『秘密。』作者:咲羅えんり / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1663文字
容量3326 bytes
原稿用紙約4.16枚
 ――秘密は、秘密のままに。
   深く沈めて、浮き出ないように。
   だって、失いたく、ないから…。

「…手術?」
 わたしは、目の前の『あいつ』――わたしの親友、に聞き返した。
「うん、手術」
 オウム返しに言って、無邪気に笑う。
「なんかねえ、この手術が成功したら、完治する可能性もあるらしいんだぜっ。はっはっは。だから、わたし、受けることにしたんだ」
 そうなんだ、って返したわたしの声。どう聞こえただろう。
「で、さあ。つきましては、このこと、この部屋のほかのみんなには秘密にしておいてほしいんだよね。あっ、み、みんなのことが信用できないって訳じゃないよ!? でも、なんとなく言い辛いんだよね〜。心配性じゃん、みんな。だから、秘密ねっ」
 そう言って、首を傾げてわたしを見る。だから、わたしも、
「まっかせなさい!このわたしがそんなに軽々しく秘密をばらすとお思いになって?」
 なんて、ふざけながら、笑いながら、返した。

 小児科病棟で、もう半年間、一緒の大部屋、隣同士のベッド。気が物凄く合って。深夜まで喋って、看護婦さんに怒られたりしてるくらい。
 一緒にいると、すごく楽しくて。ふざけ合ったり、冗談言ってみたり、真剣に相談してみたり、時々ケンカしてみたり、でもまた小突きあったり。
 だから、ずっと、一緒にいたい。そんな、わたしの友達。

 わたしはあいつに、秘密を一つだけ持っている。
 主治医さんに用があって、部屋に行った時に聞こえた会話。その時はあいつは隣りにいなくて、一人だった。
 お医者さんが、看護婦さんと話し合ってた。
 …わたしの病気のこと。あいつの病気のこと、手術のこと。
 わたしは、もうすぐ治療も全て終わりそうだ、ということ。早ければ、一週間で退院。
 あいつは、…治らないかもしれないこと、手術をするけれど必ずしも成功するとは限らない、難しいものだってこと。
 だから。あいつが手術を受けるって聞いて、自分でも分かるくらい乾いた声で返事した。
 …どうして、なんだろう。どうして、こんなのなんだろう、運命は。
 わたしは、失いたくないから。失ったら、困るから。
 だから、秘密は、胸の奥にそっとしまった。別にしまったからと言って、何が変わるって訳じゃないけれど。

「…あのさ」
 明日は手術、っていう夜。隣りのベッドから声をかけてきた。
「何?」
「…あのさ、なんとなくなんだけど…隠し事してない?」
 なんであいつは、こんなに鋭いかなあ…。
 黙っているわたしに、まあいいや、と言ってから、ぽつりぽつりとあいつは話し出した。
「…やっぱり、怖い、んだよ。手術。明日なんだなー、って思うと、震えてくる」
 …あいつも、なんとなく、勘付いているんだろうか?
「でもねえ、やっぱり元気になりたいし、あんたともっといたいし…や、やだ、照れるなあ。あはは。だから、…頑張るよ。じゃっ、なんか本格的に恥ずかしいから、おやすみっ」
 ごぼっと布団をかぶって、十秒後、寝息が聞こえてきた。
 そんなあいつを見ていたら、なんだか、視界がぼやけた。
 …言えない。あの、秘密は。
 言ったら、失ってしまう気がするから。そんなはずないって、分かっていても。

 秘密を背負ったまま、やっぱりその時間は来た。
 手術台に乗ったあいつを見送って。
 …わたしも、もっと、あんたといたい。その思いを、胸に。

 失いたくないから。だから、秘密は深く沈めて。
 わたしに出来るのは、それだけのことだから。

 今、わたしの隣にいるのは。
 笑顔で騒いでる、『あいつ』。それから、騒ぎ返してる、わたし。
 だけど、やっぱりあの秘密は、私の胸の底に、ずっと、沈めたまま。
 それは、わたしがあいつのことを大切に思っていたということ。大切に思っているということ。
 それを示す、一つの傷跡だと思うから。
2004-01-18 13:19:11公開 / 作者:咲羅えんり
■この作品の著作権は咲羅えんりさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちはっ、咲羅です。
今回はシリアス目に書いてみたんですが…難しいです。前回、一人称の書き方で、三人称と混ざっている所がある、とアドバイスをもらったんですが、…う〜ん?あんまり治ってないかもしれないです…。気をつけてはいるんですが。
それでは、失礼いたしました。
この作品に対する感想 - 昇順
終わり方がイマイチよく分かりませんでした
2004-01-18 14:07:43【★★★★☆】はるか
終わり方が不鮮明な感じが。直ったなら『秘密のままにする』という必然がない気がします。
2004-01-18 15:14:38【★★★★☆】佐倉 透
「あいつ」の性格が結構いい味を出しているのではないのでしょうか。ですが、秘密を知ったことで主人公はそればっかりに捕らわれているような感じがしました。題名が題名なのでそれは仕方のないことかもしれませんが、主人公にとって、なくてはならない存在であるあいつのことを応援する言葉が、一言くらいあってもよかったのではないのでしょうか。
2004-01-19 20:36:01【☆☆☆☆☆】エテナ
計:8点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。