『−B−(序章〜第一部)』作者:最低記録! / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 −B−



序章

雨が降っていた。
どしゃ降りというわけでは無かったが、かなり強い雨だった。
時刻はすでに夜11:00をまわり、雨のために人も一人としていなかった。
そんな中を、一人の少年が走っている。
「んったくもう、なんで雨が降るんだよ!天気予報じゃ、言ってなかったぞ!」
一人でぶつぶつ言いながら、手にしたカバンを頭に乗っけて走る。
ふと、少年は途中の小さなビル(4階建てほどだが)の並び立つ一角を見て立ち止まった。
「確か、ここから行けば近道だったな」
そこは、ビルとビルの間の横道だった。上には2つビルを繋ぐ道があって、雨もあまり入ってきていなかった。
「・・!一石二鳥じゃん!」
そういうと、彼は喜んでその道へ走っていった。
突き当たって、右に曲がり、左に曲がって、真っ直ぐ走る。
迷路のように入り組んだ、つくりになっている横丁を彼は道を完璧に把握しているかのように、走っていった。
「小さい頃ここで、よく遊んだからなぁ・・・」
そうつぶやいて、更に真っ直ぐ走っていく。
そして、二股を左に曲がった。
しかし、その瞬間彼の目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。
4人ぐらいの男に囲まれて、2人の男が戦っている。
全員、刃物を持っていた。
いや、2人の内の1人は素手だった。
少年は、息を殺して物陰から見ていた。
「こいつぁ、やばい所に来ちまった・・・」
そんな事を、言った瞬間の事だった。
4人組の1人が、手から閃光を発し、2人の男めがけて飛ばしたのだ。
2人はさっと避けて、再び睨みあった。
「な・・・」
思わず息をのむ。まさか、こんなゲームや、アニメのような事があるのだろうか。
あるはずが無い。きっと、ビックリしたせいで、幻覚を見たんだ。
しかし、その幻覚はもう1度起きた。
今度は2人の内の素手のやつが、手を組むと同じように閃光を出した。
いや、正確には炎に似たものだった。
少しひるんだ、相手にすかさず刃物を持ったもう一人が切りかかり、一人を倒す。
血が吹き出た。その惨酷な光景に、彼はついに耐え切れなくなった。
「うわぁぁぁぁぁああ!!」
悲鳴をあげてしまったのだ。
それに、気付いた奴らが一斉にこっちを見た。
「何!?」
刃物を持ったやつがこっちをずっと見ていた。
そのとき、後から敵(敵だと感じた)が閃光を放とうとしているのが見えた。
「伏せろ!!」
素手のやつが、そういうと刃物を持ったやつがハッとして、しゃがみこみ敵を切り刻んだ。
そして素手のやつが言った。
「くっ、これ以上はまずい、引き上げよう!時間が無いし、Aにもばれた。他にも人が来たらまずい!」
すると、刃物のやつは頷いて、こっちに向って走ってきた。
少年は、死を覚悟した。
今日はもう、散々な一日だった。短い人生だったなぁ、とかれこれ考えていると、
刃物の男が俺を抱きかかえて、走っている。
そこで、少年はもう1度悲鳴をあげた後に叫んだ。
「離せ!人殺し!やめろ!!殺すなら殺せ!」
しかし、男は無視していた。
素手のやつが
「お前・・・・・・・・・まぁいい、好きにしろ。処罰を受けても知らないからな」
「わかっている」
さっきの奴らは、追ってきていた。
途中で、また閃光を放ったのもわかった。
熱線がすぐ横を通る。
その波動に、不思議なエネルギーを感じそのひょうしに彼は気を失った。

途中で四人組(正確には残ったのは2人だが)は、追うのを諦め引き返していった。
そして、少年は抱かれて走っていく・・・。
先の見えない闇へ、
とんでもない未来へと・・・。










 第一部

第一章 「Bの存在」

朝日が、顔に差し込んだような気がした。
その微妙な眩しさに、俺は目を覚ました。
眼を開けると、少し固めのソファーに毛布をかけられていた。
「・・・ん、俺は・・・」
起き上がって、周りを見てみると地下室のようだった。
打ちっぱなしのコンクリートに包まれている部屋だった。
別に朝日が射している訳ではなかった。ただ、気付くと真上にある蛍光灯が異様に眩しく光っていた。
「俺は・・・なんでこんな所に居るんだ?」
しばらくして、ふと思い出した。
「そ、そうだ!あの、不思議な光景を見て!・・・捕まって・・・それで・・・・・・」
絶望とも言えるのだろうか、自分でも重苦しい複雑な思いに縛られた。
「・・・なんで、こんな事にならなくちゃいけないんだ・・・・・・」
頭に家族の事が浮かんだ。
俺の家は、俺・親父・母さん・兄貴・妹の5人家族で普通の平凡な家庭だった。
親父は、サラリーマンで、母さんはパート。
どちらかと言えば、教育熱心な家庭で子供は皆、高い金を払って塾に行かされた。
兄貴と、妹は頭が良くて、勉強好きだったが、俺は決して勉強を好きになれなかった。頭はそれほど悪くなかったが(自分で言うのも難だが)、そんな生活が嫌いだった。
昨日の晩も塾の帰りだった。
塾先(塾の先生 略)に反抗して、補習をしていたのだ。
そして、いつのまにか雨が降り、どしゃ降りになって・・・そして・・・・・・
涙が零れていた。
家族に会いたい、友達に会いたい。本来なら、今日も今頃学校で、友達と楽しく喋っていたはずだ。なのに・・・
俺は、こうなる運命だったのか?なんでこんなめに遭わなくてはいけないんだ?
「目が覚めたか?」
後から男の声がした。
振り向くと、そこに居たのは昨日の刃物の方の男だった。
「おいおい、そんな怯えためで俺を見ないでくれ」
確かに、俺は少し怯えていた。その・・・何と言うか・・・奴の風貌にというか・・・・・・
「眠れたか?」
何を話す気にもなれなかった。
「おい、何か話してくれないか?」
いい加減にしてくれ。あんたが、居なければ俺はこんなめに遭わなかったんだ。
「・・・そうか。そうだよな。俺のせいだから・・・だよな」
男はうつむいて、悲しげな眼をすると再び言い放った。
「悪かったな。変な事に巻き込んで・・・。だがな、どうしようもない。・・・まぁ、もうしばらく休んでいてくれ。いずれ、お前にも色々と話してもらわなくてならない」
男は、本当にすまないと思っているようだった。
しかし、俺には昨日の夜の事がしっかりと眼にやきついていた。
それを、繰り返し繰り返し、頭に流される。
「とりあえず、名前だけでも教えてくれないか?」
あまり、言いたくなかった。口を動かしたくなかった。
しかし、この男なら何か助けてくれるかもしれない。
もしかしたら、交渉する事で俺を元の場所に返してくれるかもしれない。
何者なのか?どんな奴なのか?それはわからない。
けど、この男は俺に情をかけてくれている気がした。
「香田・・・健二・・・・・・」
そういうと、少しビックリしたような顔をしたが、すぐに笑顔に戻って
「ありがとう」
と言った。
すると、男は奥の部屋へ歩いていった。
階段を上る音がしたので上へ行ったのだろう。
男が行ったのがわかると急に、体に疲れが出たような気がした。
そして、再び横になった。

どれくらい時間が経っただろう。
おそらく、2時間も経っていない。
横になっていた所に、男が来てついて来いと言ったので、上の階に行った。
少し、希望があった。やはり、交渉する事での釈放が望みだった。
それが、たった一つの希望だった。
それを胸に、男についていく。
上の階に上ると、奥のほうに電子機器がいっぱい並べてある所に向って歩いた。そこに、素手で戦っていた男が居た。
「本部に連絡は取った。あとは、どうなるか・・・本部に行かないとわからん」
と、素手が言った。
「わかった。・・・悪いな、迷惑かけて」
そう、刃物(この呼び方ではおかしいが名前がわからないので)が言うと、
少し顔をうつむいて素手が言った。
「お前の気持ちがわからんでもないさ」
と言い、ソファーに座った。
「じゃあ・・・香田君そこに座ってくれ」
刃物がそういうと、俺は何も言わずに小さな丸イス座った。
座ったのを確認して、刃物も素手の隣に座った。
そして、まず刃物が言った。
「彼の名前は香田 健二だ」
そういうと、素手がほぅと言った。
すると、もう一度刃物が言った。
「じゃあ、これから質問する事に答えるんだ。
まず、歳は?」
「14」
「住所は?・・・あぁ、詳しく無くていい」
「葛館区白羽・・・」
このような、個人的な質問をいくつもされていった。
そして、質問に協力ありがとう。と、言うと、本題に入ると言って、真剣な眼差しで更に続けた。
「本名は名乗れないので、コードネームで言う。
私はカリウスだ」
「俺は、イオという」
そう素手も名乗った。
「君が信じる信じないは勝手だが、説明をさせてもらう。
まずだなぁ、この世界には2つのタイプの人間が居るんだ」
何を突然言い出すかと思ったら、2つのタイプだそうだ。
男と女か?それとも、強い、弱いか?
「AかBかだ」
!!?
A? B?
「誰がどう創ったのかは、言い伝えはあるものの実際にはわかっていない。
しかし、確かにここに実在する。
君たちのような、人間をA。我々のような特別の力を持った人間をBと称してな」
なんだ?なんだ?なんなんだ?
どういう意味だ!?
「何がどう違うのかは、我々にもよくわからない。しかし、Bは確実にAとは違う。君も見たね?昨日の晩。我々の動く早さ、攻撃力、そして、エネルギーを」
そういえば、確かに素早かった。
それに、あの技を、閃光を確かに見た。
「いいかい?
Bは、Aと違って、ザイバルというエネルギーを体に秘めているんだ!」
「ザイバル?」
俺はふと声を出してしまった。
そのカリウスの声の力のこもり具合の強さゆえに。










第二章 「ザイバルという力」

俺は、訳がわからなかった。
こいつらは、狂っているのではないか、とも思った。
しかし、俺は見てもいる。あの力を、あの閃光を・・・。
「ザイバルは、この世界にある全てのものが持つエネルギーの事だ。
火・水・風・大地・電気・氷、光、闇とかな。もっと詳しく言えば、圧力や、重力、霧だって、その一つだ。そういった、もの全てがエネルギーを持っている」
本当にバカバカしい話だった。
何がザイバルだ?何がエネルギーだ?そんな、マンガやゲームの中の話が本当にあるのか?
それは、普通の人間から言わせて貰えば狂っているとしか言いようが無い。
夢の世界に陶酔しているようにしか見えない。
「そんな、『お前ら、狂ってるんじゃないか?』なんて眼で見ないでくれ。
・・・まぁいい。論より証拠だ・・・」
カリウスがそういうと、イオを見て頷いた。
すると、イオが立って手を合わせた。
そして、その手をひねらせながら離していく。
・・・!?光っている、薄い緑を交えた閃光が手の間に輝いている。
それを片手の上に滞空させて、足で下に落ちていた木片を蹴り上げて、
そこに投げつけた!
あっという間の出来事だった。木片は、5つに砕けて飛び散った。
俺は相当驚いた顔をしていたのだろう。
俺をみて、イオが大笑いをした。
「ハッハッハッ!小僧、そんなにビックリしたか?お前は昨日の晩も見ただろうが」
そうだ、俺は昨日も見ていたんだ。
そして、昨晩の戦闘の様子が鮮明に浮き出てきた。
「香田君。わかったかい?昨日も見ただろうが、ここに今ザイバルのエネルギーがあった。確かに、ゆるぎない真実として」
カリウスが真面目な顔をして、俺に言った。
その言葉に、俺は少し恐怖を覚えた。
なぜだか、わからない。けど、深い意味を持っている気がした。
「彼の使った、ザイバルは雷だ。
我々、Bの人間は生まれた時から、2つないし3つのザイバル属性を持っている。まぁ、3つ持っているBは珍しいんだがな。
イオは、雷として生まれたが、親の“木”の能力の影響で、雷が少し緑色になっている」
なるほど、と思った。
けど、まだ信じきれずにいた。
この目で見たものだ。体で感じたエネルギーだ。
しかし、わからない。なぜ、こんな人々が存在するのか。
「なんで、そんな人々が存在しているんだ?」
突然、声を出してしまった。
自分では、交渉するまで声を出さずにいようと思っていたのだが、その疑問に耐え切れなくなっていた。
彼らも、少し驚いた表情をして、真顔に戻りカリウスが始めた。

―神は、ある時人を二つに分けたのだ。

それは、遠い昔のお話ではない。
比較的、最近の話だ。とはいえ、1200年ほど前の話だがな。
我々の寿命から言えば、比較的最近ということだ。
神はある時悟った。
この世界は、進歩と引き換えに破滅の引き金を引く。
そして、それを守るには自分(神)とは違う存在であり、同じような力を持つものが必要だ・・・と。
その後神は、人間を8人選び、神の力を8つに分け、その想いを彼らに託した。
開闢・仁炎・源水・風魔・地義・紫閃光・玄白・暗樂
彼らは、神の想いを聞き入れ、神と誓い、約束した。
その時まで、普通の人間にはばれずに子孫を増やし、その時が来たら、世界を救えと。

我々は、その神の事を“ガイヴェル”と呼び、その8人の事を“開闢の八戦士”と呼んでいる。
子孫は増えていき、今では・・・どうかな?大体、4万人ぐらい居るのかな。
正確な人数はわからないがそれくらい居る。
しかし、そのBの歴史の中で大惨事が起こった。
一部の奴らが、その力にモノを言わせ、人間を攻撃し、皆殺しにした。
戦争の最中だったため、人間にばれる事は無かった。そういうことが、いつ何処で起きてもおかしくなかったからだ。
しかし、問題となった。
検討し、しきたりを破った彼らを処刑する事にした。だが、彼らはそれに反抗し軍を設立。真っ向から、対立してきたのだ。
奴らは、我々をバイファーと呼び、自らをシリウスと名乗った。
そして、今もその対立は続いている。―

「という事だ。」
話す事に疲れた様子で、カリウスが最後に付け加えた。
「じゃ、じゃあ、あんたらが戦っていたのはシリウスという・・・」
カリウスとイオが深く頷く。
「そ、そうだったのか」
俺はだんだん信じ始めていた。その出来事に対して、Bの存在に対して。
しかし、その時ふと思い出した。
交渉しなくてはいけない。俺を帰してくれと、頼まなくてはいけない。
「で、でも、そんな話。俺には関係ない。・・・よな?
できれば、帰してほしいんだ。俺、ホントは今日学校だったしさ。
親も心配しているだろうから、早く顔見せたいんだよ」
最後の言葉はウソだった。けど、言っておいた方が説得力がありそうだったので、付け加えておいた。
すると、2人は眼を見合わせて、辛そうにガックリと肩を落とす。
そして、カリウスが口を開いた。
「香田君、俺たちが何のためにこれだけ、Bについて君に話したかわかるか?」
理解できなかった。Bの存在を知って欲しかっただけかと思っていたが、違うのだろうか・・・・・・・・・まさか?
「君は、もう普通の人間とは違う。ザイバルの波動を間近で受け、俺に抱かれた時から、もうすでに・・・手遅れだ」
悲しそうな眼をして、カリウスが言う。
ははーん、わかったぞ。B何て言うのはこけおどしで、さっきのはちょっとしたマジックショーだったんだ。
それで、難癖つけて俺を連れ去ろうって訳だ。
「そんな事をいって、だまされないぞ!俺は行かせてもらう。家に帰るんだ!!」
そう言い捨てて、俺はドアへ走っていった。この階に来た時に、逃げ口を確認しておいたんだ。もしもの時のために。
「待て!!」と叫んで、2人も追いかけてくる。
しかし、俺はもうすぐドアにつきそうだ。
あれ?俺、足が速くなってる・・・
まぁ、いいもうすぐドアだ。
開けるぞ!
と、ノブに手をかけた瞬間その反動でドアは、向こう側へ吹っ飛んでしまった。
あ然とした。俺、こんな力・・・持ってないぞ・・・
自分の手を見ながら震えてしまった。
まさか、俺はBになってしまったのか?
と、その時後から肩にポンと手をかけられた。
「お前は、完全なBじゃない。しかし、あれだけ近くでザイバルの波動を受けると、体にザイバルのエネルギーが張り付く。そうした者に、普通の人間の生活はできない」
イオが悲しい眼でこっちを見ていた。
俺は、その言葉が分かった。どういう意味なのか。どういう事なのかを・・・
けど、信じたくなかった。
「うるさい!ウソだ!ウソだ!ドアに仕掛けでもしたんだろ!!」
いつのまにか、眼に涙がたまってきていた。
こらえきれない、思いは雫となって落ちていった。

そして、カリウスも涙をためてこういった。
「Bの世界にようこそ・・・健二・・・・・・」










第三章 「運命(さだめ)」

あの日のように、雨だった。
雨粒はまるで怒っているかのように、窓を打ち付けていた。
あの出来事の後、俺は泣きながら怒り狂って、幼い子供のように暴れ、叫び、わめき、眠ってしまったらしい。
起きると、もう打ちっぱなしのコンクリートは無く、どこかのホテルに泊まっていた。俺の心をあんじてか、俺用の一人部屋もくれた。それから、もう三日になる。
正直言って、ショックだった。
もう会えない家族、友達。
あんな家族だったけど、こうなってみると思い出すたびに涙が出てくる。
学校の事、友達のこと、好きだったバスケの事。
何もかもが、遠い昔のどっかの世界のお話になってしまったような気がして、片時も涙が止まらない。
俺はこんなに弱い存在ではないはずだ。と、強くなろうと思っても、ダメだった。
カリウスが、食事を運んで来てくれるが、毎回ヨコに首を振った。
しかし、さすがに腹が減ってきていた。もう、三日九食ぬいているわけだ。

ガチャ

イオだった。いつもは、カリウスなのにイオが食事を持っていた。
「健二、そろそろ食べねぇと・・・本当に死んじまうぞ?」
横に首を振るだけで、返事はしなかった。そうすることにしていた。
勝手に連れ去って、Bの世界に引き込んだこいつ等を敵視していたからだ。
はぁ、とため息をつくと
「なぁ、健二。お前の気持ちもわかる。だがな、俺たちはお前を助けたんだぞ?」
助けた?俺は、その言葉にムッとした。
「助けた?俺が、これほどまでに苦しい思いをしているのに?そして、わけのわか らない、Bの世界に引き込まれて、人間のような日常生活を営めないような体に したくせに?」
俺は、フンと鼻で笑い、続けた。
「冗談じゃない!俺は、あんたらの事を信用していないし、むしろ敵だと思ってい る。こんな生活を俺に強いらせて・・・俺は幸せだったあの生活をあんたらに奪われ たんだ!」
イオはあからさまに、怒りの表情を見せて怒鳴った。
「なら、今すぐ出て行ってもらってもいい!元々俺は、カリウスがお前を助けたの に賛成じゃなかったんだ!!」
「ああいいとも!言われなくても出てってやるよ!!」
と吐き捨てて、立ち上がりドアの元に行こうとすると、イオが突然俺を止めた。
「わ、悪い・・・つい、かっとなっちまって・・・」
ビックリした。まさか、こんな事を言われるとは・・・
俺も、かっとしていた思いが冷めてしまった。
「ごめんな・・・。でも、俺たちは本当にお前を助けたんだぞ?あのまま、見捨てたらシリウスの奴らに殺されるか、捕まってこき使われるかの所をな・・・。
それに、本来お前がいる事で足手まといになる。更に、本部から通達があれば、俺たちは罰も受けなくてはならなかったかもしれないんだ。いや、正確にはまだ通達が来ていないだけだがな」
怒りをまだ顔に残しつつ、申し訳なさそうにイオは言った。
「なら、なんで俺を助けたんだ?」
そう聞いた。
「実はな・・・カリウスには弟子が居たんだ。カリウスは子供が好きでな、親をシリウスに殺された、少年を1人引き取ったんだ。名をゲイブと言った。もちろん、コードネームだがな」
やっと、怒りを捨てきった顔で更に続けた。
「俺とカリウスとゲイブの3人は一緒に、任務にあたって成果を上げていった。
だが、ある時・・・ゲイブはシリウスに討たれた。体のど真ん中を、閃光が貫いていた。息をもだえながらも、ゲイブはカリウスに『ありがとう』と言って、間も無く息を引き取ったんだ」
カリウスに、そんな過去があったなんて・・・
「ゲイブは丁度お前と同じぐらいの歳だった。
 だから、あいつにはゲイブとお前が重なって見えたのかもしれない。
 守れなかった、最愛の弟子を・・・な。だから、きっと・・・」
「わかったよ」
俺はイオの話を最後まで聞かずに言った。
「わかっ・・・たよ・・・・・・」
そう言って、悲しみを再び眼にためると、イオが俺の頭をなでていった。
「健二、お前は後には引けない。運命を受け入れて・・・まぁ、とりあえずは元気にな って、カリウスに顔を見せてやってくれないか?」
返事はしなかった。そのまま、少し考えたかった。
そう思って、座るとイオは食事を置いたまま部屋の外へ出て行った。
まだ、信じきれない。まだ、許しきれない。
けど、2人とも悪い奴じゃないって分かった。
そう思うと、心を縛っていた縄が1つ解けたような気がした。
「俺は・・・どうすれば・・・・・・」
そう、1人つぶやくと腹の虫が泣いた。
これには、自分でも少し笑った。返事をするように泣いた音にハイハイ、と言ってイオが置いていったパンをスープにつけて食べ始めた。
すると、奥のほうでガチャンと音がして、「びちょびちょだなぁ」と声がした。
カリウスが帰ってきたのだろう。
と思っていると、カリウスが部屋を覗き込んだ。
「調子はどうだ?」
カリウスはいつもこうやって語りかけながら食事を運んできていた。
「うん、まぁまぁ・・・かな」
と、言うと
「食事も食べてるじゃないか!うん、よくやった。」
と、満面の笑みで戸を開けたまま向こうの方へいった。
すると、間も無くドアをノックする音がした。
それに、反応してイオがドアを開けようとした瞬間、カリウスが叫んだ。
「イオ!ダメだ!」
もう遅かった。開けていた。すると、警官のような男が5人なだれこんできた。
そして、イオが後ずさりし、2人とも身構えた。
警官の1人が一歩前に出ると。
「・・・わかっているな?Bと呼ばれる者よ」
といって、全員一斉に銃を構えた。
イオは、閃光を放ち警官を吹っ飛ばすと、家具を触れずに引っ張り込んで(もちろん、ザイバルを使ったのだろう)、盾にした。
その後2人は、俺のほうに走ってきて叫んだ。
「窓から飛び降りるぞ!」
え?ここは、6階だぞ?
疑問を持った顔をしている俺を、捕まえると。
「大丈夫だ、俺が守る!」
と言い、窓際まで行った。
しかしその時、窓を割って2人の警官が飛び込んできた。
2人の警官はニヤリと笑い、銃を構える。
すぐさま、カリウスが俺の前に入って身構えた。
「お前は俺が守ってみせる!」
本当に、この人は俺を守ってくれる。俺を思ってくれている。と、感じた。
この2人は、信じられる。と、思った。
その時、イオが後の気配を感じ、再び閃光を放つ。
迫り着ていた、残りの警官たちを吹っ飛ばした。
そして、カリウスは目にも止まらぬ速さで動くと、隠していたナイフで、警官を切りつけて、一人を倒した。
しかし、その背後で銃を構える警官!
危ない!そう思うと、少し離れた所に銃が落ちていた。
さっき、イオが吹っ飛ばした拍子に、ここまで飛んだのだろう。
意識していなかった。だが、体は動いていた。
銃に飛び込み、転がり、敵を捕らえた、やつは引き金を引きかけている!

バァァァン!!

血が飛び散った。
警官が倒れた。・・・俺のほうが早かったのだ。
やった・・・やったぞ!!
イオがヒュ−っと口笛を吹いた。
そして、カリウスが俺を見た。
「やるな!」
そして、手でグッ!とポーズをして、笑った。

この時、この銃の一撃が俺を変えさせた。
俺は運命を受け入れる。この先何があっても、あんたらを信じていくよ・・・










第四章「車内にて」

パリィィン
ガラス窓は見事に砕け散って、俺たちを宙に放り出した。
俺はカリウスに抱かれて下まで落ちていく。
本当に大丈夫なのか?
不安でいっぱいだったが、俺はこの2人を信じると決めたのだ。
だから、とことん信じる。その先に何があっても・・・
風と雨が轟音を上げているような気がした。
雨粒はこれでもか、と言うほどに俺を打ち付ける。
すると、突然轟音が鳴り止み、俺はすっと立たされた。
「はい、ご乗車ありがとうございました」
と、イオが一笑する。
「そんな事いってる場合か!」
カリウスが半ば笑いながら怒鳴った。
雨のうえに、風も強く、時間帯もちょうどよかったために、人はほとんど居なかった。
しかし、居た人はその音にこっちを見ていた。
そのため、カリウスが最初に走り出した。
続いて、イオと俺も追いかけた。
何処に向って走っているのか分からなかったが、町から出ようとしているに違いない。
それにしても、随分速いスピードで走っている割には息切れもしなかった。
車より、少し遅い位だった。
やはり、俺はもう人間ではないのだろうか・・・
半B・・・といった所か・・・・・・
少し、面白くなった。それも、決して悪くないと思い始めたのかもしれない。
しばらく走っていくと、商店や住宅の街を抜けて、もう少しまばらな所まで着いた。
と思うと、突然カリウスが止まったので、俺はブレーキをかけきれずぶつかってしまった。
「あ、悪い。突然に止まりすぎたな」
と、カリウスが行っている間にイオが虚空を掴んだかのような格好をして、引っ張り上げた。
すると、路地裏に止めてあった車がこっちに走ってくるではないか。
俺たちの目の前で止まると、ドアをパカッと開いた。
バンのような、軽トラのような・・・
荷台があるような、無いような・・・
なんともいえない。初めて見た車だった。
イオが運転席に乗り込み、カリウスが助手席に乗った。
「ほら、お前も早く乗れ!」
と、言われたので、俺も後ろの席に飛び乗った。
ドアを閉めると、イオは猛スピードで道を走らせた。
「うわぁ、びちょびちょだなぁ」
またかよ、と言わんばかりにカリウスが言った。
すると、イオが。
「それにしても、健二。お前、よくやったじゃないか!」
それを聞いて、カリウスも。
「ああ、すごかったぞ!お前は命の恩人だな」
俺は、少し照れ笑をして、頭を掻いた。
そして、胸に秘めた決意を言うべきだと思った。
「俺、あんたらに着いて行くよ。今までは敵だ。と、信じられない。と、思ってたけど、今なら信じられる気がする」
そうすると、2人とも笑顔で軽く笑った。
そして、疑問になった事を聞いてみた。
「さっきの奴らも、シリウスなのか?」
二人がそろって「いや・・・」という。
そして、イオが続けた。
「あいつらは人間だ。ふつーのな」
!? 俺はビックリした。人間はBの存在を知っているのか?
「実は、一部の人間にはばれている。それも、この日本の特権階級者達にな」
「な、なんでまた・・・」
今度はカリウスが言った。
「我々がシリウスを倒した後は、必ず処分する事になっているんだ。だが・・・ある奴が、それを面倒がって人目につかないところに放置した事があるんだ」
俺は濡れた髪を手櫛で整えながら前に顔を出した。
「だから・・・?けど、なんで殺そうとして来るんだよ!?」
今度はイオが言った。
「さぁーな。けど、捕まえて仕組みを理解したら、生物兵器にでもするんじゃねぇのか?・・・ったく、あきれるぜ。勝てるはずも無いのによ。殺されに来てるようなもんじゃねぇか」
顔をしかめるイオに更に問う。
「なんで、そんな思いしてまでBを?」
はぁっと、ため息をついて答えた。
「報奨金が出るんだよ。訓練をトップクラスで抜けた精鋭達にのみ知らせて、志願者を派遣するんだ。B波探査機とか言うのを使ってな」
「そんな物まで作られているのか!?」
知らなかった、日本とBの関係にビックリしてつい大きな声を出してしまった。
「それだけじゃない。普通の拳銃はBには効かないんだが、奴らの銃は確実に射貫く。装備だって、Bの波動を多少吸収するように作られているんだ。・・・国家の予算にも含まれているらしいぞ、開発費やら、報奨金やらがな」
小さな声で、うわぁ〜と声を出してしまった。
「ってことは、敵はシリウスだけじゃないって事か!?」
うむ、と2人とも頷いた。
車はなおも、スピードを上げて雨の中を走りつづけた。
しばらくすると、カリウスが包みをくれた。
ありがとう、と言って受け取ったが俺の嫌いなホワイトチョコレートだった。
「げっ!?」
「なんだ?嫌なのか?」
「い、いや、ホワイトチョコレートはちょっと・・・」
と言うと、2人は笑い出した。
「な、何がおかしいんだよ!」
すると、イオが。
「悪いが、ホワイトチョコレートなんて贅沢な物はねぇな!」
と言って、笑った。
更に、カリウスが続けた。
「とりあえず、食ってみろ。甘いもんじゃないぞ!」
と言って、笑った。
俺は、ムッとして要らないと、言おうかと思ったが、それもそれで悔しかったので、無理矢理口に押し込んだ。
「どうだ?」
と、カリウス。
なんだ?この味は・・・
チーズか!?
「これ、チーズ?」
と言うと、また2人は軽く笑って、カリウスが答えた。
「ん〜、まぁそんな味はするな。本部で作られている物でな、派遣されたBの栄養剤みたいなものだ。2つ食べるだけで、腹も膨れる。・・・ほら、さっき食いかけだっただろう?だから、試しにやろうと思ってさ」
確かに、チーズとは少し違う味だが、俺は気に入った。
「そういえば、本部ってどういう所なの?」
俺は、前から思っていた疑問を口にした。
すると、イオが言った。
「すぐに分かるさ。今向っているんだからな」
少し顔が暗かった。
そして、カリウスが言った。
「お前は本部に認定してもらわないといけない」
?どういうことだ?
「お前みたいな人間が間近にいることを俺たちは気付いてやれなかった。そのためにこの世界に入ってきてしまった。だから、俺たちは処分を受けなくてはならないかもしれない。それに・・・」
暗い顔つきでうつむいた。
「それに?」
一時の静寂が車を包んだ。ただ、ただ、雨が車に打ち付ける音がする。
その静寂をカリウスが破った。
「もし・・・お前が本部に認定されなかったら・・・」
「たら?」
・・・・・・・・・

「・・・・・・お前は処刑されるかもしれない」

俺は音を立てて、つばを飲み込んだ。










第五章「本部にて」

雨は弱まりつつあった。
しかし、かなりのスピードで走っているこの車には強く打ち付けられる。
車内は静まり返っていた。
「処刑・・・」
俺はもう1度繰り返した、その言葉の重みを。
再び静寂が訪れる。
風景はいつの間にか、山間の中にいた。
重い空気のまま、道を進み行くと二つに分かれてトンネルがあった。
その内、左は通行止めとなっていた。
しかし、車は鎖で阻まれたトンネルに入ろうとするではないか!?
「あ!あぶな・・・・・・!?」
一瞬その光景にビックリして眼をつぶってしまったので、よく分からなかったが無事なようだ。ちゃんと、トンネルの中にいた。
「Bが作り出したものは、Bの波動を持つ。そういう、原理を使って、この車しか通れないようになってる」
カリウスが暗い顔のまま言った。
トンネルは長かった、その上真っ暗だ。車のライトが無ければ、大変な事になるだろう。
やがて、遠くに光が見えてきた。やっと外か。・・・?違う、あれは外の光じゃない。電灯だ。なぜ、ここだけ?
と、思った時だった。
車は急に、右に曲がりその影響で僕は左の席の方へ吹っ飛ばされた。
「ぐへ!」っと、声を上げると二人は苦笑いして「大丈夫か?」と聞いたので、「ギリギリね」と、答えた。
まがった後はスピードを落として走った。
それにも関わらず、さほど時間もかからないうちに、大きな光が見えた。
「あれは・・・」
外の光という訳ではなかった。ということは、ここが?
「あそこが、Bの本部。“レグルス”だ」
青白く、淡いようで強い光を放っている中に、車はだんだんと吸い込まれた。
眩しさに眼が眩んだが、よく見ればもう車は止まっていた。
「ほらほら、早く降りるぞ」
イオがせかしたので、準備をしてなかった俺はあせった(特に物を持っていた訳ではないが)。
さっさと降りて見ると、そこは近未来都市のようだった。
小さい円形の部屋が横にずらっと並んでいて、そこの1つに車が止まっていた。
「ほれ、早くしないと、お前も車と一緒に倉庫に積まれるぞ!」
というイオの言葉に、再びせかされて車から離れていき、円形の部屋から出た。
すると、ゴォォという音と共に円形部屋の床はエレベータのように、下に下りてゆき、車が途中まで降りてゆくと床ごと横にずれて、下に見える大きなベルトコンベアに流されていった。
流されたと同時に、穴の間から床がスライドして出てきて、ピタリとさっきのようにくっついた。
「ほぅ〜」
「ほら!いいから、早く行くぞ!」
と、再びイオが俺をせかす。
走って、二人の後を追っていくと、左右ガラス張りの廊下を通った。
ふと、右を見るとさっきの車が光に当てられて浮遊し、収納ボックスのような所に入っていった。
周りを見てみたが、同じように車が並べてある。
しかし、それだけではなかった。他にも飛行機のような物、兵器のような物、いろいろな物が収納されていた。高さも幅も半端じゃない、ここから見えるだけでも、数十万台はあるだろう。
きっと、その能力故にBの方が科学力が発達しているのだろう。
俺は、感心してしまった。
廊下を進んでいくと、沢山の人々が行き交っている・・・これまたものすごい広い!
ロビーのような所だ。
床は綺麗になってて、よくある大理石のようだった。で、天上には大きなモニターが3つ付いている。
人々が沢山行き交っている中を真っ直ぐ進んで、受付らしき所に向った。
皆、Bなのだろうか?・・・そうだよな、本部なんだから。
「カリスト中将!」
受付の男が大変驚いた様子で言った。
ん?カリスト・・・?
名前はカリウスじゃないのか?
「噂は本当なのですか?」
少し、怯えた目つきで言った。
「ほら、この子だ」
男が俺を見た。しばらく見つめて、ため息をつくと再び言った。
「健闘を祈るよ」
俺が軽く会釈すると、再びカリウスに向き直った。
「総司令はただ今、エンセラドス大将と日本政府の開発について掴んだ情報の報告を受けています。先ほど始まったばかりなので、まだ時間がかかりますが・・・」
と言いかけたところで、カリウスが再び言った。
「いや、俺たちもよりたい所がある。別に後でもいい・・・4時頃でも良いか?」
男が横に置いてあるコンピューターで打ち込む。
「はい、4時から少年についての報告。とさせて頂きます。4時になったら、直接総司令のところへ言ってください」
「わかった」
カリウスは頷くと、来た所とは別の道へ進んでいった。
俺はついて行くと、さっきの事を聞いてみた。
「カリウスっていう、コードネームじゃなかったっけ?」
「ん?」
「だってほら、さっきの人カリ“スト”中将って呼んでたじゃん」
カリウスは「あちゃ〜」というような顔をして言った。
「あれ、教えてなかったっけ?本来のコードネームはカリストで、親しい間柄ではカリウスって、呼ばれてるんだよ。俺の場合は」
俺は一言ハハーンと言って
「ニックネームみたいなやつ?」
カリウスは、頭を掻きながら
「ん〜、まぁそんな感じかな?」

そんな会話の後、レグルスの色々なところをまわった。
必要な物を揃えたり、機械の修理をしたり、書類を渡して更に貰ったりした。
そして、最後に休憩所のようなところで一服した。
俺たちが、紅茶のような物(正確にはなんだか分からない。グレーフェというらしいけど・・・)を飲んでいると、後から低い声がした。
「カリウス!」
カリウスが驚いて後ろを向くと、男が俺の隣に座った。
「お!フォボスじゃないか!」
カリウスが喜びの表情を浮かべていた。
「久しいな。カロン騒動の件以来じゃないか?フォボス」
フォボスと呼ばれた男は頬杖をつきながら答えた。
「そうだな・・・あれから会ってないんだな。というと、もう4年も会ってないんだな。・・・って、そんな事より!カリウスお前!噂は本当なのか?」
カリウスが暗い顔をする。
「ああ、本当だ。この子だよ」
と言って、カリウスが俺の肩に手をかける。
フォボスが俺のほうを見た。
「そっか、お前か。・・・なかなか、いい顔してるじゃないか!お前、きっと強くなるぞ!」
すると、カリウスが苦笑して返す。
「おいおい、まだ認定されて無いんだから」
だけど・・・と、フォボス
「子供のブラックメイデルが、認定された前例は沢山あるじゃないか!実際、処刑された奴もいるが、あいつは特例だ。邪魔をしたんだからな。しかし、こいつはそういう訳じゃないんだろ?」
え?じゃあ、もしかして俺が処刑される確立は低いのか?
「それ本当?」
思わず俺が、口を開く。
「ああ、本当だ。お前と同じような境遇・・・と言うわけではないが、処刑されたのは300人に1人ぐらいなもんだ」
フォボスが答えてくれた。
すると、カリウスが再び話す。
「しかし!今は、時期が悪すぎた!!人間、シリウス、どちらとの戦いも激しくなる中でのこの件だ。『いまは、ブラックメイデルに構っている暇は無い!』ということになってしまいそうで・・・」
すると、フォボスが微笑んだ。
「おい、カリウス。お前、ゲイブの事も関係してこの子を助けたんだろ?なら、とことん助けてやってみろよ。助けたなら、助けたなりの責任ってもんがあるぞ!・・・なぁ〜に、大丈夫だって!お前が気に病んでいたらダメじゃないか!消極的だと、議論にも勝てないぞ!」
「・・・そう、だよな!」
少しうつむいて、笑顔のカリウスが言った。
すると、フォボスがカリウスの肩を叩いて立ち上がった。
「じゃあ、坊主!挨拶は、認定後だ!また今度な!」
と言って、手を振りながら行ってしまった。
「・・・さぁ、もうそろそろ時間だ。総司令の所に行こう」
そういうと、イオも微笑んで何か言いたそうだったが、だまってついていった。
俺は、何かを決意した(と思われる・・・)カリウスに全てを任せようと思った。

「評議会」
と書いてあった。
緊張する。これほど緊張したのは、中一の時にセンコーに喧嘩を売った時以来だ。
あの時は、殴り合いになる所だった・・・!なんて!事考えている暇じゃない!!
これから、俺は生死の分かれ目の議論にかけられるんだ。
まぁ、俺に何かできるわけじゃないが、きっとカリウスが救ってくれるはずだ。

さぁ、来るなら来い!運命の分かれ道よ!

扉は、機械音を鳴らして、ゆっくりと開いた。
それは、俺の運命の扉だったのだろう。










第六章 「認定」

機械式の扉が開いた向こうには、難しい顔をした人が十数人並んで座っていた。
ただ1人、中央に座っている老人だけはやさしい顔をしていた。
「入りなさい」
と、右端の男が言うと、カリウスとイオが一礼をして入っていくので、俺も真似て入った。
裁判所のようだった。
男達に囲まれるように立っている状態で、俺を睨む。
まるで、俺が被告人みたいじゃないか。
「座りたまえ」
え?いや、イスが無いから。・・・?
後にはイスが出ていた。いつの間に出てきたのだろうか。
「ほら、早く座れ」
と、イオがせかすので落ちるように素早く座った。
すると、中央に座っている優しそうな老人が始めた。
「これより、認定評議会を行う。・・・さて、少年よ、どのような経緯でこのようになったか答えよ」
と、優しく俺に語りかけた。

そこで、俺が話を始めた。
他にも色々な質問をされて、最後に「協力ありがとう」と言われて、一礼した。

その後、老人の隣に居るやせた男が話し出した。
「ふ〜む、どうしたものか・・・」
と、難しい顔をしていった。
「お願いします!彼を認定してやって下さい!!彼が、我々の所に来てしまったのは本当に不運な出来事でした。気付いてやれなかった私のせいでもあります!
・・・だから、私が責任を持って面倒を見ますので、どうか!!」
涙ぐみながら懇願していた。立ち上がり、頭を深々と下げていた。
申し訳なかった・・・。
すると、中央の左に居る太めの男が口を開いた。
「・・・まぁ、カリスト中将の気持ちがわからんでもない。グレイブ(おそらく、本来のコードネームだろう)君の事も思い出すだろう」
すると、一番右に居た男が口を開く。
「しかし、時期が悪すぎる。消すべきではないか?」
その言葉に大きくつばを飲む。
「そんな!ガニメデ元帥!!私が責任を持って、面倒を見ますから!」
と、カリウス。
「では、責任を持ってお前の手で処刑してもらおうか?」
皮肉のこもった微笑を浮かべて、ガニメデといわれた男が言った。
感じの悪い男だ。
「おい!ガニメデ!!貴様、人の気持ちを考えたらどうだ?」
と、太めの男の左隣の体格のいい男が言った。
すると、中央の老人が目を見開いた。
「落ち着け!皆の集!!」
その大きな声に誰もが、驚き、動きが止まった。
「とりあえず、私がこの子の行く先を見てみよう。それによって、決めるのはどうだ?」
と、老人が言うとガニメデ元帥が慌てて返す。
「し、しかし、総司令!もし、これで認定する事になったら、カリスト中将の足手まといになる。カリスト中将は大事な戦力だ!それを失うわけにはいきますまい?」
すると、少し微笑んで総司令と呼ばれた老人が返す。
「その時は別に、カリストに頼まなくても良いだろう?休憩所の掃除だって、立派な仕事になる。カリストが帰ってきたときにだけ彼に任せればよい。違うか?」
「・・・は、はぁ・・・・・・」
少し引きつった顔でガニメデ元帥が言う。
すると、老人は俺に向き直り、立ち上がって二コリと笑って近づいてくる。
「少し頭の中がぐるぐるするかもしれないが、特に問題は無いから安心してくれ。そのまま座って伏せなさい」
ぐるぐる?
よくわからなったが、「ハイ」と答えて膝に伏せた。
すると、総司令は俺の頭に手を添えて念じ始めた。
だんだん頭の中に別の意識が入ってきたような感じだ、確かにぐるぐるする。
それをうまく表現する事はできないけど、なんか・・・だんだん・・・・・・意識が・・・・・・・・・遠くに・・・・・・・・・

―どうでしたか、タイタニア様?
「非常に興味深い」
「とは?」
「わしは今まで沢山の者の未来を見てきた。その中に、見え無い者は無かった。
しかしだ。この者の行く末は全く見えない。一、二歩先は見えるがその先は真っ暗だ」
「それは、この者が処刑されるという事だからじゃないですか?」
「まだ言うか貴様!」
「これ、静かにせい。
よいか?確かに、そんな気もした。しかし、その暗闇のずっと、ずっと遠くに光が見えるのじゃ。だが、その光は暗闇を照らそうとしない・・・」
「と言うことは・・・どういうことなのですか?」
「分からん。だから、興味深いのじゃ。
わしは、この子にかけてみたいと思うのだが・・・どうだ?」
「私もそれには興味がありますな」
「私もだ。」「私も」「俺もだ」   「・・・皆さん」
「正気ですか総司令?」
「なんだ?おぬしは反対か?しかし、賛成多数決と言う物がある。
今回の評議会は、この子を生かし、認定すると言う事で決定だ」
「・・・ありがとうございます」
「ガニメデよ・・・」
「ハイ?」
「命の重みと言うものを考えてみたらどうじゃ・・・」
「・・・」
「カリスト中将、子のこの事は任せるぞ?」
「ハイ」
「イオ准将も頼んだぞ」
「了解です」
「・・・皆の集、この者のリレブ(コードネーム)をわしがつけても良いか?」
「それは構いませんが・・・」「右に同じ」「同じく・・・」
「アルタイル・・・じゃ」
「!!」 「・・・」 「・・・!?」
「タイタニア様!それだけはいけません!!」
「そうです!開闢の名をブラックメイデルに付けるなんて・・・」
「それもアルタイルの名を・・・それだけはダメです。他の物も黙ってはいませんぞ!!」
「・・・では、こうしよう。もし、この者がそれに相応しい存在になった時まで、アルタイルの名は他の物にはつけない。そして、この者につける。・・・だめか?」
「・・・まぁ、なれればの話ですがね・・・・・・」
「・・・」

「あれ!?」
「お目覚めか?」
気付くとベッドの上に居た。
「ここは?」
「医務室だ」
イオが隣に座ってた。
「俺は・・・どうな・・・ったの?」
うつむいて、悲しそうな顔をした。
「まさか・・・」
と言うやいなや、顔を上げて笑顔になったイオが

「認定おめでとう!コーデリア君!!」

―こうして、コーデリアとなった俺はシリウス・人間との闘いに赴く事となる。
 まるで、神の描いたシナリオが綴られ続けているように・・・










第七章「そして・・・」

―神は創った 無限の宇宙を
 神は創った この大地を
 神は創った 生を宿す者たちを
 神は創った 心を宿す者たちを
 神は・・・ 何を求めるのだ
 
 神は気付いた 滅亡がある事を
 神は気付いた 自分ではダメだと
 
 神は八つに分かれてこう言った

 護れ・・・と

「有名なガイヴェルの創造の詩の一節だ」
イオが分厚い本を広げて、目を細めながら俺に言った。
あれから、1週間ほど経つ。
公に認定する、公認式も終えて俺は香田健二から、コーデリアになった。
カリウス達は俺をコーデルと呼んでいる。
俺が、あの時眠っちゃって大丈夫だったの?と聞いたら、皆そんなもんだ。と返ってきた。
俺があれだけ処刑を危惧されていたのに、あっさりと決まったらしい。
けど、理由は教えてくれなかった。
今は、少しずつBについて勉強している所だ。
「では、もう1つ説明するぞ」
イオが微笑を浮かべて、得意そうに言うので、少し気持ち悪かった。
「前に開闢の八戦士の話はしたよな?」
「うん」
すると、少し難しそうな顔をして言う。
「少し長くなるから、しっかりと聞いておけよ」
俺はコクリと頷いて、耳を傾けた。

―こういう予言があるんだ。
ある有名な予知能力者・・・タイタニア総司令の祖父に当たる方の言葉でな。

Bは分断する 別の考えをもつ者
それぞれは争うだろう
しかしながら それ故に世界は救われる
二つの光が交じるとき
世界に再生の光をもたらさん
強い思いはぶつかり合い 憎む者 怒る者 苦しむ者 悲しむ者・・・
みなが手を取り合うことは無い
しかしながら それ故に世界は救われる
大きな光になる時に
世界に浄化の光をもたらさん

「っていう事でな」
そう言われても俺にはわからんて。
「この中にでてくる、二つの光って言うのはメイデルの事だと言われている」
そのメイデルという言葉に、今までの疑問を問いた。
「そういえば、そのメイデルって何なの?よく聞いたけど」
フフーンと、笑顔になって言う。
「そうだよ。その質問も待ってたんだよ。
メイデルと言うのは、もともと人間のヤツがBになる事だ」
え!?
「そんなこと出来るの!?」
にんまりと笑ってイオが言う。
「ああ、できるとも。お前だって、メイデルになれる可能性がある。しかしな、それには並外れた精神力と肉体力が必要になるんだ。
まず、肉体が弱ければザイバルに押しつぶされてしまう。
肉体が受け付けても、精神が弱いとその力の強さに人格が壊れてしまう」
「げっ」
苦そうな顔をして俺は言った。
ハッハッと少し笑って、イオは言う。
「お前だってその一部だ。ブラックメイデルと言って、体にザイバルが張り付いて、なるBの事をいう」
「なるほど」
俺はそういう存在だったのか。
「そうだ!」
「?」
イオがまた得意げな顔をするので、少し顔を背けた(御免)。
「メイデルには言い伝えがあってな。タイタニア総司令の祖父に当たる方の言い伝えなんだが・・・」

―いずれBは二つに分かれる
二つに分かれて ぶつかり合う
しかしそれ故に 世界は救われる
二人のメイデル 二つの力
ぶつかり合うその力
それを使い 支配をたくらむもう一つの力
しかしそれ故に 世界は救われる


「と言うな」
話し終わったイオは真面目な顔になっていた。
「俺はこの言い伝えに非常に興味がある。Bの生まれた理由に近いものだしな。
それに、世界の命運を握っているわけだ」
もういいよ・・・イオ・・・
「まぁ、お前もこの話は心に留めておいてくれよ」
「うん」
俺はぶっきらぼうに返事を返した。
「おーい!二人とも!!そろそろ行くぞ!」
カリウスだった。
俺たち三人は別の場所に派遣される事になったんだ。
激戦化する都心部へ。
「行くか?コーデル(俺のコードネームの短縮版だ)」
「おうよ!」
わくわくしていた。
この先にある大きな試練に。
「おい!3eyeSは持ったか?」
「もちろん」
希望にあふれていた。
この先にある大きな何かに。
「よし!行くか!!」
「うん」


走った・・・見えない未来に向って・・・・・・



第一部 完
2004-01-06 11:13:34公開 / 作者:最低記録!
■この作品の著作権は最低記録!さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
第一部を編集しなおしました!
加筆・修正しましたがストーリーに大きな違いはありません。
暇があれば感想お願いしますm(_ _)m
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして!笹りょと申します。はじめて最低記録!さんの作品を読ませていただきました。長さを感じさせない面白さで、かなり惹きこまれました!漫画のような独自の世界というものは個人的に好きですし(笑)このような文体はとても読みやすかったです。ひとつ気になったことは、誤字があったことと、会話文中にあった不自然な間だけです。続きかなり楽しみに待ってます!がんばってくださいv
2004-01-06 11:45:09【★★★★☆】笹りょさん。
笹りょさん。感想ありがとうございます! 誤字、間がまだありましたか!?Σ( ̄□ ̄;)直したつもりだったのですが・・・。不自然な間は、自分が書き始めた頃に見られる現象(ぇ)でして・・・。ご指摘ありがとうございます!次に時間があるときに探して訂正します。
2004-01-06 21:28:52【☆☆☆☆☆】最低記録!
えへへ〜vvもう一回全部読んじゃいましたよぅvvこの作品は最高におもしろくて大好きです〜!!読み始めた瞬間から読み終わるまで、退屈しないで一気に読めます。この人を引き込む世界観は本当に素晴らしいと思いますよ!!第二部の続きも楽しみにしているので頑張ってください!!
2004-01-07 10:16:17【★★★★☆】輝
輝さん、ご購読ありがとう御座いますm(_ _)m お褒めの言葉もありがとう御座いますm(_ _)m 第二部も頑張っていきますので宜しくお願いします!
2004-01-08 12:39:59【☆☆☆☆☆】最低記録!
こうゆうお話は好きです。読んでいるうちにその世界に引き込まれていくようなそんな気分になれます。続き頑張ってください。
2004-02-18 15:54:31【★★★★☆】唯崎 佐波
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。