父さんの顔を見た。
「あの子な・・・・・」
「瑞貴がどうしたって言うんだよ?!」
父さんは黙ってしまった。
「おい! 父さん!」
「はっはっはっはっ!」
今まで暗い顔だった父さんがいきなり明るく笑ったのに俺は拍子抜けしてしまった。
「な、なに?!」
「入っておいで・・・・・プッ」
笑いを堪えながら父さんが入り口の方を向き、誰かを中に呼び込むようだ。そして俺は入ってきた人に呆然としてしまい、言葉も出なかった。
「み、瑞貴・・・・・さん?」
瑞貴も父さんと同じように笑いを堪えながら入ってくる。
「よっ! ・・・・悪いな・・・」
なにに対して俺に謝っているのだろう? とにかく、瑞貴は俺が男だといことを知っていたという事なのか?
「どうゆうこと・・・・?」
父さんは腹を抱えて笑うだけ笑ったあと、まじめな顔をして言う。
「つまりだな、真。瑞貴君は知っているのだよ。君が男だという事を」
俺の頭の中は混乱している。
「あ〜つまりな、俺はお前のこと知ってるんだよ。龍ヶ崎は森之宮の割と近い親戚なんだよ」
「し、親戚? でも俺龍ヶ崎なんて・・・・?」
「龍ヶ崎と森之宮は表では何の関係もないんだが、裏ではいろいろな関係があってな。さっき父さんが瑞貴君を呼んだのはお前のこと
を教える為だったんだよ。そんでこのビックリ大作戦をな」
俺は少し黙って頭の中を整理した。え〜っと、つまり、俺と瑞貴は遠い用で割りと近い親戚なわけで? 瑞貴は俺が男だという事を
知っていると。んで? それがビックリ大作戦?! 俺をおちょくっているのか!? 怒りより先に脱力してしまう。父さんの今までで
一番満足げな顔つっこむ気力もない。
「だから・・・・? どうなるの? ・・・・てかビックリ大作戦って・・・・なに? 」
一人で頭の中を整理して辿り着いた結論。だからなんだというのだ?
「だから、これから瑞貴君はお前を守る存在になるわけだよ」
「は?! そんなのいらねぇ〜よ! あれ? ちがっ、そうゆう意味じゃなくて! 」
つい何も考えずに言葉が走った。瑞貴をいらないといっているように聞こえる。俺が言いたかったのは守る存在なんていらない。という
意味で、瑞貴は必要なんだよ?! あれ? 頭がまたおかしくなる! そんな俺をみて瑞貴は笑っている。 
「大丈夫! わかってるよ! 女に守られるのは嫌なんだろ?」
俺は瑞貴の言葉に大きく首を振った。そう! 俺の言いたかった事はそうゆうこと!
「でも真? お前これから森之宮家のご令嬢として過ごすんだぞ? 大げさに言うと誘拐とかされるかもなんだぞ? お前格闘技で来た
っけ?」
誘拐?! ・・・・確かに最近物騒だけど、誘拐なんて? それに、その言い方じゃ・・・・
「待てよ? 瑞貴は格闘技とか出来るのか?」
俺は瑞貴の顔をのぞきこむと瑞貴は満面の笑みを向けている。
「ま、まさか?」
「お前本当に何も知らないんだな? 龍ヶ崎の事」
あたり前だ! 龍ヶ崎なんて今日はじめて聞いた名前だぞ?! その言葉を自分の中に押さえ込んで笑顔で父さんに聞いた。
「それで? 龍ヶ崎は何んなの?」
瑞貴と父さんは顔を見合わせてニタァーと笑う。
「龍ヶ崎といえば」
「龍ヶ崎といえば?」
「「武術の名門でしょ!」」
最後の最後で二人は声を合わせて言う。そのなんともいえないコンビネェーションがムカついた。
「それでもう一つ言っておくけど、瑞貴君は今日からうてで住み込みでお前のボディーガードになってもらうから、くれぐれも
変な気を起こさないように!」
え〜っと・・・・・今父さんはなんと?俺の耳にはたしか・・・・
「は?! 住み込み?!」
二人はまたニヤニヤしてうなずいている。住み込み・・・・これはいいことなのか、悪いことなのか・・・・・?
「よろしくお願いします。真サマ」
いたずらに笑う瑞貴と自分の顔が赤くなっていくのを感じる俺。

    これから新しい恋の進展があるのか?! それとも・・・・!?


第五話 『真様誘拐!!絶体絶命大ピンチ!』

「真様! おはようがざいます! もう朝の7時になりますわ! そろそろお目覚めください!」
俺を起こす声が聞こえる。もう毎日の日課になっている。この声は・・・・。
「・・・・・うるさいぞ! 瑞貴! まだ7時だろ!」
瑞貴と暮らすようになって早3ヶ月。4月に俺の専属ボディーガードなったのは龍ヶ崎 瑞貴。俺と同い年の女子にもかかわらず武術の達人と
いうのだ。まぁ、お家柄というやつだな。龍ヶ崎というのは全国にも有名な武術の達人というのだ。俺、森之宮の親戚だというのだが、
3ヶ月前に父さんに聞かされるまではちっともしらなかった。未だにこの瑞貴が武術の達人だという事は俺は信じる事が出来ない。
ただこの瑞貴は歌がうまい。そのことは3ヶ月で存分に知る事が出来た。自分ではこのくらいの人はたくさんいるからプロにはまだまだ
なれないといっているのだが、その辺でわけのわからない歌を歌っている人よりかは断然に上手い。おせっかいな事を除けば性格も
顔もそれなりによいだろう。初めて会ったときはまじめに惚れていたかもしれない。今もたまにドキッとする事はあるのだがそれは俺が
男であいつが女なのだからしょうがない事であろう・・・・・たぶん・・・・・。俺と暮らすようになってからこいつも少しは女っぽくなってきた。
最初のころは『俺』とかいったりまるっきり男と言葉だったのだが最近は割りと女の言葉遣いもするようになってきていた。行動もな。
まぁ・・・まだ男言葉に方が多いかもだけど・・・・。そんなことを思い出している朝、瑞貴が本当に武術の達人だという事を思い知らされる
事件がおきた。
「もう! 7時なの! 真! 今日は朝礼があるの! いつもより真は30分早く学校に行かなきゃ行けないの! そのこと分かってんの?!」
え・・・朝礼・・・?布団に丸まってなかなか起きてこない俺に瑞貴が怒鳴る。俺はそのことを聞いて布団から飛び出る。
「おま! そのこと早く言えよ!」
俺は瑞貴がいるのをお構いなしに服を脱ぎ捨てて制服に着替えた。さすがに3ヶ月もきればスカートというものにもすっかりなれた。制服も
冬のつながったワンピースから夏の半そでのワイシャツと紺の短めのスカートに変った。スカートと同じ色のベストも個人の暑さ調節で自由に
着ても着なくてもいいということになっている。今日はまだ7月の初めだというのにやけに暑い。俺も瑞貴もベストは着ていない。瑞貴も俺の
着替えなど気にはしていないようだ。本当は気にした方が言いと思うが・・・・。今はこっちがそんなこと気にしてる場合じゃない。
「父さん! 早く車出して!」
俺が3分で着替えてリビングに下りていくとコーヒーを飲んでいる母さんの姿しか見えない。
「正さんなら昨日からの出張でいませんよ? 真さん、どうかなさいました?」
正というのはうちの父さんのこと。あ〜! そうだ! 忘れてた! この3ヶ月完璧なお嬢様をやってきた俺としたことが! いまさらになって
遅刻なんか許されない! でも全力疾走なんてしてるとこを見られてもまずいし・・・・あ〜! 神様! 俺はどうしたらいいんですか?!
「真! こうなったら変装でも何でもするのよ!」
そういって瑞貴が持ってきたのはサングラスとヅラだった。
「な、お前そんなものいったいどこから」
俺の知る限り、森之宮家にはそんなものない。
「そんなこと今は気にしてる場合じゃないでしょ!」
それはそうだ・・・が、俺の性格上とても気になる。学校で聞こう!
「俺は投げ渡されたサングラスをつけた。ヅラは絶対に嫌だと断り髪をまとめて帽子の中に押し込んだ。時間は7時10分。学校までは俺の
知るどんな通りを全力疾走で通っても最低30分はかかる。しかも俺はここ数ヶ月全力で走った事はない。お嬢様生活にすっかり慣れてしまった
からだ。
「・・・・・今日は学校お休みしたらいかが?」
母さんの指摘でバタバタしていた俺と瑞貴の体は止まった。そんなことちっとも全然まったく考えていなかった。確かにそのほうがこんなにも
焦らずにすんだ。しかしここまでばたばたにやったらしかたない・・・・。
「な、なにを言うんだ母さん! なぁ・・・瑞貴?」
「そ、そうです! おばさん!」
「「それじゃ! いってきます!」」
しかし、ドアを開けてすぐ俺は目を疑った。いつものように父さんの車が止まっていたからだ。確かにきのう、
父さんは出張に行くといいこの家を出て行った人の車がなぜここにあるのだ? 俺は疑問におもいサングラ
スをはずし父さんと同じ車の方へ近づいていった。
「真! 待った!」
瑞貴が俺を止める声が聞こえたが俺は大丈夫だろうとおもいその声を無視した。瑞貴が俺の腕を掴もうと
したとき、もう俺は車から手の届く範囲にいた。ことは一瞬の出来事で俺には全然理解できなかった。
俺が少しは警戒しながらもその車の後部座席をノックしようとしたとき、いきなり後部座席のドアが開いて
二人組の男が俺を無理矢理車に押し込もうとする。俺も少しは抵抗したがいきなりのことだったということと
大の大人の男しかも2人組みだったこともあってあっさりと車に押し込まれてしまった。
「真!」
瑞貴が俺を呼ぶ声が聞こえたが俺にはわけがわからなくて声を出す暇もなかった。
車に押し込まれてからは記憶がすぐなくなって気づいたときには見たことも聞いたこともない場所に俺はいた。
両手両足も縛られていなければ目も口もちゃんとつかえる。その上俺は綺麗なベットの上で寝かされていた。
部屋は広く、ピンクで統一されている。俺はピンクという色が好きではないから気持ち悪くなってくる。
「ここは・・・・?」
俺がそうつぶやくと部屋は暗くなり大きなスクリーンが姿を現した。
「モリノミヤシンサマ、ヨウコソオイデクダサイマシタ」
スクリーンにはロボットが映し出され片言をしゃべっている。
「ここはいったいどこなのですか?」
たぶんこの部屋には監視カメラやマイクが仕掛けられていて俺の行動や何もかもが見られているのだろう。
もしもの事を考え、俺はお嬢様を演じる事にした。ここで俺が男になってそのことを犯人に脅迫されたりしたら
困るからだ。犯人は森之宮のご令嬢の『真』を誘拐したわけでご子息とは思っていないのだから。
「ココハ、ヘヤデゴザイマス」
そんなことは分かっている。どこにあるのかが知りたいのだ。ここでキレたら終わる。スマイル、スマイル。自分に
言い聞かせる。
「わたくしをさらったわけをお聞かせいただけますか?」
ロボットは生意気にも驚いた顔をしている。
「サラッタノハボスノメイレイダ。ココニツレテキテカンキンシロトイワレタ」
なんだこいつ。人が下でにでればいきなりタメ語になりやがって。本当にロボットにくせに生意気だな。
「オマエオンナナラ、ソコノイショウダンスにアルドレスヲキテボスノマエニコイ」
ムカつく! 今度は命令形かよ! いいじゃねぇーか! 行ってやるよ。ボス様のところにでも何でも!
「わかりましたわ」
俺は怒りを抑え笑顔でロボットに言ってやった。電気がつきスクリーンは元あった場所に収まった。
俺は衣装ダンスの方へ行き、タンスをあけ愕然とした。そこに入っていたのはヒラヒラノスカートのドレスや、背中の
ぱっくり開いたドレス、かと思えばシンプルだがミニスカートなドレス。どれもこれも男の俺にとっては最悪だ。
俺はタンスの中を必死で探し、一番ましなドレスに着替えた。着替えもなるべくすばやくカメラがどこにあるか分か
らなかったので入り口の方を向いてカメラには背を向ける形で着替えた。着替えが終わるとすぐにスクリーンが下りてきて
またあのムカつくロボットが出てきた。
「ナカナカニアッテンジャン」
くぅ〜! 本当に腹立つ!
「あ、ありがとうございます」
ロボットはニヤニヤ親父みたいに笑って次の指示を偉そうにだした。
「ドアカラデロ。ソトニデレバアンナイガカリガオマエヲボスノトコロマデツレテイク」
「分かりましたわ」
俺はムカつくロボットの指示に従い、外に出るとそこには本当に女の人がいた。メイドの衣装を着ていたが
服の色は黒かった。
「あの・・・・」
俺が話しかけると何も言わずに歩き出した。俺もそのあとについて歩いた。着たことのないドレスで足元が
しっかりしない。メイドは俺を違う部屋に連れて行った。その部屋の前でメイドは足を止め、俺も止めた。部
屋に入るよう指示され俺はメイドに一礼して部屋に入った。そこにはまた違うメイドが二人いた。部屋には
大きな鏡があり、そこに一脚のイスがあった。そこに座るよう指示され俺はおとなしくそこに座った。なにを
されるかとおもったが俺は意外な事をされた。化粧だ。やったこともやりたいとおもった事もない化粧をやられ
もう一人のメイドには髪をいじられた。もう俺はなにをされているんだか分からなく、言葉も出なかった。
「あ、あの!」
俺がやっとの思いで言葉を発したあとにはもう全てが完成していた。鏡の前に座っているのは本当に俺な
のか? 自分でも自分が誰なのか分からなくなってしまうくらいだった。メイドに部屋を追い出され、外に出ると
さっきと同じメイドがそこに立っていた。なにも言わずに歩き出すメイドに俺はしかたなくついていった。
「あの、どちらに行かれるのですか?」
答えは期待していなかった。
「・・・・・・」
やっぱり返事は返ってこない。無言のまま俺は次から次へと部屋から部屋へと連れまわされ、いろいろな事を
され1時間くらいたちようやく食堂っぽいところに案内された。暖炉のそばの一番くらいの高い人が座るところに一人の人
が座っている。マスクをしていて顔は見えない。
「いったいなにが目的なのですか!?」
俺はお嬢様でも出せるであろう位の声をだした。
「なかなか似合っているじゃないか真」
声は変声機が使われ俺には誰だかわからない。
「あなたはどなたなのですか?!」
俺は一歩一歩ゆっくり近づいていく。
  外では夏を知らせる風が静かに吹いている・・・・


最終話 『感動の再会?! 二人の気持ち』

「真!」
俺の声には反応せずに真は車に押し込まれた。一瞬の事だ。あいつらはプロだろう。真の隙に入り込み腹に一発と首筋に
一発。気失っただろうな。俺は3ヶ月前真の専属ボディーガードとしてこの森之宮に住み込みでやってきた。真が誘拐されたとき
手も足も出なきゃ意味ないな。一人でため息をつく。真がいなくなってすぐに真の顔が浮かんでくる。この3ヶ月なんだかんだで
結構たのしかったな。中学のときはただお嬢様学校が嫌でサボってたけど高等部になって真がきてから今まででは考えられない
くらい森之宮が楽しくなってた。あいつに比べれば俺なんか全然かわいそうじゃないしな。俺は自分に気合を入れる為に自分で
頬を叩いた。
「よし!」
現場を調べてみる。落ちていたのは真が変装に使っていた帽子と木の陰にあった白い封筒。俺はそれを握り締めて家の中に戻る。
中では皐さん(真のお母さん)が相変わらずコーヒーをすすっていた。
「皐さん! 大変です」
「どうかしました? 瑞貴さん」
ゆったりとしていてまったく緊張感がない。
「真が、真が誘拐されました」
ガッチャーン
マグカップが床に落ちて粉々になった。皐さんの顔は真っ青だ。落ちたマグカップをお手伝いさんが手早く片付ける。
「どうしましょう! 瑞貴さん! 警察にお電話を!」
「待ってください! こんなものが落ちていました」
今むやみに警察に連絡されて真の身に危険が迫るのは困る。俺は封筒を皐さんに見せた。
「読みますよ?」
俺が聞くと皐さんはうなずいた。俺は封筒を慎重に開けて中の手紙を取り出した。
『森之宮の皆様へ
前略
初めまして。今回ある方のご命令で森之宮真様のお身柄を
こちらでお預かりする事になりました。真様の扱いはきわめて
慎重に行うことをお約束いたしましょう。こちらは警察にさえ
通報しなければ真様になんの手出しもいたしません。
真様をお連れしている場所は以下の通りです。
東京都XXX区XX町X−XX−XXX』
手紙にはこのことしか書いていなく、なにが目的なのかはさっぱりわからない。皐さんはこの手紙を読み終わったあとなにかに気づいた様子
で落ち着きを取り戻した。
「皐さん? なにかおわかりに?」
皐さんはニッコリと笑った。
「いいえ。ただ警察には通報さえしなければ真さんは安心だと書いてありましたから」
確かにそうだがなにか裏がありそうな気がしてきた。とりあえず俺は真を迎えに行く事を決めた。住所は書いてあるしタクシーをつかえば
1時間くらいでつく距離という事もわかった。
「いってきますね」
「いてらっしゃい。お気をつけてね。瑞貴さん」
皐さんの余裕がすごく気になる。
「いってきます」
俺はタクシーを大通りで拾って乗り込んだ。住所の部分だけ書き写した紙を渡してあとはいろいろな事を考えた。誘拐犯の目的とか真の
安否とか。でも結局何もわからなくて浮かんできたのはここ3ヶ月の真の姿だった。あ〜! 俺はなんでこんなに真のこと考えてるんだよ!?
自分でもわからずに頭をかきむしる。女の子らしからぬ行動だと自分で反省して髪を整えた。運転手からしてみれば俺は不思議な子だろう。
予想よりも早く目的地近くまで来た。運転手によると東京の郊外であるここに最近大きな城のような家がたったという。
「ここ・・・・?」
俺が来たのはまさにその新築の城だった。一様だめもとでインターフォンを押してみた。返事はなかったが音もなく自動的に扉が開いた。
俺が来たことはもうわかっているらしい。監視カメラがいたるところにありそうだもんな。俺はゆっくりと中に進んでいく。城の中は外に比例
してすごい。高そうな絵画や美術品が並んでいるし、天井には立派なシャンデリア。そのすごさに愕然としてしまう。
「ようこそ」
耳元でいきなり声がする。俺は振り返る。そこにいたのは若い男が一人。誘拐犯にすればなんだかおかしな行動だ。一人で俺の前に姿を
現すというのは。
「・・・本当に真を誘拐したの?」
男は笑いながらうなずく。
「目的は?!」
男は知らないという顔をしている。俺を軽くにしかおもってないらしい。龍ヶ崎の後とりもなめられたものだ。俺は構える。
「ちょっとまった! 俺は別に戦ってもいいけどここじゃつまんないからやるならもっといいとこ行こうよ」
男はそういって歩き出した。俺はその男の後についていく。どこで戦おうと同じだと思う。
「はいここね」
連れてこられたのは大きなドアの前。中にどんな部屋があるというのだ?
「ここは・・・・」
ドアが開き部屋の中の様子が明らかになる。中は広い講堂になっていて2階まで吹きぬけになっている。
「お探しの方はあちらで間違いありませんか?」
ドアが開き誰かが入ってくる。俺は目を凝らし姿を確認する。瑞貴だ。俺が誘拐されて俺を迎えに来たのか? 
俺すっげぇーかっこ悪いじゃん・・・・。こんなに体縛り付けられてるし口にガムテープでなにもいえないし。食堂
でいきなり男に取り押さえられてこんな服のまま瑞貴に会うことになるとは。何とか自力でこの縄ほどけないか
な? 俺は体を左右に揺さぶってみる。なんとか抜け出せそうかも。
「あんたと戦って勝てば真持って帰っていいの?」
俺を指差して瑞貴が言っている。戦うって・・・普通うにいうなよ・・・・。男は笑っている。男のが全然強そうだし。
「もちろんですとも。しかし・・・・私だけではご不満でしょう」
そういって男は指を鳴らす。それと同時に5人の男がまた部屋に入ってくる。また強そうな人が続々と・・・。
「その人たちとも戦うの?」
瑞貴は普通の顔をしている。この精神力はほめよう。タフだな。
「はい。是非ともお相手をお願いします」
男はいったって紳士的だ。
「それじゃ! 真を返してもらいます!」
瑞貴は笑いながら戦いの姿勢をとる。腰を低くして両手を上げている。相手の男達、あとから入ってきた人たちも
構える。全員一斉に瑞貴に飛び掛るつもりか?! それは紳士的ではない。しかし相手はそんなことまったく
気にしていないようだ。
「はっ!」
素人の俺にはなにが起きたのかまったくわからなかった。瑞貴の声が聞こえたら5人全員が床に倒れて
いた。残ったのは元の位置から一歩も動いていない、いや動いていたのだろうけど元の位置に戻ったの
だろう瑞貴と手を叩きながらブラボーといっている男が一人。
「一気に飛び掛ってきた5人の大男の下に入り込み2人には腹に3発づつ残りの3人には首筋に一発づつ。
さすが龍ヶ崎家のお嬢様。なかなかのお手並みでございますね」
あの男は瑞貴の行動を見抜いている。俺には何一つわからなかったのに。しかし・・・本当にあの一瞬で
瑞貴は俺だけのことをしてもとの位置に立っていたというのか? 信じられない。俺は瑞貴の戦いを始め
てみた。
「それはそれはありがとう。準備運動にもならないくらいの弱い相手をね」
弱い? あれが? 俺だったら一人でも一発でやられてたことでしょう。本当に強いんだ・・・瑞貴って。
瑞貴が倒した男が床でうなっている。
「ご不満ですか? それは申し訳ありません。でわ・・・・」
男がまた指を鳴らす。するとまた、今度は3人の男が部屋に入ってくる。
「お手柔らかに」
瑞貴はそういって男にすばやく近づく。男も前の男よりは時間がかかったが次々と床に倒れていく。
「ふぅ〜」
瑞貴が息を短く吐く。俺には今いったいなにが起きたのかまったくわからないぜ。
「こちらの方々も瑞貴さんのお相手にはなりませんでしたか。仕方ありませんね」
男は静かに上着を脱ぐ。
「やっと真打さん登場? 8人でちょうど準備運動って感じになったわ」
そういいながらも瑞貴は手と足首を回している。
「お手柔らかにお願いしますね。瑞貴さん」
「こちらこそ。あしながおじさん?」
男は余裕を見せ付けている。瑞貴も負けていない。今から本当に戦いが始まるのか? そんな雰囲気はまったく
ないぞ?! 俺は瑞貴たちを見入る。もちろん自力で縄を解くように体を揺さぶっている。助けられてばかりじゃ
かっこ悪すぎる。この縄くらいは自力で・・・・。
「「はじめましょう」」
その声で俺は顔を上げる。今度の戦いは俺にも理解できる。瑞貴と男が激しい攻防戦を繰り広げている。どちらも
引けをとらない。素人の俺から見れば力は互角だ。どっちがかっているんだ?!瑞貴のけりが男の腹に決まった。
男はその勢いで後ろに軽くとんだ。お互いの息はかなり上がっている。持久戦になってくると女で高校生の瑞貴が
かなりふりになってくる。俺は心配で見ていられない。もし瑞貴が怪我をしたら俺のせいだ。あ〜!! 頭がいたい!
「真様。こちらに・・・・」
部屋のドアが開きメイドが入ってくる。俺の縄を解き、ガムテープを取ってくれた。
「あ、あの!」
メイドは何も言わずに歩き出す。俺は瑞貴たちの試合が気になったが仕方がない。メイドについて歩く。通された部屋
はさっき男がいた場所。食堂だ。この家の仕組みはわからないが俺の家より広いのは確かなようだ。
「これからはここでゆっくり観戦しようじゃないか。森之宮真」
変声機の変な声で上座の男が言う。俺は座るようにいわれた席に腰を下ろす。部屋の明かりが消され、大きなモニターが
ゆっくりと降りてくる。そして瑞貴と男の戦いが映し出される。
試合の状況はあまり変っていないようだ。

チッこいつやっぱり予想以上に強いな。真もどこかに連れて行かれたし、早く片付けないと俺の体力もヤバイな。
「さすがですね。瑞貴さん。この私に蹴りを核ずつに入れてくる。それだけじゃない。腹部も何回か入っていますよ。しかし
かなり息が上がっていますね。持久戦になったらわたしのほうが有利ですね」
「それはどうも。息が上がっているのはあんたも同じでよ? それに俺は体力には自信あるし」
冷静に分析されるとムカつくな。なんか俺の次の手まで読まれてるみたいじゃん。さて次はどうするかな・・・・。
「次はどうきますか? 瑞貴さん? 私はどんな手でもかまいませんよ」
その余裕ぶっこいてる顔にほえずらか貸せてやりたい。次・・・次・・・次・・・・。
「そちらから来ないならこちらから行きますよ!」
男は体勢を低く構える。ヤバイ。俺の体力の方がまだ・・・。
「そ、そういえばいあんたの名前まだ聞いてないぞ? 俺の名前は知ってるみたいだけど?」
俺は時間稼ぎに話をする。あと少し、あと少しで・・・。その間に次の手も考えないといけない。
「・・・おっとそうですね。私の名前はそうですね・・・ミカエルということにもしておきましょう。名前など、後々わかることです。
さて、瑞貴さん。体力の回復と作戦は練れましたか?」
う。完璧に読まれてる。それにしてもふざけた名前出すな。大天使ミカエルのつもりか? 絶対倒して本名聞いてやる!
次の手は・・・・。
「さ! 戦い(バトル)を再開しようか! ミカエルさん!」
俺も体勢を低くする。ミカエルも同じだ。俺たちはお互いの一瞬の隙に入り込む。俺の体力もだいぶ回復している。
ということは相手もそうなのだろう。う゛。腹に一発。手加減なしかよ。今まで間一髪でかわしてきたのによ。
やっぱり鈍ってる?! 修行サボってたのが悪かったか。真の家にきてから全然鍛えてなかったしな。でも、俺も
相手にくらわすことができた。あの一撃は結構答えたはずだ!
「な!」
ミカエルは何事もなかったのように立っている。俺の攻撃は確かに入った。なにのなんで?! あつになんかつけてん
のか・・・・? 俺の攻撃がまったくきいていない。俺は結構きついぞ。にしてもこの戦法、この攻撃のキレ、俺前一度
やったことある・・・? 知ってる・・・この攻撃のパターン。まさか・・・!!

「瑞貴さん!!」
「大丈夫でしょう。瑞貴君ならもうすぐ気づくはずだ。心配するな」
瑞貴君? このしゃべり方・・・どっかで・・・。そんなことより、瑞貴だ。俺こんなところに座ってていいのか? 俺が捕まった
から俺のためにあいつは戦って・・・・。
「やっぱり!」
「静かに座って見ていなさい! 瑞貴君ならきっと大丈夫だ。もうすぐこの試合の結果も出る」
この人は結果の全てまで知って瑞貴に戦いを? それに試合っていったい・・・。
「どうゆう意味でしょうか? 瑞貴が勝といっているのでしょうか?」
男はうなずく。その顔は満足そうだ。この表情は・・・・? もしかして!? 

「あんた俺と戦った事あるよな? その戦い方俺は知ってるぞ! 和真!」
ミカエルは静かに笑いながらマスクを取る。
「正解。おねいちゃん」
やっぱり・・・・。
「和真・・・どうしてこんな事を・・・? 真を誘拐したのもお前なのか?」
和真は俺の実の弟で今中学3年。受験勉強のために家にこもって勉強してると思ってたのにどうしてこんなとこで手合わせして
なきゃいけないんだよ・・・。はぁ・・・疲れた。俺は方で一回大きく呼吸した。
「だってさ! 姉貴森之宮サンの家に行ってから一回も家に顔出さないんだもん! 俺手合わせの相手いなくてすっごいつまん
ないって思ってたらさ・・・。いきなり面白そうな話が飛び込んできたから・・・つい・・・」
まったく・・・顔ださなかったのは本当だから怒れもしないじゃん・・・。
「まったく・・・」
「でもさ! 姉貴ちょっと弱くなったんじゃないか? 」
む。なにを言う・・・。
「あのね! それは・・・やめた」
あんたが強くなったなんて俺に勝つまで絶対言ってやんない! 確かに修行サボってたから弱くなったかも
だし。
「それは・・・なんだよ!」
「なんでもないよ! それよりあんた少し背伸びタンじゃん?」
やっぱり? とか笑ってる姿見るとやっぱ弟ってかわいいな。久しぶりに顔見ると抱きしめたくなる。
「姉貴、姉貴! 俺さ姉貴に正体ばれたら部屋につれてけって言われたんだけど!」
「ん?」
真のとこにでも連れてってくれるのか?
「いこ!」
「そうだな」

「・・・・あんた!」
俺は男のマスクを力ずくではがす。
「えへ? ばれちゃった?」
ぷつっ
俺の頭の中でなにかが切れる音がした。
「ふっざけんなよ! くそ親父!」
マスクの下から現れたのはニッコリと笑った森之宮 正、つまり俺の実の父親の顔がひょっこりと現れた。
俺の中に今までのいろいろな事が思い出された。部屋から部屋にたらいまわしにされたのも俺のこと女だと
思ってるのかと思って俺の立場が悪くなると思ったから我慢してたのに・・・。よりにもよって犯人がこんなふざけた
奴だったなんて・・・。 
「くそ親父とはなんだ。これも父親の愛情の一つなのに」
愛情の一つ? これのどこが? 実の息子を誘拐させて女装をさせるのがどこが愛情だって言うんだ? 
これからじっくりとわけを聞こうじゃないか。もしふざけた理由ならぶっ飛ばす。力の限りぶっ飛ばす。顔が見えなく
なるまでぶっ飛ばす。例えなにがあってもぶっ飛ばす。
「お父様? いったいなにをお考えになっているかはわかりませんがこれ以上ふざけた事をおっしゃいますと
ぶっ飛ばしますわよ?」
俺はゆっくりと主犯の男に近づく。
「ま、まぁ。落ち着け。真。話せばきっとわかる」
俺の殺気に気づいたのか深呼吸をして椅子に深く座りなおす。
「父さん? もし納得いかなかっら・・・・」
「真! まず着替えてきなさい? これ以上その姿を見ていると本当に娘に思えて来るんだよ」
俺は自分の格好をもう一度よくみてみる。女装しているのはわかっていたが改めると恥ずかしくなっていく。
自分の顔が赤くなるのがわかった。肩の大きく開いたドレスははじめて着た。この格好で瑞貴にあったと考えると
ものすごく恥ずかしくなってくる。
「自分が着せたんだろ!」
「だって一回みてみたかったんだもん」
なにが「だもん」だ! 俺は父さんを思いっきり睨む。
「ほ、ほら! この部屋の隣がお前の部屋だ。そこに服もある」
「は? 俺の部屋?」
「あぁ! そのこともまとめて話すから。あ! そうだこのことは先に教えといてやるよ」
父さんは俺に耳打ちした。
「はぁ?! そういうことはもっと早く言え! 俺何も準備してねぇよ!」
「大丈夫! その辺はお父さんがしっかりやってあるよ」
「・・・・この誘拐事件はそのために?!」
父さんは何も言わずに笑っている。俺は思いっきりドアを開けて思いっきりドアを閉めた。
部屋を出ると本当に部屋はあり俺はそのドアも思いっきりドアを開けて思いっきりドアを閉めた。あのくそ
親父に聞こえるくらいに。部屋は広いが何もなかった。いや。広かったから何もないように感じたの
だろう。よく言うとシンプル、悪く言うと殺風景。大きな窓が特徴で日当たりもよくのびのびしている。
壁には森之宮の俺が朝着ていた制服がかかっていた。部屋にあったのはベットとテレビ、ソファーと
タンスだ。色は俺の好きな薄い水色に統一されている。俺はこの色が好きだ。空の色に似ているからと
言うのが一番の理由なのだろうか。小さい頃からずっとそうだった。
「気持ちい」
俺は大きな窓を開けて風を顔で感じた。外の空気は久しぶりだ。朝誘拐されていろいろあったからもう
夕方だ。
「瑞貴・・・・大丈夫か・・・・?」
俺は窓を閉めてベットに座った。しばらくボーっとしたあとにタンスを開ける。中にあったのは一着のスーツ
だけだった。俺はドレスを脱ぎ捨ててスーツに着替える。ドレスよりは断然楽だ。ごちゃごちゃに結ばれた
髪もほどいて一つにまとめた。
「おい! これからどうすれば・・・・!」
俺はさっきまでいた部屋のドアを勢いよく開ける。
「・・・・え?」
俺は目を疑った。

「和真? どこまで行くの?」
俺は和真のあとについて部屋を出た。和真は何も言わずにもくもくと廊下を突き進んでいく。
「もうちょっとで着くよ」
さっきからその言葉ばかりだ。俺が文句を言おうとすると和馬の足は止まって振り向いた。
「姉貴。この中に入って!」
俺は言われるままに部屋の中に入っていく。
「あぁ? なにがあるんだ?」
「それは入ってみればわかるよ。ある人の計画でこれから姉貴には『女』になってもらうよ」
いたずらに和真はわらう。俺今も一様女なんだけどな・・・。
「瑞貴様。こちらでお召し替えなどいたしますのでどうぞこちらへ」
「え? な、なに?!」
俺はいきなり後ろから女につかまれどこかに引っ張っていかれる。和真はドアの前で笑いながら手を振っている。
俺は引っ張っていかれれままに足を動かした。
「瑞貴様! 初めまして! わたくし森之宮に使えております木野宮と申します。これから瑞貴様のお世話を
させていただきます!」
「は、はぁ・・・」
妙なテイションの人だ。俺はとりあえず頭を下げておいた。歳は20歳くらいだろうか。一見するととてもおしとやか
そうに見える。
「それでは瑞貴様! 早速ですがドレスはどちらがよろしいでしょうか?」
目の前に運ばれてきたのは山のようなドレスだった。こんなドレス俺は一度も着たことがない。なにかのパーティー
などで親に着せられそうになった事はあったがそのときは部屋に閉じこもって絶対に着なかった。というか着たくなかった。
「俺、こんなの着ないぜ?」
「なにをおっしゃいますか!? 瑞貴様! こちらのドレスをどれか着ていただかないと真様にお会いする事ができませんわよ」
その言葉はずるい。真に会うためにここまできたのだ。ここまで来て意地は張りたくない。
「・・・わかったよ・・・」
和真が言ってたのはこのことだったのか・・・・。だまされた・・・。
「そうですか! ではどちらのドレスにいたしますか?」
「なんでもいい」
俺は近くにあったイスに座った。山のようにあるドレスの中から気に入ったドレスなど出てこないだろう。
俺はドレスに一通り目を通す。
「あ・・・」
「どれかお気に召したものがありましたか?」 
俺の目にとまったのは薄い水色のドレスだった。肩と背中は大きく開いていたが見る限りではこのドレスが
一番シンプルだ。木野宮が持っていたのは派手な黄色いドレスで俺は絶対にあんなのは着ない。俺がそのドレスを取ると
木野宮はつまんなそうな顔をした。
「そちらのドレスで?」
「あぁ。これでいい」
「わかりました」
このドレスの色は真が前好きだといっていた。真はよく空を見ている。なぜかと聞くと答えはいつも同じだった。「落ち着くから」
俺は真の影響を受けたのか俺も空を見ると落ちくようになっていた。
「それではこちらでお着替えください」
木野宮は俺を奥の部屋に案内してくれた。
「これでいいのか・・・・?」
俺は着たことのないドレスに手間取った。一着のドレスを着るのに15分もかかってしまった。
「とてもよくお似合いですわ! 瑞貴様! こちらに」
木野宮は俺を鏡の前に案内してくれた。俺は自分を見て驚いた。生まれて16年。こんな格好をしたのは
初めてでとても恥ずかしい。
「・・・言葉にならないんですけど・・・・」
木野宮は笑っている。
「このようなドレスは慣れですわ。瑞貴様。きっといつか瑞貴様もなれますよ」
「そうか?」
「はい!」
木野宮は俺の頭をいじっている。きっと無造作に結わいている俺の髪をドレスに似合うように直してくれているのだろう。
「できましたわ!」
木野宮の技術はすごくプロ顔負けの上手さで俺の髪をまとめあげた。
「すごい・・・」
俺はその技術に感心していた。
「これならきっと真様もお喜びいただけますわね!」
忘れてた! 俺この格好で真に会うんだ! 絶対からかわれる・・・。
「それでは瑞貴様! こちらの部屋に」
俺は木野宮に連れられて違う部屋に案内された。
「ようこそ! 瑞貴君! 待っていたよ!」
ドアを開けると中から聞こえたのは聞きなれた声だった。
「おじさん?!」
目の前に現れたのは森之宮正。真の父親の姿だった。
「姉貴! 見違えてんじゃん!」
その隣からひょっこり現れたのはスーツに蝶ネクタイをしている和真の姿だ。
「和真も?! もしかして・・・?」
「久しぶりだな。瑞貴。お前のドレス姿、やっと見れたよ」
「瑞貴! 会いたかったわ! 連絡一つ入れてくれないから・・・」
「お父様! お母様! どうして?!」
そこにいたのは3ヶ月ぶりにみる両親の姿だった。そのとき勢いよく部屋のドアが開いた。

「瑞貴!」
「真!」
俺と瑞貴はお互いの名前を同時に呼び合った。俺は瑞貴の姿に驚いた。今まで瑞貴がドレスを着ている姿なんて
もちろん一回もみた事がなかったしまさかこんなに可愛くなるなんて思ってもいなかった。
「どうして・・・・真? その格好は・・・?」
瑞貴は俺の姿に驚いている。でも俺も瑞貴の姿に驚いている。
「真。ちゃんと言ってあげなさい」
小さな声で母さんの声が聞こえる。俺は一瞬迷った。こんな瑞貴に声をかけるのはすごく恥ずかしい。俺の為に
戦ってくれていて今まで会いたいと思っていたし真っ先に言おうと思っていたのだが面と向かうと言いにくい。
「なに? 真?」
瑞貴が近づいてくると俺の顔が赤くなるのが自分でもわかった。まわりの人が笑っている。たぶんそれほどまでに
赤くなっているのだろう。
「瑞貴・・・・」
「なんだよ?」
瑞貴の顔をなかなか見ることができない。俺はゆっくりと目線を下げる。俺は瑞貴をみてさらに驚いた。瑞貴の顔も
赤くなっているのだ。俺は一気に緊張がとけて不思議と素直になることができた。
「瑞貴! ありがとう! それとお誕生日おめでとう!!」
俺の言葉と同時に会場にいた全ての人がクラッカーを鳴らす。瑞貴は驚いて顔を上げる。
「な、なに?! どうなってんの?」
「今日はお前の誕生日なんだよ!」
俺は瑞貴じっと見る。瑞貴はまだ混乱しているようであたりを見回している。状況が呑み込めたのか落ち着いて俺の顔を
みてくる。
「真! ありがとう! 今気分最高だよ!」
「俺も!」
俺たちは顔を見合わせて笑っている。会場は拍手で溢れていて場は最高に盛り上がっている。森之宮と龍ヶ崎の関係者が
いつの間にか顔をそろえている。つまりお偉いさんたちだ。どこかに隠れていたのだろう。場は一気にパーティー会場に
なった。
「真! 自分の気持ちに気づいてないのか?」
父さんがまた耳打ちしてくる。俺は少し考えた。
「なにが?」
父さんはあきれて手で顔を押さえている。
「こんな最高の場を提供してやってるんだ。じっくり考えろよ」
父さんはそれだけ言い残して瑞貴の両親と人の渦の中に消えていった。自分の気持ちっていったい?
「おじさんなんだって?」
瑞貴が顔を出す。
「なんか意味のわからないことを・・・・」
「ふぅ〜ん・・・。な? 真。外でない? なんかこの人だかり息苦しくて」
「あぁ。いいよ」
俺たちは会場を抜け出した。そういえばこの家のことまだ父さんから何も聞いてないな。俺の部屋とか言ってたし
まさかな・・・・。俺はそんなことをぼんやり考えていた。
「な? 真。俺さっき和真に変なこと言われた」
「和真って誰?」
「あ! 俺の弟。俺と戦ってた奴!」
俺はなぜかその『和真』が瑞貴の弟だと聞いてホッとしていた。
「お前弟いたんだ?」
「あぁ。一様な。俺も3ヶ月ぶりに会った」
俺たちは廊下を歩きながら外への出口に向かっていた。
「なんていわれたんだ?」
「自分に正直になれば答えは分かるってさ。何言ってんのっていったらあきれてた」
俺と同じじゃん。俺の場合父さんに言われたんだけどな。
「俺も父さんにおんなじこといわれて同じ反応された」
「なんかおかしいよな」
俺はうなずいた。外への出口は瑞貴が知っていたようで瑞貴が先を歩く。少し歩いたらすぐに外にでれた。外はもう
暗くなり始めていて冷たい風が気持ちよかった。
「なんか久しぶりに外の空気吸ったって感じ!」
瑞貴は両手を前に出して伸びをしている。
「わぁ!」
いきなり瑞貴が倒れた。俺はとっさに瑞貴の腕を掴んで自分に引き寄せた。
「なにやってんだよ! 危ないな!」
「ごめん。ヒールに慣れなくてバランスが・・・」
俺と瑞貴の顔が近くなる。たちは違う方向に顔をそむける。俺は瑞貴の腕を離す。
「アリガト」
「あ。うん。俺こそ今日はいろいろ悪かったな」
俺たちは地面に直接座る。
「いいよ。和真にも会えたし。こんな風に誕生日やってもらったの初めてだから」
「そっか・・・」
しばらくそこで会話が終わった。
「俺さ、最近曲考えたんだ」
「曲って?」
沈黙を破って俺は話し始めた。
「俺がピアノ弾けるのお前知ってるだろ?」
「うん、俺の前じゃ一回しか弾いてくれてないけどな」
俺が瑞貴の前で弾いたのは一回だけ。3ヶ月前に音楽室で弾いているのを聞かれたのだけだった。俺は家でピアノ
を弾いていても瑞貴が来たのに気づくとすぐにやめていた。
「弾いてやろうか?」
「え!? マジ?!」
俺はうなずく。
「誕生日だろ? 俺何もプレゼント用意してないからさ」
俺ははずかしかったがプレゼントの変わりにと思った。今まで何回も瑞貴にピアノ聞きたいっていわれてたしな。今日
一回くらいならいいだろ。
「やった! いつ弾いてくれるの?」
瑞貴のはしゃぐ顔にドキッとする。なんなんだこのドキは・・・。
「いつか!」
「え〜?! いつかっていつ?」
「いつかはいつかだろ」
「なんだよ! それ!」
俺は瑞貴をからかって遊ぶ。最近瑞貴は女っぽくなったような気がするんだよな。
「中は入ろう!」
「あぁ・・・・」
ふてくされてるよ。可愛いな。
「早くは入んないと弾いてやんないぞ」
「わかったよ!」
瑞貴は俺の跡について歩いてくる。俺も瑞貴の歩調に合わせて歩く。
「あ! 瑞貴! 言い忘れた!」
俺は歩くのをやめた。
「うわぁ! なんだよ! 急に止まるなよ!」
瑞貴は急に止まった俺にぶつかった。
「似合ってんじゃん。そのドレス」
「は?」
俺はまた歩き出した。今度は瑞貴に合わせずに早めに歩いた。
「おい! 待てよ! 真!」
「早く来ないと置いてくぞぉ〜」
俺は前を向きながら少し走る。なんであんな事が口から出たのかまだわからなかったが言って後悔はしていないし
本当にそう思ったからいいだろ。
「ちょっと待っててば!」
「や〜だ!」

外では春の風が吹いている。
お互いの気持ちに気づくのはこれからもう少し先のことだろう。








2004-02-15 15:25:17公開 / 作者:唯崎 佐波
■この作品の著作権は唯崎 佐波さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
更新がかなり遅くなってしまい申し訳ありません。今回でこのお話は最後になります。今までの応援ありがとうございました。
この作品に対する感想 - 昇順
ほのぼのとしたお話で面白いですね。中黒は三点リーダーにした方が良いですよ。クエスチョンマークやエクスラメーションマーク等を多様する場合は全角一文字の空白を開けます。続きも頑張って下さい。
2004-01-29 17:20:12【★★★★☆】上妻
初めまして〜!読んですごく面白かったです〜!!はまる物語です〜コメディー系(?)なストーリーが大好きなので、続きを楽しみにしています〜!
2004-01-29 17:45:14【★★★★☆】葉瀬 潤
とても面白かったです。本当に女子高ってこんな感じなんですかねぇ??(違w) 続き楽しみにしてます☆
2004-01-30 17:33:33【★★★★☆】ナグ
お嬢様言葉がすごいな〜と読んでて圧倒されてます〜笑 女子だらけの学校という設定もかなり面白いです!!次の更新を楽しみにしています〜!!
2004-01-30 22:53:48【★★★★☆】葉瀬 潤
感想ありがとうございます!!ご期待どうりに(
2004-01-31 19:41:41【☆☆☆☆☆】唯崎 佐波
続き>(?)に面白くなるように頑張ります!!
2004-01-31 19:42:19【☆☆☆☆☆】唯崎 佐波
はじめまして。女子高と聞いて興味を持って読ませていただきました。何を隠そう現役の女子高通いですので(笑)。ですが、ウチの学校の生徒はお世辞にも上品とは言えません。共学校の生徒さんの方がおしとやかなのではないのかなと思うくらい下品(汗)です。男子生徒がいなくて色気を使う必要がないのが第一の理由だと思います(笑)。ちなみにお嬢様言葉は……学校で聞いたためしがありません(笑)。物語の内容なのですが、すごく楽しくていいと思います。こういう作風、ホントに好きです。続きもぜひぜひ頑張ってください。
2004-01-31 22:40:31【☆☆☆☆☆】エテナ
瑞貴が時々男にみえたりします〜!言葉使いは女の子でも、その態度は他の女の子と違って惹かれるものあります。。
2004-01-31 23:33:31【★★★★☆】葉瀬 潤
なにやら設定の説明のが不測だったらしく申し訳ありません。このお話は一様、一流企業とか財閥のご令嬢が通う学校という設定になっています!それにしてもこんな言葉遣いはしないのでしょうか?!皆様の感想とてもありがたいです!!
2004-02-01 11:10:55【☆☆☆☆☆】唯崎 佐波
面白かったです!!お父さんと真くん(ちゃん?! の掛け合いというか楽しいです!点数の方は私がまだ未熟なので評価するべきではないかなと思ってつけませんでした。ごめんなさい(汗
2004-02-01 14:38:30【☆☆☆☆☆】咲間
やっぱり点数をつけるべきなのかなぁと思いましてつけて見ました(汗 とてもステキなお話だったのでv
2004-02-01 14:52:16【★★★★☆】咲間
おもしろかったです!!たまに誰のセリフかわからないときがありますが…あと最後のお父さんのセリフ「うてで…」って、うちで、ですよね?揚げ足とるみたいですみません…!!続き楽しみにしてます♪
2004-02-02 04:52:07【★★★★☆】白桜
誤字等に関しては目立つとおもいます。一様見直しはしているのですがすみません。そのようなこともどんどん指摘してください。
2004-02-04 17:34:16【☆☆☆☆☆】唯崎 佐波
第一話〜第五話の題名がとても面白くて、見るたびにその部分を最近楽しみにしています〜笑 もちろんストーリーは文句なしに面白いです!
2004-02-05 22:37:22【★★★★☆】葉瀬 潤
作者自身が笑わせようと書いてあるであろう文章。正直寒いです。文章の書き方もひどいですね。もっと勉強してから書き込んでほしかったものです。指摘してほしいなどと甘いこといわないでくださいね。自分で勉強してください。そのほうが身につくのですから。頭の本当に悪い人には指摘してあげてますけどね
2004-02-06 10:42:15【★★☆☆☆】シグマ
厳しいご意見、暖かいご意見本当にありがとうございます。次で最終章になり長くなってしまい、更新が遅れてしまいそうなのですが出来ましたら是非読んでやってください。お願いします。最終話はよりよい展開になるように頑張っていきたいと思います。
2004-02-06 19:00:55【☆☆☆☆☆】唯崎 佐波
一人称と三人称の混合系の小説ですね!一人称の方が強いけれども・・・。中々に面白かったです。
2004-02-15 15:29:02【★★★★☆】ベル
狂言誘拐とはびっくりです!真くんと瑞貴ちゃんのその後があれば、読みたいです!とても面白く読めました!!次回作も期待しています!
2004-02-15 19:15:49【★★★★☆】葉瀬 潤
計:42点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。