『作りかけの玩具?』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約6.02枚
涼のいったとおり、足首がぽっきりと折れてしまっていた。病院の治療なんか受けられるわけがないので、「玩具」仲間に包帯で固定してもらった。包帯はずいぶん前にこの家からくすねてきたものだ。俺たちは怪我をしようが病気をしようか、死ぬほど深刻じゃない限り、治療は受けられない。骨折なんかは日常茶飯事だが、ただでさえ足に重りをつけていないといけないのに、そのうえ歩くとなるとやはりきつかった。
そして、そんなときに限って荷物運びの仕事だったりする。荷がかなりの量と重さなので、この家にいる16人の「玩具」全員でやることになった。






「コラお前!!もたもたすんな!!」
大きなこん棒を持った男に急き立てられて、小さい子達はひいひい言いながら荷物をひきずっている。俺はさっきから大きな荷物にてこずっている隆太に近づいた。
「隆太、代われよ。こっちのほうがきっと軽い。」
「でも、純兄ちゃん今日は足悪いんだろ?」
隆太はべそをかきながら言った。さっきあのこん棒でぶたれたのだろう、額に赤い跡が残っていた。
「大丈夫だって。俺殴られんのは慣れっこだし。」
俺は隆太の荷物をひょいと取り上げた。こんなことを18年もしてれば、いやでも力がつく。隆太は俺が降ろした荷物を持ち上げながら、突然ひっと声を上げた。俺が何だろうと振り返る前に、後頭部に思いっきり硬いものがぶつかった。
「お前ら何しゃべってんだよっ!!さっさと運べ!!」
俺は男に眼をくれてやると、隆太に「ついてこい」と目で合図した。隆太は男から逃げるように小走りで俺を追いかけてきた。
「すごいよな〜兄ちゃん。痛くないのか?」
「そりゃ痛いさ。」
たんこぶができてるだろうな、と頭の隅で思った。
「俺だったら泣いてるよ。」
「お前も後8年すりゃ泣かなくなるさ。」
あんなやつらに涙見せたらもったいないよ、と隆太に聞こえないぐらい低くつぶやいてから、俺はトラックの中に荷物を放り込んだ。
「ふーん・・・俺毎日泣いてばっかりだからなぁ・・・。」
「ママが恋しいかい隆ちゃん?」
俺は隆太の荷物も放り投げながら茶化してやった。隆太はぷっと膨れた。こいつは負けず嫌いだから、こうすればしばらくは効く。
「そんなんじゃないやい!!」
「じゃあ、今日から3日は泣くなよ。俺が見てなくても、ほかのやつらに見張っといてもらうからな。」
隆太の頭にぽんと手を置きながら、あたりを見渡した。ほかのやつらはまだ荷物を運んでいる。その「玩具」たちの中に涼は見当たらなかった。








今日は食事当番だった。足が痛むなら代わろうかといわれたが、ありがたく断った。
俺たちは主人からまともな食事をもらったことがない。肉や魚なんてもってのほかだった。だが、野菜のきれっぱしばかりかじってたらそのうち栄養失調になるので、15歳以上のものが交代でここの「大食堂」から食べ物をくすねてくるのだ。主人は気づいてないのだが、この家に張り巡らされている配管はかなり便利だ。大の大人が這っていける広さだし、何より屋敷中にひろがっているので、ここを通ればある程度は移動できた。配管をふさいでいる鉄格子をあけるドライバーも手に入れたし、どの管がどこにどんな風につながっているのかは2週間掛かりで全部調べ上げ、紙に書き上げた。
今日も配管を通って食堂に行き、肉や魚を少し失敬した。それだけなら別に地図はいらなかったのだが、今日は地下牢に行きたかったのだ。
何度か曲がり道を越え、ようやく地下牢につながっているらしい鉄格子を見つけた。鉄格子の間から辺りを見ると、向こうのほうに銀髪の女がすわっているのが見えた。
「おい、お前、涼!!」
俺が鉄格子をがんがんとたたいて呼びかけると、涼は顔を上げ、驚いたように俺を見た。
「・・何してるの?」
「別に詰まってるわけじゃないさ。ちょっと、これで開けてくれないか?」
鉄格子の隙間からドライバーを受け取ると、涼はまだ驚いた表情のまま、ネジにドライバーを突っ込んだ。
「それがここの移動手段?」
「ああ。俺たちはいつもこうしてる。まあ、ここまで実用化すんのに時間はかかったけどな。」
「ふうん・・・・。」
ようやく鉄格子が外れ、俺は地下牢に這い出てきた。20分ぶりぐらいに体を伸ばすと、ボキボキと関節の音がした。
「・・で、何しに来たの?」
「いや。お前、今日の荷物運び、来てなかっただろ?」
「ああ・・・ここのやつら、あたしに声出させようって必死なの。だから今日も拷問。」
「・・あんまり目立った傷はないけどな。」
涼は苦笑した。
「ただボカボカやっても無理だって気づいたみたいでね・・今日はちまちましたことやったわ。」
「ああ・・まあ、そっちのほうがきついかな。」
ちまちましたこと、というのは、爪の間に針を刺すとか、指を一本ずつ折る、とかそういうものだ。
「まあ、無駄だったんだけど。だから怒って今日もここに入れられた。」
涼はふうっとため息をついた。指が赤くはれ上がっていた。なぜか彼女が、とても儚い者に見えた。もう少しで、向こうが透けて見える・・。
馬鹿なこと考えるのはよそう。俺は自分をしゃんとさせてから、涼に話しかけた。
「じゃあ俺、そろそろ戻るわ。みんな待ってからさ。お前にもちょっとやるよ。」
俺は袋から肉を二切れと魚を一切れ涼にやった。涼はありがとう、というと魚を小さく噛み切った。そして肉も、同じようにした。
「これだけでいいわ。」
「お前、栄養失調になるぞ?」
「言ったでしょ。別に生きたいなんて思わない、って・・。」
俺は返す言葉を失ったので、適当にああ、といって涼に背を向けた。しばらくして、鉄格子をはめなおす音が聞こえた。
2004-01-28 15:28:53公開 / 作者:渚
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■作者からのメッセージ
前回レスくれた方、ありがとうございました。これからも読んでやってください。
ちなみに、今回出てきた隆太君は9歳です。
この作品に対する感想 - 昇順
9歳にしては過酷な現実ですね〜 それでも力強く生きる姿勢に感動しています。。
2004-01-28 19:52:49【★★★★☆】葉瀬 潤
9歳とは! 思わず同情してしまいます。何となく9才の割に大人っぽいかなあとも思いました。それにしても妙にリアルですねぇ。少し怖いですが、続きが気になるためどきどきしながら読みました。
2004-01-28 20:46:45【★★★★☆】月城里菜
計:8点
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