- 『DRAGOON+1』作者:クサリカタビラ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角3109文字
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原稿用紙約7.77枚
透き通るように青く、雲ひとつ無い空
そこにポツンと1つ、小さな点が浮いていた
デベール王国所属の輸送飛空挺、『ベリッシュ』―細長い胴体を灰色にペイントしたそれは、南中した太陽の日を受けてのんびりと進んでいた
その艦橋にもまた、のんびりとしたムードが漂っていた
「この調子だと、ディピールまで夕方には辿り着けそうですね、艦長」
黒の詰襟の制服に身を包み、ツバ付きの制帽を被った茶髪の男が言った
「ああ―そうだな、副長。しかし、油断は禁物だ」
茶髪の男―副長と同じ制帽と制服を着た、艦長と呼ばれた白髪をオールバックに纏めた初老の男が反応した。しかし、その発言がまさか実現するとは、副長以下、言った本人でさえ予想していなかった
―防寒着に身を包んだ観測員は風圧と高高度によって生じる寒さに震えながら双眼鏡を覗いていた
そして、空に浮かぶ幾つもの茶色い点に気付いた
―鳥の群れか?
そう思っているうちにどんどん近づいてくる茶色い点の1つに煌々と輝く2つの碧眼を見た時、観測員は気付いた
そして、あわてて見張り所のインターカムのマイクに向かって叫んだ
「バウジの一団接近!頭数約13!本艦に接近してきます!」
茶色のゴツゴツした表皮を持つ、胴体よりも大きな翼が特徴の翼竜―バウジボトラス―凶暴な性格は、飛空艇乗りの間では『岩の悪魔』と呼ばれているほどだ
観測員の声は艦橋に設置されたスピーカーにはっきりと伝わった
艦橋の空気が一気に張り詰めたものとなる
「全速前進用意!アップトリム20°!回避行動用ー意!」
副長が艦長の叫んだそれを復唱するよりも早く、舵取りの一人は上昇レバーを引き、もう一人は機関室に全速前進の命令を送る
灰色の艦が鎌首をもたげながら排気管からより増して黒い煙を吐き出して速度を上げた
「しかし、どこから飛んできたんだ?あいつは確か夜行性のはずなのに・・・」
観測員は、徐々に大きくなってくるバウジの影を双眼鏡で確認しながら呟いた
―その様子を竜に跨った顔を黒のフェイスマスクで覆い、簡単な皮鎧に縁付の鉄ヘルメットを被り、薙刀で武装した―二人が見ていた
「あちゃー」
他と比べて比較的小型の翼竜―緑色の表皮を持ったジーニに跨った一人が声を上げた
「失敗したな・・・こりゃ」
「失敗したな、じゃすまされないぞ」
銀色でジーニと同系列の翼竜―バゥーニに跨った一人がバウジの集団の中に見える灰色の点を指差して言った
灰色の点―輸送船は、徐々に高度を上昇していた
「あの輸送船、高度を上昇させているが絶対に間に合わない。バウジに喰われるぞ」
「ど、どうすりゃいいんだ」
ジーニの騎兵はバゥーニの騎兵の発言に完璧に狼狽していた
「決まってるだろ」
バゥーニの騎兵は左手に薙刀を構え、右手に握った手綱を引いた
「自分達で始末する」
そういうが早いか、バゥーニは騎兵を乗せて翼をはためかせて輸送船とバウジの群に向けてまっしぐらに飛ぶ
「あ、待ってくれ!」
ジーニの騎兵も慌てて手綱を引き、そのあと追った
「くそ、早く上がれ!上がれ・・・!」
観測員はおそおそと昇る飛空挺に苛立ちを募らせていた
双眼鏡はもう覗いていない―既にバウジは肉眼でも翼をはためかせる姿がはっきりと見えるほど近づいていた
「高度が足りません!」
艦橋では徐々にメーターの回る高度計をみて管制官が悲痛な声を上げた
「くそ・・・」
艦長はその報告を聞いて悪態をつく―艦橋の窓からも右舷の方向にバウジの姿は見えていた―誰もが絶望した、その時だった
艦橋に一瞬だけすばやく影が走る
「何だ今のは?管制官、観測員に報告を知らせるように言え!」
左舷から近づいてきたバウジだと勘違いした艦長が指示を飛ばす
だが、その必要は無かった
『やった!ドラグーンだ!』
観測員の歓喜の声が艦橋に響き渡る
「ど、ドラグーンだと・・・!」
そして、艦橋にも歓喜の声が響き渡った
「うわぁ・・・こりゃ10強はいるな」
輸送飛空挺の上を通り抜けて、はっきりと見えるバウジの一団にジーニの騎兵は呟いた
そして、前を飛ぶバゥーニの騎兵が右手を手綱から手を放して指を動かしてサインを送る
『俺が突撃する。お前はいつもの通り頼む』
そしてそれを確認したジーニの騎兵は親指を立てて了承の合図を送った
「大丈夫かな・・・?たった2騎で・・・ん?」
観測員は銀色の竜に乗った竜騎兵の一人がバウジの一団に突っ込むのを見た
バウジ達の眼にもそれが見えていた
―いい獲物だ
その眼にはそう映った
そして輸送飛空挺から目標をその“獲物”に移した
バウジは長い前足を伸ばして捉えようとするが、騎兵を乗せたバゥーニはそれを手安く避ける。結局、捕らえる事ができずに、それでもなお諦めないバウジの一団はバゥーニを追う
バゥーニの騎士は追ってくるバウジの一団を見てフェイスマスクの下で不敵に笑った
一匹が大きく牙を曝して獲物を喰わんと飛び出してきた
それをまるで嘲笑うかの如く騎兵の乗ったバゥーニは右に避ける
空を噛んだバウジはさらに何度も噛み付こうと口を開けては一向に獲物の肉を捕らえた柔らかい肉の感触を感じる事ができずに牙を鳴らすだけだった
仲間の一匹が短く悲鳴を上げた
後ろから追跡していたジーニの騎士の薙刀の切っ先が“獲物”追うことに集中している一匹の翼を捉えたのだ
翼をやられ飛ぶ事のできなくなったバウジは錐揉み回転しながら落ちていった
他のバウジ達はそれに気付かず獲物を追うことに集中している
二匹目の悲鳴が響き、続いて三匹目の悲鳴が響く―異変にようやく気付いたバウジ達は獲物を追うのを止め、空中で急停止した。そして、そのうちの一匹がそのまま一団に高速で突っ込んできたジーニの騎兵の薙刀に首を持っていかれた。意思を失った体と頭は地面へと落下していった―残ったバウジ達は自分達が六匹しかいないことに気付いた
本能的に恐怖を覚えたバウジ達は、獲物を捕らえることを諦め急いで地上すれすれまで急降下するとそのまま逃げていった
「うおー!」
艦橋は歓喜の声で沸き返っていた
そしてその前を凱旋するようにジーニの騎兵が艦橋にまだ赤い血のこびり付いた薙刀を見せ付けるようにちらつかせながら横切った
「やれやれ、気楽なもんだな・・・」
バゥーニの騎兵はその様子を見つめて、ボソッと呟いた
―山脈と山脈の間に作られた、幾本ものデベール王国簡易国旗の白い布地に三本の黒棒が書かれた国旗の掲げたポールの立ち並ぶ厚みのある赤い壁―それは城壁とを兼ねたデベール王国、設立の巨大ドック『ブランボ』だった。赤い夕日と美しいグラデーションを織り成し、その存在を有り余るほどに主張していた―
そこに二騎の竜騎兵に同行されて進入するベリッシュの姿があった
ベリッシュはは掲揚線(旗を吊るすためのロープ)に黄色地に黒の丸の書かれた三角旗を吊るしていた。意味は―着陸許可を請う
すると、今度はドックの上に建てられた詰所の連絡用ポールから白の旗が上がる―着陸を認める
その旗が出た直後、詰所のすぐ脇の壁の上部の赤が黒に染まっていく―ドック上の防御用のハッチが開いていってるのだ
そして、ベリッシュはそのできた穴の中にゆっくりと降下していった
二騎はそれを見送り、『ブランボ』の手前に立てられた木造の建物に向かって降下していった - 2004-01-12 13:16:21公開 / 作者:クサリカタビラ
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