『忘れる事。〜1→7日目〜(完結)』作者:シア / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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#1日め→いきなりの報告。
「おれ、一週間後ドイツに引越す事になったから。」
普通に過ごそうとしていた放課後。ヤツは言った。
頭の中にヤツの思い出が駆け巡る。
アイツは、一言でいうと何でもできる天才野郎だった。
勉強でも何でもできた。学年No.1。スポーツでも大活躍。スタイル抜群、
モテまくりNo.1。女子もあるが男子でもだ。人間関係でも何でも。
学年でもいや、校内でも一番好かれてるヤツだった。
俺と正反対。小学校の頃からそうだった。人間と話すのが苦手だった。俺は人間関係が下手クソな暗いヤツだった。前仲が良かった奴も、だんだんと俺と離れていった。まるで汚い奴だと思われているかのように。変な目で睨み付けられていた。でも進也は違った。進也は、人間関係が上手なヤツだったから、こんな俺でも仲良くしてくれたんだ。俺の周りに誰も話して来るヤツがいなかったから。そして、誰とでも仲良くなるヤツだからー・・・。
進也とは1年前。クラスを変えた中3の時期。知り合った。
「おい、聞いてるのか?正吾。」
「あ、ゴメン進也。で、何だったっけ・・・?」
「だから、俺引越すんだって。一週間後・・・。ドイツという国を外した     
 ら、まあ転校っつー事だな。」
「ふーん。そうなの。まぁ、理由は知らねェがしょうがねぇな。」
でも、こんな無愛想な俺に対して進也とアイツだけだ。俺に接してくれるのは。そんな進也がー・・・いなくなる。
「つっても何。お前中3でドイツなんて言って大丈夫なのかよ。」
「憧れのあのドイツに色々学びに行くんだ。勿論ドイツ語だって勉強してる
 さっ。」
明るい進也は自慢してそう言った。
「・・・暗くなってきたな。」
「お。そうだな。そろそろ帰んねぇーと。一応正吾受験生だろ?
 まぁ俺も転校の件もあるし。早く帰らねぇとな。」
「おう、じゃあな。」
「じゃぁ、また明日!」
タタッと走りながら笑顔で去っていった。ドイツという憧れの地へと
あと6日程。ヤツはウッキウキさ。俺はまたその正反対。
俺はあと6日程でヤツとほとんど会う機会がないのだから。
会う事もいずれなくなるんだろうから。

「よーっス!帰るよ!」
元気なコイツ。俺と接してくれるもう1人だ。進也の友達らしい。
進也が何故か俺に紹介した女子だ。
「あぁ。」
「何か今日は一段と暗いわねー。この千絵様が正吾を明るくしてあげま
 しょー!」
「いいよ。大体こんな俺にかまわなくたっていいんだぜ?友達減るよ。」
コイツ、千絵は明るくて。いつでもかまってくれるヤツだった。
女子の友達だって人気No.1で。
こんな俺と付き合ってたら千絵の友達だって千絵の事を変な目で見る気だ。
「・・・。いつもと違うね。何かあったのー・・・?」
「別に。」
「・・・いいたくないんだったらいーわよ。でも悩んでるとストレスがたま
 って体によくないわ。中学校にたしか新人で入った心理カウンセラーの人
 がいるって。女の先生だって。2人いるんだけどね。行ってみたら?」
「いいって。」
「行ってみなさい。千絵様よりかは良い悩みの相談の先生のハズよ。」
正吾に会えなくなる。そんな事他人のただの新人心理カウンセラーかなんだか知らねぇが。俺の心を癒せる人はいねぇ。絶対な。
もうヤツの事を忘れてしまいたい。
会わなかった事にしたい。あんな良いヤツと会わなかった事にして。
全部ヤツの思い出を白紙にしてー・・・。
忘れないと、頭の中にヤツの思い出が駆け巡り、いずれ会えなくなると言う
辛い現実と向き合うと。もっと辛い。

#2日め→悩み。苛立ち。
進也の転校の事を聞いて、1日がたった。そしてあと5日程で進也と会える
機会もなくなる。進也はドイツに旅立つー・・・。
それにしても進也が旅立つ期間まで。俺は何をしてやれるだろう。
俺は今、どんな顔をしているだろうー・・・。
「正吾?あんたまだ治ってないのー?テストでも失敗した?」
進也がまだ学校に着いてない今。廊下を歩いている今。千絵は何かと俺をせかす。じれったいように。俺の悩みを知るために。
俺が悩んでいる事を俺が千絵に教えないから。
千絵は進也との友達だ。あいつが転校するなんて進也は言ってるのだろうか。俺に言ってるくらいなら千絵にも言ってるだろう。しかし何故千絵は
悩まない?まだ知らされてないのかー・・・?
「正吾。あんた悩みかかえてんでしょ?」
散々言われるこの言葉に俺は苛立ちを覚えてた。
「別に。何でもねぇよ!」
何でも相談にのってくれる千絵に。俺の事を心配してくれている言葉なのに
苛立ちまで伝えてしまった。ついカッとなって大きい声を出してしまった。
「『別に』という言葉は悩んでる証拠よ。君。」
俺の声が聞こえたのか。突然背後から女はそういった。
「いらっしゃい。私の心理カウンセラーに。待ってるわ。」
コツコツと廊下にハイヒールの靴の音をならしながら背の高い不思議な女は去っていった。
「鈴香先生だ。あれが昨日言った、新しい心理カウンセラーの先生だよ。
 先生の言ってるとーりだよ。最近変だよ。行ってみなよ。」
「・・・。」
あんな他人に頼って何かできるのだろうか。
俺は他人とは関わりたくない。他人との思い出で良い思い出がほとんど
ないからだ。
「一応言うわよ。心理カウンセラー室はね屋上の隅にあるの。小さい部屋。
 わかりにくいだろうけど・・・。行ってみてね。」
屋上の隅ねぇ・・・。変わった所だな。
「ふん、千絵。もうホームルームの時間だ。じゃあな。」
「あ、うん・・・。」
悲しげな顔をしながら千絵はさった。
あの明るい千絵が。俺の為に暗くなりゆく千絵にかわっていくように
感じる。進也が遠くに、会えなくなるというのなら。
進也との最後の思い出になる大事なこの時間を大切にしなきゃな。
きれいな思い出と心にしまって忘れるために。
そして進也と会えなくなるとして、未来は俺はどうするべきなのか?
どうすればいい?

あの心理カウンセラーのセンコーに訪ねてみる価値は・・・あるか・・・?

#3日め→心理カウンセラー。
3日め。昨日は進也は学校に来なかった。俺は憂鬱で学校の廊下を歩いて
いた。進也は本当にドイツに行ってしまう。転校してしまうんだ、それの
転校の準備で何かと忙しいんだろう。進也と過ごす時間、あと4日。
その限られた時間の中で俺は何をすればいいのだろう。
「君。昨日言ったでしょう?私ずーっとあの屋上で待ってたんだからね。」
またあの声だ。振り返ると昨日背後から声をかけられたあの女。
心理カウンセラーのセンコーだ。
心理学を学んでいたとしてあの女に何ができるのか。
俺を救ってくれるのか?ためしてみたかった。だから俺はこう言った。
「・・・お前は俺に何かできるのかー・・・?」
「さぁ。どうでしょうね。まず屋上へいらっしゃい・・・。」
この心理カウンセラーのセンコーは俺を屋上に連れていった。
「あ、先生達には前もって言っておいたから。」
「・・・。」
俺そんなに悩んでる顔してたのか・・・?
千絵に心配かけたようだ・・・。俺は何もできない・・・弱い奴だ。
「ここよ。只今、利恵先生。」
ドアを開けたその先、
そこにはもう1人女がいた。結構年輩の心理カウンセラーのセンコーだ。
「新米はさがってなさい。鈴香お前はまだ相談にのるには10年早い。」
「はいはい。」
バタン!とドアを閉め俺はこのセンコーと2人きりになった。
「で・・・悩みは何だ?」
「・・・ある奴を忘れたい。会わなかった事にして心の奥底にしまいたい。
 ある奴とはもう会えなくなる。そんなある奴の事を思い出すと辛い。
 だからある奴の事は忘れたい。
 そしてもう1人の奴にこの事を話したく無い。もう1人の奴に俺の悩み
 を聞かして暗い顔をさせたくない。だからこの悩みは忘れたい。
 だから、ある奴と会わなかった事にしたい。忘れたいんだ。」
最低限の事を言った。もうそれで十分なのかもしれない。
そのセンコーは言った。
「・・・。人間を忘れる・・・か。あたしは善人な事は言わないからね。
 そしてあたしはあんたの意見を尊重する。忘れたいなら忘れる方法を
 考えるさね。」
「・・・。」
忘れる方法・・・。そんな事できっこない。進也を忘れるなんてどうやって
忘れるんだー・・・?この後でさえ会うかもしれないのに。
「・・・って言っても忘れる方法なんてありゃしないさ。
 忘れるー・・・かぁ。鈴香もそんな事言ってたさね。
 まー・・・。忘れる方法っていったらー・・・。」
と、センコーは部屋を何かを探した。
引き出しの中など。いろんな場所を必死に探した。俺なんかの為に。
「・・・あった。受け取りな。これをやるのは2人めだ。」
・・・。薬?
「これはな。ある1人の人間っていうのかなんなのか。忘れる為の薬だよ。
 1年間前に戻れるのさ。きっかり1年間前ね。」
「1年間・・・。ある奴と会ったのはちょうど1年間前だ。」
「そりゃよかったさね。忘れたいのならすぐさま飲みな。
 しかし、ある奴という人間だけを忘れるなんていきがってるんじゃない  
 よ。勉強でも何でも忘れちまうんだからね。」
「・・・。」
俺は制服のポケットに薬をしまった。
「もうすぐ授業が始まる。早くこの部屋を出な。」
「って・・・あの女が先生達に言ってるんじゃないのかー・・・?」
「鈴香はすぐそこにいるさね。あいつは盗み聞きとかする悪い奴なんで
 ね。」
ドアをあけると案の定女はいた。
「フフ、では教室に行こうかしらね。」
「盗み聞きしてたのか・・・?」
「さぁ、どうかしら。」
微笑して俺を睨み付けた。
「さ。行くわよ。」
と、俺を連れて女と一緒に教室に行く。
女のコツコツと言うハイヒールの音が廊下に響き渡る。
そんな中でも俺は気になる事があった。あのセンコーはこの女について
忘れる事について話してた。
「・・・おい、盗み聞きしてたならわかるハズだ。
 忘れる事ってお前も何か言ってたんだろ。あのセンコーと忘れる事に
 ついて話したんだろ?じゃあお前はあの薬を貰ったハズだ。
 一体何があった?その薬はどうしたんだ?
 俺の話しを盗み聞きしたんだ。薄情してもらう。」
「計算高いのね、あなた。フフ、明日にでも話してあげるわ。
 もう授業でしょー・・・?」
「・・・明日朝すぐに。」
そういって俺は教室のドアを開けた。
そこにはいつも通りのクラス、生徒、先生、そして進也がいた。

#4日め→心理カウンセラーの過去。
朝。俺はあの心理カウンセラーの鈴香とかいう女の話しを聞きに。
片手にあの薬を持ちー・・・。
「待ってたわよ。」
コツッ、コツッ、と女は俺の方に向き治した。
「で、その薬。どうしたんだ?何があった。薬は飲んだのか?」
フフッ、といやらしく笑うその女。
「私がその薬の事を知ってるって事は記憶はあるって事。
 忘れてないって事よ?薬を使った時点で。1年前に戻ってしまう。
 わかるでしょう?あなたが使った場合。ある奴・・・だったっけ?
 そいつの事や。私達心理カウンセラーの事も忘れるでしょうね。」
「じゃあお前は薬・・・使ってねぇんだな。」
「そういう事になるわね。」
「じゃあ何でその薬を貰ったんだ?」
今まで強気なその女の顔はまたたくも弱気になった。
下唇をキュッと噛んでー・・・。
少しの沈黙がただよった。
「・・・。私のクラスのせいよ。」
「クラス・・・。いじめでもあったのか・・・?」
暗い目だ。怖い憎しみをもった目だ。
「そうよ。いじめよ。私のクラスは担任の先生でも一度でも気に入られない
 ヤツはクラス全員からいじめられていた。言葉的暴力。今じゃあ
 珍しくともないでしょ。ある人の事を違うあだ名で呼び、
 本人は知らず、周りから冷たい目で見られるー・・・。
 あだ名を呼び随分けなすわ。キモイだのキショイだの・・・。
 そのあだ名は自分だと知ったら随分辛いでしょうね。」
「・・・。」
「そんなクラスは私のくそまじめな所が気に入らないんでしょうね。
 変なあだ名をつけられたわ。私は知ってたわよ。もちろんね。気に入られ
 てない私はいつものように・・・。」
と、そこで会話を止めた。苦しかったんだろう。
「で、私は利恵先生の所へ行ったわ。クラスに行きたくない・・・
 私にとって邪魔なだけだ・・・といったらね。
 じゃあ忘れてしまえといわれてね。薬をわたされたわ。」
スッと薬を目の前にだした。
俺のと同じ。一粒の錠剤だ。真っ白で。それを飲むと頭の中も真っ白に
なりそうで。
「薬をわたされて随分楽にはなったわ。でもね。
 忘れてしまうのよ?何もかもの1年間。私は嫌だけどね。
 あなたも考えて使うか使わないか。決めるのね・・・。」
チャイムが鳴った。この音で話しは中断された。
「じゃあ必死に悩むのね。」
最初の勢いは何処にいったのか。同情した目で俺を見送った。
この長い廊下。俺が悩みがない時。この長い廊下を悩んで歩く時。
どっちが多い時間なんだろうー・・・。
「おい!正吾!」
進也だ。走りながらこちらに向かって来る。
「廊下を走るなっつーの。」
「そんな事より!お前最近悩んでるんだって?」
ハアハアと息をきらしながら言う。
「俺に相談しろって!千絵が正吾悩んでるって聞いたぞ?」
「何でもねぇよ!進也には関係ねぇ。」
関係。進也そのものが悩みなんだけどな・・・。
会えなくなるというのが辛い・・・そんな女々しい悩み。
「そっか?あ!この
後体育だぜ!?早く着替えねーと怒られっぞ!」
「お・・・おう。」
「走るぞ!」
あの悩みは何処へ行ったのやら。あの注意はどうなったのやら。俺は進也と一緒に廊下をかけだした。

#5日め→使うか使わないかの選択。
どうすればいいんだ・・・。この薬。使うか、使わないか・・・。
やっぱり悩んでる場所はこの長い廊下。
「もー!まーだ悩んでるのぉー!?」
怒ってる顔の千絵が背後から大声を出した。廊下に響き渡る明るい声。
「・・・。うるせぇな。毎日毎日。」
こんな事を言いたくはなかった。千絵がまた暗い顔をするからだ。
下をうつむいて千絵はやはり悲しそうな暗い顔になった。
「だって・・・。あれから5日もたつっつーのに正吾ったらさー・・・。」
もうこれ以上千絵を悲しませるわけにはいけない。
ー・・・本当の事を言う事にした・・・。

「嘘でしょ・・・?」
目を大きく開き手を口にあてた・・・。
「本当だ。」
「忘れる薬なんて・・・!?それで全て1年間の記憶を忘れる気!?
 そして進也が転校するなんて嘘よ・・・!しかもドイツなんて・・・!
 聞いて来るわ!」
千絵はかけだそうとした。でも、止めた。
ガッと腕をつかんだ。
「!?」
「聞くな。進也に心配かけちまうだろうが。」
「・・・でも・・。」
「俺の悩みはそれだけだ。ちまちまとそんな事気にすんな!」
俺はかけだした。長い廊下を思いっきり。
「どこのどいつよ!そんな事で5日間も悩んでる人はっ!」
涙声で千絵は叫んだ。
俺はあの心理カウンセラーのセンコーの所へ行った。利恵とかいう女。
年輩のヤツだ。真実を聞いたヤツとはあれから会って無い。
「また来たのかねこの子は。」
「うっせーな。俺は客みてーなモンだろうがよ。」
「・・・。で、薬は使って・・・ないようだが、どうするのさ?」
「使うさ・・・。」
「へぇ・・・。でも忘れて悪い事もあるって事を覚えときな。
 お前の脳の中は1年間でも周りは進んでるんだ。1年間な。
 時間が止まるなんてことなんかない。どんな辛い時でもな。
 そしてお前もめでたいこったね。1人の人間にお前の1年間の時間を
 止めるのかい?お前の身の回りのヤツはどうでもいいってのかい?」
「うるさい!」
バン!!とドアを勢いよく閉めそこから飛び出した。
周りを見渡すと屋上の広い場所。俺は叫んだ。
「何が1人の人間だ。あいつは俺の3分の2をしめる人との関わりの
 記憶だ。それに会えなくなるなんてもう駄目だ。1年間を忘れないわけに
 はいけないんだ!」
「じゃあ・・・私の事なんてもうどうでもいい・・・?」
後ろを振り向くとー・・・千絵がいた。
涙を流しながら。
「じゃああなたの3分の1は誰・・・?」
「・・・くそぉっ。」
「私の事も・・・忘れる気なのー・・・?」
千絵・・・。そう、進也と出会ってもう1人俺を認めてくれる人。
千絵がいた。

#6日め→千絵の存在。
千絵の言葉を聞いた時。何もわからなくて逃げ出した。
今日は進也が転校する前だー・・・。
今はホームルームが始まっている。
担任の小沢先生が言った。
「えぇー。進也君は明日転校する。ドイツへ行くそうだ。
 最後の日だ。皆いい思い出を作るんだぞ。」
「あはははは、よろしくー・・・!」
人気者の進也はははっと軽く笑う。
えぇー!何で言ってくれないんだよー!という声があがる。
俺は沈黙せざるをしなかった。千絵も・・・そうだ。
そんな日も時間は待ってくれず放課後。俺と進也2人きりのホームルーム。
「おい正吾、俺おまえの事、絶対忘れないぜ。」
「・・・。」
「なっ?」
「・・・・。俺はお前の事忘れる気だ・・・。」
タタッとその場をかけだした。
「おいっ、おい!!」
進也は俺の後を追う。足音が聞こえる。
スポーツNO.1の奴に俺がかなうわけない。すぐに追い付かれた。
あのずっと悩んでいた長い廊下で。
「何でだ・・・?俺の事忘れる程のどうでもいい奴だったのか・・・俺。」
「・・・。」
沈黙がよぎる・・・。
「違うよ。正吾は進也の事どうでもいい奴とか思ってないよ。」
千絵だ。後ろには千絵がいた。俺達の後をつけてきたのだろうか?
「ごめんね。いきなり・・・。正吾は進也の事どうでもいいとか思ってない
 から。進也と会えて嬉しかったのにもう会えなくなるとか思うと苦しいん
 だよ、きっと正吾は。忘れたいだけなんだよ・・・。」 
「千絵・・・。」
「・・・そっか。でも俺はお前の事・・・絶対忘れねぇからな・・・。」
進也は少し目に涙をためていた。涙なんて一つも見せた事なかった。
「じゃ、俺引越しの用意あっから帰るわ。明日午前4時には飛行機に乗る
 からな。」
ニッと笑って進也は去った。
「正吾・・・忘れないでね。進也の事。あたしの事も・・・。
 正吾進也がいなくなって辛いかもしれない・・・。あたしも辛いの。」
「・・・。」
「何も自分勝手に忘れるとか言って逃げ道を作らないで、頑張ってよ。
 正吾。逃げ道は自分の弱さを隠し持ってる事と同じなんだから・・・。」
俺は何も言えず、ただただ千絵を見つめていた。
千絵もそれから言う事もなくこの場を去った。
明日の4時。進也が旅立つその時間まで。俺は何をしてやれるだろう?

#7日め→薬。
もう12時か。そうたった今進也が旅立つ今日。
あと4時間で進也は旅立つ。その時間まで俺は何をすればいいだろう?
プルルルル・・・・・・。
電話?
「はい、もしもし。」
「あたし、あたし!!遅くゴメン・・・!って行ってる場合じゃないのよ!
 進也が!進也が・・・・!」
千絵がいつとどなく汗ってる。
声が涙声で震えてる・・・。
「何かあったのかよ。千絵。進也がどうしたって?」
「進也、引越しの支度しててその荷物が上から落ちてきて・・・・。」
声が出なくなると思ったぐらいのいきなりの報告で
何がなんだかわからなかった。
「・・・!?し・・・死んだんじゃねぇよな・・・!?」
「あたし今さっき進也に携帯電話にさよならを言おうと思ったんだけど
 おばさんがでて高城病院に連れていくんだって・・・!!」
「死んだんじゃねぇんだな!?とりあえず、高城病院行くぞ!」
「って今から!?」
「当たり前だ!先行ってるぞ!」
ガチャッといきおいよく切った。
ドタバタと階段をおり、自転車へ乗った。
あの薬をポケットに。そして進也との思い出を振り返りながら。
「どこに行く気!正吾!正吾!?」
母の声も聞こえない程俺は自転車をこいで、こいで、こいでー・・・。
高城病院はそう遠くない場所だった。
俺は病院に辿り着き、看護士に叫んだ。
「進也は、進也の病室を教えて下さい!!」
ビックリした看護士は患者が記録してあるノートをいそいでとって、
一番最初のページをめくり何号室かを言った。
「206号室です・・・。」
看護士はそう言った。俺は病院の中を走り回り必死に探した。
進也の病室をー・・・。
俺は進也の病室に辿り着いた。
「正吾君!?」
おばさんが声を漏らした。千絵と一緒だ。涙声で震えていて。
病室のベッドには進也が横たわっていた。
白い布が顔にかぶさられていた。
進也の肌は真っ白い天使のようにも見えた。
「・・・進也・・・?」
「正吾君・・・進也は・・・死んだわ・・・。荷物の下敷きとなって・・
 ・・。」
ああっとなきわめくおばさん。
感動ドラマみたいにはそう上手くはいかない。
死神はそうそう俺を待ってくれたりはしない。時間も止まってくれない。
「そう・・・ですか・・・。進也とはもう会えないんですね・・・。
 進也は・・・もう天国へ行ってしまわれたのですねー・・・。」
そうニッコリ笑うとポケットに入った薬を手をさしのべ、
おばさんはただそれを不思議そうに見ていた。
俺は進也を忘れるがため薬をのんだー・・・。千絵の事も忘れー・・・。
進也は転校しただけで、手紙でもメールでも電話でも。
生きている事に限りはなかった。
旅行でもしてまた俺のもとに戻って来てくれると。
会える事はちょっとでも可能なんじゃないかとー・・・。
だからあえて薬はまだ飲まなかった。
・・・でももう進也はいないんだ。
その思いが強く、俺は薬を飲んでしまった。
「進也!!進也はどうなったの!正吾!!」
「・・・?君はだれ?そして何故俺は他人の病室なんかにいる・・・?」
                               end
2004-01-23 21:32:30公開 / 作者:シア
■この作品の著作権はシアさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
今年は初投稿です。
去年は『クローン』という小説を
かかせていただきました。
もしよろしければ、
小説の御感想よろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
いいですね。次も読ませていただきます!!
2004-01-14 18:54:56【★★★★☆】はるか
正吾の内気な部分が良く出ていると思います。これから正吾がどのような行動に出るのか楽しみです。一つ気になったのは、鈴香先生が突然登場したことでしょうか。「『別に』〜証拠よ。君。」のセリフの後に、突然「女」という人物が出てきてびっくりでした。てっきりこのセリフは千絵のものかと思ってしまいました。いつの間にこの女は正吾達の近くにいたのでしょう。鈴香先生が正吾達の近くにいたということを匂わせる文章が、セリフの前にほしかったです。それでは、続きも頑張って書いていってください。
2004-01-14 21:42:26【☆☆☆☆☆】エテナ
はるかさん、エテナさん御感想ありがとうございます*^^*とっても嬉しいです・・・vまだまだ小説を書くのが下手な私ですが続きを見守ってやってくださいませ・・・(笑)
2004-01-17 14:02:29【☆☆☆☆☆】シア
続きが気になります。
2004-01-17 22:25:07【☆☆☆☆☆】fu-yu
良かったです!!ただ最後らへんが少しですがありがちでした。でも薬を飲んだのには驚きました
2004-01-23 18:49:50【★★★★☆】はるか
1日1日の感情の流れがおもしろかったです♪この状況を乗り越える強さが正吾にはなかったんですね…。進也が生きて留学した場合、薬は飲んだのでしょうか…。いろいろ考えてしまいました。
2004-01-30 04:18:53【★★★★☆】白桜
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。