『ある日の12時の公園の』作者:須賀 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「ねえ、今日のお昼から映画見に行かない?」
携帯電話の向こうから恋人の嬉々とした声が聞こえる。オレは寝ぼけ眼を擦りながら何か返事をした。自分で何を言ったのかわからなかった。
「もう、そんなこと言って―――」
彼女は照れているようだった。頬を染めてはにかんでいる様が容易に想像できた。何か言っているようだったけれど、眠たさの所為かオレにはよく理解できなかった。
適当に返事を返す。
「うん、それじゃ十二時にいつもの―――」
いつものってどこだったっけ。そう思ったが、深く考えないようにした。いつものようにちゃんと時間通りに行けるだろう。

オレは電話を切った。

いつからオレはこんな人間になってしまったのだろう。
昔はもう少しマシなヤツだった気がする。
初めてできた彼女のことを四六時中考えて、電話一つするのに無意味に心臓を圧迫させていた。やたらと記念日を作ったりした。
今では、その中のひとつも思い出せない。
しかし、その日になると何故か彼女に会っている自分がいた。その自分の脇には何かしらプレゼントが抱えられていて、目の前にいる彼女と笑顔で交換するのだ。暗闇の中から白い仮面越しに、オレはそれを眺めていた。

不意に、隣で何かが動いた。

「ねぇ、今の電話だれ……?」
全裸の女が白い指をオレの胸に這わせていた。おぼろげながら昨日、家に呼んだ記憶があった。いつからそういう関係になったのか覚えていなかった。
オレは、恋人の名前を言った。
その女はくすくすと笑った。
「ふふ……あの娘ったらアタシたちが何をしてるのか知ったら、きっと心臓止まっちゃうわよ」
女の指がオレの胸の上で滑っている。白い、蛇に見えた。
「―――――」
何も聞こえないけれど、女が何を求めているのかわかった。
オレが彼女としていないことを、この女はしたいのだ。
ベットの軋む音が聞こえて、オレの意識は無くなった。

オレは、何をしているのだろう――――。
黒い、タールのように重たい闇に埋もれて行く。

気づくと、オレは公園に立っていた。周りは真っ暗だった。電球の切れた街灯がオレを見下ろしている。

………サラサラ………

音がして、オレは後ろを振り向いた。暗い、影の中に砂場があった。あたりは真っ暗だというのに小さな男の子が何か作っていた。
オレは近寄って何を作っているのか聞いた。自分でも吐き気がするような甘ったるい声だった。
男の子は、オレの声が聞こえないかのように、黙々と何かを作り続けた。暗くて作っているものも男の子の顔もわからなかった。オレはため息をついてその場から去ろうとした。可愛げの無いガキがどうなろうと知ったこっちゃ無かった。
子供から視線を上げる。
そこには二階建てのアパートが建っていた。
六つの窓があって、上の段の真ん中の窓だけ明かりがついていなかった。
そこそこ5メートルくらいの高さのそれが、途方も無く高く思えた。心臓が締め付けられるような感じがした。
これだけ電気がついているのに、何故子供の顔が見えなかったのだろう。
オレは再び足元の子供を見た。
作っていたものはすでに壊されていた。
子供はアパートの明かりが点いていない窓を見上げていた。表情は無かった。ただ、暗い窓を見つめていた。
その子供の顔は、昔のオレだった。ずっと昔ののオレの顔だった。
公園に、真夜中だというのに鐘の音が鳴り響いた。
時計を見上げる。
針は、十二時を指していた。意識が途切れた。

音量のボリュームを上げていくように、音が聞こえてきた。視界もだんだん明るくなっていく。
目の前をサラリーマンが汗を拭きながら足早に通り過ぎる。ベンチでハトが老人のエサに集っている。噴水の周りでOL達が小さな弁当箱を広げている。さっきとは違う公園だった。空で太陽が輝いていた。
公園の中央にある時計を見上げると、針が十二時を指していた。
魂が抜けたように、その場で棒立ちになる。

「―――――」
オレの名前を呼ぶ声がした。後ろを振り返ると、彼女が手を振りながらこっちに小走りで近寄ってきていた。その手にはバスケットが握られている。
「ごめんごめん、サンドイッチ作ってたら時間掛かっちゃって。でも電話で食べたいって言ってたカツサンド、上手にできたんだよ?」
彼女がバスケットの中を見せてながら舌を出して笑っている。
「そういえば、さっきカナコにデートの事言ったらからかわれちゃった」
はにかんだその顔はとにかく無垢で―――
「カナコもいい人いればいいのにねー」
疑うことなんて知らない顔で――――
「………あれ? 泣いてる、の……?」
心配そうな顔で彼女がオレの顔を覗き込む。頬に熱いものがつたっていた。
「どうしたの? どこか痛いの? 今日は帰ろうか? ―――あっ」
オレは彼女を抱きしめた。バスケットが落ちる音がした。オレはひたすら彼女に謝った。強く抱きしめて、周りの目も気にせず、嗚咽を漏らしながらゴメンと言い続けた。

彼女は戸惑いながらもオレの背中をそっと撫でてくれた。
2004-01-05 12:27:50公開 / 作者:須賀
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■作者からのメッセージ
初書きです。駄文で申し訳ないです。
この作品に対する感想 - 昇順
主人公の思考がよく解らず急に場面が変わるため少し読みにくい感じが…(^^;)これからもいい作品目指してがんばってください(^^)
2004-01-05 21:08:13【★★★★☆】紫の折り紙
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。