『クリスマスのキセキ』作者:ユヅキ ミズノ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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     雪が降った。
     真っ白。
     空を見ると、灰色の空。
     「華雪」
     呼ばれた名前。華雪は振りかえった。
     彼から、手が差し出される。
     「もう帰ろう」
     「うん。お兄ちゃん」
     手を取る。
     手袋をしているため、兄のぬくもりはわからない。
     真っ白な世界を2人で歩く。
 





† クリスマスのキセキ †





 雪は怖い。
 音がなくなるから。
 全てが、オフホワイトのペンキに塗られ、防音加工された広い部屋に
いるように感じる。
 怖くなって、華雪(カユキ)は兄の手を、強く握った。
 「寒いのか?」
 優しい声で言われ、首を振る。
 「家で母さんが、何か温かいものを作っているはずだから。早く帰ろうな」
 それに、華雪は笑顔で返す。
 兄も、笑顔になる。
 2人の兄妹は雪の中を歩く。
 狭い道を抜けて。
 広い大通りを渡って。
 慣れた道なのに、雪がふると色がなくなる。
 知らない所みたいだ。
 「お兄ちゃん」
 「なんだ?」
 「今日、クリスマスだね」
 「そうだな。プレゼント、いるか?」
 「いい。・・・・もう、もらったから」
 「・・・そうか」
 それから2人は特に会話はしなかった。
 けれど、お互いの存在を確かめ合うように、繋いだ手はしっかり握られている。
 それだけで十分だった。
 



 家が見えた。
 「寒かったな。早く入ろう」
 「うん」
 華雪の頬は、真っ赤になっている。
 兄は、いつも通りの、色白のままだ。
 「華雪」
 「なに? お兄ちゃん」
 「コートの雪はらえよ」 
 「は〜い」




     お兄ちゃんは、玄関前でいつもそう言う。
     華雪が、いつも忘れちゃうから。
     コートを脱いで、バサバサ雪をはらった。
     粉のような雪は、キラキラ光ながら落ちていった。
     キレイ。
 



 
 「ただいま〜」
 「ただいま」
 家の中は温かい。
 コートを玄関に掛けて、リビングへと急いだ。
 「おかえり」
 父がいた。
 リビングで、ワインを飲んでいる。
 「いいの? まだ時間には早いよ、パパ」
 華雪は、笑いながら父にそう言う。
 父も笑って、いいんだよ。と返した。
 「あら、華雪。おかえりなさい」
 「ただいま。ママ」
 母は、やさしく笑って、華雪を手招きした。
 キッチンから良い匂いがする。
 「味見して」
 そう言って、トマトスープを少しだけ皿に入れて渡した。
 華雪は、自分の息で少し冷ましてから飲みこむ。
 「おいしい!」
 「よかった」
 母は、本当に嬉しそうだ。
 「夕食までは少し時間あるから、ゆっくりしてていいわよ」
 「うんっ!」
 お兄ちゃん、行こう。と、華雪は兄を見た。
 キッチンから出て、パタパタと階段を上がる。
 兄もついてくる。
 華雪の顔は自然と笑顔になる。
 せっかくのクリスマスなのだ。楽しまないといけない。
 部屋の中は寒い。
 いそいでストーブをつける。
 「お兄ちゃん、寒くない」
 兄は微笑んで、寒くない。と答えた。
 それから華雪は、兄にいろいろなことを話した。
 友人のこと。
 学校のこと。
 父が仕事であまり帰ってこないこと。
 母の新しい仕事は忙しく、ほとんどかまってもらえないこと。
 家ではいつも一人で寂しい事。
 兄はそれを聞いて、寂しそうに
 「ごめんね」
 と、華雪の頭を優しくなでた。
 「いいの。今はお兄ちゃんが側にいてくれるし!」
 「そうだね」
 ストーブから、暖かい風が出てきた。
 部屋が少しずつ温かくなっていく。
 階段から、足音がしてきた。
 ノックが2回。
 「なーに〜?」
 「ご飯よ。早く下りて来なさい」
 母が、ドアを開けて笑顔で言う。
 クリスマスだということもあるだろう。機嫌がいい。
 「わかった。お腹すいちゃったよ」
 ストーブはつけたままで、華雪は母親の後をついて、軽やかな足取りで階段を降りた。
 おいしそうな匂い。
 トマトスープは、華雪と兄の大好物である。
 「いただきます!」
 温かいトマトスープに、フライドチキン、パン。
 部屋のスミに置かれたツリーは、赤、緑、黄色、青の、星を思わせる
明かりがついたり消えたり。
 天使やプレゼントの形のものが、所々に吊られて、真っ白が雪をイメージする
綿が、おいてある。
 にぎやかだな、と思う。
 「久しぶりに、こういうのもいいわね」
 「うん!」
 「そうだな。母さん、ワインはまだあるか?」
 「ええ」
 「じゃ、華雪がついであげるよ!」
 母からワインを取り上げ、危なげな手つきでワインをつぐ。
 それを微笑んで見守る家族。
 「本当は、こんなことしちゃいけないとは思うんだけど・・・」
 スッっと、家族に影が落ちる。
 「そんなことないさ。1年に1度の行事だ。気分転換も必要さ」
 「そうだよ! はい、この話しはなしなし!!」
 それから、話しは別のものになった。
 1時間ほどの時間。
 食事はほとんど食べ、皿を片付ける。
 「華雪、手伝って頂戴」
 「いいよ!」
 華雪は、皿洗いをまかされた。
 お湯は温かい。
 真っ白な泡を、キレイに洗い流して、次の皿に手をのばした。







 皿洗いは、途中で母にかわった。
 華雪は急いで自分の部屋に行く。
 ずっとつけられていたストーブのおかげで、部屋の中は温かい。
 「あ、お兄ちゃんもう来てたんだ!」
 「あぁ」
 「華雪ね、華雪ね、お皿洗いお手伝いしたんだよ!」
 「えらいね」
 頭をなでられる。
 優しい手。
 「お兄ちゃん、冷たいよ。寒い?」
 なんとなく聞いてみた。
 「大丈夫だよ。寒くない」
 「そっか・・・」
 時刻は9時を過ぎていた。
 特に何もしていないはずなのだが、時間というものはあっという間に過ぎていく。
 「あのね、麻希(アサキ)ちゃんがね・・・」
 華雪は、友人の話しをした。
 友人の麻希は華雪と兄の、小さい頃からの友人だ。幼馴染とも言う。
 活発な性格で、たまにいたずらが過ぎるときもあるが、面倒見もいい。
 おとなしい華雪とは反対の性格だが、気が合うらしく、時にケンカもするが
まだ仲がいいようだ。
 ・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・
 11時になった。
 華雪が、口を大きく開けてアクビをする。
 「もう遅くなったね。寝たほうが良いよ」
 「ぅん〜。お兄ちゃん、一緒にねてー?」
 「もう大きくなったんだから、一人で寝なさい」
 「いいじゃん〜。今日くらい、華雪と一緒にねて?ねぇ〜」
 「でも、華雪」
 「ちっちゃい頃は一緒に寝たでしょ?ねぇ〜」
 「・・・しょうがないなぁ」
 ついに兄の押され負けである。
 しょうがなく、電気を消して2人は仲良くベットへ向かう。
 華雪は満面の笑み。
 「あ、そうだ。華雪」
 「なーに?」
 兄は、ポケットから、小さな箱を取り出した。
 「はい。クリスマスプレゼント」
 「え・・・」
 「少し、よごれちゃってるけど」
 たしかに、何か黒いものがついているような気がする。
 暗くてよく見えない。
 「ありがとう、お兄ちゃん。・・・・・でも、これ・・・」 
 「さ、寝ようか」
 兄が、腕枕をしてくれた。
 それに頭を乗せ、華雪は顔を上げる。
 暗い部屋で、何故か兄の顔ははっきりと見えている。
 「お兄ちゃん・・・」
 「何?」
 「明日も一緒にいてくれる?」
 「・・・」
 兄は答えず、優しく華雪を抱きしめた。
 ふいに眠気が襲ってくる。
 (・・・眠い・・・)
 そしてそのまま、眠ってしまった。








 起きた時、お兄ちゃんはいなかった。
 あれは夢だったのかな?
 だって、お兄ちゃんは・・・・。
 「あ・・・」
 ベットに置いてあった小さな箱を見て、華雪は泣きそうになった。
 だって、そこには昨日お兄ちゃんからもらったプレゼントが置いてあったから。
 箱にある小さなシミ。
 それは、黒ずんだ赤だった。
 「これって・・・」
 これは、お兄ちゃんと一緒に『墓の中に埋められた』ものだった。
 お兄ちゃんが事故にあった時に、大事そうに握っていたもの。
 それが、華雪へのプレゼントだったなんて・・・。
 「バカァ・・・・」
 華雪の頭の中に、丁度1年前の記憶が思い出される。





     「事故だ!」
     「若い男の子が・・・」
     「クリスマスなのに」
     「酒飲み運転だったらしいわよ」
     「即死だって」
     「まぁ・・・」

     お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!

     「妹さんかしら」
     「可哀想にねぇ」
     「今日はクリスマスなのに」
     「クリスマスなのに」
     「可哀想に」
     「クリスマスなのに」
 




 「クリスマスだったのに・・・・」
 お兄ちゃんは、華雪のプレゼント買いにいって死んじゃったんだ。
 プレゼントを開けると、ブローチが入っていた。
 かわいい。
 華雪は、ママの『ご飯だよ』っていう声がするまで、ずっと泣いていた。
 小さなブローチを抱きしめながら。








        「ねぇお兄ちゃん。来年のクリスマスも華雪の所に来てくれる??」







2003-03-16 14:26:20公開 / 作者:ユヅキ ミズノ
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■作者からのメッセージ
 季節はずれですみません(泣
はじめまして。ユヅキといいます。
普段はファンタジ―小説を書いていますので、こういう不思議な現代ファンタジー(?)にも挑戦。と思い書いたものです。
 華雪ちゃんは、死んだはずのお兄ちゃんが帰ってきたのにとっても冷静でした。・・・何故?(聞くな
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